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第七章 降臨
第12話
しおりを挟む「こんにちは。」
「ああん?誰だねぇちゃん?」
「私はザラ。あなた達を幸せにしてあげるわ。」
それを聞いた妖精族は皆笑った。
「はっはっは、こりゃ面白い!だがな、ここはあんたみたいなカワイコちゃんが来るような場所じゃねぇ。さっさと帰んな。でないと…押し倒すぞ?」
「押し倒す?それであなたは満足するの?」
「え?いや、まぁそうだけど…。」
「おい!やっちまおうぜ!」
「どうぞ。」
「くっ!馬鹿にしやがって!おらぁ!」
妖精族の1人がザラを押し倒した。
「それでどうするの?」
「え?いやまぁ、おっぱいを揉んだり、キスしたり?」
「さっさとやってやんな!」
「キス…口付けはとくべつだから、ほっぺたで良い?…ちゅ。」
「…。」
「あと、胸を揉むのね?どうぞ。」
「……。」
「おい!何やってんだよ!」
「…出来ねぇ!こんな綺麗な目で見られたら…。」
「ちっ!おい、変われ!俺がやる!」
「あなたね?…ちゅ。」
「…む、胸を揉むぞ?」
「どうぞ。」
「…だ、誰か変わりに…。」
「なぁにやってんだ!俺が…。」
「ちゅ。」
「…。」
「ええいどけどけ!こんなのは一気に…。」
「ちゅ…一気にどうするの?」
「ふ、服を破いて…。」
「これしか無いから破くのは駄目。ね?」
「……。」
「…俺がやる。」
「ちゅ。」
「…俺も。」
「ちゅ。」
「次は俺です!」
「ちゅ。」
「次は俺!俺です!」
「ちゅ。」
「俺も良いですか!?」
「勿論…ちゅ。皆満足した?」
「はい!」「はい!」
「じゃあ、もう人間をいじめちゃ駄目よ?」
「えっ?…でも俺達ワルだし…。」
「ワル?あなた達、ワルって言うの?」
「ええ、まぁ…。」
「そう。ちょっとエルフに似てるわね。」
…いや似てねぇだろ。
もう流石に我慢出来なくて突っ込んだ。
「話の途中ですみません。あの、ワルってエルフに似てます?」
「ルが一緒ってことじゃないか?あの頃のザラ様はまだ若かったし。」
若いとか関係無え。
「大体、ワルっていうのは名前じゃなくて、悪いやつのワルですよね?」
「気にしたら負けだ。続けるぞ?」
「はい…。」
ーーザラは聞いた。
「それで、ワルは人間をいじめる決まりがあるの?」
「決まり?俺達にゃ決まりなんか無え。食べたいから食べる。暴れたいから暴れる。いじめたいからいじめるんだ。」
「それは駄目よ、決まりを作りましょう。ね?」
「でも俺達は決まりなんか作ったこと無いし、どうやって決めたら良いのか…。」
「大丈夫、あなた達なら出来るわ。私も手伝ってあげる。」
「出来るかなぁ?」
「いっそ、あんたが作ってくれないか?」
「それは駄目よ。皆で作らなきゃ。だから、お友達も皆集めてくれる?」
「あの、友達にもキスを…。」
「ええ、良いわ。」
「よし!それじゃ集めてきます!」
こうして妖精族の男達は友人を集めた。
「これで皆なの?女の子達は?」
「その、女は別に、あんたにキスされたいっていう訳じゃなくて、その、行かないって…でも、俺達で決まりを決めちゃっても良いんじゃねぇか?」
「駄目よ、やっぱり皆で作らなくちゃ。あら?」
1人の女がザラの元へ近付いて来た。
「あんたがザラかい?色目使って男達を誑かせてるって話だけど、やめてくれねぇか?言うこと聞けないなら、そのカワイイ顔…ぐちゃぐちゃにしてやるよ!」
「おいやめろ!」
「ひどいぞ!」
「可哀想だろうが!」
「私は決まりを作った方が良いと思ってるだけで、あなたの好きな人を奪うことなんてしないわ?」
「んなっ!?」
「おい!あいつ好きな男がいるらしいぞ?」
「ぎゃっはっは、あいつもカワイイとこあるじゃねぇか!」
「て、適当なことを言うんじゃねぇ!」
「え?でも、あそこの…。」
