5 / 39
第5話
しおりを挟む
「―――さっくん、大丈夫?」
隣のさっくんの顔を覗きこむと、さっくんは少し辛そうに、それでも微かに微笑んで頷いた。
「―――平気」
昨日からずっと、顔色が悪いままだ。
さっくんとは小学生のころから10年以上の付き合いになる。
小柄で華奢だったさっくんは、今では俺よりも大きくなってしまったけれど、色白で綺麗な顔は今でも変わらず、どこにいても人目を引く。
こんな葬式という場所でもそれは変わらず、参列者の注目を集めていた。
その中の一人―――
あいつが、真田柊真。
小柄でどこかのんびりとした印象を与える人の良さそうな若い男。
その真田も、チラチラとさっくんを見ていた。
ただその視線は興味本意のものではなく、少し心配そうにさっくんを見つめていた。
なっちゃんのことは、俺もよく知ってる。
優しくて、いつも笑顔だった。
『たっくん、咲也をよろしくね』
いつもそう言って手を振ってくれた。
さっくんはいつだって、なっちゃんが一番だった。
どんなにさっくんがなっちゃんを大事に思ってたか、俺は知ってる。
今、どんなに辛いかも・・・・・。
だから、俺はずっとさっくんの傍にいてあげたいと思ってた。
なっちゃんの代わりはできなくても、誰よりも傍でさっくんを支えてあげたかった。
葬儀が終わり、参列者たちが帰る中、さっくんは喪主を務めていた叔父夫婦と共に自宅へ帰ることになり、俺と真田も同行することになった。
別々のタクシーに乗り家につくと、先に着いていた叔父夫婦が気持ち悪いくらいの愛想笑いを浮かべながら、さっくんに話しかけてきた。
「ねえ咲也くん、この家のことなんだけど」
無駄に化粧の濃い叔母が、気持ちの悪い猫なで声を出し、さっくんが顔を顰めた。
「これから咲也くん1人で住むにはこの家は広すぎるんじゃないかと思うのよ」
「・・・・・は?」
確か、この家はさっくんの両親が残してくれた家だ。
家族4人の思い出も、なっちゃんとの思い出もたくさん詰まっているだろう。
「それでね、よければこの家、売りに出したらどうかと思うのよ?もちろん咲也くんがこれから住むところはわたしたちも一緒に探して大学を卒業するまではお世話させてもらうし、なんならマンションの部屋を買っちゃってもいいじゃない?それで―――」
「売りませんよ」
さっくんの低い声が、叔母さんの猫なで声をぴしゃりと遮る。
「―――この家は、俺たち家族の家です。売るつもりはありません」
さっくんの言葉に、叔母さんの顔が引きつる。
「俺たちって、もうあなたしか―――」
ちょうどそのとき真田も家につき、入ってきた。
「俺1人になっても、売るつもりはありません。俺はずっとこの家で暮らしていきますから」
「咲也くん、でも―――」
「何を期待してるんですか?この家と土地を売った金で俺に適当なマンションに住まわせて、残った金を借金返済に充てようって?」
その言葉に、夫婦の顔色がわかる。
「叔父さん、相変わらずギャンブルにハマってるんでしょ?それで借金して、首が回らないって聞いたけど?」
叔父さんの顔は蒼く、汗が額に浮かんでいた。
叔母さんが悔しそうに唇を噛む。
「そ・・・・・そんなこと、あなたに関係ないでしょう。ただわたしたちは、あなたに年相応の生活をさせようと―――」
「ご親切にどうも。けど、俺ももう今年で20歳です。自分のことは自分で決められますから、叔父さんと叔母さんの力は必要ありませんよ。今回は、俺が留学中のことで葬儀一切を取り仕切ってもらって感謝してます。ありがとうございました」
そう言って、さっくんがぺこりと頭を下げる。
「でも、もう大丈夫ですから。お引き取りいただいて結構ですよ」
そう言って叔父夫婦を見る瞳は鋭く、何の感情もないその目が、逆に有無を言わせぬ圧力をかけているようだった。
「な―――生意気な!子供のくせに、何を言ってるのよ!今までだって、わたしたちがどれだけあなたたちのために―――」
そう言って叔母さんがさっくんに迫った時だった。
さっくんの体がぐらりと揺れたかと思うと―――
まるでスローモーションのように、さっくんがその場に崩れ落ちた。
