どうしてこうなった 第2章もしくは幕間 ~婚約破棄された公爵令嬢の凱旋~

レイちゃん

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北方の地の、とある奇跡

この想いは永遠に 4

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「では…キス、しても…?」

私の言葉にアラスタ様は少し驚いたような表情をして。
そのまま無言で頭を膝から下ろし、少し体をずらして、そのまま仰向けで私を見つめて。

「あ、あの…失礼します…」
そのまま四つん這いで覆いかぶさるようになり、ゆっくりとひじを折り。
静かに目を閉じて、ゆっくりと唇を重ねる。
柔らかな感触を確かめるように、二度、三度、四度と。
一度、顔を離すと、穏やかな笑みを浮かべた閣下がいて。

「幸せなキスって、こんなにもいいものなのですね…」

「そんなこと言うと、私などキス自体が初めてなのだが…」

「そうですか。
 閣下の初めての相手って、私ですか。」

何となく、少し嬉しくて。
そんな私にアラスタ様は、両手を首に回してきて。
再び顔を近づけ。
少し”おあずけ”するように、鼻の頭をこすり合わせ。

「もしお嫌でしたら、押しのけてくださいね?」

そう言うと、少し強めに唇を重ねる。
舌で唇と歯を割り、そのまま口の中を侵す。
重なる息を無視して、ぎこちなく応える小さな舌を奪い。
一度唇を離して、わざと音を立ててキスを繰り返し、再び舌を滑り込ませて絡める。

しばらくすると首に回されたアラスタ様の腕が、背中をつたって腰の方へ伸びてきた。
尾をお求めなのだと唇を離し身を起こすと、改めてアラスタ様のそばへ腰を下ろす。

「お前…私の”初めて”をどれだけ奪う気なんだ…」

恥ずかしそうに尾に顔をうずめるアラスタ様。
こんな姿、私しか見たことないだろう。
それもまた嬉しくて。

「閣下…」

「ん…」


「私を、抱きませんか…?」


私の言葉に、再び少し驚いた表情をして。

「いや…抱かんよ。」

「一応、理由をお伺いしても?
 愛人にすれば、尾も触り放題ですが。」

「それは、あまりにも魅力的過ぎるのだが…」

アラスタ様は少し真面目な顔になり。

「いくつか、理由はある。
 まず、ベガドリアは不安定だ。
 お前たちの力が不可欠だ。
 それは兵力であり、団結力であり、実行力だ。
 だから、依怙贔屓えこひいきは団結を乱し、過剰な情は計画を狂わせる。」

当然だ。
私たちは戦うためにここにいる。

「あと、例えとして適切かどうかは分からないが…
 私は目の前にオモチャがあると勉強できないたちでな。
 エッチにかまけて帝国の侵略を許したなど、笑い話にもならん。」

尾を抱きしめたまま、ため息をつかれる。

「それと、私は意外と見境ないぞ?
 本気になったら、この部屋が尻尾で埋まりかねない。」

そう言うと、私の尾を抱え先端で妹の顔を撫でる。
さすがに迷惑そうに顔をしかめる妹に、アラスタ様は少し意地悪な笑みで。

「自由に抱けるを目の前にして、他の人に手を出す話をしますか。」

「ハハッ、さすがに酷いな。」

身を起こすと、お詫びとばかりに軽く唇を重ね。


「だから、これは一夜限りの夢だ。
 夜が明けて、お前たちがドアから出れば。
 全てが覚める。」


「幻…ですか?」

「未来永劫、あり得ないとは言わん。
 もしベガドリアが落ち着いて、お互いに想い人がいなければ。
 その時は、責任持って抱くことにするよ。」

誓いを立てるように唇を重ねる。

「優しくしてくださいね?」

「経験が無くて、まぁ知識だけなのだが…
 少なくとも、自分で慰めるよりは気持ちよくて、誰よりも幸せなエッチだけは約束しよう。
 だから、今はこれが精いっぱい。」

そう言いながら、シャツの上から私の胸に手を伸ばす。

「…お前、着やせするんだな。」

「意外と大きいでしょう。」

そのまましばらく胸を撫でていたアラスタ様だが、睡魔には勝てるわけもなく。
軽くキスすると、私の尾を抱き枕代わりにして目を閉じた。




月明かりの中、ベッドの隣でアラスタ様の寝顔を眺める。

(そういえばアラスタ様って未経験だから、寝顔を見た初めての人って私なのかしら…)

奴隷の私たちを使い捨てることなく大切に扱ってくれて。
私と妹を、もう二度と会えないかもしれなかった母と再会させてくれて。
そして、ヒトなのに、ヒューフォックス以上に尾が好きで。

(不思議な人…)

起こさないように注意しながら、そっと唇を重ねる。
触れるか触れないか程度の、最後のキス。
アラスタ様は、私たち家族に奇跡を起こしてくれた。
だから私は、ここベガドリアで家族のために生きよう。
そして、もし仮に帝国との戦闘で死ぬことがあれば。
その時はアラスタ様のために笑って死のう。

(閣下…ずっと、ずっとお慕い申し上げています…)

夜が明ければ消える一夜の幻。
けれど、この想いは絶対に消えない。
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