「わわわ!そ、それ以上言うな!」
「あの人もあなたのこと好きよ?」
「え?」
「ちょっとそこのあなた!来て!」
「えぇっ!?は、はい!」
「えぇっ!?な、何を…。」
「はい、それじゃこっちに立って?」
ザラはそう言って、急なことに戸惑う2人の男女を向かい合わせに立たせた。
「うん。それじゃ、お互いを抱き締めましょう。」
「えぇっ!?」「えぇっ!?」
「あら?嫌なの?」
「いや別に嫌って訳じゃ…。」
「わ、私は嫌よ!?」
「それじゃ、この子を抱き締めて?」
「はい。」
「ちょっ!?私の話を、あ…。」
男が女を抱き締めると女は大人しくなった。
「おい、あいつがオンナの顔になったぞ。」
「ちょっと、本当に可愛く見えてきた。」
「あいつら、そうだったんだ。」
「良いなぁ。」
「もっと、ぎゅうっと抱き締めて?」
「……。」
「……。」
男が腕に力を入れると、女も男の身体に腕を回した。
「す、すげぇ!」
「ちょっと羨ましいな。」
「俺も彼女欲しい。」
「それじゃあ、今からお互いの目を確認してみて?そうすると、2人の顔が吸い寄せられるように近付いてしまうわ。」
「ん…。」
「ん…ちゅ。ちゅ。ちゅ。」
「……。」
「……。」
「……。」
「…ちゅ。あの、ごめんなさい。私、あなたのこと誤解してた。本当にごめんなさい。」
「良いのよ?それじゃ、私にもぎゅうしてくれる?」
「勿論!ってかむしろ私がしたいから…。」
女とザラは抱き合った。
「ありがとうね…。」
「うふふ…あら?あなたの耳…。」
「うん、エルフと違って垂れちゃってて格好悪いけど…。」
女の耳は長かった。
「ううん、可愛いわ…はむっ。」
「ひゃあっ!?ちょっ…。」
「はむはむはむ。」
「あっあっあっ…。」
「お、おい…。」
「あいつ、あんな声…。」
「やばいな…。」
「はむはむはむ。」
「あっあっあっ。」
「はむはむ…ぺろり。」
「はぁっ!」
女の腰が抜けた。
「……。」
「……。」
「……。」
「あら?気分が悪くなっちゃったのかしら?ねぇ?あなた、この子をあなたのお家で介抱してあげてくれる?」
「は、はい!」
男は女を抱き抱えると去って行った。
「絶対介抱しないだろ。」
「絶対違うことするだろ。」
「羨ましいぜ。」
「ふん、ちょっと耳を舐められただけでふにゃふにゃになるなんて、あの子も情けないわね!私が…。」
どこかで聞いたことあるぞ?
「それ、もう同じ流れですよね?」
「まぁ、そうだな。結果として、ザラ様は3日で妖精族を制圧した。」
ほっぺにちゅうして、耳舐めただけだけど。
「それから決まりを作ったんですか?」
「そうだな。ここからその話になる。」
ーー「それでは、ザラ様がワルのお頭になって下さい。」
「駄目よ。皆平等でないと、誰かが我慢することになるでしょ?可哀想じゃない。」
「でも、皆で話し合ったんです。話し合った結果なら良いですよね?」
「では、ワルのお頭として最初の決まりを作るわ。お頭には誰もなりません。皆平等に、同じ立場で話をすることにします。良いわね?」
「…はい。」
「それじゃ、皆平等ね。それから、皆で話し合うのは良いことだから、偶に皆で集まって色々決めましょう。良い?」
「はい。」
「あとは…。」
それからザラは多くの決まりを提案し、採用された。
「でもザラ様?」
「ザラよ。様、はいらないわ?平等ですもの。」
「お頭ではないのだから平等ですが、平等だからこれは我々の勝手にさせて貰います。」
「…それで?」
「決まりは守りますが、その決まりを破ったらどうなるんです?」
「どうもならないわ?」
「でも、それだと、破りたい時に破れるってことですか?」
「そうね。でも、破るならその決まりを破るだけの理由があるってこと。それはきっと自分の為じゃない、素敵な理由の筈。」
「でも俺達ワルだし…。」
「皆で素敵なワルになりましょう。ね?」
「はい!」
なにそれ?
