どうしてこうなった 第2章もしくは幕間 ~婚約破棄された公爵令嬢の凱旋~

レイちゃん

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北方の地の、とある奇跡

ずっと呼びたかった、その名前は 3

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「お母さん!」と叫びながら2人が駆け出すのを尻目に、ジェニスを伴ってアラスタは執務室を後にする。

「すまんな、お前をダシに使って。」

「気にしないでください、閣下。
 私が父を恨んでいることぐらい、身上書を見れば瞭然りょうぜんでしょう。
 でも…ご存じだったのですか?」

「母親のことをか?
 まさか、全くの偶然だよ。」

そう言ってアラスタは立ち止まり、廊下に飾られた絵画を見上げる。


「ただ、出会った時に確信はあったよ。」


ヒューフォックスの女性が浜辺を歩く絵。
その眼前を3人の少女が笑いながら駆けていた。

「この絵のタイトルは『夢でしか会えない娘を想う』だそうだ。
 裏側に『最愛のミュー、キューを永遠に』という添え書きと共に書かれていた。
 これで何も考えないほど、私は愚鈍ではないぞ。」

「では。」

「そうだ。
 もし仮にあの姉妹が母親を恨んでいれば、私は引き戸を開けなかった。
 結果、私は賭けに敗れ将来有望な画家を失い。
 母親は10ゴールドほどを手にして、一生悔やみながら王都あたりで暮らすことになっただろう。
 だが。
 あの母親に与えられる未来は、私の技能奴隷となり、母子揃ってここで暮らすことだ。」

アラスタはジェニスを見て。

「と言うか、お前たちも技能奴隷として登録を進めているところだ。」

「え!?
 私、何も技能なんて持っていませんが!」

驚くジェニスにため息をつく。

「私の兵だろう?
 今回、私は一般の労働奴隷として埋もれていた人材を、金ずくで引き抜いたんだ。
 それに対抗する策を取るのは当然だろう。」

「でも、技能奴隷って登録が厳しいんじゃ…」

「もちろんだ。
 全ての奴隷を登録などしたら、流通面でも問題だし、組合がパンクしてしまう。
 だから煩雑な書類だとか高額な負担だとか、買主の負担も大きい。
 しかし、それでも私はお前たちを失うわけにはいかないのだ。」

「あ…ありがとうございます!」

頭を下げるジェニスに、アラスタは再びため息。

「一度には登録できないから、順次だがな。
 今年中には完了するだろう。
 これだけお前たちのことを買っているんだ、しっかりと働きで返せ。」

「それはもう!
 このことを知ったら、隊の者たちも喜びますよ。」

「そうでなくては困る。
 何せな…この話を聞いた瞬間、フィーナの目が死んだ。」

400人の技能奴隷申請作業。
大半の事務作業を奴隷商に投げたとしても、膨大な事務処理が買主の元に残る。
そしてベガドリア男爵の領館で最も事務処理の出来る人間といえば、家令だ。

『アファームさん…人間って、10日くらい寝なくても大丈夫ですよね…?』
『そういう言葉が出てくる時点で、もう大丈夫じゃないのでは…』

その後、順次にと聞いてフィーナが神に感謝をささげ始めたのを見て、アラスタは臨時休暇を与えた。
泣いて感謝された。

「とりあえずジェニス。
 部屋に戻ったら、あいつらの分の準備も整えてやれ。
 私の想像なのだが、おそらく夜間行軍のサポート任務など、集合時刻直前まで思い出せないだろう。
 再会できて嬉しいのは分かるが、任務は任務だ。
 連帯責任で一緒に腕立て伏せをしたくないのならな。」

「了解しました、閣下。」
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