メクレロ!

ふしかのとう

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第二章 魔法使い

第11話

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 ーー私は小さい頃家の近所で同じくらいの歳の子達と遊んでたの。森だったり川だったり野原だったりを駆け回ってた普通の子供だった。だけどある日その中でも年上の子が魔法を覚えてきたって言って木の葉を集めた山をぶわぁっと吹き飛ばしたの。

 ーーみんな大盛り上がりで、僕にも私にも教えてってなってね。年上の子が皆に教えて段々皆出来るようになって。でも私はいつまでも出来なかった。皆でそんな私をからかったりするようになってね。私は悔しくて泣いて帰ったわ。

 ーーそしたらリリーディアが「練習しよう」って言って毎日練習に付き合ってくれたの。でもやっぱり出来なくて。もう練習も何もかも嫌になった私はリリーディアに「リリーディアがおじいちゃんと結婚したからだ!」って言っちゃったの。今私が過去に戻ったらそんなこと言う子はお尻叩いてやりたいけどね。

 ーーでもそしたらリリーディアが笑いながら言ったの。「ごめんね。でもおじいちゃんのこと好きになっちゃったからしょうがないんだ」って。
大丈夫?眠くない?

 ーー大丈夫です。眠くないです   タキ


 むしろ、こんなところで終わられたら続きが気になって眠れなくなっちゃう。


 ーーそれで「大丈夫!あなたも頑張ってたらきっと魔法が上手くいくようになるわ」って言ったの。

 ーーそれで今があるんですね。   タキ

 ーー今って研究のこと?   ミコ

 ーー今は飛ばすの、物凄く上手く出来てるじゃないですか。頑張ってた証拠ですよ。   タキ

 ーーそうなるのかな。タキ君も上手だから頑張ってるのね。   ミコ


 俺は頑張ってるのかなぁ?博士の魔法紙で、相手が博士だから上手くいくロマンチック魔法なだけだし。


 ーー禁止されてる言葉の使用許可を求めます。   タキ

 ーー却下します。   ミコ

 ーーいえ、俺の魔法についてなんで。さらっと流して貰って良いんで。お願いします。   タキ


 考えてるのか、途切れた。しばし待つ。


 ーー今回のみ許可します。

 ーー俺が魔法を使えるのは頑張ったからじゃなくて博士の作った魔法紙で博士のことを想っているからじゃないかと思います。ロウソクの火や紙ではいくら頑張っても駄目だったけど、博士のスカートや博士への手紙なら簡単なんです。これは俺が博士のことを好きだからじゃないかなって思います。   タキ


 …やっぱり違うんだろうか?確かに理論的に組み立てていく魔法にこんなふわふわした理由なんて、馬鹿げてると一蹴されてもおかしくないよな。


 ーーそんな気持ちで簡単にえっちな魔法を使われたら堪ったもんじゃありません。   ミコ


 博士が、えっち、ですって!


 ーーでももし本当にそういう気持ちが魔法に影響するならそれはとても素敵なことだと思います。   ミコ


 …会いたい。なんだか物凄く博士に会いたい。会って好きですって伝えたい…でも、会えない。


 ーー禁止されてる言葉の使用許可を求めます。   タキ

 ーー却下します。   ミコ

 ーー昨日雨で飛ばせなかった分ですタキ

 ーー駄目ですミコ


 ぐぬぬ、強情さんめ…。


 ーーそろそろ寝ましょう。   ミコ

 ーーわかりました。おやすみなさい   タキ

 ーーおやすみなさい。今日は風が気持ち良いから窓を開けたまま寝ます。   ミコ


 ん?風なんて吹いてるか?
 博士のとこだと吹いてるのか?


