メクレロ!

ふしかのとう

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第七章 降臨

第3話

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 私とマキとブルの3人で城に到着すると、何故かお義母様に出迎えられた。

 何故ここにいらっしゃるのかわからないけど、もしかしたらご存知なのかも知れないし、そうでなくても一緒に来て下さったら安心だ。

 「お義母様!今、もしかしたらタキ君が危ないかもしれないんです。一応衛兵さんにも行って貰ってますけど、私は、私達はこれから王様にお会いして応援をお願いに…。」

 「その必要は無いわ。そもそも、衛兵は行ってないし。」

 「え?」

 衛兵さんは行ってない?

 「ど、どういうことですか?私確かに…。」

 「ミコーディア?あなたの飛ばした手紙は、エルフの坊やのお友達に打ち落とされて、返事を出したのもその子。当てが外れちゃったわね。」

 「え…ルタの…それじゃ今タキ君は!?タキ君は無事なんですか!?」

 「ええ。エルフの坊やはチウンが折檻したし、タキならさっきまでオリアとふたりで仲良くしてたわ。」

 ……え?


 「今は満たされた顔のオリアに抱かれて、右手で片方のオリアの乳首を弄びながらもう片方の乳首に吸い付いて眠るところよ。」


 「ほ、本当にタッ君とオリアが…。」

 「オリアさんも猛烈で強烈な責めに耐えられなかったんですね…。」

 「……。」

 私は…これからオリアと、今までみたいにオリアと、責めるような目をせずにオリアと、ちゃんと笑顔でオリアと話せるのかな?

 駄目よ、さっき皆で言ったばかりじゃない。

 私は…オリアを責められない。

 オリアが悪い訳じゃない。悪いのは私。オリアは私に言われるまま、残ってくれた。それを言ったのは私。言ったのは私。悪いのは、全部私。

 …違う、ルタだ。ルタが妙な真似をするから、私はブルを連れて…でも、オリアが職場を抜け出して来なければ…違う、オリアは悪くない。タキ君を心配して…オリアもタキ君のことを好きだから。タキ君もオリアのことは好き。もしかしたら私よりも…。

 …違う。全部、タキ君が悪いんだ。タキ君のせいにする。そして私は甘えるだけで良い。そうすればきっと、たくさん甘やかしてくれる。それで良い。私はタキ君のことが好きだから、それで誤魔化されちゃえば良いんだ。


 「私はオリアを祝福するわ。」

 「ミコ…。」

 「ミコさん…。」

 「私はオリアを祝福する。良かったねって言ってあげる。それが私の、1番の矜持。それが出来ないなら、初めから2番が出来た時点で、何が何でも断るなり、諦めて下りるなりするべきだった。私はタキ君が好きであると同時に皆のことも好き。だから、私はオリアを祝福するわ。」

 「ミコ…私もオリアを祝福する。でも、次はミコの番よ?私は…後で良いもの。」

 「私も、そう思います。むしろ、そうじゃないといけないなって…勿論、私もオリアさんの事を祝福するけど、あとはちゃんと、ミコさんの、お姉ちゃんの番。」

 「そうよ、ミコはお姉ちゃんなんだから!ね?」

 「あんた達…。」

 マキやブル、こんな良い子達が妹だなんて、私はなんて幸せなんだろうか。オリアも良い子だから、私に申し訳ないとか思うかも知れない。だから私はちゃんと祝福してあげないと…。


 「…でも、大丈夫かしら?」

 お義母様?

 「タキは一番最初のおっぱいを忘れることは無いわ。マキやブルゼットは同じ様に満足させることは出来るかも知れないけど…。」

 そう言って、お義母様が私の顔から視線を下げる。そこには武器が無いでしょ?

