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王都の日常
王都の画廊 1
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王都の東部地域は、古くから商業地として栄えていた。
貴族の邸宅も多いので、自然と需要が高まる。
そんな地域の中に、その商家はあった。
創業が王国創成期という由緒ある老舗で、特に絵画においては、市民階級から貴族階級まで定評があった。
画廊は常に様々な絵が飾られ、客が途切れることは無かった。
「いらっしゃいませ。」
主に市民階級の客を担当する彼は、画廊に入ってきた少女に声をかけた。
「ようこそいらっしゃいました。
本日は、どのような絵画をお求めでしょうか。」
挨拶をしながら値踏みをする。
一人で絵を買うには、少々幼い年齢だ。
ただ着ている服から推測すると、市民階級でも上のクラスだろう。
「何点か、絵を欲しいと思っています。
これまでエントランスにすら絵を飾っていませんでしたが、来客があると少々寂しいので。」
「おぉ、そうですか。
でしたら、華やかな絵画がいいですね。」
エントランスという単語に、内心彼は舌なめずりする。
普通は玄関と呼ぶはずだ。
エントランスホールとなると、そこは中規模以上の商家や邸宅のはずだ。
今日は朝からいい客が来た。
「これなど、いかがでしょう。
昨年、宮廷画家として召し抱えられた新進気鋭です。
国王陛下の肖像画をも仰せつかったほどです。」
「これは華やかですね。
…でも、お高いですね。」
分かっている。
80ゴールドなどという絵画を、こんな少女が買えるわけがない。
彼は本命を出す。
「では、こちらを。
先ほどの宮廷画家のお弟子さんです。」
少し背伸びすれば、届く。
そんな値段の絵だ。
「う~ん…少し予算オーバーです…
あの、出来れば画集を見せて頂けませんか?」
画集というのは、その店が扱う作家を集めたリストだ。
名前と略歴、代表的な作品の模写が載せられている。
(画集を知っているというのは、絵に慣れているのか…?
親に入れ知恵されているのだろうな…)
彼は少女を応接室に案内する。
出された紅茶に口をつけ、少女は画集を眺める。
メモにいくつかの名前を書き出す頃には、少女に対する彼の興味は失せていた。
どれもこれも安い画家で、中には奴隷階級の者までいる。
高度な技術を持つ技能奴隷として組合に登録されている者もいるが、そうではない一般奴隷までいる。
二束三文で投げ売りされているような作品だ。
「この辺の作家を、見せて頂きたいのですが。」
「でしたら担当の者をお呼びしましょう。
少々お待ちください。」
金にならない客は、彼の客では無いのだ。
彼は引き継ぎを終えると、再び画廊のエントランスへと戻っていった。
貴族の邸宅も多いので、自然と需要が高まる。
そんな地域の中に、その商家はあった。
創業が王国創成期という由緒ある老舗で、特に絵画においては、市民階級から貴族階級まで定評があった。
画廊は常に様々な絵が飾られ、客が途切れることは無かった。
「いらっしゃいませ。」
主に市民階級の客を担当する彼は、画廊に入ってきた少女に声をかけた。
「ようこそいらっしゃいました。
本日は、どのような絵画をお求めでしょうか。」
挨拶をしながら値踏みをする。
一人で絵を買うには、少々幼い年齢だ。
ただ着ている服から推測すると、市民階級でも上のクラスだろう。
「何点か、絵を欲しいと思っています。
これまでエントランスにすら絵を飾っていませんでしたが、来客があると少々寂しいので。」
「おぉ、そうですか。
でしたら、華やかな絵画がいいですね。」
エントランスという単語に、内心彼は舌なめずりする。
普通は玄関と呼ぶはずだ。
エントランスホールとなると、そこは中規模以上の商家や邸宅のはずだ。
今日は朝からいい客が来た。
「これなど、いかがでしょう。
昨年、宮廷画家として召し抱えられた新進気鋭です。
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「これは華やかですね。
…でも、お高いですね。」
分かっている。
80ゴールドなどという絵画を、こんな少女が買えるわけがない。
彼は本命を出す。
「では、こちらを。
先ほどの宮廷画家のお弟子さんです。」
少し背伸びすれば、届く。
そんな値段の絵だ。
「う~ん…少し予算オーバーです…
あの、出来れば画集を見せて頂けませんか?」
画集というのは、その店が扱う作家を集めたリストだ。
名前と略歴、代表的な作品の模写が載せられている。
(画集を知っているというのは、絵に慣れているのか…?
親に入れ知恵されているのだろうな…)
彼は少女を応接室に案内する。
出された紅茶に口をつけ、少女は画集を眺める。
メモにいくつかの名前を書き出す頃には、少女に対する彼の興味は失せていた。
どれもこれも安い画家で、中には奴隷階級の者までいる。
高度な技術を持つ技能奴隷として組合に登録されている者もいるが、そうではない一般奴隷までいる。
二束三文で投げ売りされているような作品だ。
「この辺の作家を、見せて頂きたいのですが。」
「でしたら担当の者をお呼びしましょう。
少々お待ちください。」
金にならない客は、彼の客では無いのだ。
彼は引き継ぎを終えると、再び画廊のエントランスへと戻っていった。
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