10 / 29
王都の日常
王都の画廊 2
しおりを挟む
「いらっしゃいませ、お客様。
デューイと申します。」
普段は倉庫番として裏方にいる少年が頭を下げた。
ヒューベアの頭に、熊の耳が小さく揺れる。
「初めまして、デューイ。
この辺の作家を見せてくれるかしら。」
「かしこまりました。
お客様、もしお時間を頂けるのでしたら、詳しくお話を願えませんか。」
デューイは改めて熱い紅茶と菓子を差し出し、ゆっくりと話を聞く。
予算、好みの画風、飾りたい場所と要望する大きさ、どういった印象を与えたいか、など。
熱心に話を聞き、メモを取り、好きな画家として画風が特徴的な宮廷画家の名が出たところで。
「その画風でしたら、この作家もいいのですが…
こちらの作家にもお勧めの作品がございます。
倉庫に在庫がございますので、お持ちしてもよろしいですか。」
「えぇ、お願いします。」
デューイは倉庫へと戻り、倉庫の奥から在庫を引っ張り出し、次々と台車に載せる。
15分ほどで、台車が戻ってきた。
少女はゆっくりと鑑賞し、いくつか感想を述べた。
買うことに決まった作品と感想を元に、別の作品も持ち出す。
1時間ほどで10枚の作品の購入が決まった。
中には、最初に少女が要望した作家よりも更に安い作品も含まれる。
「お客様、本日お持ち帰りですか?
それとも、改めて後日に?」
「馬車で来ていますので、積んでくださるかしら。」
「承知いたしました。
改めて額装を綺麗にさせて頂き、包装させて頂きます。」
「ありがとう。
えっと、おいくらかしら。」
「定価ですと、2ゴールドと8540シルバーです。」
リストも計算尺も持たずに即答したデューイに、少女は驚く。
「あなた、会計係でも無いのに…頭がいいのね。」
「私は、こちらの商家に雇われている奴隷です。
倉庫で日々整理をしていれば、だいたいの作品の価格は覚えてしまいますよ。
あ、端数の40シルバーはサービスさせて頂きます。」
デューイはニコリと笑う。
「もし婚約や結婚のお祝いでしたら、店主のいる時にお越しください。
ご祝儀として、割引させて頂きますよ。」
「その際には、そうするわね。
デューイ、ここのお店の在庫は全て頭に入っているの?」
「倉庫番ですからね。
作家名ごとだけでなく、大きさごと、値段ごと、雰囲気ごと…
そういった複数の要素でリスト化して覚えれば、そう難しくもないですよ。」
さらりと言うが、難しくないわけがない。
それは少女にだって分かる。
少女は満足そうに微笑み、その表情にデューイも満足を覚える。
「今日はいい買い物をしたわ。
必ず、また来るわね。」
エントランスホールで少女はデューイに声をかけた。
「お待ちしております。」
デューイも深々と頭を下げる。
それは、いつもの光景だった。
最も、絵画などそう毎日買うようなものではない。
次に少女が来るのは、お互いが忘れた頃になるだろう。
久しぶりに絵画談義が出来て楽しかったが、こればかりは仕方ない。
少女を見送ったデューイは、出納係に販売リストと預かった現金を手渡し、再び倉庫に戻っていった。
それが、普通の、この店も含めた画廊の日常だった。
ところが、その少女は翌日に再び来店したのであった。
デューイと申します。」
普段は倉庫番として裏方にいる少年が頭を下げた。
ヒューベアの頭に、熊の耳が小さく揺れる。
「初めまして、デューイ。
この辺の作家を見せてくれるかしら。」
「かしこまりました。
お客様、もしお時間を頂けるのでしたら、詳しくお話を願えませんか。」
デューイは改めて熱い紅茶と菓子を差し出し、ゆっくりと話を聞く。
予算、好みの画風、飾りたい場所と要望する大きさ、どういった印象を与えたいか、など。
熱心に話を聞き、メモを取り、好きな画家として画風が特徴的な宮廷画家の名が出たところで。
「その画風でしたら、この作家もいいのですが…
こちらの作家にもお勧めの作品がございます。
倉庫に在庫がございますので、お持ちしてもよろしいですか。」
「えぇ、お願いします。」
デューイは倉庫へと戻り、倉庫の奥から在庫を引っ張り出し、次々と台車に載せる。
15分ほどで、台車が戻ってきた。
少女はゆっくりと鑑賞し、いくつか感想を述べた。
買うことに決まった作品と感想を元に、別の作品も持ち出す。
1時間ほどで10枚の作品の購入が決まった。
中には、最初に少女が要望した作家よりも更に安い作品も含まれる。
「お客様、本日お持ち帰りですか?
