恋人が乗り移った君に恋をした

まつも☆きらら

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第6話

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夏美の葬式に現れた咲也は、1人の男と一緒だった。

―――昨日言ってた、幼馴染?

背は俺と同じくらいか少し高いくらいで、童顔だが、咲也の傍にぴったりと寄り添い周りを見渡すその様子は、ひょうひょうとして見えて常に細かく神経をいきわたらせているような優秀な番犬のようだった。

咲也は昨日よりも顔色が悪く見えた。

青白い顔で大きな瞳は伏せられていたが、長い睫毛は強調されてより一層艶っぽく見せていた。

少し長めの黒髪も小さな顔をひきたて、黒いスーツもスタイリッシュで華やかで、本人は気付いていないようだが、この場ではかなり浮いているように見えた。


咲也の幼馴染の男は俺のことを咲也から聞いているのか、ちらちらと俺の方を見ていた。

俺も、咲也の様子が気になってどうしても咲也に目がいってしまう。

7月も中旬で天気も良く、かなり暑い日だった。

その中で1人青白い顔に脂汗を浮かべている咲也。

倒れてしまうんじゃないかと、気が気ではなかった。



葬儀の間は離れたところに立ち話すこともなかったが、俺は咲也にあるものを渡したくて、葬儀の後咲也の家へ一緒に行くことにした。

断られるかと思ったけれど、案外すんなりと承諾され、咲也の叔父夫婦、咲也と幼馴染の小川拓海という男の後に1人でタクシーに乗り、咲也の家へ向かったのだった。


家に着くと、咲也と喪主の叔父夫婦が言い争いをしていた。

どうやら、叔父夫婦がこの家を売りたがっているようだったけれど―――

『さっくん!?』

咲也が、突然倒れた。

―――やっぱり、具合が悪かったんだ。

それなのにまた何かを企んで咲也をこの家から遠ざけようとする夫婦に、俺も頭にきていた。

気がつけば、俺は2人を家から追い出していた。

2人が出て行くと、俺はすぐに咲也の傍にかがみ込んだ。

辛そうに荒い息を繰り返す咲也。

「大丈夫?病院に、連れて行く?」

そう言って小川の顔を見ると、呆気に取られたような顔をしていた。

―――ん?俺、なんかおかしなことしたっけ?

少し考えてみたけれど、よくわからない。

2人を追い返すのに、特に怒鳴ったりもしなかったし、普通に話して説得したつもりだったけれど。

他に思い当たることもないので、俺はとりあえず目の前の咲也の心配をすることにしたのだった・・・・。




着ていたスーツを脱がせ、前開きのパジャマを着せてソファーに咲也を寝かせ、保冷剤をタオルに挟んで脇の下に入れる。

それから額の汗を拭いたり布団をかけなおしたりと小川が慣れた様子で咲也の看病をするのを、俺はぼんやりと見つめていた。

俺は着替えとソファーへ寝かせるのを少し手伝っただけで、ほとんど小川がやっていた。

その間ずっと無言でいたけれど、小川の咲也を見る目は優しく、暖かかった。

そうして咲也が倒れてから1時間ほど経った頃、小川がおもむろに口を開いた。

「―――あんたは、いつまでここにいるつもり?」

ちらりと俺を見る。

「え―――。ああ、俺は咲也くんに渡したいものがあって・・・・・」

「渡したいもの?」

「うん。だから、咲也くんが目を覚ますまで―――」

「それ、俺から渡しちゃダメなの?」

「ああ・・・・これは、俺から直接渡したいんだ。夏美との、約束だから・・・・・」

それは、夏美から預かった大事なもの。

どうしても、俺の手から渡したかった。

夏美からのメッセージとともに・・・・・


「―――なっちゃんが・・・・・何・・・・・?」

ソファーに寝ていた咲也が、ゆっくりと起き上がった。

「さっくん!大丈夫?」

小川がすぐにその体を支える。

だるそうにソファーに座る咲也が、不機嫌そうに俺を見た。

―――相変わらず、目力がすげえなあ。

「―――で、なっちゃんが、どうかしたの?」

「あ、ああ、あの、実は俺、夏美から預かってるものがあって・・・・・それを、咲也くんに渡したかったんだ」

「預かってるもの・・・・・?」

咲也が眉を顰める。

俺はスーツのポケットを探り、小さな箱を出した。

夏美が、俺に預かって欲しいと言って1ヶ月ほど前に渡されたものだ。

『咲也に、渡したいと思ってるの。わたしが結婚する前に。でも、今はちょっとあの家に置いておきたくなくて・・・・・。だから、咲也が帰ってくるまで柊真が預かっていてくれる?』

そう言って中身を見せられた時は、本当にびっくりして断ろうかと思ったのだけれど。

夏美は、首を横に振った。

『柊真にしか、こんなこと頼めない。お願い』

真剣な瞳でそう言われ―――

断ることが、できなかった。

「夏美が、亡くなったお母さんから預かったものだって言ってた。咲也くんが持っているべきものなんだけど、まだその時咲也くんは小さかったから、夏美が託されたんだって。もしかしたら―――お母さんは自分が死んでしまうことを予感してたのかもしれないって言ってた。本当は昨日渡そうと思ってたんだけど、渡しそびれちゃって・・・」

俺が差し出したその箱を、咲也は無言で受け取り、ふたを開けた。

「これ・・・・・指輪・・・・・?」

中に入っていたのは、キラキラと眩いばかりに輝くダイヤの指輪だった。

「そう。本物のダイヤの指輪で・・・・・かなり高価なものみたいだよ」

「って・・・・そんな高価なもの、あんな無造作にポケットに入れてたのかよ!」

小川が叫ぶ。

「いや、俺だって持ってるの怖かったよ。でも、バッグとかに入れてそのバッグ失くしたりしたら大変じゃん。だから、一番なくさない方法にしようと思って」

「それがポケット?あんたバカじゃないの!?」

「バカって言うなよ!年上に向かって!」

ぎゃあぎゃあと言い合う俺たちをよそに、咲也はじっとその指輪を見つめていた。

「これを・・・・・俺に・・・・・?」

「あ、うん・・・・・。夏美がお母さんに聞いた話だと、その指輪はお父さんが20歳になった時にお父さんの母親から受け継がれたもので、それを結婚指輪としてお母さんが受け取り、潤くんが20歳になった時に潤くんに受け継がれることになっていたんだって。つまり、そうやって代々受け継がれて来たものらしいよ」

「じゃあ、今度はそれをさっくんのお嫁さんになる人にってこと?」

小川の言葉に、俺は頷いた。

「そうか・・・・・だからなっちゃん・・・・・」

ひとり言のように、咲也が呟く声に、俺と小川は咲也の顔を見た。

「さっくん?だからって、何?」

咲也が顔を上げ、小川の顔を見て、それから俺に視線を映した。

「なっちゃんは・・・・・本当にあんたのことを信頼してたんだな・・・・・」

その瞳は、とても穏やかに俺を見つめていた・・・・・。
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