「素敵なワル?」
「素敵なワルだ。」
「しかしチウンさん。その頃のザラさんは、純粋無垢なイメージですね。そのものと言って良いでしょう。でも、今は少し…違うようにも思えますが?」
メラマさんが言葉を選びながら話す。
確かに、嘘吐いたり、チウンさんを目で脅したり、タキとえっちしたがったり…俺も誘惑されたっていうか弄ばれたし。
…あれは良かったなぁ。天使だからしょうがないよな。
「それはまぁ、前の流行りのせいだな。」
流行り?確か今の魔族の格好とかも流行りなんだよな。話し合って決めたとかいうやつ。
「流行り…ですか?」
「ああ。我々は飽きっぽいし、何かに没頭してないと暇潰しに悪さをする者も出て来るかも知れないということで、話し合って流行りを決めるんだ。今は、ワフウという流行りなんだ。」
ワフウ。
「前の流行りは何なんです?」
「その時はトッコウだ。」
「トッコウ?」
「トッコウ服を着るからトッコウと呼んでいた。服に文字を刺繍したり、髪型を派手にしてみたりするんだ。それで、何人かの班を作って勝負して吸収合併していく。最終的に1番大きくなった班が優勝という、一種の陣取りのようなものだ。」
髪型という言葉を聞いて、思わずチウンさんの頭が目に入った。
「ちなみにチウンさんはその時はどんな髪型を?」
「スキンヘッドだ。」
今と同じじゃねぇか。
「さて、この話は私がザラ様と今のような関係になるきっかけでもあるんだが…君達はいける口だね?」
チウンさんが手振りでグラスを傾ける。
「少し飲みながら話そうよ。肴は昔話で充分さ。これで飲む。そして手酌で飲んでくれ。」
チウンさんは小さい陶器のコップを配り、3人の真ん中に大きな瓶を置いた。
「頂きます…美味い。これは何のお酒ですか?」
「米から出来てる酒だよ。飲み過ぎると次の日怖いが、つい飲んでしまう、これこそ正にワルだ。」
「俺も…飲み易い!確かにこれは、ワルですねぇ。」
「だろう?」
「それで、話の続きですが、そのトッコウの時はどういう班になるんですか?」
「男も女も関係無く仲良しで適当に組む。まぁ勝負があるから強い者同士とかが多かったがね。その時ザラ様は引く手数多だったんだが、多過ぎたから全部断って1人だった。そして、私も1人だった。」
「チウンさんが?」
ちょっと以外だな。
「ああ。知っての通り私の能力は、知るだけだ。特別力が強い訳でも、凄い魔法が使える訳でも無いから、使えないやつだと馬鹿にされていたんだ。私自身も、そう思ってたしね。」
「物凄いことだと思いますけどね。」
「俺も凄いと思うし、見れたら良いなって思うことありますけどね。」
「そうかい?まぁ、ザラ様もそう言って下さったんだ。」
ーー「あなたもひとりなの?」
「ええ…私には何の力も無いですから…。」
「そうかしら?それはあなたが思ってるだけで、物凄い能力だと思うわ。」
「でもザラ様も出来ることじゃないですか?」
「私は人の考えてることが何となく分かるだけよ?それも、近くに居る人だけ。あなたみたいに、全ての人を見るなんて、到底出来ないわ。」
「でも、見れたところでどうしようも無いですよ。」
「見たものを書いたら良いと思うわ。大変でしょうけど、全部書いておいたら、きっと良いことがあるわ。それに、それは誰のどんな能力よりも強い武器になる。間違い無いわ。」
「そうでしょうか…。」
「あら、私のことを信じられない?」
「いえ、そういう訳では無いのですが…。」
「わかった、こうしましょう。私と班を組んで、あなたが勝負するの。きっと1番になれるわ。」
「私だけが勝負を?無理ですよ。」
「いいえ!私の言う通りにすれば、絶対に勝てるわ。」
「…では、もし負けるようなら私のお願いを聞いて貰えますか?」
「聞かないわ。絶対負けないもの。それに、そんな約束したら、あなたは負けた時のことも考えることになる。勝つことだけ考えていれば良いのよ?」
「…では、もし1番になれたら私のお願いを聞いて貰えますか?」
「聞かないわ。1番になるのは当たり前だもの。そして、1番になったらきっとあなたは、馬鹿にされるどころか尊敬されるわ。それは何よりも素敵なことじゃない。だから、ね?頑張りましょう。」
「結局、チウンさんはタキの母ちゃんに何をお願いするつもりだったんです?」
「家来にして貰おうと思ってたんだ。」
へぇ…。
「もうちょっとこう、キスしてとか付き合ってとかそういうのかと思ってましたけど。」
「頬にキスは貰ったことがあるし、恋人になりたいとかそういう感じじゃないんだよ。でも一緒に居たいから、家来という訳さ。ザラ様はそういう考えを気付いて、それは面倒だっていうことなんだろう。まぁ、今となっては家来にならなくて良かった。」
今となっては家来以下になってますがな。
「その、勝負というのは?」
メラマさんが聞く。力の強いものがどうとかって言ってたから喧嘩なのかな?
「殺さなければ何でも良いから、相手に参ったと言わせれば良いんだ。」
それならチウンさんは喋るだけで楽勝だったろう。
「それじゃ、チウンさんは相手の恥ずかしいことを暴露して参ったって言わせてたんですか?」
「そうだな。そう、ザラ様が言うから、騙されたと思ってやってみたら想像以上に効果があってな。私達は簡単に勝ち進んだ。そして、それが悪夢の始まりだったんだ…。」
チウンさんが若干震え声で言った。
…悪夢?
「なんか良くないことになったんですか?」
「ああ…あれは我々にとっては完全な悪夢だった…。」
魔族を震え上がらせることって一体…。
「な、何があったんです?」
「それはな…。」
ごくり…。
「ザラ様がえっちに興味を持たれたんだ。」
ずこー。
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