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第六章 ルタド
第9話
しおりを挟むーーミコーディア・ミックさんへ
おばあちゃんが診療所に行って人手が足りないので今から手伝って貰えませんか?タキ君は魔族の噂があるからしばらく来ないで下さい。 マキ・オズ
さっき届いたマキちゃんからミコヘの手紙を見せて貰って、その内容がこれだ。
…はっきり言うと気持ち悪い。
「はっきり言うと、気持ち悪い。」
「そうなのよ。あの子と手紙のやり取りをしたことが無いから、もしかしたら手紙だと丁寧になる子なのかも知れないけどね。商売してるし。でも…。」
「普段おかみさんって呼ぶ方が多いよね。あと、シンが行ったとも書いてない。俺もタキ君だし、そもそもミコもミコーディア・ミックさんになってる。ブルゼットの事も書いてない。」
「それに今日は宿だけだからマキとリズだけでも回せる筈だし、こんな弱音を吐くような子じゃない…なんだけど、どれもはっきり嘘と言える程でも無いわね。ただ、気持ち悪い。これで本当にマキだったら、気持ち悪い手紙寄越さないでって文句言っても良いくらい。」
「私は、これはマキさんじゃないと思う。お2人よりも付き合いは短いけど、マキさんはこんな手紙書かないと思います。」
「ブルゼットもそう思う?」
「うん。お2人の言ってたことに付け加えれば、マキさんもタキさんが魔族だってこと知ってるのに、魔族の噂があるって書いてあるし…しばらく来ないでなんて書かないかな、マキさんなら。」
「マキなら?」
「うん。マキさんならしばらく来ないでじゃなくて、しばらく私の部屋に住みなさいって言いそう。本当にそうなったら照れちゃうのに、ふふっ。」
「ふふっ、そうね。手紙が本当だったら、ブルがそう言ってたって言っておくわね?」
「だ、駄目!…でも、本当にこれは違うと思うなぁ。乙女の勘だけど。」
「つまり、外れたらブルゼットは乙女ではない?」
「乙女です!なんてこと言うんですか!?」
「でも昨日ミコに…。」
「ミコさんは女!女の子!女の子同士ではそんなこと出来ないでしょ!」
「え?そんなことって?」
「え?…それはそのあれがつまり…。」
「それでもやっぱり、マキちゃんじゃ無いという可能性は否定出来ないね。」
「さらっと話を戻さないで!」
「でもブルゼットはそんなこと知らないみたいだし…。」
「知ってるもん!…あ、いやその…。」
「ブルゼットは可愛いなぁ。」
「う…逆に恥ずかしい…。」
「…とりあえず、もしこの手紙が本当だとしたら困ってるマキを放っておけないし、嘘だとしたら、これは罠ね。」
「わ、罠?」
「ええ、罠。この家をタキ君1人にする為の罠。」
「タキさんを?ミコさんは大丈夫なの?」
「私がオズの家に行くことになっても、白昼堂々と何かするとは考え難いわ。だから…そうね、こうしましょう。メラマに衛兵さんに来て貰えるように手紙を飛ばしておいて、私とブルは急いでオズの家に行く。おかみさんとシン君が無事で、マキの手紙が本当だったら良いんだけど、もし手紙が嘘だったら私は城に行って王様に事情を話してからここに戻ってくるわ。」
「嘘だったら王様に話すまでは良いけど、その後戻ってくるのは危ないな。そのまま城に居た方が良い気がする。」
「それはそうかも知れないわね。でも、その時には衛兵さんが来てるだろうから大丈夫。それに、タキ君がどんな目に遭うのか分からない不安な状況でじっとしてるなんて出来ないから。」
…これは折れないな。
「わかった。ただ、衛兵さんがちゃんと来るってなってからね。」
「ええ。それじゃ、メラマに飛ばすわ。急がないと…。」