 でも、大丈夫。私は躊躇わないって決めたんだ。私は私なりに戦えば良い。

 「大丈夫です。私は、ちゃんと勉強をして、私なりのやり方でちゃんとタキ君を満足させます。もしかしたら、私にしか出来ないこともあるかもしれませんし、これからタキ君と2人で研究しても良いと思います。だから、安心して下さい。」

 「でも、ミコーディア?あなた、お風呂も恥ずかしがるくらいなのに、そんな勉強したところであなたから誘ったり出来なかったら、結局タキは最初の印象の強いオリアや、マキやブルゼットのところに行くんじゃないかしら?」

 「もう、私は躊躇いません。これからは毎日一緒にお風呂に入って、毎日一緒に寝て、毎日2人で寝坊する覚悟ですから。」


 「それが聞きたかった。」


 「え?」

 「ううん、何でも無いの。それじゃ、あなたはこれから沢山えっちの勉強をして、えっちに誘って、一緒にお風呂に入って、誰にも負けない物凄いえっちをするのね?」

 「はい。マキやブル、そしてオリアにも負けない、物凄いえっちをします。」

 「ミコ…。」

 「ミコさん…。」

 「そう。ミコーディアの覚悟はわかったわ。だけど…残念だけど、あなたはオリアに勝つことは出来ないの。」

 な、なんで…。

 「ま、ママさん?まさか、タッ君とオリアは想像し得る限りの物凄いえっちを更に超えたえっちをしたとでも…。」

 「オリアさんのお友達はそんなに…。」

 「な、なんで私が勝てないってわかるんですか!?私だって、勉強すればきっと想像を超えた物凄いえっちが出来ます!それをなんで…。」

 「オリアはタキとえっちしてないからよ。」

 ……。

 「え?」「え?」「え?」

 「私はタキがオリアとえっちしたなんて一言も言ってないわ。ミコーディアが勝手に勘違いして物凄いえっちすることになっただけで。」

 「そ、それじゃ、さっきタキさんがオリアさんのおっぱいを吸いながらっていうのは…嘘?」

 「それは本当。もう眠ったかしらね?」

 タキ君がオリアのおっぱいを…。

 「どういうことなんですか?タキ君とオリアはえっちしてないのに…。」

 「エルフの坊やがオリアの腕を折って1回、足を折って1回、シン君に毒を飲ませてた上に胸を刺して1回の計3回魔法を使ったから赤ちゃんみたいになっちゃったのよ。」

 「なるほどそういう…はい?」

 タキ君が魔法を…ってことよね?つまり、私のことも忘れて…。

 「た、タッ君は大丈夫なんですか?」

 「大丈夫よ?特に怪我もしてないし。」

 怪我の話じゃなくて。

 「タキ君は私達の事、他にも色々と全部…忘れちゃったってことですよね?」

 「ええ、そうね。」

 「そうね…って、お義母様!?お義母様はそれで良いんですか!?」

 「良いも何も、そもそも忘れる呪いを掛けたのは私。そして、その呪いを知っていて魔法を使うことを選んだのはタキ。」

 「違う!違います!タキ君は、無理矢理使わされたんです!絶対そう!そうなんです!」

 「そうね。魔族に無理矢理魔法を使わせるなんて、うふふっ、魔族も舐められたものだわね。」

 …お義母様も、本当は怒ってらっしゃるのかしら?

 確か、元々は治すことで皆に感謝される為の魔法だった筈。それを、忘れさせる為に使わせられることなんて不本意だ、ということか。

 「だから、エルフの坊やには、やったことの責任を感じて貰うつもり。後悔とか反省とかいう言葉はあまりにも軽くて、価値が無いわ。」

 それは、ルタを殺すという意味だろうか?別に、あの最低男を煮ようが焼こうが構わない。でも、そんなことをしたってタキ君の記憶は戻らない…。

 「お義母様?私は正直に言って、ルタのことはどうでも良いんです。それよりもとにかく、タキ君の記憶をなんとかしたいんですけど、戻すことは出来ないんでしょうか?」

 「出来ないことは無いわ。出来るかどうかは解らないけど。」

 「ど、どうすれば良いんですか!?」

 「とりあえず、タキの家に行きましょ?でもその前に、あなた達濡れてるわね。少し汚れてるし、着替えた方が良いわ。お部屋があるからそこで着替えて?あと、軽く食事を用意して貰ってるから、頂きましょ?その後に馬車を頼んであるから、それに乗ってタキの家に行って頂戴。」

