メクレロ!

ふしかのとう

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第七章 降臨

第13話

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 じじじ…。

 「そろそろですか?」

 「まだよ。ちゃんとお肉の脂が溶けるまで、じっと待つの。」


 私は今、マキさんに料理を教わってるところ。作る料理は、ズッキーニのソテー。

 ミコさんがタキさんの記憶を戻しに行って、ほっと溜め息を吐いたらオリアさんのお腹がくぅと可愛く鳴ったので夕飯を食べることになった。

 メニューは、折角だからズッキーニを食べましょうというザラさんの一言で決まった。私も一応、ちょっと確認しておかないとと思ってたし。

 お料理はマキさんが作ることになったけど、手伝わせて貰おうと思ったら、教えたげるからブルが作りなさいって言ってくれた。

 …なんだか嬉しかった。


 「そろそろ良いかしらね?そしたら、皮を上にして置いて?」

 「はい…それで、ひっくり返すんですよね?」

 「ええ。でも、まだ焼き色が付いてないから触っちゃ駄目。ちゃんと、お肉の脂の味と香りを移してあげるの。それに、焼き色が綺麗に付いてる方が美味しそうでしょ?」

 「はい…割と放っておくんですね?」

 「そうね、簡単でしょ?でも、これは野菜ソテーの基本だから覚えておくと良いわ。今日はズッキーニだけど、茄子でも玉葱でもキャベツでも、他にも色んな野菜で使えるからね。」

 「へぇ…あっ、そろそろ良いですかね?」

 「うん。それじゃ、ひっくり返して?火傷しないように気を付けてね?」

 「はい。」

 フライパンに触らないように気を付けて、えい。

 「うん、上手いわ。それで、ソースを掛けるからお塩はちょっとだけ。塩漬け肉の塩もあるしね。軽く指で摘まんでぱらぱらして、しばし待つっと。」

 本当に軽く塩を振るマキさん。

 マキさんがやると何でも格好良い。

 「どれくらい待つんですか?」

 「さっきよりもちょっと短いくらいね。焼き色を付ける時にある程度火は入ってるからそんなに焼かなくても良いし、あんまり長いと水分が出てきちゃって出来上がりがくたっとしちゃうの。」

 ズッキーニがくたっと…駄目駄目!今は料理中です!

 「そろそろ良いわね。これを取り出して…ほら、張りがあって美味しそうでしょ?」

 トングでズッキーニの端を摘まんで持ち上げて見せてくるマキさん。


 でろーん。


 マキさんごめんなさい。私はもう駄目です。

 「こんなこと言うのもなんだけど、やっぱりちょっと見た目がね…。」

 「オリアさんが変なこと言うから…。」

 タキさんのをズッキーニみたいなんて言うから。

 「でもさ、タッ君のがこれだとすると、ナイフを入れるのはちょっと可哀想になってくるわね。」

 「どんどん食べにくくなるんですけど。」

 「…早く作って早く食べましょ?私もあとで帰らないとだし。」

 「あれ?マキさん帰っちゃうんですか?明日もしタキさんのところに行くってなったら…。」

 マキさんは来ないの?

 「行くとしても明日の夕方でしょ?私はお店もあるし…あ、ブルは明日どうする?今日はちょっと色々あって疲れたでしょ?別に無理しなくても大丈夫だからね?」

 マキさんが気を遣ってくれる。でも、疲れてるのはマキさんも一緒。それに…。

 「私もお店に行きます。その、勿論タキさんのところに行くってなったら上がらせて貰いますけど、それまではちゃんと働きます。疲れてるのはマキさんも同じだし、私も一応、オズの家の人間だと思ってますから。」

 「…そっか。それもそうね。ごめん、変な気遣っちゃったわ。ブルも明日、ちゃんと来るのよ?寝坊したら怒るからね?」

 「うふふ、大丈夫です!」
 
 「よし!これで私はお昼まで寝てても大丈夫ね!」

 「もう、マキさんたら!駄目ですよ?うふふ…。」

 「うふふ…さ、それじゃブルはソテーしてって?私はソースと付け合わせ作るから、盛ったら順に持ってって?スープとパスタはすぐ出来るけど、一応パンも要るかしら?あとは…。」

 お家なのにお店みたい。でも、こうしてマキさんと一緒に台所に立つのは楽しい。私が卒業して、皆で一緒に住んだら毎日がこんな風になるのかな?


