メクレロ!

ふしかのとう

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第二章 魔法使い

第12話

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 掲示板の前は人だかり。

 クラスを知りたい人ばかり。

 シンはリズィちゃんとやりたい盛り。

 俺と博士は花盛りyeah!



 俺はどうせGだからGクラスを見れば良い。皆が感じるドキドキを味わえないのは若干寂しいものがあるが、探す手間が無いから良いとでも思えば良い。お。やっぱ俺はGのままだ。

 でもなんかGクラスの人数減ってない?知らない名前もあるけど、シンの名前は無かった。あいつ数値上がったんか。グレンさんも、あいつは真面目にやってるって言ってたし。クラスが離れるのは寂しいがまぁ仕方ない。


 「シン、お前どこだった?Gじゃないんだろ?」

 「無い。」

 「え?無い?」

 「俺の名前が無い。」

 「そんな訳あるか。」

 「いや無い…無かった。」

 「なんか別のクラスみたいなのになるのかな?俺の研究室入りみたいに。」

 「いや…俺は…落ちたのか?」

 「いやいや、クラス分けのテストで落ちるも何もあるかよ。」

 「でも、人数が減ってるんだぞ?俺…。」

 「きっとなんか他のコースに行くんだって。とりあえず教室行こうぜ?な?」

 「…うん。」


 教室に入るとクラスの3分の1程はシンと同じく行き先未定のようだった。別コースに行くのではないかと言うものと、退学ではないかと言うものでやいのやいのやっている。


 ーーはいおはよう。皆掲示板は見たか?休み明けとなる次期からは新しいクラスになるので間違えないように、クラスの書いて無かった人は明日までに手続きを済ますように、ん?あぁ、退学届だよ……。


 「タキ…俺退学だわ…。」

 「…どうすんの?」

 「どうするも何も、退学届出してフリジールに帰るしか無いだろ。俺は元々、魔法学校に落ちたら諦めて店継ぐって約束だったからな。」

 「そっか…すぐ帰るの?」

 「まぁ、そうだな。帰りを引き延ばすようなことをしても無駄だし。」

 「でもリズィちゃんは…。」

 「リズは元々どっちでも良いって、俺のやりたいようにやれって言ってくれてたからさ。」

 「なら良かった。良くはないけど。」

 「うん、まぁそうなんだけど…。」

 「……。」




 「なりたかったなぁ、魔法使い…。」




 ・・・・・。



 「グレンさん!」

 「ん?タキ君か。どうした?」

 「シンの事なんですけど。」

 「あぁ、彼は残念だったね。」

 「いや、なんでなんですか?あいつ、頑張ってて、グレンさんも言ってたじゃないですか!?あいつ、グレンさんが言ってたみたいに、真面目にやってたし、彼女の事だって考えて、真面目にやってたんですよ!?」

