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第六章 ルタド
第6話
しおりを挟むマキちゃんに作って貰った賄いのパスタを食べながら、俺達2人で城の魔法研究所に入る事を話した。
ルタさんのことは伏せておいた。
「…ふぅん。それで研究所の人達が早死にするって訳ね。」
「いや、ミコ専用の研究室用意されるから大丈夫。」
「ベッドは持ち込み禁止かどうかが気になるところね。」
「仮眠用に置いても大丈夫だから大丈夫。」
「タキ君!?大丈夫じゃないでしょ!?もう!研究所はいちゃいちゃするところじゃありません!」
今日早速そう言われてたのは誰でしたっけねぇ?
俺もだけど。
「それで?明日から出るの?」
「ええ。明日は家から色々運んだりするだけだけどね。」
「それなら丁度良いかも。ブル?明日はお店お休みだから、そっち手伝ってあげれば?」
お休み?
「え?お休みとかあるんですか?」
「ええ。宿泊の方は休めないけど、レストランだけ閉めるの。おかみさんが診療所に行くからね。」
…こないだ行ったばかりなのに?
「マキ?その、言い難かったら良いんだけど、おかみさんどこか悪いの?つい先日もお休みだったわよね?」
「多分大丈夫だと思うんだけど、さっきルタド先生が来たらしくて、特に慌てることは無いけど明日検査したいことが出来たから来てくれって。」
なんだと?
「ミコ?」
「ええ。」
ミコと顔を見合わす。これは怪しい。
「ちょっと?2人で何なのよ?」
「いや、ちょっとね…。」
結局、城でのルタさんの話をした。
「そんなことがあったの…それじゃもしかして、おかみさんの呼び出しは何か別の目的があるのかしら?」
「わからない。けど、ちょっと気持ち悪いというか、嫌な感じはするかな?」
「私も、タキ君の言う通り、なんか変だと思う。でも、おかみさんは特に変な風には言ってなかったんでしょ?」
「うん。それに一応、ルタド先生はお医者さんとしては良い先生だから、おかみさんも信用してるのよ。まぁ、おかみさんは誰でも信用しちゃうけどさ。良いところでもあり、悪いところでもあり、ね。」
「でも、おかみさんを呼び出してどうするんでしょうか?」
「わからないな…もしかしたら、本当に何か検査があるのかも知れないし。」
「そうね。いくらあいつが馬鹿でも、医者は医者な訳だし…。」
「でもその、長耳会?に入ってるんですよね?悪いことするっていう…。」
「最近はそういうことしてないみたいだけどね…でも、全然悪い予感が拭えないわ。」
「それじゃさ、明日シンに一緒に付いてって貰えば良いわ。あんなんでも一応男だし。」
マキちゃんの中でのシンの評価は低い。まぁ姉弟ってそういうもんなのか。
「うん、それが良いかも。それなら…シンは?」
「ん?…ああ、客室に行ったかも。そしたら後で私から言っておくわ。夜番は私が代われば良い。何かあったら、誰かその辺の人捕まえて知らせるから。」
「そうね。一応、午前中なら家にいるし、午後はお城の魔法研究所にいるからミコーディアミック宛でくれれば届く筈よ。」
「わかった。ま、何も無ければ良いんだけどね。さ、遅いし、ちょっと落ち着かないから今日はもう帰った方が良いわ。」
「そうする。ごめんね、変な事に巻き込んで。」
「良いのよ。ミコ?私達はもう家族なんでしょ?何かあったら私も一緒に困らせなさい。」
「マキ…ありがとう。」
ミコとマキちゃんが抱き合う。
「…ふふっ、どういたしまして!それじゃほら、早く帰った帰った!悪いけどハグしてくれるならタッ君の方が嬉しいし?」
「あら?そしたら替わるわね?タキ君。」
「よしきたまかせろ。」
「あら?随分と気前が良いのね?冗談だったのに…そのままほっぺにちゅうしてくれても良いのよ?」
…ほう?
