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第六章 ルタド
第2話
しおりを挟む何はともあれ、薬は出来た。
「そういえばこれ、どれくらい飲めば良いの?」
オイちゃんが瓶を手にしてから聞いてきた。流石にいきなりぐびぐびやる気にはならなかったらしい。
小瓶だから、グラスに2杯分はあるが…。
「解らない。」
「まぁ、そうよね。前のその、前の薬の時はちょっとで良かったんでしょ?」
「うん。少し試すって言って王様が指に付けたの舐めたら、直ぐに効果が出てたよ。だから、小匙1杯くらいなんじゃない?」
「それじゃ私達も指に付けて…。」
「ミコ?それだと本当の効果は解らないよね?しかも、2人とも同じ量なら2人でやる意味無くない?1人は少し多目にして比べてみないと、正確な情報は得られないよ?」
「なんでこういうのだと普通に正論が出てくるのよ…でも、タキ君の言う通りね。それじゃ、小匙1杯と2杯にしましょ?」
「うん。ミコちゃんが2杯で良いよ?」
「え?オリアが2杯飲むのよ?」
「ミコちゃんは恋人でしょ?少しくらい乱れても良いじゃん。」
「オリアは念願の薬なんでしょ?遠慮することは無いわ?」
「ぐぬぬ…よし!それじゃ、タキちゃんに決めて貰おうよ!それなら、タキちゃんはどっちを言いなりにしたいかってこと!どう?」
「…ふっ、良いわよ。」
にやりと悪そうな顔をするミコ。そんな顔も可愛い。
「ミコはオイちゃんの提案に乗った。きっと、ミコのことを大好きな俺は、別にミコのことを言いなりにしたい訳じゃないって思ってるんだろうな…では発表します。」
「待ちなさい…やっぱり、タキ君に任せるのは良くないわ。私達のことは私達で決めるべきよ。」
「ミコちゃんずるい!タキちゃんも、ちゃんと真面目にやってよ!」
「真面目にか…ミコが自信満々で可愛いからミコにしようと思っただけで、真面目にやったらミコを言いなりにするつもりなんて全く無い…では、発表します。」
「待って。やっぱりミコちゃんの言う通りだと思う。私達のことは私達で決めよ?」
「そうね。でもどうやって…。」
「俺に良い考えがある。」
「……何かしら?」
不審人物を見るような目で見てくるミコ。
何故かちょっとぞわぞわする。
「グラスを2つ用意して、それぞれにただの水を注ぐ。そして片方には1杯、もう片方には2杯入れる。見た目では判らないようにして2人に選んで貰うんだ。」
「名案…と言いたいところだけど、どっちがどっちを飲んだのか判らなければ、正確に比較することは出来ないわ。」
「俺が向こうで作って、2つのグラスに印を付けて、俺だけが判るようにすれば良い。メモに残しておくから、記録も取れる。」
「なるほど、それなら…。」
「だけどタキちゃんはえっちだから、こっそり多く入れたりするかも…。」
「そんなことしないっての…オイちゃん?俺はただ、自分の記憶を飛ばして作った薬の正確な効果を知りたいだけなんだ。それを知ることは、この薬をお土産にして王様のご機嫌を取って少しでもミコの印象を良くするってだけじゃなく、王様と王妃様お2人の仲をより良いものにすることで、少しでもこの国に貢献出来るんじゃないかと思うんだ。」
俺は、どっちかと言うとお色気組のブルゼットとマキちゃんが飲みたがった時の丁度良い用法用量が知りたい。年齢で違うかも知れないし。
「ミコちゃん、どう思う?」
「とりあえず、薬の量に細工する気は無さそう。ちょっと怪しいけど何がとは言えない以上、任せた方がましな気がする。」
「まし?」
「ここで私達が拒否をすると、タキ君が言葉巧みに私達を操って薬を飲ませてくるかもしれないわ。そういう時のタキ君は、遠慮なんかしてくれないの。それは丁度、裸でローストを食べさせられるようなものだわ。」
言葉巧みに操ってはともかく、裸でローストは流石に意味が解らん。
「そ、そんな!」
オイちゃんには伝わったみたい。
「看守のタキ君がやっと与えてくれたローストを食べる事に没頭している私達は、いつしかタキ君が見ていることを忘れて、ただただローストを楽しむようになる。そして食べ終わった時に、自分の姿を見て気付くの。如何に自分が恥ずかしい姿をタキ君に見せていたかにね。その時、私達はきっとこう言うわね…。」