 「落ち着け。確かにシン君、彼が頑張ってたのは我々も知っている。だが、彼はテストでこの学校の基準に満たなかったのだ。これは仕方のないことなんだ。」

 「なんとかなりませんか!?もう一度、そうだ、もう一度テストを…。」

 「無駄なことだ。結果は変わらない。」

 「なんでそんな…では、代われませんか?俺とシン、代わって、俺が退学でも良いんです。でもあいつは魔法使いになりたくて。だから俺の代わりに!」

 「代わりなど無い。諦めてくれ。これ以上騒ぐのなら僕は君を処分しなくちゃいけなくなる。」

 「いやでも…。」

 「タキ!お前、何やってんだよ?」

 「シン…。」

 「騒いでるやつがいると思ったらお前じゃないの。来てみりゃ俺のことで騒ぎやがって、恥ずかしい!」

 「でもお前、退学したくないんだろ!?」

 「そりゃそうだ。だけどな、俺の代わりに退学なんて、誰が頼んだよ!」

 「シン…。」

 「お前がそんなこと言ったらお前、折角今まで我慢してたのに、悲しくて泣きそうなのに、ついでに嬉しくて泣きそうになったら、そんなもん耐えられんだろうが!」

 「あぁ…シン、ごめん。俺、お前と離れるのイヤで…不安で…ううぅ…。」

 「やめろって言ってるのに!ううぅ…。」



 ・・・・・。



 なんだか何も解決してないのに、グレンさんの前なのも忘れて男2人でおいおいと泣いてしまった。

 結局、シンはそのまま手続きをし、明日にはもう帰るから、家の荷物をまとめると言っていた。手伝おうかと言ったのだが、ひとりでやりたいと断られた。明日見送りに行く。


 …見送りか。シンに会って何ヶ月も経たないのに、もうずっと前から一緒に居たような感覚になる。まぁずっと前の記憶は無いのだけど。

 だけど、一緒に飲んだり、飲んだり、飲んだり、基本的には飲んでばっかりだけど、気が付けば一緒に居た。あいつが居なくなるなんて考えもしなかったな。

 会えなくなる訳ではない。会えなくなる訳じゃないんだが、わざわざ会いに行くという存在ではなかった筈なのに、ちょいと気合を入れて予定を立ててという風になるのが全く想像出来ない。そんなこと出来るのかな?出来ないことは無いか。

 でもそんな風に離れてたらいずれ俺の事を忘れたりするんだろうか?そんなことは無い、と言えるくらいには濃い付き合いをしてたとは思うがあいつはどう思ってるのか。逆に俺がもし…。

 困った、弱った、参ったの三拍子でなんだか何もやる気のしないところで手紙が飛んできた。そうだ、博士のことをすっかり忘れてた。シンの代わりに退学になれたら、博士には会えなくなることを全く考えなかったのか、俺は。


 ーーこんばんは。クラスは変わった?   ミコ


 俺は今、誰かにこの気持ちを思いっきりぶつけてやりたいが、その相手は博士ではない。また、誰かに思いっきり甘やかしてほしいと思うが、その相手も博士ではない。俺は今博士と話せない。というより誰とも話せない。

 …でも会いたい。

 でも俺は今ぐちゃぐちゃ…。


 ーー手が空いたらお手紙下さい。   ミコ


 博士…もし博士を騙して呼び出して無理矢理抱きついてキスをしたら思いっきりぶん殴ってくれるだろうか?

 …馬鹿か俺は。博士のことが好きなのに、悲しませるようなことなんて出来る訳が無い。ああ、そんなこと考えたなんて言ったらシンに怒られちゃうよ!でも、怒ってくれるシンがいなくなっちゃったら…いかん。いかんですよこれは。


 ーーすみません、ちょっと手が離せなくて。Gクラスのままでした。でもシンが退学になっちゃいました。   タキ

 ーーそうなんだ。タキ君は落ち込んでるの?ミコ

 ーーシンがフリジールに帰るから落ち込んでますけどなんで解ったんですか?   タキ

 ーーいつもはすぐにくれる返事が遅かったから落ち込んでたのかなって。もう大丈夫になったの?ミコ

 ーーええ。もう大丈夫です。   タキ


 もう大丈夫…大丈夫。


 ーー本当かしら?ミコ

 ーー本当です。   タキ

 ーー本当に本当?ミコ

 ーー本当に本当です。さっき一瞬、博士を騙して呼び出して無理矢理抱きしめて無理矢理キスしたらぶん殴ってくれるかなとか思いましたけど。   タキ

 ーー騙されるのも無理矢理抱きしめられるのも無理矢理キスされるのもごめんだわ着いたミコ


 そりゃそうだ、って、ん?着いた?


 コンコン。

 ガチャリ。

 「えへへ、心配で来ちゃった。」

 「天使かと…。」

 「うふふ、そう!天使なので無理矢理とかは駄目です。」

 「いや、しませんよ。俺は天使が好きなので。」

 「禁止ですよ?」

 「天使に言うのは良いんです。」

 「そっか…ところでタキ君はもう大丈夫なの?」

 「大丈夫です。もうばっちり。」

 「…ふぅん。じゃあ、はい。」


 そう言って笑顔で両手を広げる博士、じゃなかった天使。これはまさか、抱きしめて良いよってことか!?

 …良いんだよな?

 …良いの?

 …抱きしめちゃうよ?