天気がいよいよ怪しくなってきたので、ミコは急いで手紙を書いて飛ばした。メラマさんからの返事は間に合うかも知れないけど、俺とミコがやり取りするのは無理かも知れない。
「……。」
無言。無言で居ると悪い事ばかり思い浮かんでくる。メラマさんに届かなかったら、衛兵さんをお願い出来なかったら、マキちゃんの手紙が嘘だったら、シンやおかみさんが巻き込まれていたら…。
かーん。
「だ、誰かがまた…。」
「大丈夫だよ。俺が出るね。」
何が大丈夫なのかは知らんけど、ブルゼットがあんまり不安そうで可哀想だから。ルタさんめ、ふざけやがって。まぁ、俺達が勝手に不安になってるだけかも知れないけど。
ガチャリ。
「あっ、タキちゃん!とにかく入れて?」
オイちゃんだった。
入れてと言ってもえっちの話ではない。多分。お預け食ってるせいで色々変な風に聞こえる。
ぱたん。
「出勤したら職場でフリジールに魔族が居るって話を聞いたから、タキちゃんのことかと思ってちょっと出てきたの。」
「…オリア?どしたの?」
「ミコちゃん!今タキちゃんに話したとこだけど、なんかね?魔族が居るって噂が流れてるらしいよ?」
「その話なら俺達も知ってるよ。この辺だと、俺が魔族だってこともばれてる。」
「え?…。」
オイちゃんに昨日から今にかけての出来事を説明した。
「…そんなことになってたんだ。」
「ええ。だから、今はメラマからの返事を待ってるの。」
「ふぅん…あのさ、真面目な話の途中で言いにくいんだけど…。」
「何よ?」
「ミコちゃんのそれ、何?」
「えっ?」
ミコの首を指差すオイちゃん。
「まさかとは思いますが、そんな状況なのにしたの?」
「ち、違うのよ?これはタキ君が…。」
「違わないじゃん。てか、よく見たらブルちゃんもじゃん。まさかミコちゃんの後にブルちゃんも…。」
「ち、違います。これはミコさんが…。」
「さ、3人でくんずほぐれつのぐっちょぐちょってこと?もう!何やってんのよ!」
「う…。」
3人でくんずほぐれつでは無いものの、それなりに後ろめたいので俯く俺達。
「ずるい!後で私もマキちゃんと3人でくんずほぐれつする。私達は駄目なんて言わせないからね?」
「いやいや、私達別に3人でくんずほぐれつしてた訳じゃ…。」
「それ以外考えられないでしょ?ブルちゃんなんか、2個も付けられちゃって!随分とお楽しみだったようで?」
「…。」
それなりにお楽しみだったらしいので何も言えないブルゼット。
とは言え誤解は誤解…。
「タキ君。」
「うん。」
ミコの目配せ通り、オイちゃんの側に行く。
「何よ?また耳で誤魔化そうって言うの?そうはいかないからね?」
耳を手で覆うオイちゃん。
「大丈夫だよ…ちゅうぅぅ。」
「あんっ、そんなに吸っちゃ…。」
「ちゅっ…よし。」
「よし!じゃないから!タキちゃんたら何をいきなり…え?そゆこと?」
「ええ、そういうことよ。」
「そっか…って駄目じゃん!タキちゃん、なんてことすんの!?」
「え?キスマーク付けただけだけど?」
「そんなことは解ってるよ!私これから戻る予定だったんだよ?」
「大丈夫でしょ。」
「大丈夫じゃないでしょ!?仕事抜け出して帰ってきたらキスマーク付けてるとか、おやおや?オリちゃん、えっちしてきたのかい?とか皆普通に聞いてくるから!…ああもう!もう!」
「正直にキスマーク付けられたって…あ、来た!」
「えっと…うん、衛兵さんを何人か向かわせるって。良かった。それじゃ私達は急いで行くわね?ブルも用意は良い?」
「はい!」
「大丈夫だとは思うけど、なるべく大通りで行くんだよ?」
「解ってる。一応、途中どこかのお店にも挨拶しながら行くから。万が一の時はどこでっていうのが解るでしょ?」
「私も一緒に行こうか?一応そこら辺の男よりは力もあるし強いつもりだよ?仕事は別に、休んでも大丈夫だし。」
キスマーク付いてるし?