「くっ!殺せ!」「くっ!殺せ!」
もっと恥ずかしい目に遭ってる気もするけど。
「でも、タキちゃんの前で裸でローストか…。」
「……。」
「……。」
「わ、私はローストが好きなだけで…。」
「わ、私も…それじゃあ…。」
「タキ君は信用出来ないわ!」
「そーだそーだ!」
・・・。
「はい、どうぞ。」
ミ、と書いてある紙と、コ、と書いてある紙を用意して、その上にグラスをひとつずつ置いた。
「さぁ選んで。」
「私は、タキ君のことだから、ミの方に1杯、コの方に2杯だと思う。だから私はミを選ぶわ。」
「え?タキちゃんは逆に1文字目の方に2杯やると思うな。だから私はコを選ぶ。」
「それこそきっとタキ君の狙い通りだと思うけど…良いわ。お互い希望する方を飲むだけね。」
「…やっぱり私もミにしようかな?」
「…良いわ。その代わり、ミを先に飲むっていうのはどう?」
「うん、それで良いよ。それじゃ…。」
そう言って、オイちゃんはミのグラスを手に取り…。
「やっぱり私こっち!…くぴっ。」
コを飲んだ。
「あっ…まぁ結局は解らないから良いけどね。それで?オリアどう?」
「うん?別になんともない…お?」
「何?どうかした?」
「なんかあったかくなってきた!ふむ…あっ、うん。なるほどね。」
あったかくなったらしい。そして、オイちゃんは自分の腕を摘んで、納得したらしい。
オイちゃんの飲んだコは…。
「こっちがどっちかは判らないけど、良い感じだよ。でも、思ってたのよりちょっと物足りないかな?まぁ効果が切れると勿体無いから私はさっさと帰って。」
そこでオイちゃんがぴたりと止まった。
「オリア?どうしたの?」
「オイちゃん?」
「タキちゃん?」
「うん?」
「今から私の言う事をちゃんと聞いてくれる?」
「良いけど…。」
なんだろう?
「ゆっくり両手を上げて後ろを向いて。」
とりあえず言われた通りにする。
「そのままゆっくりと窓のところまで歩くの。それで壁に手を付けて、私が良いって言うまで動かないで。」
…後から効いてきたんだな。
「え?なんで?」
「動かないで。」
「いや窓の方に…。」
「こっちは向いちゃ駄目。そのままゆっくり前に進むのよ?」
「ふぅん。」
後ろ向きに歩いてみる。
「それは後ろに歩いてるよ!近い!危ない!あんっ!」
危ないって…。
「オイちゃん?」
「…何よ?」
「物足りないんだっけ?」
「大丈夫!タキちゃん、良い?私は帰るの。またね。」
「さよならのハグは?」
「大丈夫!そんなことしたら…大丈夫だよ!ばいばいまたね…うっ!」
「どうしたの?」
「大丈夫大丈夫!気にしないでうっ!あっ!」
振り返って見ると、オイちゃんは真っ赤な顔で凄まじくゆっくり動いていた。
「オリア大丈夫?本当は駄目なんじゃないの?」
「服が擦れただけでやばいの。」
「えぇっ!?そんなに?」
服が擦れただけでって、どんなよ?
「だからタキちゃんは絶対近寄らせないで。これはホントにやばい。あと私に触らないで。どうにかなっちゃう。あとやっぱりお風呂貸して。脱ぎたい。」
「手伝おうか?」
「タキちゃんは馬鹿なのかな?」
「人の事を馬鹿って言う子にはお仕置きが必要かな?」
「ごめんなさいごめんなさいもう言いません不安だから離れて下さい。」
「タキ君?虐めちゃ駄目よ?」
「ミコちゃんありがとう。では、お風呂お借りします。」
「良いのよ。薬のせいだもんね。あと、服を脱ぎたいだけなら私の部屋でも良いよ?」
「ううん。脱ぐ時多分駄目で汚しちゃうから。」
「そ、そう?まぁ、好きにして。」
「うん、ありがと。」
そう言ってオイちゃんは風呂場に向かって進み始めた…と思う。
「……。」
「……。」
「ふぬっ、あっ、くっ、あんっ、いや、あっ、ぬっ、ほっ、はぁん…。」
静かな部屋でオイちゃんの妙な掛け声混じりのえっちな声だけが響いてる。掛け声の割に殆ど進んでないのだが、俺達は見守ることしか出来ない。
「あんっ…あのさ、なんか喋っててくれる?私が変な人みたいだから。」
俺の薬のせいだから本当に申し訳無いんだけど、変な人みたいじゃなくて変な人だ。とはいえ、確かに俺達が無言だとより一層変なのは事実だ。
「何か…ミコ?足が痺れてる人を見ると、ついつんつんしたくならない?」
「わかる!」
「物騒な話はやめて!あんっ!…もっと何か別の話にして。」
物騒か?
