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第五章 四角三角
第2話
しおりを挟むミコに手紙が飛んできた。
マキちゃんは紙が飛んできたのが珍しいのか、興味津々の顔を隠さずミコの側に行って聞いた。
「ミコに手紙?」
「うん、ルタっていう私の幼馴染みから。明後日の集まりが、緑のいるか亭ってとこでやるって話で…マキ、そのお店知ってる?」
「知ってるわよ。港の方にうちから20分くらいかな?…いるかさんで飲み会?」
「ええ。エルフの幼馴染み達の集まりに誘われて。」
ちなみにオイちゃんは、お仕置き友の会への勧誘を中途半端に止められて、微妙に気になるものの続きを促す事も出来ないでいる。
あとでこっそり教えてあげよう。
「ふぅん…あれ?ルタってルタド先生?お医者さんの?」
「マキ知ってるの?」
「シンに聞いたけど、おかみさんが診て貰ってるんだよね?」
「そう、おかみさん…おばあちゃんがお世話になってるから。格好良いって評判よね。」
「そう?私はあんまり解らないけど…紹介してあげようか?」
「良いわよ、私にはタッ君居るし。それにこないだリズが、何あの人!って珍しくぷりぷり怒ってたから、ちょっと遠慮するわ。」
「リズが?何それ?」
「なんかね、ミコのこと好きだからか最初からタッ君に刺々しくて、タッ君が人間だって言ったら、死ぬまでは仲良くしてれば良いみたいに…タッ君言ってなかったの?」
「うん、まぁ。」
言ってないな。
「あ、ごめん。私てっきり言ってるもんだと…。」
「良いの良いの、気にしないで。」
「…何よそれ。なんで言ってくれなかったの?」
明らかにミコの機嫌が悪くなった。こうなるから言わなかったんだけどな。
「え?いや別に言うほどのことでも無いでしょ?俺も人間だって嘘吐いちゃってるし。」
「言うほどのことあるわよ!そんなの、タキ君が死ぬの待ってるみたいじゃない!いくらなんでも酷過ぎる!」
「良いじゃん待たせておけば、ってこないだシンやリズィちゃんと笑ってたくらいで、別に気にしてないから。」
「私が気にするの!」
「ミコは愛されてるわねぇ。」
「…何でよ?」
「先生がミコの幼馴染みだから、ってタッ君が気を遣ってくれたんでしょ?ミコが嫌な思いをしないようにって言わないでくれたんじゃない。タッ君だって、嫌な思いしてる筈でしょ?」
「俺は別に、結婚式の招待状はちゃんと送るし、来なかったとしても結婚の報告は送るし、毎年の挨拶はミコと連名で百年位は欠かさずに送ろうかな?とか、いずれ隣の家に引っ越そうかな?とか思ってるくらいで、まぁ、うっかり目の前でキスしたりはするかもしれないけど、何とも思ってないよ?」
「…ほらね?タッ君は何とも思ってないって。」
「……服着て。」
「ん?」
「ちゃんと服着て。」
「え?でも、俺が着るとシンが1人だけ裸に…。」
「折角今まで半裸のタッ君で良かったのに…。」
「良いから!」
「はいはい。」
「はい、は1回よ。」
「はい。」
…なんだってんだい、もう。
パンツ一丁で真面目な話をするって結構新鮮だと思ってたのに。
…もそもそ。
「はい、出来ましたっと…ああ、シンが変態みたいだ…。」
「それじゃちょっと、タキ君借りるわね。」
「借りるって、タッ君はもうミコのでしょうが。」
「他に言い方が思い付かなかったの!はい、こっち来て。」
「なんなの?行くけど…。」
…で、ミコの部屋に連れ込まれたら、ぎゅっとミコが抱き付いてきた。俺も抱き締めちゃう。
「…今度からはちゃんと言うように。」