「ううん。もし休んでくれるなら、ここに居て?」
「駄目だよ。オイちゃんが危ない目に遭うかも知れないし。」
「その為の衛兵さんでしょ?何も無いとは思うけど、万が一何かあった時に危ないのは私達の方。本当はブルも置いて行きたいけど、手紙が本当だったら助け呼ぶくらい困ってるんだろうし、最悪は私がなんとかする。」
「…解った。ミコに何かあったら魔族が許さないって言ってたって言うんだよ?」
「そうする。それじゃ行ってきます。お別れみたいになっちゃうのは嫌だから、キスは帰ってからね。」
「うん、約束。」
「…ちゅ。これは約束のしるし。」
「結局するんじゃん。」
「お、オリア!?あ、えと、何かよろしくね?今度奢るから!行ってきます!」
「あっ!ミコさん待って!私も行ってきます。」
「気を付けてね。何かあったら大声で叫ぶんだよ?」
「うん!タキさんもオリアさんも気を付けて!それじゃ!ミコさーん!」
・・・。
雨がぽつぽつ降ってきた。ミコ達は一応マントを羽織って行ったから大丈夫だろうが、手紙を飛ばすのは無理そうだな。
城から衛兵さんがこの家に向かって、1時間以上。その間にルタさんが何かしらして来なければこっちは安心だ。そして、あの手紙が嘘だったとして、ミコが城に行って家に帰ってくるまで2時間ちょっと。これは長い1日になりそうだ。
こんなことになるなら、衛兵さんにはずっと居て貰うんだったな。マキちゃんの名前のあんな手紙が来なければ、こんなことせずに済んだのに。もう、マキちゃんのせいってことでお仕置きだなこりゃ。爪先からキスをして足の甲、足首、脛…。
「…ねぇ、タキちゃん。私思ったんだけど。」
あれやこれや妄想してるところに、向かいのソファに座るオイちゃんが話し掛けてきた。無言で居ると悪い事も変な事も考えちゃうから助かる。
「うん?」
「そのルタって人が本当にミコちゃんのこと好きだったらさ、タキちゃんに何かしたら嫌われるとか思わないのかな?」
「さぁ?あの人はどうも、俺がミコのことを騙してるって思ってるみたいなんだよね。」
「ふぅん、馬鹿じゃん。」
オイちゃんは、はっきりものを言える良い子です。
「そうだね。でも、人を好きになったら馬鹿になっちゃうものじゃない?」
「…それはそうかも。ミコちゃんもマキちゃんもブルちゃんも、皆馬鹿だなぁって思う時あるもん。勿論私も…ねぇタキちゃん?」
「ん?」
「もし…今私が、キスしたいって言ったら馬鹿だと思う?」
「思わないよ。」
「そこは思うよって言うところでしょ!言わないと…なんか駄目じゃん…。」
「今俺がキスしたいって言ったら馬鹿だと思う?」
「思う…けど、そう言われて嬉しく思う私も馬鹿だと思う。」
「しようか?」
「…ちょっとだけだよ?ん…ちゅ、ちゅろ…ちょっ、ちょっとだけってんむぅ…ちゅる…。」
気付いたら押し倒していて、貪るようにオイちゃんの口の中に侵入してやりたい放題。こちとら昨晩からのお預けお預けで頭の中がウニみたいになってる。
「ちゅぱっ…はぁ、はぁ…駄目だよこれ以上は…ちゅ…ちゅ…。」
駄目と言う割に、俺を見上げるオイちゃんの目は熱を持って濡れている。それはきっと俺も同じ。
「…ちゅ。本当に嫌だったら嫌って言うんだぞ?止めないけど。」
「…いちお、いやって言っておくあっ、みみっ、ふあっ…。」
かーん。
ぴたり。
顔を見合わす俺達。
「……。」
「…お隣さんにお客さんかな?」
雨降ってるけど、そう聞こえたことにする。