 ーーもしかしたら差出人の書いてないイタズラの手紙が入ってきちゃうかもね。    ミコ





 ・・・・・。





 ーーこんにちは。何してる?   ミコ

 ーー博士のことを考えてました

 ーー心理学の本読んでて疲れたのでお茶を飲んでます。   タキ

 ーーイタズラの手紙が来た。   ミコ

 ーー昨日は風が強かったから紛れ込んだんじゃないですか?   タキ

 ーーなるほど。    ミコ




 ・・・・・。




 ーーはいおやすみなさい。今晩は良い風ですか?   タキ

 ーー良い風のようです。   ミコ




 ・・・・・。




 ーーこんばんは。明日はテストでしょ?早く寝た方が良いよ。    ミコ

 ーー昼間に最後の確認がてら魔法史の本読んでたら寝ちゃったので目が冴えてしまいまして。   タキ

 ーーテストは大丈夫なのかしら?   ミコ

 ーー多分大丈夫でしょう。そもそもどんなテストか判りませんし。   タキ

 ーー判らないけど大丈夫なんだ?   ミコ

 ーーそれなり勉強してたもので。   タキ

 ーーじゃあ問題出すから答えて貰いましょう。   ミコ




 ・・・・・。




 テストはやっぱりというかなんというか、入学試験と同じだった。違うのは入学試験は2枚に名前を書いたけど今回は1枚。明日次期のクラス分けが発表されるというので、数値を計る方だろう。