「うん、わかった。黙っててごめん。でも、言ったらミコが、幼馴染みの集まりに行かないとか言いそうだし、行っても楽しめないかなって。」
「行かなくても良いもん。」
「行っておいでよ。懐かしいだろうし、ミコに会いたがってる人も居ると思うよ?」
「でも…。」
「ほら、折角魔法も上手くなったんだし。ね?」
もう魔法で馬鹿にされることは無いんだし、劣等感を持つこともない。
「…迎えに来てくれる?」
「勿論。手紙飛ばしてよ。俺が飛んでくから。」
「ふふっ、ほんとに?」
「ほんとに。」
「でも、本当に、今度またこういうことあったら、ちゃんと言ってね?」
「ちゃんと言います。」
「それに、タキ君が魔族だとかそういうことで辛いこととかがあっても、ちゃんと言うんだよ?」
「わかった。でも、それはミコもだよ?」
「うん。約束する。」
「それじゃ俺も、約束する。」
「……約束には。」
「うん?」
「約束のしるしが必要だと思います…。」
・・・。
「オリアはタッ君とそんな約束、してないでしょ?」
「約束のしるしは無いけど、私だってお仕置きされたいもん!」
2人で覗いてたらしい。
キスをした後にまた少し抱き締め合って満足した俺達は、いつの間にかダイニングに移動していた2人の元に行き、俺がお茶を用意して戻ってくると、ミコが真っ赤になって居心地悪そうにしてた。
そしてオイちゃんはどうも、中途半端に勧誘を止められて、しかもなんか真面目な空気になったから続きを聞けず、その間に妄想が膨らんで、挙句にマキちゃんに誘われて俺達がキスするのを覗き見て、切れたらしい。
邪魔せずに待ってたのが、オイちゃんの良いところ…なんだが。
「…でも、オリアはお仕置きは要らないって言ってたじゃない。それに、何か悪いことした訳じゃないし。」
「事情が変わったの。中途半端に放置されてる間、ずっと悶々としてたんだからね?悪いことといえば、私は嘘を吐いた。そして、2人のいちゃいちゃを覗き見した。」
「そんなの、マキだったらいつもやってることだわ。その度にお仕置きしてたんじゃ、マキがおかしくなっちゃう。」
それもどうかと思うけど。
「…これでも足りないっていうなら、シン君に落書きするよ?背中に私の名前を書く。」
「んな!?オイちゃん!?そんなことしたら、リズィちゃんに見付かって、本当に修羅場になっちゃうよ!?」
「それは困るわね?そんなことする私にはお仕置きしなきゃね?まぁ、結局のところお仕置きが何なんだか解らないけど、なんか良いんでしょ?」
素直で良い子のオイちゃんが、素直な悪い子になってる。どんな妄想してたんだろう…。
「オリアは何か勘違いしてるみたいね。お仕置きなのよ?良い訳無いじゃない。」
「そうよ。ミコの言う通り、良いもんじゃないわ。私はオリアのこと、友達だと思ってる。友達をそんな目に合わせたくはないわ。」
お仕置き愛好会の結束は固く、会の増員に余念が無い。
「でも、ミコちゃんもマキちゃんも、お仕置き好きなんでしょ?」
「…オリアはタッ君のお仕置きの本当の恐ろしさを知らないからそんなことを言えるのよ。」
「本当の恐ろしさ?」
「そうね。オリアはこないだ、マキのとこのお店でローストは食べなかったわよね?」
「ロースト?うん、多分…。」
「ローストはね、塊のお肉に味付けをして一晩寝かせて、まずはそれをフライパンで焼き目を付けるの。すると、お肉の旨味は閉じ込められる。それをオーブンに入れてじっくりゆっくり時間を掛けて、中の脂を溶かして肉汁と混ぜていくの。そしてオーブンから取り出して粗熱を取ってから切ると、たっぷりの旨味を吸い込んだ、灰色がかったピンク色のお肉が目に入る。」
