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狐の面の下には
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「ライ、ダメです。あれに近づかないでください」
「…ルーン?」
ルーンの手が俺の手を握りしめて、ぐいぐいと引っ張っていく。その手は真っ白だった。
ただでさえ銀髪青眼で色白だというのに、ひと目でわかるほどに白くなっている。
かたかたとルーンが震えているのを見て、びくりとする。大切な人が震えているのは心臓に悪い。
「ルーン、どうしたんだ?」
「……ライ。帰って、しまうんですか?」
顔面蒼白でルーンがぽつりとこぼしたのはそんな言葉だった。
異常事態だと言うのに、俺の全身に喜びがまわる。
ルーンに必要とされている。それだけで俺はあまりにも嬉しい。
どこまでも、どこまでも。共依存の甘い毒に溺れてしまっている。
「帰る場所なんて、あっちにはねえから」
そう優しく呟けば、ルーンは安心しきった顔をする。
帰らないでくれ、とルーンが言えば俺は絶対にここを離れることも無いのに。
好きだと、どちらかが言えばここに留まる理由になるのに。
変わるのは、あまりにも怖くて、お互いがここにいる資格を作れない。
「…手、繋いでいてくれますか?」
こちらに向けて差し出された手を握り返した。
寒さのない氷河期で、ルーンの手は冷たくなっている。俺の手も、感覚が無くなっている気がする。
この異世界に来てから、もう元の世界のことなんて滅多に思い出していなかったのに。
ーーー今更、向き合えとでも?
「ルーン、これ…俺が元いたところで、神様がいるってされてた場所なんだ。神殿となんか関係あるか?」
「…分からないです、そもそもこの森自体よくわかっていません」
ちゃりん、ちゃりん…とまたどこかで鈴がなった。
この神社を確かめなければ何も解決しない。それは分かってる。分かってるけれど。
あれに近づいたら、絶対に何かが変わってしまう。
変わるのが怖くて今まで動けなかったのに。
これじゃあ、変わらざるを得ないじゃねえか。
「ライ。あれ、確かめてみましょう」
「…ルーン?」
「じゃないと、最悪餓死ですよ。怖いのなら、私だけで行きますから」
「怖がってるのは、ルーンもだろ」
「ええ…そうですね。でも、ライは思い出したくないでしょう」
透き通るような青い目で俺のことをじっと見る。
それで、やっと、俺は自分ががたがたと震えていることに気づいた。
思い出したくない。当たり前だ。
あんなこと、一度は死のうとさえ思うほどに追い詰められたあれを。
思い出したくない。それに、ルーンとの関係性も変わりたくない。
近づきたくない。いっそ、餓死でもしてしまう方がよっぽど楽ーーーいや、人より死ににくいルーンを一人残すなんてダメだ。
待て。今、俺はなんて考えた?…俺はまた、自死を選ぼうとしてしていたのか?
「行く。俺も…向き合う」
「…ライ」
ルーンの手を引いて、俺らは階段を1歩ずつ登っていく。狐の銅像にじろじろと見られているようで落ち着かない。
オレンジの灯りがあたりを照らしている。
たんっ、と音を立てて階段を登りきると、そこには夏祭りのような光景が拡がっていた。
屋台がズラっと並んでいる。けれど、人はいない。
食料、と心のどこかで安心した言葉が聞こえたが、すぐにかき消される。
「…どうして?」
狐の面を被って、俺とルーン以外の人が唯一。
それは、幼い頃の…俺だった。
「やっと、幸せになれたのに…どうして?」
「…ルーン?」
ルーンの手が俺の手を握りしめて、ぐいぐいと引っ張っていく。その手は真っ白だった。
ただでさえ銀髪青眼で色白だというのに、ひと目でわかるほどに白くなっている。
かたかたとルーンが震えているのを見て、びくりとする。大切な人が震えているのは心臓に悪い。
「ルーン、どうしたんだ?」
「……ライ。帰って、しまうんですか?」
顔面蒼白でルーンがぽつりとこぼしたのはそんな言葉だった。
異常事態だと言うのに、俺の全身に喜びがまわる。
ルーンに必要とされている。それだけで俺はあまりにも嬉しい。
どこまでも、どこまでも。共依存の甘い毒に溺れてしまっている。
「帰る場所なんて、あっちにはねえから」
そう優しく呟けば、ルーンは安心しきった顔をする。
帰らないでくれ、とルーンが言えば俺は絶対にここを離れることも無いのに。
好きだと、どちらかが言えばここに留まる理由になるのに。
変わるのは、あまりにも怖くて、お互いがここにいる資格を作れない。
「…手、繋いでいてくれますか?」
こちらに向けて差し出された手を握り返した。
寒さのない氷河期で、ルーンの手は冷たくなっている。俺の手も、感覚が無くなっている気がする。
この異世界に来てから、もう元の世界のことなんて滅多に思い出していなかったのに。
ーーー今更、向き合えとでも?
「ルーン、これ…俺が元いたところで、神様がいるってされてた場所なんだ。神殿となんか関係あるか?」
「…分からないです、そもそもこの森自体よくわかっていません」
ちゃりん、ちゃりん…とまたどこかで鈴がなった。
この神社を確かめなければ何も解決しない。それは分かってる。分かってるけれど。
あれに近づいたら、絶対に何かが変わってしまう。
変わるのが怖くて今まで動けなかったのに。
これじゃあ、変わらざるを得ないじゃねえか。
「ライ。あれ、確かめてみましょう」
「…ルーン?」
「じゃないと、最悪餓死ですよ。怖いのなら、私だけで行きますから」
「怖がってるのは、ルーンもだろ」
「ええ…そうですね。でも、ライは思い出したくないでしょう」
透き通るような青い目で俺のことをじっと見る。
それで、やっと、俺は自分ががたがたと震えていることに気づいた。
思い出したくない。当たり前だ。
あんなこと、一度は死のうとさえ思うほどに追い詰められたあれを。
思い出したくない。それに、ルーンとの関係性も変わりたくない。
近づきたくない。いっそ、餓死でもしてしまう方がよっぽど楽ーーーいや、人より死ににくいルーンを一人残すなんてダメだ。
待て。今、俺はなんて考えた?…俺はまた、自死を選ぼうとしてしていたのか?
「行く。俺も…向き合う」
「…ライ」
ルーンの手を引いて、俺らは階段を1歩ずつ登っていく。狐の銅像にじろじろと見られているようで落ち着かない。
オレンジの灯りがあたりを照らしている。
たんっ、と音を立てて階段を登りきると、そこには夏祭りのような光景が拡がっていた。
屋台がズラっと並んでいる。けれど、人はいない。
食料、と心のどこかで安心した言葉が聞こえたが、すぐにかき消される。
「…どうして?」
狐の面を被って、俺とルーン以外の人が唯一。
それは、幼い頃の…俺だった。
「やっと、幸せになれたのに…どうして?」
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