どうしてこうなった 第2章もしくは幕間 ~婚約破棄された公爵令嬢の凱旋~

レイちゃん

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王都の日常

貧民街の絵描き 2

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「どうぞ、マダム。
 あちらの馬車です。」

(貸し馬車…?)

通りの隅に止められた二台の馬車に、私は逆に不安になる。
こんな立派な鎧を着た兵士なら、普通はその家の馬車で来るだろう。
それが、こんな簡素な貸し馬車でなど…

「お乗りください、マダム。」

とはいえ、逃げられるわけもなく。
私と娘が先頭の馬車に乗り込み、その反対側の椅子に兵士2名が乗り。
残りの兵士は後方の馬車に乗り込むと、ゆっくりと走り出した。





馬車の中で、震える娘を抱きしめたまま、私は何も喋らなかった。
こういう時は余計なことを言わない、これが鉄則だ。
最も、怯え切って何も喋れなかったという方が正しいかもしれない。

馬車は王都南部の貧民街からかなり走り、私たちが近づくこともない北部の行政区へと進んでいく。
王宮や貴族のお屋敷が固まるこのエリアは、文字通り世界の反対側だ。

やがて馬車は、延々と続く塀の、小さな通用門の前で止まった。

「お降りください、マダム。
 ここからは歩きます。
 あと今朝は少々冷えますので、これを羽織って頂きます。」

それは頭からつま先まで、スッポリと包む外套がいとうだった。
少し肌寒いから、それに対する配慮なのか。
それとも、私たちの姿など見せたくもないのか。

兵士に囲まれ、まるで連行される罪人のように、ゆっくりと歩を進める。
門には、兵士の鎧に刻まれたものと同じ紋章が掲げられていた。
何人もいる門番の視線を感じながら、私は連れられて歩く。

門をくぐると、そこは別世界で。
私の家どころか、貧民街の区画が何ブロックも入るような、広大な敷地で。
遠方に、王宮かと勘違いするような大きなお屋敷が見えて。
そのはるか手前に、小さな平屋づくりのお宅があった。
小さなといっても、もちろん私の家の何倍もある。

「あちらでお待ちです。」

兵士がささやく。
池の近くにある、小さいけれど、丁寧に作られた平屋づくりの家。
先導していた兵士がドアを開け。

「お待たせしました。
 お嬢様、お連れしました。」

促されて入った先には、背後に数人の侍女を従え、一人の少女が座っていた。
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