 「お疲れさん、乾杯。タキの言う通り勉強しといて良かったよ。全問正解の満点だ。」

 「満点ならGクラスじゃないだろ?」

 「え?なんで?」

 「あれ?話さなかったか?クラス分けのこと。」

 「なにそれ?聞いた覚えが無いんだが。」

 「ほら、入ってすぐに俺がグレンさんに呼び出されたろ?あの日飲んだだろうが。」

 「…真面目な話の方か!いやお前博士に会った話だけで結局話さなかったじゃねぇか。」

 「そうだっけ?昔の事は忘れちまったよ。」

 「次の日だかにその次だかに聞いたのにブルゼットちゃんの話しやがって流されたやつだ。思い出したら腹立って来たわ。」

 「あははすまんまぁ飲め飲め。入学試験は2枚あったろ?1枚目は合否、2枚目は数値を見てクラス分けなんだそうだ。」

 「基準は?」

 「それはナ・イ・ショ!だそうだ。」

 「グレンさんのイメージが壊れた。罰として飲め飲め…で、なんで呼び出されたの?」

 「俺の数値がゼロ、計測不能だったそうだ。で、学長の判断で一番下のGクラス、選択講義の代わりに博士の研究室だそうだ。」

 「ふぅん。それじゃ俺も低いからGなのか。ちょっと不安だな。」

 「Gだから駄目なことは無いそうだよ。グレンさんもずっとGで卒業したって。」

 「でもグレンさんが特別何かが良かっただけかも…。」

 「何不安になってるのよ?大丈夫だろ。」

 「いや、この前大人になったろ?そしたらリズの事もっと大切にしなきゃと思ってさ。ちゃんと魔法使いになってさ、幸せにしたい訳さ。」

 「心配すんなって。グレンさんも言ってたろ?お前は良くやってるって。それよりそろそろ食えるんじゃないか?」

 「まだ早い。」

 「まぁ今日は肉禁止じゃないから良いけれども。」

 「我慢した分だけ美味くなるんだ。ロースト、それはまるで人生。」

 「人生か。博士は人生好きなんだよな。博士誘いたかったな。」

 「誘うぞ。」

 「いや突然何言ってんの?流石に今の状況では来ないだろ。」

 「実は今日はそういうつもりローストだ。」

 「流石に釣られないでしょうよ。それに今は確かに良い感じだけど焦ったらいかんと思うんだ。」

 「これはただのオズの家名物を囲む会だから大丈夫だ。」

 「なるほど、確かにそれで誘ったら、行くって言ってたけど。でも今はちょっと不安だぜよ。」

 「まぁまぁ任せとけ。わるいようにはしないから。」

 「お前そうやって言えば俺が何でもいうこと聞くとか思ってない?聞くけどさ。でも博士は来ないとは思う。」

 「それも俺に任せて…お!噂をすれば手紙だぞ!博士じゃないか?」


 ーーこんばんは。テストどうだった?   ミコ


 「実はお前ら付き合ってるの?」

 「実はまだである。」

 「俺がお前らの中に混ざるのが不安になってきたぜよ。」

 「そんなんじゃないから。とりあえず誘えば良いんだな?」


 ーーバッチリ名前を書きました。ところで今シンと飲んでるんですが、来ませんか?シンがロースト作ってくれてるんですよ。   タキ

 ーー名前?ローストは気になるけど今日は遠慮しときます。邪魔しちゃ悪いし。   ミコ


 「ほれ見ろ。次の機会にしようぜ。こっちも心の準備が無いし。ちょっと照れ臭いし。」

 「良いからちょっと紙とペン貸せ…よし。このまま飛ばして。中見ちゃ駄目だぞ?」

 「なんだいなんだい…まぁ良いけど。」

 シンがちゃちゃっと殴り書いて折り畳んだ紙を飛ばした。

 「お前本当に普通に飛ばせるのな。普通に見てたけど普通に驚いたわ。」

 「なんせロマンチック魔法だからな。」

 「ロマンチック魔法使いさん、さぁさぁ飲んで飲んで。」

 「いや博士の返事を待ってからにしようぜ。お前が何書いたのか知らんけど。」

 「飲んで待つが良い。返事はもうすぐ来る。多分。」

 「まぁお前がそういうなら飲むけれども。酔った勢いでまたやらかしたなんてことになったら本気で庇ってくれよ?」

 「安心しろ、ちゃんと言うから。俺は止めたんですけどね。」


 コンコン。

 「おっと誰か…ん?まさか!」

 「返事じゃないか?早く行ったれ。」


 ガチャリ。

 「コ、コンバンワ…。」

 ドアを開けると赤い顔で気まずそうな顔をした世界一可愛い返事が立っていた。

 「イラッシャイマセ…。」

 嘘だろ?シンは一体どんな魔法を…はっ!?これが本当のロマンチック魔法か!?

 「久しぶりですね…とりあえずどうぞ。狭いところですが。」

 「うん、お邪魔します…。」

 しばらく顔を見なかったせいか頭の中で勝手に美化されてる予定だったけど、実物の方が可愛い。

 そういえば制服以外は初めて見た。落ち着いた大人っぽいシャツにパンツルックと、博士の年齢を考えれば年相応の格好だけど、博士自身の見た目の若さ可愛さと合わせると独特の魅力を放っている。
 

 …待てよ?手紙は名前を書かないことが免罪符となっていたのだが、今は好きとか言っちゃ駄目なんじゃなかろうか?こっちはもうどうにかなっちゃいそうなのに。

 「こんばんは博士。急に呼んじゃってすみません。ささ、こちらへどうぞ。俺の家じゃないけど。それじゃタキ、俺は用意してくるから博士の相手は頼んだ。」

 「あ、お前…。」

 ふたりきりになつてしまつた。

 「……。」

 「……。」

 …気まずい。いざ会うと何を話して良いやら解らん。そしてそれは博士も同じようで、気まずそうだ。はて、手紙のやり取りを始める前はどう話してただろうか?

 「……。」

 「……あの。」

 「……うん。」

 「……なんか照れ臭いですね。」

 「……うん。」

 …いかん。折角来てくれたのにこんなことではいかんですよ。手紙ではかなり打ち解けて話してたのに。会ったら色んな話をしようとか言いたいこととか沢山あったのに、博士の方が照れちゃってるのが伝染して…そうか、手紙!

 …という訳で後ろの机から紙の束とペンとインクを持ってきて博士と俺の間に置いた。そして手紙を書いて博士に渡す。

 ーーこんばんは。手紙の方が話し易いかなって思います。手紙の方が恥ずかしくないってなんか変ですけどタキ

 ーーこんばんは。そうね手紙でのやり取りを思い出すと恥ずかしいというか。手紙の方が恥ずかしくないっていうのは何となく解るミコ

 ーーでもこのまま手紙でのやり取りをここでしてるのは変ですね。シンもいることですしタキ

 ーーそうね。でもどうしたら良いのかミコ

 ーー提案ですが、手紙をやり取りする前まで戻りませんか?タキ

 ーー戻るとは?ミコ

 ーー手紙のやり取りは一旦忘れて、手紙のやり取りを始める前まで戻ったつもりで話すのはどうでしょう?具体的にはローストの話をした懇親会くらいまでタキ

 ーー演技ってことかな?名案ね。それならシン君のローストをちゃんと楽しむことが出来るミコ

 ーーではそのように。ちゃんと戻ったつもりで演技するんですよ?ちゃんと出来ます?タキ

 ーー馬鹿にしないで。これでも演技は上手いつもりよ?ミコ

 ーーではそのようにタキ


 そして俺達は目を合わせて、こくりと頷く。


 …よし!俺ってば天才!