「…ミコ?良い?」
ミコの顔を見ると…悪い顔してるミコ。
「ええ。軽くよ、軽く。解ってると思うけど?」
わかってるわかってる。
「ふふっ、言ってみるもんね。さ、どうぞ。」
ぎゅう。
「えへへ…。」
「わぁ、マキさん嬉しそう。」
「あとでブルもやって貰えば?」
「…良いのかな?」
「勿論よ。」
「やった。ふふっ、あとでお願いしてみよっと。」
「…それじゃ、頂きます。」
「うふふ、どーぞ!」
「おっと顔が滑った。」
「えっ?んぶぅ…。」
ぶちゅー。
「ふむ!むむ…ちゅ…ちゅる…。」
「私、やっぱり良いです…。」
「大丈夫よ。取って食う訳じゃあるまいし。」
「全然大丈夫じゃないです!全然食べられちゃってますよ!?」
「ちゅ!…ふぅ。ごちそうさま。さ、帰ろう。マキちゃん、シンにちゃんと伝えてね?」
こくこく。
「ま、マキさん?だ、大丈夫ですか?」
ぶんぶん。
「え?マキ?嫌だった?」
ぶんぶん。
「そう、良かったわね。それじゃ私達帰るから。本当に、何かあったら知らせてね?すぐ来るから。」
こくこく。
からん。ぱたん。
・・・。
「おかみさん、大丈夫かなぁ?身体もそうだけど、そのルタドさんて人も…。」
「きっと大丈夫よ。嘘じゃなければ身体の方は心配無さそうだし、嘘だったとしてもおかみさんの身体は問題無いし、シン君が付いててくれる。何かあっても知らせてくれれば駆け付けられるし、お城ならそのまま衛兵さんも連れて行けば良いわ。」
「でも、もし嘘だったとしたら、ミコさんかタキさんが危ない目に遭うかもしれないですよね?」
「まぁ、俺だろうね。万が一、ミコに危害を加えようなんてことだったら…。」
「た、タキさん…ま、まさか…。」
「ああ。お尻の穴から手突っ込んで奥歯ガタガタ言わすよ。」
「ほっ…えぇっ!?」
「え?足りないかな?」
「た、足りる足りないでびっくりした訳じゃないから!」
「じゃあブルゼットだったらどうするの?」
「えっ?いやそんなこと急に言われても…。」
「ね?やっぱりお尻の穴から手突っ込んで奥歯ガタガタ言わすでしょ?」
「い、言わせませんよ!なんてこと言うんですか!?」
「いや、生きたまま爪を剥ぐとか、お腹掻っ捌いて内臓引っ張り出すとかよりもましだと思うんだけど…。」
「ある意味では余程恐ろしい響きがありますけどね…。」
まぁ、本当にミコに何かあったら全部やるけど。
「私は、もしタキ君に何かあったら躊躇う事なくあいつを殺すわ。」
「…ミコさん?」
「怖い事言ってごめんね?でも、エルフってそういうものだから。そして、だからこそ大事にはならないんじゃないかと思ってるの。」
「ううん。考えてみたら、タキさんの身に何かあったら私だって、きっとマキさんだってオリアさんだってただじゃおかないと思います。それにデビイも。それ考えたらやっぱり、5人を敵に回すなんて怖い事しないですよね?」
「うふふっ、そうね。タキ君には怖い奥さんが5人も居るから、手を出すなんて出来ないと思うわ?」
だが、そのミコの予想は外れ。
「何よこれ…。」
「酷い…。」
家の柵のところに貼り紙がしてある。曰く、魔族は出て行けだの、魔族は帰れだの、中には魔族は◯ねだのと、中々に攻撃的だ。
◯ねって、別にこっそり貼るくらいなら伏せる事無いよな。魔族は楽ね、とか魔族は得ねとか言うなら話は別だけど、楽したり得したりした事はまだ無い。魔族は損ね、だと、そうでもないよって話。
…そんなことより。
「ルタね…あいつ…。」
ルタさんは、俺が魔族であることをこの辺りの住民にばらしたのだろうか?それともルタさんがやったのか?でも、1人でこれをやってたとしたら、人に見られたら割と恥ずかしいよな。だから…。
「近所の人達にルタさんがばらしたのかな?」
「多分ね…本当にそうだとしたら、もうここにはちょっと住み難いわ。ていうか、すぐ広まるだろうから…。」
「た、タキさんミコさん…げ、玄関のところにだ、誰か…。」
「…ルタかしら?」
「ミコ?ブルゼットと手を繋いであげて。危ないと思ったら走って逃げて、オズの家に。それからメラマさんに連絡して。俺は手紙飛ばすから。ブルゼットも解ったね?」
「ええ。」
「うん。」
予想に反して、玄関の前に居たのは2人の城の衛兵だった。
「タキ・トルトさんですか?」
「はい。」
「城まで我々と同行を願いたいのです。これは任意では無いのですが、今すぐあなたを攻撃するつもりはありません。」
言ってることが良く分からないことになっているけど、これは魔族に対する普通の人の感覚なんだろうか。怯え。
通報かなんかで魔族が居るということになって、俺を連れて来いと言われたんだろう。でも魔族だから刺激しないようにと、妙なことになってるんだな。別に取って食いやしないのに。
見ると、1人はメラマさんと仲良さそうにしてた衛兵さんだった。これは、助かったかも知れない。
「俺が魔族だからってことですか?」
「その疑いがあると城に通報がありました。」
「解りました、行きます。ただ、お願いがあります。」
「…何ですか?」
「あなた方どちらか1人、家の警護をしてくれませんか?この人達が危険な目に遭わないようにして欲しいんです。」
「1人で…。」
「流石に…。」
1人残ると俺と行くのも1人。魔族と2人きりは気が進まないらしい。
「そちらの衛兵さんは魔法研究所のメラマさんをご存知ですよね?」
「え?…ええ、彼とは学生時代からの友人ですが、何故それを?やっぱり魔族だから…。」
いや、仲良さそうにしてたの見たからで、魔族だから知ってるとかじゃないから!
