俺のことが嫌いなお前に、好きって言ってほしいだけ

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俺だけが知っている秘密。

1つ目は、記憶力が上がる魔法。
2つ目は、この小屋の天井に畑があること。

その2つを考えた状態で、ごちゃごちゃの机に向き合う。鍵を探そうにも、ぼろぼろででかいガラクタが多くて探しにくいが、見落としが無いように隅々までちゃんと見る。

「杉原」

谷川が声を掛けてくるけど、どうせ早くしろよと言われるんだろう。顔を見ないまま手元に目線を落として返事をする。

「ん?秘密については分かったから今探してんだ、ちょっと待ってて」


「もう夜遅いんだから寝ろよ、急かしたの悪かったから…」


「えっ」

──えっ、夜?

体感だとまだ昼前ぐらいなのに。
そう思って顔を上げると、窓から見た外は真っ暗だった。星が見える。


「何でもう夜に…」

「昼にも声掛けたけどお前返事しねえでずっと探してるし…保存食、取っておいてあるからそれ食べて寝ろよ」

「あ、うん…」

渡された保存食を反射的に受け取る。毛布も渡してくるし、心配そうな顔だ。困惑したまま保存食を食べ始める。腹は空いていない。さっき朝ごはんを食べたばかりなのに。

「別にそんなに急いでねえし、保存食はまだあるし、……明日からは食事抜いたりしねえで休みながら作業しろよ」


何でそんな顔を谷川はしているんだろう。


余程眠たかったのか、俺が保存食を食べ終わったのを確認すると同時に谷川は眠り始めた。


「ランプ、俺、そんなにずっと探してた…?」

『すぐに順応するでしょう。我は悪いことをしていませんが申し訳なくは思います』

「……何、どういうこと?」

『眠らないのなら、鍵を探すと良いでしょう』

「……」


意味が分からない。


全然眠たくないので、ランプの言う通りに鍵を探すことにした。
2つ目の秘密が分かってから、体感だと30分も探していない。全然探しきれていない。
自分の時間だけおかしくなった感じがして、恐ろしくなってきた。

「…」

がらがらとガラクタを動かす。大きな音を立ててしまう度に谷川を見るんだけど、全然起きる気配がない。

黒色のガラクタ、灰色のガラクタ、汚れきった皿をどかしたり、錆びついた小さな小物入れを開けてみたりする。取っ手が取れたカバン。くたびれた熊のぬいぐるみ。よく分からない球状のものや、穴の空いた箱を動かす。

1時間ぐらい経っただろうか。


予感がした。黒色の袋を見た瞬間、これだ、と思った。
おそるおそる手を伸ばして、黒色の袋の口を縛っているリボンを解いて、袋を逆さまにしてみると、錆びた鍵が出てきた。

「やった!鍵だ!谷川、やっと見つけ───」


視界が真っ暗に歪む。


ごめんね、と声が聞こえた気がした。力の抜けていく足で必死に谷川のもとへと駆け寄ろうとする。声が出ない。手を伸ばす。きれいでかっこいい顔で眠っている。意識が飛ぶ瞬間に、谷川の体温に少しだけ触れられた気がした。

助けて。


ーーー

「ごめんね、巻き込んでしまって」

囁かれた声に振り返る。ただ、だだっぴろい草原が広がっているだけだった。花の香りがする。


『我は魔法のランプです。願いを3つ叶えましょう』

「魔物!?私の食費になって!」

『友好的なランプに襲い掛かるなんて、酷い人間ですか』

「今日こそ野菜以外が食べたい…!肉!肉!」

声がした方を見る。
中学生ぐらいだろうか。黒髪ショートに黒い瞳の少女が木刀を振り回している。
ふわふわと浮かぶランプはそれを全部かわしながら、言葉を板に書いている。