 恐る恐る博士を抱きしめると、抱きしめ返してくれた。博士の身体は驚くほど小さくて、温かくて、柔らかくて、頭のてっぺんから良い匂いがした。あれ?俺はもう死ぬのか?いや、天国だから、俺はもう死んでるのか?天使もいるし。

 嬉し過ぎて涙が出ちゃう。出ちゃってるけど。


 「…あのね?シン君は別に会えなくなる訳じゃないんだよ?」

 「解ってます。」

 「ちょっと離れちゃうだけで、会おうと思えば会えるんだよ?」

 「解ってます。もう大丈夫。」

 「シン君はタキ君の友達だよ?。」

 「解ってますってば。」

 「だから、忘れないよ?シン君のこと。」

 「え…?」

 「タキ君はシン君のこと、忘れないよ?」

 「……。」

 「だから大丈夫。泣くのはやめましょ?」

 「…なんで解ったんですか?」

 「うふふ、天使ですから。」

 「そっか…天使さん、ありがとうございます。」

 「うん。」

 「大好きです。」

 「…うん。」

 「大好きです。」

 「…さっ!おしまい!」

 天使がパッと離れる。

 「あと5分。」

 「駄目です。天使は博士になっちゃうので。」

 「じゃあ最後にほっぺにチューを。」

 「もう博士です。」

 「まだ天使です。」

 「もう帰ります。」

 「送りましょう。」

 「…いえ、ひとりで帰れるわ。」

 「でも…。」

 「良いの…やっぱり流石にちょっと恥ずかしくなってきちゃったから、冷ましながら帰るの。」




 ・・・・・。




 「マキちゃんやリズィちゃんによろしく。」

 「うん。そっちも、博士によろしく。」

 「うん。長期休みの時、エルフの森行く用事があるから、フリジールで寄るよ。」

 「うん。ウチに泊まれば良いよ。無料で泊めてやるよ。」

 「お金払うから美味しいものいっぱい食わせろ。」

 「うん。」

 「それじゃまた。」

 「うん。博士のことは中途半端にしちゃったけど、あとは自分でなんとかしてくれ。」

 「無責任だな。見届けるまで居たら?」

 「すまん。」

 「いや、俺の方こそすまん。」

 「それじゃまた。」

 「うん。リズィちゃんとの結婚式には呼ぶんだぞ。」

 「流石にまだ早いわ。でも呼ぶから来いよな。」

 「うん。」

 「それじゃまた。お前が博士と結婚する時も呼ぶんだぞ?」

 「流石に気が早い。でもちゃんと呼ぶよ。」

 「うん。頼んだ。」

 「そういえば、送別会をやってないな。」

 「むむ、確かにそうだな。今度やるか。」

 「…今度っていつだよ?」

 「…今度だよ。」

 「今度、絶対だぞ?」

 「ああ、やろう。」

 「…お前には世話になってばかりだった。」

 「そんなことないよ。」

 「そんなことあるよ。」

 「そんなことない。お前が俺に世話になったと思ってる部分は全部俺が楽しいからやってたんだ。俺の為だぞ。」

 「俺の為がお前の為なのか。」

 「そうだな。」

 「なら良いか。」

 「良いのだ。」

 「そうか。それじゃ、また。」

 「うん。そういえばローストのレシピを渡してないけど。」

 「あれは待つのが耐えられないからお前に作って貰う事にしたわ。」

 「博士に食べさせてあげれば良いのに。」

 「フリジールまで連れてくよ。」

 「むむ、そうなると断れないな。仕方ない。」

 「そうだ仕方ない。」

 「仕方ないな。」

 「したかないな。」

 「したかないな。馬鹿め…それじゃあんまり引き留めるのもアレなんで。」

 「行くのはお前だぞ?」

 「そっか。それじゃ、まぁちょっくら行ってきます。」

 「おう、行っといで。」

 「それじゃ。またな。」

 「またな。皆によろしく。」

 「うん。」

 「本当にありがとう。俺はシンに会えて良かった。」

 「こちらこそありがとう。俺もタキに会えて良かった。」

 「それじゃ、本当に最後だ。またな。」

 「うん。またな。」

 「手を離しやがれ。」

 「お前が離せ。」

 「…よし今度こそ、またな。」

 「…ああ、またな。」
 


 ……。


 
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