「うん、私もそんな風に聞こえたんちゅ…ちゅ、はぁっ!」
オイちゃんの脚の間に太腿を割り入れると、一層熱の篭ったオイちゃんの吐息が俺の頬に当たる。お陰で暑くて敵わない。オイちゃんも暑いだろうと、オイちゃんの着ている服をたくし上げ…。
かーん。
おっぱいに引っ掛かったところで止まった。
「…衛兵さんかな?」
「早くない?俺の予想だと、雨も考慮して1時間はある筈。ルタさんかも…。」
「くっ、殺す!」
「同感。ルタさんだったらぼこぼこにして来る。待てる?」
「うん。顎を横から行けばすぐだよ?」
「顎を横から了解。行ってくる。」
ガチャリ。
「やっと出たか。残念だったな、衛兵は…。」
ごっ。ずべしゃ。
ルタさんが吹っ飛んだ。
「ぐっ、いきなり何を…。」
ちっ。力み過ぎて外したか。
「ほら立てよ!」
起き上がろうとしたルタさんの腰の辺りを力の限り蹴り飛ばす。
がっ。べしゃ。
頭に血が昇ってるから、立てよって言いながら蹴っちゃったよ。まぁいっか。思わず外に飛び出して雨に濡れてるけど構わない。どうせ後で脱ぐし。
もうルタさんが何をやったのかとか関係無い。ぼっこぼこにして気絶させて、戻って今やるべきことをやり、衛兵に突き出してやる。後のことは後でゆっくり考えるから、とりあえず髪を引っ掴んで顎を横から…。
ばっ。
「ぐっ!?」
…俺が吹っ飛んだ?何だ?ルタさんに押された?でも、あんなに貧弱で細くて軽いルタさんに押されるなんて…魔法か?
「クソ魔族め!話を聞け!シン君がどうなっても良いのか!?」
クソ魔族とか言いやがって、後でチウンさんに怒られても知らないが…シンだと?
「あんた、シンに何かしたのか?」
「ぺっ…いきなり殴りやがって…シン君は今、あるところで寝ている。そして、ある毒を飲ませた。」
「…なんだと?」
「毒を中和する薬を飲ませなければ、およそ3時間後に死ぬ。俺だけがその薬がどれかを知っている。」
「どうすれば良い?」
殴ってすみません、じゃ駄目そう。
「付いて来い。話はそれからだ。」
「タキちゃん?」
出てきちゃだめぇ!
「この人がルタさん?仕留め損なったの?もう良い。私が殺るよ。」
「いや、シンが人質だから駄目。家で大人しく…。」
「誰だか知らんが、君も来て貰おう。なに、殺しはしないさ。」
「はぁ?」
オイちゃんはとにかく喧嘩腰。
「この子は関係無い。」
「俺の顔を見た以上、関係無い訳じゃ無い。そして、その俺に対する敵意はある程度事情を知っていると言うことだ。」
途中で止められたからだぞ?
「とにかく、言うことを聞けないなら結構。シン君は苦しまずに死ねたと伝えておけ。」
「オイちゃん、ごめん。」
「良いよ。力入り過ぎて外したんでしょ?」
そうだけど、そっちじゃねぇ。
「そうじゃなくて、危ない目に遭わせてってこと。そっちはこの件が無事終わったらゆっくりね。」
「その言い方は駄目なやつだ…まぁ良いよ。タキちゃん1人で行かせたらミコちゃんに怒られちゃうし。」
別の意味でも怒られるかも知れんけど。
「話は纏まったか?急がないと、時間は過ぎるだけだぞ?」
「解った。2人で行く。」
「良いだろう。それじゃ…。」
くそったれ。何が要求だか知らんが、シンのことが片付いたらぼこぼこにしてやる!
「終わったらあいつの指、ゆっくり順番にぽきぽき折ってってやるんだから。」
…俺の出る幕無いかも。
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