「貼り紙にあるように、僕は魔族です。そのことをメラマさんはご存知です。そして、この人は僕の恋人ですが、メラマさんの幼馴染みなんです。信じて貰えませんか?」
「メラマが…解りました。」
すんなり。メラマさんの信用のお陰だな。今度お礼言わなきゃ。
「お、おい…。」
「俺がトルトさんと一緒に行く。お前がここに残って家の警護しろ。上にはそう伝える。何かあったら責任は俺が取る。良いだろ?」
「…わかった。」
「すみません、宜しくお願いします。ミコ?ちょっと行ってくるね?ブルゼットを宜しくね?」
「うん…でも、私も一緒に行っちゃ駄目かしら?もし、タキ君が身に覚えが無いことで疑われてたら、証言する人が居ないと困るでしょ?」
「それはそうだけど…でもそれは…。」
メラマさんの友達の衛兵さんの顔を見る。
「私は良いとは言えないのですが、トルトさんがそれでなくては来ないと仰った場合は仕方無いと判断します。」
「ありがとうございます。今度メラマに奢って貰って下さいね?」
「いえ、職務ですから。奢っては貰いますけど。」
「ふふっ。それじゃ、早く行きましょ?王様がどんな判断をなさるかは分からないけど、ちゃんと話せば解ってくれると思うわ。」
「わ、私も一緒に良いですか?その、お力になれるかは分かりませんが、ひ、1人は怖くて…。」
「うん、そうだね。一緒においで。」
「う、うん。」
腕にしがみついてきた。流石に当ててるの、とは言わないけど、やっぱり柔らかい。右手にミコ、左腕にブルゼットの、なんとも華やかな出頭だ。
そして、その様を見て衛兵さんが呟いた。
「魔族って得ですね…。」
魔族関係無いし。
・・・。
「人払いを。」
ーーはっ!
そういえば、王様はさっきまで王妃様とお楽しみで、その後メイド長さんとお楽しみの筈だよな。もうお楽しみしたのか、これからお楽しみなのか…。
「良く来てくれたな、トルト君。して、そちらは恋人のミコーディア君に…えっと?」
「もう1人の恋人の、ブルゼットです。」
「なんと!?恋人が2人とな!?」
「いえ、他にも2人か3人程…。」
「なるほど。流石といったところじゃな。して、トルト君?君を呼んだ理由については解ってるとは思うが、改めて聞こう。」
「はい。」
「トルト君。君は本当に魔族なのか?」
「はい。隠していて申し訳ございません。」
「隠すのは良いんじゃが…嘘では無いな?」
「はい。」
「魔族は嘘吐きだという話じゃが、嘘を吐いていた場合はトルト君は人間ということになるが、そうなると何かややこしいんじゃが?」
「嘘ではありません。僕は魔族です。」
「…そうか。」
「…。」
「あの、王様?彼は本当に魔族です。ですが、魔族と言っても別に悪いことをしてる訳では無く…。」
「そんなことは解っておる。」
「え?」
「わしはフリジール王である。人を見る目には多少なりとも自信があるんじゃ。トルト君が悪い者で無いことくらい解る。それに…。」
王様はミコとブルゼットを見る。
「それは君達2人を見ても解ることじゃ。」
「私達…ですか?」
ミコとブルゼットを見ても解る。それはきっと、この2人も信用出来る人物であるということ。目を見れば解るというやつだ。その2人が俺の事を信用してるなら、俺の事は信用出来るという事だろう。
「こんな可愛らしい恋人達を囲っていたら悪い事どころか毎晩寝る暇も無かろうて。」
もっと下世話な理由だった。
「…それで、一応確認じゃが、トルト君はこれからも悪さをする訳では無いのだな?」
「はい。そのような事は決して。」
「うむ。では、今回の件に関してはわしが何とかしよう。その代わりにトルト君。君に頼みがある。」
「僕に出来る事なら。」
「君にしか出来んのじゃ。それはな…。」
俺にしか出来ない?それは…。
「魔族との友好を結びたい。」
え?
魔族と友好?
0
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