 …でも、そうなったら夜はどうなるんだろう?




 ・・・。


 「…うふふ、とっても美味しいわ?タキの、じゃなかったズッキーニ。」

 どんな間違え方なの?

 「ザラ?食べにくくなるでしょ?」

 「何が?」

 「何が?って、わかってて言ってるでしょ!?」

 「食べないなら私が貰うけど?」

 「食べるよ!折角ブルちゃんが作ってくれたんだから!ブルちゃん、それにマキちゃんもありがとね。」

 「どういたしまして。」

 「私はズッキーニ焼いただけで、殆どマキさんですから。」

 「一緒に作ったのよ?だから、お礼は一緒に受け取らないと。ね?」

 マキさん…。

 「はい、えへへ。」

 「ふふっ、なんか2人は姉妹みたいだね!」

 「そお?まぁミコも私達皆家族みたいなもんだって言ってたし、オリアも入るのよ?年齢的には私より上だから、ミコの次のお姉ちゃんだわね。」

 「そういえばそうか…うふふっ、なんか良いね姉妹って!」

 オリアさんもお姉ちゃん…だけど、オリアさんはちっちゃくて可愛いからどっちかというと妹なんじゃないかなって思わないでもない。言ったら怒られそうだけど。


 「それじゃあ、ミコーディアより年上の私は1番上のお姉ちゃんになるのかしらね?」

 ザラさんはお母さんでしょ?

 「なんでザラが入るのよ?ザラはタキちゃんのお母さんでしょ?」

 「でも、私知ってるけど、あなた達は竿姉妹って言うんでしょ?私も入れば、1番上のお姉ちゃんになるじゃない?私も竿姉妹ってことで。」

 さ、さお姉妹…。

 途端に爛れた関係みたいになっちゃった。

 「なんでザラまで入るのよ!?そ、それにそういう姉妹って意味じゃないから!家族ってこと!」

 「あら?私は家族に入れて貰えないの?」

 「家族だよ?お母さんだけど。」

 「でも、同じズッキーニを食べる仲じゃない?」

 ズッキーニの話なのか、タキさんの、の話なのか。


 「…ザラ?なんか酔ってない?」

 「酔ってないわ?」

 パパが酔っ払ってる時に言うやつ。

 そして、そう言うといつもママに怒られてるやつ。

 「お酒飲んだでしょ?」

 「大人ですもの。」

 「いつ飲んだの?」

 「お城で皆でご飯頂いてる時に、ちょこっとね。」

 「皆?マキちゃん達とってこと?」

 「ええ。」

 「…マキちゃん?ザラ、どれくらい飲んでたの?」

 「え?どのくらいって言われても…私とミコとママでぶどう酒1本だから大したこと無いわよ?」

 「…ザラ?大丈夫?気持ち悪いとか無い?」

 「別に?大人ですもの。」

 私はまだお酒飲んだこと無いけど、ザラさんのその大人ですものは、私でも変だと思う。


 「オリア?ママ、お酒弱いの?」

 「モーグ…こないだ亡くなったタキちゃんのお父さんに前に聞いた話だけど、ザラは全然飲めなかったって話なのよ。すぐ酔うし、酔うと大変なんだって。」

 「ああ、ママがお酒飲んで酔った勢いでタッ君のお父さんを…だっけ?」

 「あの頃は若かったわね。でも、今はもう大人ですもの、お酒くらい飲めるわ?ぶどう酒だって飲めるのよ?」

 「飲めるかどうかじゃなくて、今ザラが酔ってるかどうかが知りたいんだけど?」

 「あのねオリア?私はこう見えても、ちゃんと仕事や活動をしているの。そういうことをしていると色んな接待を受けたり、大人の付き合いがあるものなのよ?そういうところでまさか飲めないなんて言えないもの、昔とは違うわ。」

 お酒って慣れたりするものっていうのは知ってる。




 「ザラがザルになったってこと。」




 ……。

 「やっぱり不安なんだけど。」

 「大丈夫よ。ぶどう酒は好きなの。よく貰うから、家でも飲んだりするくらいだし…だから、ブルゼット?持ってきてくれる?でも、流石にそんなには飲めないから、マキもオリアも手伝って。ね?」

 「え?」

 良いのかな?