 「俺は博士が好きです。」

 「ちょっ!それは禁止だって…。」

 「博士?ちゃんと戻れてます?」

 「くっ…そういうことだったのね。」

 真っ赤な顔の青い目が睨んでくる。

 ああ…幸せ。

 

 「あのぅ…いつもこんな感じでいちゃいちゃしてるの?」

 シンがローストと他にもいくつか作ってきたようだ。それらをテーブルに置きながら呆れたように聞いてくる。

 「違います。そもそも私達はいちゃいちゃなんかしてません。」

 「…ですよねあはは。博士は結婚してますもんね。それなのに博士がタキといちゃいちゃなんて、ねぇ?」

 「う、うん、そうよあはは。」

 …なんだこれ?シンは何やってんだ?と、思ったらシンが目配せしてきた。なんか考えがあるらしい。まぁ良いか。

 「それじゃ、出張オズの家!タキの家編の開催を記念しまして、乾杯!」

 「乾杯。」

 「かんぱーい。ささ、博士の好きなローストですよ?食べて下さい、俺が作った訳じゃないけど。」

 「うん、それじゃ早速いただきます…ん、美味しい!」

 「へへ、良かった。本物とは違う!とか言われたらどうしようかと。」

 「正直に言うと、そこまではっきりと覚えてる訳じゃないから。でもこれすっごく美味しいよ。ありがとね。」

 博士が喜んでるようで嬉しい。若干シンに妬かないでもないけど、確かに美味いから仕方ない。

 「ねぇ?さっきタキ君の手紙に名前書けたってあったけど…そんな感じで大丈夫なの?」

 「ああ、テストは名前書くだけなんで。」

 「どゆこと?」

 「入学試験と一緒ですよ。知らなかったんですか?」

 「知らないわ…魔法紙かしら?」

 「そうみたいです。学長が作ったんですって。グレンさんが教えてくれました。」

 「ふぅん。何を見るのかしらね?」

 「丁度さっきシンとその話になったんですけど、グレンさんの話だと、数値みたいなものを計るんだとか。」

 「数値?」

 「ええ。何の基準かは教えて貰えませんでしたが、博士知ってます?」

 「知らないわ。知っててもグレン君が教えないって言うなら私も言えないけどね。」

 「グレンさんは話したことあるんですか?」

 「ええ、新人歓迎会の時にちょこっと。あの子卒業してすぐ結婚したのよね。入学前からずっと付き合ってた子とお互い10年以上待ってから結婚…良いなぁそういうの。憧れちゃう。」

 「…博士!博士!」

 シンが慌てたように博士に声を掛ける。

 「え?あ、あぁ、うん、そういうのも、そういう結婚も良いわね…ってことで。」


 …おかしい。博士の結婚ネタがヘタなのはいつものことだが、シンのヤツがさっきから博士のことをフォローしているようだ。

 訝しく思ってシンを見るとウインクしてきた。何の合図よ…。

 「そういえばシン君の彼女ってさ…。」



 ・・・・・。



 「今日は何かとありがとう。」

 「いやいや、どういたしまして。」

 博士を送った帰り道。シンに礼を言っておいた。ローストもそうだし、博士を何らかの手段で呼んでくれたこともそうだし、そういう一連の流れを作ってくれたことそのものも有り難かった。

 「ただ、なんでお前が博士の結婚話をバレないように、いやバレてるんだけど、博士に誤魔化し続けさせようとしてるのかが解らん。」

 「一応、お前は気付いてないことになってるからな。」

 「それは、博士の為か?」

 「それはそうとも言えるしそうでもないとも言えるな。」

 「じゃ俺の為か?」

 「まぁそうだな。これ以上は博士との約束があるから言えないが、お前にひとつだけ言っておく。」

 「なんだね?」

 「お前は友達だが、博士は俺の友達じゃない。俺の友達の好きな人なだけだ。俺にとっては友達が幸せなら、友達じゃない人が幸せだろうとそうでなかろうとどうでも良いんだ。だから、俺は今俺がやってることに間違いはないと思ってる。黙って俺について来い。」

 「惚れちゃうだろうが。マキちゃんに刺されるぞ。」

 「姉ちゃんは姉ちゃんで上手くやりゃ良いだろ。」

 「姉ちゃんに厳しいのな。」

 「所詮家族だからな。冷たくしても温めても縁は切れないし。」

 「なるほど。」


 コイツは本当に良いやつだ。

 今度コーヒー奢ってやろう。

 温かいやつと冷たいやつ。


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