きみに××××したい

まつも☆きらら

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第11話

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家に帰り、風呂に入ろうと服を脱いでいると―――

「あれ、亨?」

スマホがラインの着信音を告げ、画面に亨の表示。

『仕事終わった?』
「終わったよ・・・・と」
『飲みに来る?』
「は?珍しいな、亨が・・・・」

亨と仲は良くても、2人で食事をしたことなんかほとんどない。
それこそ、テレビ局の食堂でたまたま会った時くらいだ。

「風呂、入るとこなんだけど・・・と」
『じゃ、いいです。ちなみに、俺1人じゃないけど』
「へ?1人じゃないって・・・・・大樹くんと一緒なのかな」

首を傾げていると、再びライン。

『凜くんと、飲んでる』
「・・・・・・・・はあ!?」

凜と!?亨が!?なんで!?

『凜くん、べろべろ。1人で帰れないかも。俺、送って行ってもいいけど』
「待て待て待て!」

俺は慌てて亨に電話をかけた。

『どうしました?』
「お前、何してんの?なんで凜と一緒にいるんだよ!?」
『ちょっと、偶然会いまして。で、今凜くんは俺の膝で寝てますけど』
「はぁ!?」
『お酒、あんま強くないんだね。すぐ酔っ払っちゃって、なんか猫みたいで可愛いけど』
「どこ?そこ、どこだよ!?」
『うっるさいなぁ。わざわざ知らせてあげたんだから感謝しなさいよ』
「いいから教えろって!」

イライラ

イライラ

たぶん、最近こんなにイライラしたことないと思う。
凜が、俺以外のやつと一緒にいるって思っただけで、こんなに落ち着かない。
もちろんひろくんのときだってイライラしてたけど、なんかそれとは違う。
亨は、なんかやばい気がする。
俺と似たとこがあるから・・・・・




「凜!!」

亨に教えられた居酒屋の個室の扉を思い切り開け―――

「あー、今寝てるから静かに・・・」

亨の言葉を無視して、亨の膝の上で気持ち良さそうに寝ていた凜にずんずんと歩み寄る。

「・・・・お前、もう帰っていいよ」
「うわぁ、そうきます?せっかく電話してあげた優しい友達に」
「それは・・・・・ありがとうだけど」
「まあ、あれですね。男同士だからってあんまり気を許しちゃうと危ないってこと、この子に教えておいた方がいいと思いますよ」
「言われなくても」
「でしょうね。まぁ、俺のこと信用してくれたのは嬉しいですけど・・・・。純粋な人だよね、本当に」
「・・・・何か、言ってた?」
「いや・・・・まぁ、のろけですよ。優斗さんのことがすごく好きだって言ってたよ」
「え、マジで?」
「嬉しそうな顔すんな」

亨に睨まれ、思わず口を抑える。

「してねえ」
「ったく・・・・あなたと付き合うこと、大樹さんに反対されてへこんでたよ。あなたが自分のせいで仕事できなくなったらって心配してた」
「そんなことは―――」
「うん、大丈夫って俺は言ったけど、不安なんだろうね。あなたが傍にいてあげたら、少しは安心するんじゃない?」
「・・・・・」
「守ってやってよ。きっと―――本人は気にしてないつもりでも、心の奥底にまだ残ってるんだ。誘拐されそうになった、その時の記憶が―――男の手の感触が」
「うん・・・・ありがとう、亨」
「どういたしまして」




「あれ・・・・・」

目が覚めると、俺は見知らぬ部屋にいた。
見知らぬ部屋?じゃないか。
ここは・・・・・

優斗の部屋・・・・?

その時、初めて気付いた。
隣に、優斗が寝ていることに。

―――なんで・・・・?

ゆっくりと体を起こす・・・と、激しい頭痛を覚えて顔を顰める。

「いってぇ・・・・・」

思わずもれた声に、優斗の体がピクリと動く。

「ん・・・・凜?大丈夫?」
「あ・・・・優斗、俺なんでここに・・・・・?」
「あ~・・・・覚えてない?凜、昨日亨と飲んだでしょ」
「あ・・・・うん、そういえば」

思い出した。
昨日コンビニで偶然亨と会って・・・・
なんか、一緒にご飯食べることになって、飲んでたら酔っ払っちゃって・・・・
えーと・・・・・それから・・・・・?
昨日のことを必死で思い出そうとしている俺を、優斗がじっと見つめていた。

「・・・・凜」
「ん?」

呼ばれて、優斗の方を見る―――と
グイッと胸倉を掴まれたかと思うと、そのまま噛みつくようなキスをされる。

「??―――っ、ん・・・・・ッゆ・・・・・?」

何度も何度も深いキスをされ、息苦しさに涙が零れる―――

「・・・・・俺、怒ってるんだよ」

ようやくキスから解放され、涙を拭っていると優斗が低い声でそう言った。

「え・・・・何で?俺、なんかした・・・・?」

優斗に嫌われるようなこと・・・・・

「なんで亨と一緒って、俺に言わないの?」
「え?」
「亨とご飯食べて、そのままお酒飲んで記憶なくすとか、何かあったらどうすんの?」
「何かって・・・・・何もないよ」
「なんでそんなの言い切れるの?亨とはほぼ初対面でしょ?そんな風に、すぐに誰かを信用しちゃダメ!」

優斗の声は真剣だった。
その目も本当に怒っていて・・・・
俺は初めて見る優斗の顔に、ただ驚いて・・・・
同時に、悲しい気持ちになっていた。

「ごめん・・・・・。亨は・・・・・優斗の友達だから・・・・・だから・・・・」

亨は、とてもいい奴だと思った。
俺の過去のことを知っても、俺と優斗の関係を知っても、優斗との関係も変わらないし、俺に対しても普通に接してくれた。
腫れものに触るような態度でもなければ、目を合わせてくれないこともない。
本当に・・・・・信用できるって思える、数少ない人間だったんだ・・・・。

また涙が溢れそうになるのを、唇を噛んで堪える。

そんな俺を見て、優斗は眉を下げると優しく頬を撫でた。

「・・・ごめん。ちょっと言い方きつかった・・・・。でも、心配なんだよ。俺も亨のことは信用してるけど・・・・それでも、心配。俺さ・・・・すげぇ凜のことが好きだから」

ちょっと照れくさそうにそう言って笑う優斗。
俺の目から、涙が零れ落ちた。

「だから、凜が俺以外のやつといるのが・・・・やなの。ごめん、ただのヤキモチ・・・・」

優斗の言葉を聞き終える前に、その胸に飛び込んだ。
嬉しくて。
優斗のことが好きで好きで、堪らなかった・・・・・。
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