「美味しそうね。」
「ふふっ、そうね。でも、そこにオズの家特製のソースをかけなきゃ。玉ねぎを弱火でじっくり炒めて、焦げる寸前で水を加えながら、限界まで甘さを引き出す。そこに肉汁とお酒…。」
「ぶどう酒よ。」
「そうね、ありがと。肉汁にぶどう酒を加えて乳化したソースの素を入れて煮る。これをかければ殆ど完成なんだけど、オズの家ではお肉の上にソテーしたレモンを乗せるの。これのお陰で、ジューシィで旨味の詰まったお肉を食べる口の中に大量の唾液を分泌させると共に、余韻を爽やかにすることで、次から次へとナイフが進むわ。」
「ごくり…何だかお腹が空いてきちゃった。」
「お仕置きはね?牢屋に入れられて、そのローストを食べるようなものよ。」
「え?その牢屋、素敵じゃない?ローストって美味しそう、ってか、聞いてるだけなのに絶対美味しいもの。」
「そうね、とっても美味しい。でもね、その牢屋の食事は2、3日に1度のローストだけ。」
「お腹が減ってるから、パンでも美味しいでしょうね。それがそんな素敵なお料理だったら尚更よ。」
「でもね、そんなことが続いた後のある日、ローストじゃなくて、何の味も付いてないパンだけになるの。」
「それは…でも、お腹が減ってたら…。」
「それからはちゃんと朝昼晩に加えておやつまで出るの。パンだけど。」
「それは…嫌かも。」
「嫌よね。それなのに看守のタキ君は目の前でローストを食べる。」
「ええ!?タキちゃん酷い!」
「そしてタキ君は言うの。食べたいか?それなら裸になって土下座しろ、ってね。そこは牢屋よ?オリアとタキ君以外は誰も居ない…あなたは、そんなことしないと言い切れる?」
「そ、それは…無理かも…。」
「オリア。タキ君のお仕置きはね?お仕置きされてる時は良いの。甘酸っぱく切なくて幸せな、正に甘美の時。恐ろしいのはタキ君が、お仕置きをしない、というお仕置きをしてくることよ。」
「そんな怖いことだったなんて私、知らなかった…。」
「あなたはきっと、簡単に心を破壊される。そしてタキ君のどんな要求も飲めるようになる。私はオリアのそんな姿見たくないの。」
「わかった。私にお仕置きは早かったみたい…って、まさか!ミコちゃん!?それにマキちゃんも!?」
「私はまだ…でも、ミコはもう…。」
「ふふっ、そう、私はもう手遅れ。オリア?あなたは、こっちに来ちゃ駄目よ?」
「そんな、ミコちゃん…ミコちゃぁん!」
「オリア!」
「…でも、私もちょっとだけロースト食べたいなって。駄目?」
「オリア?私もそう言ってちょっと食べたら…気付けば牢屋に居た。ミコの言う通り、やめといた方が良いわ。」
「でも、ここまで聞いちゃったら…ちょっとだけ!ちょっとだけだから!」
「オリアがそこまで言うなら私はもう止めないけど…。」
「ねぇ、ミコちゃんも!ちょっとで良いから!」
「オリア?あなたは別にタキ君のこと、そこまで好きじゃないのよね?」
「まぁ嫌いじゃないし、どちらかと言えば好きだけど、幼馴染みとしての普通というか、2人ほど本気じゃないのは確かね。」
「それじゃ駄目ね。本気になっちゃうから。」
「え?大丈夫よ?まさかそんなお仕置きくらいで…。」
「馬鹿にしないで!」
「馬鹿にしちゃ駄目!」
「そ、そんななんだ、ごめん。わかったよ…でも、そんなに凄いお仕置きって、何なの?」
「それはね…タッ君が耳を甘噛みするの。」
「え?そんなこと?」
「馬鹿にしないで!」
「馬鹿にしちゃ駄目!」