それとも、改めて後日に?」
「馬車で来ていますので、積んでくださるかしら。」
「承知いたしました。
改めて額装を綺麗にさせて頂き、包装させて頂きます。」
「ありがとう。
えっと、おいくらかしら。」
「定価ですと、2ゴールドと8540シルバーです。」
リストも計算尺も持たずに即答したデューイに、少女は驚く。
「あなた、会計係でも無いのに…頭がいいのね。」
「私は、こちらの商家に雇われている奴隷です。
倉庫で日々整理をしていれば、だいたいの作品の価格は覚えてしまいますよ。
あ、端数の40シルバーはサービスさせて頂きます。」
デューイはニコリと笑う。
「もし婚約や結婚のお祝いでしたら、店主のいる時にお越しください。
ご祝儀として、割引させて頂きますよ。」
「その際には、そうするわね。
デューイ、ここのお店の在庫は全て頭に入っているの?」
「倉庫番ですからね。
作家名ごとだけでなく、大きさごと、値段ごと、雰囲気ごと…
そういった複数の要素でリスト化して覚えれば、そう難しくもないですよ。」
さらりと言うが、難しくないわけがない。
それは少女にだって分かる。
少女は満足そうに微笑み、その表情にデューイも満足を覚える。
「今日はいい買い物をしたわ。
必ず、また来るわね。」
エントランスホールで少女はデューイに声をかけた。
「お待ちしております。」
デューイも深々と頭を下げる。
それは、いつもの光景だった。
最も、絵画などそう毎日買うようなものではない。
次に少女が来るのは、お互いが忘れた頃になるだろう。
久しぶりに絵画談義が出来て楽しかったが、こればかりは仕方ない。
少女を見送ったデューイは、出納係に販売リストと預かった現金を手渡し、再び倉庫に戻っていった。
それが、普通の、この店も含めた画廊の日常だった。
ところが、その少女は翌日に再び来店したのであった。
0
あなたにおすすめの小説
婚約破棄された翌日、兄が王太子を廃嫡させました
由香
ファンタジー
婚約破棄の場で「悪役令嬢」と断罪された伯爵令嬢エミリア。
彼女は何も言わずにその場を去った。
――それが、王太子の終わりだった。
翌日、王国を揺るがす不正が次々と暴かれる。
裏で糸を引いていたのは、エミリアの兄。
王国最強の権力者であり、妹至上主義の男だった。
「妹を泣かせた代償は、すべて払ってもらう」
ざまぁは、静かに、そして確実に進んでいく。
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
「君は悪役令嬢だ」と離婚されたけど、追放先で伝説の力をゲット!最強の女王になって国を建てたら、後悔した元夫が求婚してきました
黒崎隼人
ファンタジー
「君は悪役令嬢だ」――冷酷な皇太子だった夫から一方的に離婚を告げられ、すべての地位と財産を奪われたアリシア。悪役の汚名を着せられ、魔物がはびこる辺境の地へ追放された彼女が見つけたのは、古代文明の遺跡と自らが「失われた王家の末裔」であるという衝撃の真実だった。
古代魔法の力に覚醒し、心優しき領民たちと共に荒れ地を切り拓くアリシア。
一方、彼女を陥れた偽りの聖女の陰謀に気づき始めた元夫は、後悔と焦燥に駆られていく。
追放された令嬢が運命に抗い、最強の女王へと成り上がる。
愛と裏切り、そして再生の痛快逆転ファンタジー、ここに開幕!
主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します
白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。
あなたは【真実の愛】を信じますか?
そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。
だって・・・そうでしょ?
ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!?
それだけではない。
何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!!
私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。
それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。
しかも!
ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!!
マジかーーーっ!!!
前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!!
思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。
世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます
腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった!
私が死ぬまでには完結させます。
追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。
追記2:ひとまず完結しました!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる