俺のことが嫌いなお前に、好きって言ってほしいだけ

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8 最後の手向け

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「ねえ聞いて、私さ、人を助けたの。こんなに傷つけられたっていうのに、私って、すっごく良い子…」

ある日、体が半分えぐれて少女は帰ってきた。
俺はずっとずっと干渉出来ない。

『死んでしまいます。3つ目の願いは回復魔法にしますか』

「ねえ、聞いてよ、ランプ」

ランプが板に書く言葉が、もう少女には見えないみたいだった。

「魔物に食べられそうになってる小さい女の子を助けたの。あのね、その子ね、私の事ずっと殺そうとしてきたクソ野郎の妹だったの。あの顔は傑作だったなぁ……」

『回復魔法を願ってください。死んでしまいます』

目を離せない。今すぐにでも命の灯火が消えそうで、でも俺は何もすることが出来ない。

「回復にいくらでも払うから、治癒士を呼んでくるから、って、ばっかみたい。この腕忘れたのかよってね。振りきって帰ってきたの、ずっと、何か言ってたみたいだったけど、途中から聞こえなくて」

『何故ですか。君が傷つくことなんて、しなければ良かったのに』

「私、この世界に生きていたくない。帰りたいよ。…帰らせてくれないなら、せめて、天国には行けるかな…」

少女はソファーに倒れ込む。少女の通った跡が真っ赤に染まっている。


「ランプ、3つ目の願いを言うね」

回復を願ってくれと思う俺とは裏腹に、少女は全く違う願いを祈る。

「私の『緑の手』、次にここに来た異世界人に譲渡してあげて。異世界人が来るまで、それまで、ここで待っていて……私の事、せめて、願いが叶うまで忘れないで……」

『回復魔法を願ってください。どうしてそんな願いにするのですか』

歌うように。もう文字が見えない瞳で、少女はそっと笑う。

「何年も、付き合わせちゃって、ごめんねぇ……ずっと寂しかったの…一人でいたくなかったの…願いを言わなければ、ずっと、一緒にいてくれるって思ってたから……何度も私の事好きって言ってくれてありがとう…私、ただ、好きって言ってほしかっただけだったの……嬉しかった……ありがとう……大好きよ…」

掠れた声が、それでも言葉を伝え続ける。

「じゃあね……ランプ」

少女は事切れた。
ランプは少女の頬に触れる。

小さな小さな鍵が現れる。

いつまでもずっと、ランプは少女の頬に触れていた。


ーーー

『我は、ずっとこの日を待っていました』

ぷつりと目の前が暗くなって、少女の姿が消える。
ランプがふわふわと俺の前で揺れる。

『我は聞いたことがあります。人間は3人殺せば地獄に行く。───魔物は、3人救えば天国に行ける』

目の前が涙で歪む。

『『緑の手』、お前にもう移りました。我ら魔法のランプが魔法のランプであるための、長寿を許されている理由の『超記憶』、お前に移しました』

『ずっとずっと前の人間。彼女。そしてお前で3人目です。我は天国に行けます。我は彼女にまた会いたいです』

3つ目の願いで小屋に縛り付けられたランプは、死ぬ前に見たいと言っていた花を見せられなかった。
燃やさなきゃと言っていた本がずっと残ってしまった。


やり残したことを終わらせて、願いを叶えて、自分の寿命を終わらせようとしている。


「ランプ……」

『1人を人質に取るという考え、我は思いつきませんでした。勝手に我の板に言葉が追加されていました。…彼女はここにいてくれたのかもしれません』

「……たまに、ランプと全然違う言葉が書かれていたの、俺はちゃんと見てたよ。ここに来る時も、巻き込んでごめんねって声が聞こえたんだ」

ランプが微笑んだ気がした。


『ずっと、好きって言って欲しかったです。最後に1回だけなんてあんまりです。ずっと一緒にいたかったです。我は追いかけに行きます』

どこかから、花の香りが漂ってくる。急激に眠気が襲ってきた。

『この小屋はもうすぐ倒れてしまうでしょう。少し時間を進めました、お前らを知る人間はもういません。彼女と同じ結末を辿らないように気をつけてください。この国から出た方が良いです』


瞼を開けていられないほどに、眠たい。


『ありがとうございます。お前たちが来てくれたおかげで、我はやっと天国に行けます。…お前は、大きい方が好きなら好きだと、ちゃんと言った方が良いと思います。後悔する前に』


ーーー

「杉原、大丈夫か?」

「……谷川」

「もう昼だぞ、鍵探すんだろ。休憩しながらでいいから……って、何だこの匂い…花…?」

少し心配そうな顔で覗き込んでいる谷川に、軽口で返す余裕はなかった。


「もう鍵は見つけたよ……谷川、もうこの小屋、倒れるって。外に出よう」

困惑した表情の谷川の手を引いて、小屋の扉を開ける。何でお前泣いてんの、と困惑した声が聞こえた。



「ランプ、きっと会えるよ」

出る前に、振り返ってランプの方を見た。もうランプは何も言わない。でも感謝されている気がした。


外に踏み出す。
それと同時に強い花の香りが後ろから漂ってきた。思わず振り返ると、小屋が花でいっぱいに満たされている。本当に綺麗だ。



十分離れた所でもう一度振り返ると、小屋が塵になって空中に消えていくのが見えた。
風に攫われそうな花を見て、俺は思わず手を組んで祈っていた。


「煌めく大地に根差す生命よ、巡る季節の息吹を重ね、再生と繁栄をもたらせ、再会を祈れ。命ある限り、祝福となれ。『緑の手』」

『緑の手』の使い方、言葉は、祈れば自然と理解できた。
ランプの残した花を祝福する。香りはさらに強まって、そして、小屋と一緒にゆっくりと消えていく。少女とランプに届きますようにと祈った。
小屋はゆっくりと消えていって、花は残されてしまいそうだったから。『緑の手』で干渉する。


花も一緒に連れて行けますように。
少女とランプがまた会えますように。
2人のもとに届いた花を見て、綺麗だねって笑いあえますように。


「…」

涙を流しながら祈る俺を見て、谷川は隣に立つ。そして、同じように手を組んで祈った。
──ああ、本当に、こういうところが。こういうところが好きで好きでたまらないんだ。



俺はランプみたいに好きだって伝えられない。
更に嫌われたらと思うと怖い。
俺は怖くて言えないくせに、谷川には好きだって言ってほしい。

俺が谷川に向ける祈りは、全然きれいじゃなくて。

ランプの過去を見てから、俺は欲が出てきてしまった。
ただ、好きだって言ってほしいだけだったのに。
──最後の瞬間まで一緒にいたいと思ってしまった。
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