 「タキ君は家に居るんですか?お義母様はいらっしゃらないんですか?」

 「タキは別のところ。私は食事の後にオリアを迎えに行くから、先に行って待ってて。」

 「オリアを迎えに行くなら私達も…。」

 「そうねぇ…やっぱり駄目。」

 「え?どうしてですか?」

 「タキは赤ちゃんみたいになってるのよ?今は寝てるとはいえ、何かの拍子に起きるかもしれない。そんな姿はきっと、なるべくなら見られたくない筈よ?」

 …そっか。赤ちゃんみたいになったっていうタキ君はオリアと居るんだった。それならちょっぴり見てみたかったけど、まぁそうよね。タキ君ごめんね。元に戻ったら、私がいっぱい…。

 「私は見るけど。」


 …ずるい。


 ・・・。


 
 城は初めてというマキとブルは物珍しそうにきょろきょろしてる。対して、お義母様は廊下の真ん中を堂々と歩く。

 「お義母様はフリジール王とお知り合いなんですか?」

 少し気になったから聞いてみる。

 「ええ、何回か会っただけだけど。」

 「今日も王様にお部屋や馬車をお借りしたんですか?」

 「ええ。なんか、魔族と仲良くしたいって話だから、着替えに使う部屋と馬車を貸してくれたら良いわよって言ったら喜んで用意するって言うのよ。これはと思って、ついでに軽く食事を頼んでも良い?って甘えてみたら、すぐ用意させるって。王様ってちょろいのね。」

 今の話で王様がちょろいって言うのは、流石に可哀想では無いだろうか。

 「仲良くするって、魔族とフリジールの交易とかの話だと思うんですけど、そんなに簡単に決めちゃって大丈夫なんですか?その、他の魔族の方々と相談するとか…。」

 「特に反対する理由の見付からない事を相談や議論する必要は無いわ。もし誰かが文句を言ってきたら消せば良いし…ここね。」

 後半が怖過ぎて意味を聞けないでいると、借りたという場所に着いたらしい。見ると、小部屋かと思っていたのに、大きな扉があって、その両脇に深々とお辞儀をするメイドさんが2人ずつ立っている。そして扉近くのメイドさん達が開けてくれたのは広い、大きな鏡のある部屋だった。


 「…ミコ?タッ君のママ何したの?」

 部屋を見て驚いたマキが小声で聞いてくる。

 「なんか王様がちょろいんだって。」

 「ちょろい!?」

 「私、色んな価値観が変になっちゃいそうです…。」


 「着替えは私が適当に用意したわ。こっちはマキとブルゼットの分。知り合いに、なるべく若い子向けのって頼んだんだけど、私よくわからないから、気に入って貰えると良いんだけど。」

 「わぁ!これ、ロクラーンの有名なデザイナーさんのやつだ!ザラさんはその方と知り合いなんですか?」

 「出資してるから、ちょっとね。」

 「ほぇぇ…。」

 ブルゼットが変な声出してる。

 お義母様は投資をしてるっていう話だけど、女の子向けの服とかにも投資してるのね。

 ところで私のは…。

 「それで、ミコーディアはこれ。」

 紙包を受け取る。開けてみると、お義母様、というか魔族の女の人達が着てるような…。

 「これは、ユカタですか?」

 「これはキモノっていうのよ。着方が解らないでしょうから、私が着せてあげる。脱いじゃって?」

 「はい…。」

 なんで私だけ…と思ったけど口には出さず、言われるままに下着になる。女同士だから良いけど、それでもちょっと恥ずかしい。

 「下着もよ?」

 「え?下着も…ですか?」

 「ええ。キモノはそういうものなの。」

 「でも、流石に…。」

 恥ずかしい…。

 「別に女同士で恥ずかしがることは無いわ?それに、これくらいで恥ずかしがってたら、タキの前でなんかとても無理ね。」

 お義母様が何かと煽ってくる…。

 「大丈夫です!脱ぎます!」

 何が大丈夫なのか、自分でもわからない。


 ・・・。

 
 キモノは凄い。何枚もあって、広げると物凄く大きいのに、お義母様が順番に着せてくれて、それを折ったり締めたりしてるうちに私にぴったりのサイズになってた。きっちきちに絞めてるから動きにくいのかと思ってたけど、そんなことも無いし。着せてくれたお義母様が凄いのか。