「えっとそうね、何か…何か…そうだ!タキ君?オリアは結局どっちを飲んだの?」
「え?ああ…ミコも飲めば?」
「あんっ。」
「…何で言わないの?」
「面白くないかなと。」
「面白さなんかいらないわよ!」
「ふんっ、ふぁっ。」
「…でも、まぁ、なんだっけ?」
「…まぁ、解るわ。」
「ひんっ、くっ、てあっ、あぁっ…。」
「オイちゃんが飲んだコは1杯だよ。」
「えっ?あれで1杯?…てことはミには2杯?」
「うん。」
「あんっ。」
「よ、よくそんなもの飲ませようとしたわね?」
「ミコ?上限は何処なのかを知るということも重要だと思うんだ。それこそが最悪の事態を免れる為に必要なことだと思う。」
「もう充分過ぎるくらいの上限じゃないの!あのオリア見てわかんないの!?」
上限オイちゃんは、時折ぴくぴくしながら、懸命に風呂場へと向かってる。まだ3歩位しか進んでないけど。
「ふぁっ、ふぅ…。」
止まった。
「オイちゃん?どうしたの?」
「ちょっと休憩。服が擦れない良い体勢になったからね。」
「触っても良い?」
「駄目。」
「でも、元々そういうのがやってみたかったんじゃないの?」
「これは流石に凄過ぎ。色々崩壊する。」
「それじゃ、どれくらいの量なら良いと思う?」
「そうね…10倍位薄めたのをひと口で良かったかな?私は。」
「そっか。ありがとね。」
「良いの良いの。確かに、元々私の言った通りにしてくれたんだもんね。ありがと、タキちゃん。」
こんなになってもお礼を言ってくれるオイちゃんは、やっぱり良い子だ。
「どういたしまして。ほっぺにちゅうして良い?」
「駄目。ほっぺにちゅうが、こんなに禍々しく聞こえるなんて…さ、私もう行くわね?」
再び風呂場へと向かい始めるオイちゃん。
「……。」
「……。」
「ふっ、あっ、ふっ、あんっ、ふっ…。」
ちょっと慣れたのか、リズミカルになってるオイちゃんの声が部屋に響く。
「ふっ、あんっ、ねぇ?2人が黙ってると、私が変だからさ。」
「でも、なんかこう、話しててもどうも頭に入ってこないんだよ。」
「オリア?私達、外出てようか?」
「ううん、悪いけど居て?もし私が1人になったら、絶対自分で自分を抑えられないの。2人が居るから、まだ我慢出来るの。」
「オイちゃん?我慢しなくても良いんだよ?」
「タキちゃんに見られたくないんでしょうが!ふわあっ!大きな声出すと駄目ね…えっちもまだなのにひとりえっちの姿なんて見られたらお嫁に行けないよ。」
「それはほら、俺が…。」
「そういう話じゃないの!あんっ!…大きな声出させないで。そういう人でも、見られたくないことのひとつやふたつ、あるもんなの。ミコちゃんだって、何かあるでしょ?」
「えぇっ!?うん、まぁあるけど…。」
「ね?そんな訳だから、2人は居て?」
「良いけど、オイちゃんのえっちな声がさ…。」
「気にしないで?そうだ、ミコちゃんも薄めたやつ飲んでみれば?皆ぐちゃぐちゃ、みたいな?もしそれでタキちゃんがえっちな気分に…。」
話の途中で押し黙ったオイちゃんの視線を追うと…俺の股間だった。
「……ごくり。」
「オイちゃん?」
「え?ああうんなんでもないなんでもない。気にしないで?…ごくり。」
誰と喋ってるの?
「オイちゃん?」
「…ねぇミコちゃん?」
「どうしたの?大丈夫?」
「私思ったんだけど…。」
「うん?」
「私が捕まった女戦士だと思うからおかしいのであって、敵軍に捕まったのはタキちゃんってことにすれば良いんじゃない?」
ついにオイちゃんがおかしくなってしまった。何言ってるのかわからない。
「オリア?何言ってるの?」
「ミコちゃんは軍の偉い人。私は配下のもの。タキちゃんを捕まえた。秘密を言え。言わぬならお仕置きだぞ?」
「オリア?ちょっとホントにだいじょ…。」
「ミコ様の御命令だ!あんっ…やるぞ!ふぁっ!」
ずべしゃっ!
オイちゃんが俺に飛び掛かってきたけど、動いた勢いで気持ち良くなっちゃったらしく、体勢を崩して転んだ。
「……。」
ぴくぴくしてる。
「オ、オリア?」
「オイちゃん?」
2人で声を掛けるとオイちゃんは…。
口から泡吹いて気絶していた…。
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