 「ホントに大丈夫なの?」

 「大人ですから。」

 「オリア?ママもこう言ってるし、大変なことって言っても私達だけだし、タッ君も居ないから襲われることも無いし、大丈夫じゃない?」

 「まぁ確かに、ザラとお酒飲むっていうのもちょっと良いなって思うから…ブルちゃん?良い?」

 「はい、それじゃ持ってきますね。」

 キッチンに行く。

 タキさんはこっちのやつが好き。きついけど甘いお酒で、塩辛いお料理に合うんだって言ってた。今は怖くて飲めないけど、いつか大人になったらお酒も教えてくれるのかな?2人でおしゃれなお店とかに行って、お酒飲んだりして、帰りにキスとか…ズッキーニとか?



 ・・・。



 「そういえば仕事で思い出したけど、トゥインクル・ザーラってザラでしょ?」

 「え?」

 占いの、ザラさんなの?

 「えぇっ!?ママ?」

 「ええ。良く分かったわね?」

 「私じゃなくて、タキちゃんが分かったの。タキタ・アイタ・タシタ・テルタのことを話したら、それは実はタキアイシテルになるって。」

 え?あの占いのおまじないってそういう意味だったの?

 「そんなのもう、ザラしか居ないじゃん。何やってんのよ?世界中の恋する女の子がタキ愛してるって日記に書いちゃってるじゃん。」

 「良いじゃない。お陰で恋が上手くいきましたっていう手紙も割と貰うのよ?」

 「そういう問題じゃないでしょ?違う男の子の名前書かせるのはどうなのよ?」

 「別に、それが裏で何を意味するのか分からなければ、信じさえすれば叶うの。叶うなら、それが何であれ問題無いわ。ねぇ、マキ?」

 ザラさんがマキさんに振る。

 「な、なんで私に…。」

 「あら?日記に書いてなかった?」

 「う…。」

 マキさんの顔が赤い。日記におまじない書いてたのかな?でも、マキさんは格好良いけど意外って言ったら失礼だけど、乙女なところがあるからカワイイ。

 …てか、もしかして…。

 「ブルゼットもそう思わない?」

 やっぱりだ…。

 「なになに?マキちゃんもブルちゃんも書いてたの?いやーん、恋する乙女じゃん!」

 「べ、別に良いでしょ!?それに、私達は間違いでもないし!ねぇ?」

 「そうです!私達は別に合ってるから良いもん!それにちゃんと…でも無いけど、なんとなく上手くいったし!」

 恋する乙女だし!

 「ふむ…確かに2人共なんとなく上手くいってるから、ザラのおまじないも効かない訳じゃないってこと?」

 オリアさんがザラさんに聞く。

 でもそんなこと、作った人に聞いても良いのかな?

 「ちゃんと効くわよ?」

 「でも、こんなこと言うのもなんだけど、書いてない私と同じと言えば同じじゃない?」

 「そうね。でも、オリアも書いてたら、今日あなたはタキとえっちしてたわ。」

 「えぇっ!?嘘!?」

 えぇっ!?そんなに変わるの!?

 「…って言ったら、書こうかなって思うでしょ?」

 「まぁ、そうかな?」

 「そして、この先もし、ミコーディアは当然としてもマキやブルゼットもタキとえっちしたのに、オリアはなかなかタキと2人きりになる機会が無い、なんてことになった時、それでもオリアはおまじないを書かない?」
 
 「その時は…タキちゃんは私のこと好きじゃないのかなとか、何か私の努力が足りないのかなとか思うけど、一応おまじないも書いてみるかも。」

 「そうね、書いた方が良いわ。私は、おまじないを書いた子に対して責任があるから、私はその子の願いのお手伝いをするの。オリアのことも、手伝ってあげたいわ。」

 なるほど。でも書いた方が良いのはわかったけど、それはおまじないが効くんじゃなくて、ザラさんが叶えてるだけなんじゃ…。

 「ブルゼット?それは違うわ?頑張るのはその子自身なのよ?私はあくまでお手伝いするだけなの。」

 「なるほど…あれ?」

 私、口に出しては言ってないのに…まさか考えてることがわかるのかな?

 「わからないわ。」

 「……。」

 絶対わかってる…なんでわかるのかはわからないけど。変なこと考えたりしたらすぐにばれちゃうんだ…変なことっていうのは、例えばズッキーニ…。




 「そういえば話は戻るけど、ズッキーニ姉妹の方が可愛いわね。」




 可愛くないし。

 

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