 「やっぱり似合うわね。鏡を見てご覧なさいな。」

 「わぁ…。」

 思わず声が出た。

 鏡で自分の姿を確認してみるとそこには、自分で言うのもなんだけど、足の方に白い川が流れてる美しい紺のキモノを着た良い女が居た。

 「わぁミコさん素敵…。」

 「ミコ綺麗…良いなぁ。ママさん?私も今度着せて貰っても良いですか?」

 「ええ。今度、あなた達にも作ってあげる。その時は自分での着方も教えるから、偶に着てみると良いわ。」


 ーー失礼します、食事のご用意が出来ました、こちらで宜しいのですか?では、何かございましたら、外のメイドに申し付けて下さいませ……。


 「あら、美味しそうね。ぶどう酒も…そういえばブルゼットはお酒飲むの?」

 「いえ、まだ多分飲めません。それに私はこの牛乳が良いです。」

 「そう。牛乳好きなの?」

 「はい。それに、胸が大きくなるって聞いて…。」

 「ですって?ミコーディアはどうする?」

 お義母様が私を見る。

 むぅ。またおっぱいの話か。

 「私はぶどう酒を頂きます…。」

 「大人ですものね。」

 むぅ…。




 ・・・。




 「さ、それじゃ私は後で行くわ。また後でね。」


 ぱたん。

 ーー行って頂戴、はっ!……。

 ぱかっぱかっ…じゃりからから…。


 軽い食事を終えて城門に来ると、とんでもなく豪華な4頭立て馬車が用意されていた。

 箱型で良かった。晴れていて、開放型だったら目立つことこの上無い。

 そしてお義母様は私達を馬車に放り込んで、またねと言って扉を閉め、馬車は出発。

 お義母様はどうやって行くのか、そもそもタキ君達は何処に居るのか、そういえば聞きたいことは沢山有った筈なのに、気が付けば何も聞けずに話が落ち着いている。

 それにしても…。

 「この馬車凄くない?全然揺れないし、座席も柔らかくて、これならお尻も痛くならないでしょ。」

 「ホントですよね。結構早いのに…。」

 「お義母様が王様にお願いしてくれたみたいだから、もしかしたら王様専用とかかもよ?」

 「私ちょっと、贅沢し過ぎて不安なんだけど。オズの家に帰れるのかしら?」

 「ふふっ、そしたらマキさんもタキさんのお家に来るんですかね?」

 「そうね。ちょっと部屋を片付けて、色々準備しましょうか。」

 「はぁ?私は嫌よ?ミコとタッ君、今日から毎日一緒にお風呂入ったりするんでしょ?挙句寝坊するまでするとか、私お風呂入れなくなっちゃうし、寝れなくなっちゃう。」

 「そ、それはまだ決まった訳じゃないわ。」

 まぁ、決めてるけどね。するって言っちゃったし。でもそれはタキ君の記憶が元通りになったらの話。

 「それより、タキ君の記憶を戻さないと。どんな方法があるのかわからないけどね。」

 「そうね…それにしても、赤ちゃんみたいなタッ君か。ちょっと見てみたかったな。」

 「オリアさん、赤ちゃんみたいなタキさんにおっぱい吸わせたんですよね…。」

 「……。」

 「……。」

 「……。」



 雨は大分弱くなってきたのに、相変わらずどんよりとした雲は、まるで私達の心の中みたい。



 お義母様もオリアも、ずるい。




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