異世界を救え～善なる８人の転生者の中に１人の偽善者が紡ぐ世界～

第46話 ローレンと執事２

しばらくするとローレンが再度話しかけた。

「タイガ殿は執事服を着ているが、誰かの執事なのですか？」

何をきっかけか分からないがローレンの口調は穏やかで丁寧になっていた。

「ええ。ユミルと一緒に仕えていますよ」

「もしよければ、俺の執事になってはくれないか？もちろん給料は今の倍払う」

「有り難いお話しなのですが、主人を尊敬しておりますので」

「ユミルさんはどうですか？」

ユミルはキツイ眼差しで話し出す。
「私はあのお方以外に仕える気はない」

「貴方達のご主人はそんなに凄いのですか？」

「もちろんです。私達では到底届かない高みにいます。それにローレンさんも知っている方ですぞ」

「だ、誰ですか？」

「同じクラスにいるリアムンド様ですよ」

「な、何故？あいつよりも俺の方がダンジョン攻略も実力も優れて…」

そう言った瞬間ユミルがフォークに魔力を包み投げ放った。

「ユミル、やめなさい。ご主人様の名を下げるつもりですか？」

ユミルは渋々怒りを抑えた。

ローレンは後ろの壁に刺さったフォークを見て実力の差を痛感し驚いている。

「ちなみに言えば、ご主人様は私達の10倍以上は強いですよ」

「そ、そんなバカな」

「目に見える物が全て正しいとは限りませんよ。それに能ある鷹は爪を隠すと言う言葉を知っていますかな」

「知って…はいるが、未だに信じられない。もちろん貴殿たちを侮辱するすもりはない。でも、それならば何故あいつらはダンジョンを攻略しないのだ？」

「攻略するよりもすることがあるのでしょう。あのお方は未来を見据えていつも行動しておりますので」

ここで普段はあまり話さないユミルが話に入ってきた。

「お前の求める強さってなんだ？」

「ユミル貴族様なので口は慎みなさい」

「いや、そのままの口調で構わない。俺の求める強さは貴殿達のような圧倒的な強さだ」

「くだらない。そんな強さが欲しいならスキルを磨きレベルを上げればいい」

「そ、そうなんだろうが、なら貴殿達が求める強さとはなんなのだ？」

「私達は中途半端な強さなど求めていねぇよ。ただご主人様を守れればそれだけでいい。それなのにご主人様の強さには到底及ばねぇ。なら、なんだっていい、ご主人様の役に立てるならこの命を捧げればいいだけだ」

ここでタイガが穏やかに話だす。

「これはご主人様の言葉ですが、人には人の追い求める野心や望みがある。小さなことから大きなことまでね。

身分や能力が違うからこそ強さの基準や物事の考え方が違うのだろう。

しかし、その中で本当の強さとは心の強さ、芯のブレない想いだけのために全てを捨ててでも達成しようと行動できる者なのかもしれない。そう言った人達は本当に強いと思うし尊敬すると言っていたことがあります。

この言葉を訳すなら、私やユミルがご主人様のためだけに尽くし行動する姿がローレン殿に強く見えたのならば私達はこの上ない喜びです」

そう言うとタイガはローレンに微笑みかけた。

「話を聞いていて同じ歳とは思えないほどの言葉だな。ちなみにどうしてそこまでリアムのことを尊敬できるのだ？」

タイガはローレンのためだと思い身の上の話をした。
さらには桜の御一行様で有名な話のネタまで全て話した。

話を聞いたローレンは驚愕のあまり放心状態だ。しばらくして言葉を発すのがやっとな程だ。
「ど、同年代にそんなに凄い奴がいたんだな」

「ええ、本当に凄いお方ですよ」

「当たり前だろう。私のご主人様だからな。あの方に仕えてからはこの世界の景色が違うように見える程に今では生きていてよかったと思う」

ここでタイガは本題に移る。

「話は変わりますが、確かお礼の話がしたいとも言っていましたね？」

「そ、そうだ。何か欲しいものはあるか？」

「では一つだけ、もしご主人様に頼まれるようなことがあればその頼み事を快く引き受けてほしいと言うだけです。もちろん命に係わることや犯罪に加担することなら断ってもらって構いません」

「そんなことでいいのか？他にはないのか？」

「それだけで十分です。お願い致します」

「わかった」

その後もローレンはタイガ達を慕い、相談する姿が見うけられるようになる。
それを堺にローレンは憑き物が落ちたように穏やかになったそうだ。

さらにはこの時の約束が絶大な効果を生むことを今は誰も知らない。