少女を見て、直感的に、同郷の人間だと分かった。俺たちと同じ、日本人──つまりは、ここで言う異世界人だ。


──さっきまで小屋の中にいたはずなのに、俺はどうして外に出てるんだろう。


「あーもう!疲れた!」

『疲れを取るのが望みですか』

「……本当に魔法のランプなの?代償私の命だったりする?」

『我は魔法のランプです。代償はいりません』

「ふーん…じゃあ、あそこにいる花の魔物を綺麗なお花に変えてよ。無害でただ綺麗な花にして。あいつら怖くて」

ランプの言うことを信じていない顔で、少女は花の魔物を示す。

『望み、叶えます』

ランプが花の魔物の近くにふわふわ移動する。

瞬間、ばくばくと食べ始めた。

少女は完全にドン引きしている。俺もした。あれって谷川が持ってきた花じゃん。やっぱり魔物なのか。直視すると精神がやられる気がする。

『無害でただ綺麗な花です。我は望みを叶えました』

渡された花束を、呆然と少女は見る。
花について深く知らない俺でも、あれは綺麗だと思った。花の香りがする。色とりどりな花に少女は顔を近づける。


「……引退試合で、花束渡してくれるはずだったのに」


綺麗だね、と涙を流して少女は笑う。


「私が死ぬ時は、この花見て死にたいなあ……死にたくないよ……ここにいると、いつか、殺されちゃう」


その声が、やけに耳に残った。

ーーー

「ランプ、2つ目の願いは家がいい。小さくていいから、ここに家を建てて。…異世界人しか見つけられない家にして」

『望み、叶えます』

草原に小屋が現れた。少女は花束を抱えて、目を輝かせる。

「えーっすごい!もう野宿しなくていいんだ…!」

すごいすごい、と言いながら小屋の中を見て回った。俺もその後をついていく。ガラクタどころかソファや机すら無い、作られたばかりの小屋だった。

ランプに家のボタンを押すように言われて、少女はワクワクした顔で押した。
天井の一部が開いて、ハシゴが降りてくる。外に繋がるハシゴを少女は登る。俺も少女に続いた。

屋上庭園を見つけて、少女は顔を引きつらせた。


「待って、理想的すぎて怖くなってきた。……私の特殊スキル、何で知ってるの」

『我は魔法のランプです。3つ目の願いは何ですか』

「…3つ目って、すぐに答えないといけない感じ?」

『いつでも良いです』

「じゃあ、私が言うまで待ってて」


そう言いながら、土に手を伸ばす。

「大地より生まれし力よ、どうか力を貸したまえ。土の息吹よ、再生と繁栄をもたらせ、生命の循環を祈れ。命ある限り、我の糧となれ。『緑の手』」

にょきにょきと植物が生えてくる。瞬く間に育っていく。トマト、きゅうり、とうもろこし……よく知っていて、喉から手が出そうなほど食べたい野菜ばかりだ。
こんなにも野菜が美味しそうに見えたことはなかった。どれも瑞々しくて、今すぐ手を伸ばしてかじりつきたい。

「なんだその魔法…!かっこいいな、俺も何か使えねえのかな」

──思わず声が出てしまったけど、少女もランプも俺のことを見なかった。


「ありがと、ランプ。…3つ目の願いが決まったら言うね」

ーーー

春がゆっくり夏に変わる。いつしか秋になって、冬になって、また春に戻る。
俺はそれをぼんやりと眺めていた。干渉できない。ランプは時折俺の事を認識しているみたいだったけど、少女は俺に気づかない。

小屋に物が増えていく。

少女の体に傷が増えていく。


「異世界人ってさ、なーんか目の敵にされてるんだよね…ランプ知ってた?」

『知ってますが理由は存じ上げません』

「ふーん…怖いんだよね、なんていうの、私の事見る目が。小さい子供が石投げてきたりさ…冒険者ギルドでもジロジロ見られるし…」

『願いは身を守る魔法にしますか』

「……もうちょっと待って。待たせて申し訳ないとは思ってるけど」

『我は待てる偉いランプです。野菜を食べましょう』

「…ランプがここに留まってるのって、絶対願いのためよか野菜のためでしょ」

ランプはぼりぼりときゅうりを齧っている。少女は手元のメモにがりがりと何かを書いている。

俺はそれを覗き込んで、思わず悲鳴をあげそうになった。


「死ぬ前にこれは燃やさないとね」

殺したい人リスト、と書いてある。

「足を引っ掛けてきて転ばせてきたクソ野郎、それを見てげらげら笑ってたクソ野郎共、石をまた投げてきたクソガキ、私に泥をかけてきたクソ野郎、馬車で轢こうとしてきたクソ野郎、ただの余興だからって言って剣で殺そうとしてきたクソ野郎、間違った魔物の情報教えて殺そうとしてきたクソ野郎、異世界人の血は高く売れるからって腕斬りやがって、ああもう、痛いよ、痛い、痛い…」

『回復魔法はどうでしょう、人間は弱いです』

「…いや、いい。まだ決めないから、待って」

『我はとても優秀な魔物なので500年生きます。記憶力もとても良いです。人間はそれに比べて弱い存在なので、回復魔法が必要です』

「いいってば。大丈夫」

『何故ですか。我はとても優秀なので、異世界に返す以外は何でも出来ます』

「決まったら言うからさ、待ってて。お願い」


何度もランプは言葉を書いては伝えようとしている。
腕に出来た深い傷をじっと見つめている。少女の顔色はとても悪い。今にも倒れてしまいそうだ。


「…ねえ、心配してくれてるの?私の事」

『人間は簡単に死にます』

「心配してくれてるの?」

『普通は答えませんが、我からの好感度が高いので答えましょう。心配です』

「…嬉しい」

『我のおすすめは、回復魔法や爆発魔法です』

「まだ決まってないからさー…」

だから、決まるまで、そばにいて。
ずっと一緒にいてくれなくてもいいから、せめてこの家にいて。


少女は歌うように囁いた。



季節は巡る。

いつの間にか少女の腕が片方なくなっていた。片目もどこかに落としてきたらしい。ぶつぶつと何かを呟くだけの日々が過ぎていく。
家にいれば安心だというランプに、帰るすべを見つけたいのと言って出ていく。傷を増やして帰ってくる。それが何年も続いた。
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