「いやいや!いやいや、それは流石に無いでしょ?耳を甘噛みされたくらいで?いやいや2人とも、耳弱過ぎるんじゃない?」
「…ほう?」
「…へぇ?」
「これだけ勿体ぶるからどんな凄いことされるかと思ってたけど…。」
「ちなみにオイちゃんはどんな想像を?」
「え?例えばタキちゃんに足の指から…タキちゃん!?」
「ミコさん、聞きました?足の指ですって!」
「まぁいやらしい!」
「くっ…み、耳を舐められたくらいで喜んでるお子ちゃまな2人には解らないかもね!」
「ふぅん…てことは、オリアはお仕置きなんて余裕だと?」
「当たり前でしょ?」
「同じように言ってた私はすぐに逃げたけど…。」
「ぷっ、マキちゃん逃げちゃったの?流石にそれは、あは、ごめん、馬鹿にする訳じゃないけど…。」
「オリア、あんたそんなこと言ってると後悔するわよ?この流れだと、あんたはタッ君のお仕置きを受けることになる。それですぐ逃げ出すようなことになったら…。」
「なんで逃げるのよ?そんな訳無いでしょ?良いよ?ほら?後ろで結んじゃって?椅子に括り付けてくれたって良いわ。」
「良い覚悟ね?ミコ、良い?オズの家の女は馬鹿にされたら相手を縛らないといけないの。」
「良いも何も、エルフが耳を馬鹿にされたら黙ってる訳にいかないのは一緒。オリア、本当に良い?後で解いてって言っても、ごめんって謝っても知らないよ?」
2人はてきぱきとオイちゃんを拘束していく。手だけじゃなく足も結び付けて絶対に逃げられそうにないのに、マキちゃんが良い仕事をしておっぱいが凄い。上下だけじゃなく斜めにもロープが入って、大変なことになってる。
「固結びでどうぞ。もし私が万が一にも耐えられなかったら2人の耳は普通ってことにしてあげる。だけど、もし!私が耐えられたら、その時はミコちゃんもマキちゃんも、2番目は私ってことで良い?」
「良いわ。私は2番を譲るし、絶対にオリアを邪魔しない。」
「ミコちゃんは?」
「その時は2番なんて言わず、お先にどうぞ。」
「……本気?」
「ええ、構わないわ。」
「……。」
「それじゃ、タッ君先生お願いします。」
「うむ、待ちくたびれたぞ。」
「ちょっ、ちょっと待って!?時間!そう、時間決めないと…。」
「え?余裕なのに?」
「いや、余裕だけど、でもほら、制限時間無いと明後日からの仕事に遅刻しちゃうからさ。」
「ま、良いけど。何秒?」
「え?いや流石に秒は無いでしょ?」
「…。」
「…。」
「じゅ…5分で。」
「15分ね。りょーかい。」
「15分?やっぱオリアは違うわね。タキ君、頑張らないと駄目かも。」
「ちがっ…5分!ご、ふ、ん!」
「ミコさん、どうします?」
「本人が5分だって言ってるんだから良いんじゃない?その代わり、参ったって言っても5分はきっちりお仕置きされて貰いましょ?良い?」
「5分ならどんなになっても耐えられるでしょ。後で謝っても知らないからね?さ、タキちゃん?」
「どうぞ」「どうぞ。」「どうぞ。」
・・・。
ーまぁ、最初は呼び捨てで油断しちゃうからね。
ー凄いわオリア。もう5秒。
ー何か聞こえた?
ーまさか。まだ20秒よ。
ー凄いわ、もう1分。でもタッ君?大人しくなったのは、きっともう慣れたのよ。逆の耳じゃない?
ーえ?もう、オリアったら演技上手ね。
ーえ?まだ3分にもなってないよ?
ーご?5分か、それなら同じのがもう1回で5分よ。
ーえ?でも固結びにしちゃったし…。
ーえ?でもあとたった2分よ?
ーあ…ごめん。
ー…今晩泊まってく?
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