誰からも見捨てられたこの場所で

keye

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物語は動き出す

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さくさく、と草を踏みながら歩いていく。
隣にはルーンがいて、俺と同じように食べられるものを探しているけれど、もう数時間も経つのに何も見つけられていない。

「誰からも見捨てられた場所」、その脅威が今更牙をむいた。「氷時期」に入ってしまったのだ。

紀元前に建てられたような神殿で俺たちは生活していて、「誰からも見捨てられた場所」は神殿も含めた森のことを言う。
街に行くには、5時間ぐらいまっすぐ歩き続けなくてはならないぐらい森は広い。

今はまだ秋なのに、足元の草は全て凍り枯れてしまっていて、一日前までは緑だった光景がいつの間にか銀と茶色しか見当たらない。
ここには何故か、大型の動物が存在しない。鳥とか虫とかならいるけれど、ウサギやクマなんかは見たことがない。

「ルーン、どうすんだ?」

「とりあえず、二週間分くらいの食料ならあります。けれど、この前はこれが一年続いたので本格的にやばいかもしれません」

「街は?」

「氷時期になった時、結界が作られるのでこの森から出ることはできないんです」

「やばくね?」

「やばいです」

焦った顔でお互いを見た。
頼りにしていた果実なんかは全部枯れてしまっている。罠をしかけて捕えていた鳥も、今日は姿が見えない。蟻1匹すら見当たらない。

今まではどうしていたのかと聞くと、いつもは神殿の周りだけは果実がなっていたらしい。
今回は神殿まで氷に覆われてしまっている。今まではこんなこと無かったと、ルーンは焦ったように言った。


「にしても、なんで寒くないんだ?」

周りは氷だらけなのに、なぜか寒くない。冷たいとすら感じない。
風が一向に吹かないし、薄着でいても大丈夫なくらいでむしろ暖かい。

「分かりません…前は、ちゃんと寒かったんですが」

「考えられるとしたら…人数が増えたからとかか?」

俺がここに来たことで、「氷時期」のルールが変わったのかもしれない。
ちなみに、ルーンの今まで体験してきた「氷時期」についてはルーンが来る前から説明が神殿に書いてあったらしい。


すると、急に道が開けて空間ができた。何度も通った場所なのに、こんな空間は見たことがない。
そして、極めつけは…

「なんでだ…?」

「なんですか、これ?」

銀世界の中で目立っている赤色の鳥居に、ひたすら続く石階段、段差一つ一つの端に狐の置物があり、その更に先には祠があった。
異世界にあってはならない景色。

それは、まぎれもなく神社だった。

ちゃりん、とどこかで鈴がなる音がした。
それはまるで、関係性が止まってしまった俺たちの物語がーーー動きはじめる、合図だった。
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