「さっくん!?」
俺は慌ててさっくんの上にかがみ込み、その肩をつかんだ。
「さっくん!」
息が荒い。
咄嗟にその額に触れると、驚くほど熱かった。
「―――熱が」
「ちょ、ちょっと、大丈夫なの?病院に連れて行った方が―――ねえあなた、わたしたちがここに残ってるから、咲也くんを病院に―――」
叔母さんがそう言って隣の叔父さんの腕を引っ張ってなんの合図か目配せをしている。
何か、よからぬことを企んでいるに違いない。
俺はカッとなって2人に文句を言おうとしたけれど―――
「もう、帰ってもらっていいですか?」
そう言ったのは、真田だった。
「咲也くんは僕たちがついてるから、大丈夫です。あなたたちの役目はもう終わりましたから、どうぞお引き取りを」
猫背だった背筋がピンと伸び、相手を見下すような冷淡な瞳が、2人をまっすぐに見据えていた。
「な、なんであなたにそんなこと――――あなたは部外者で―――」
「すぐにここを出ていかないと、警察を呼びますけど、いいですか?」
抑揚のない事務的な言い方が、一層冷酷に感じさせる。
「・・・・し、失礼するよ。ほら、行こう」
その場の空気に耐えられなくなったのか、夫の方が妻の腕を引っ張る。
「あ、あなた、でも―――」
「いいから!もう行こう!」
叔父に引きずられる様にして、夫婦が家から出て行った。
玄関の扉が閉まる音がすると、真田がすぐにさっくんの傍にかがみこんだ。
「大丈夫?病院に、連れて行く?」
「あ・・・・・たぶん、大丈夫。さっくん、昔からよく疲れてたり、緊張が続いたりすると熱を出してたから・・・・・休ませれば、よくなると思う」
俺の言葉に、真田がほっと息を吐き出す。
さっきまでの能面のような冷たい表情は消え、眉を下げた人のよさそうな顔に戻っていた。
「そっか・・・・・。ふとん、持ってこようか?それとも部屋に運んだほうがいい?咲也くんの部屋ってどこかな」
「・・・・・2階です。俺が、ふとん持ってきますから」
「え、1人じゃ大変だろ?俺も手伝うよ」
そう言って、当然のように俺に着いて来ようとする真田。
「大丈夫ですよ。掛け布団1枚持ってくるだけだから。それより、さっくんをソファーに寝かせるの、手伝ってください」
「あ、うん、わかった」
そう言って、真田は俺と一緒に潤くんをソファーに寝かせたのだった・・・・・。
隣のさっくんの顔を覗きこむと、さっくんは少し辛そうに、それでも微かに微笑んで頷いた。
「―――平気」
昨日からずっと、顔色が悪いままだ。
さっくんとは小学生のころから10年以上の付き合いになる。
小柄で華奢だったさっくんは、今では俺よりも大きくなってしまったけれど、色白で綺麗な顔は今でも変わらず、どこにいても人目を引く。
こんな葬式という場所でもそれは変わらず、参列者の注目を集めていた。
その中の一人―――
あいつが、真田柊真。
小柄でどこかのんびりとした印象を与える人の良さそうな若い男。
その真田も、チラチラとさっくんを見ていた。
ただその視線は興味本意のものではなく、少し心配そうにさっくんを見つめていた。
なっちゃんのことは、俺もよく知ってる。
優しくて、いつも笑顔だった。
『たっくん、咲也をよろしくね』
いつもそう言って手を振ってくれた。
さっくんはいつだって、なっちゃんが一番だった。
どんなにさっくんがなっちゃんを大事に思ってたか、俺は知ってる。
今、どんなに辛いかも・・・・・。
だから、俺はずっとさっくんの傍にいてあげたいと思ってた。
なっちゃんの代わりはできなくても、誰よりも傍でさっくんを支えてあげたかった。
葬儀が終わり、参列者たちが帰る中、さっくんは喪主を務めていた叔父夫婦と共に自宅へ帰ることになり、俺と真田も同行することになった。
別々のタクシーに乗り家につくと、先に着いていた叔父夫婦が気持ち悪いくらいの愛想笑いを浮かべながら、さっくんに話しかけてきた。
「ねえ咲也くん、この家のことなんだけど」
無駄に化粧の濃い叔母が、気持ちの悪い猫なで声を出し、さっくんが顔を顰めた。
「これから咲也くん1人で住むにはこの家は広すぎるんじゃないかと思うのよ」
「・・・・・は?」
確か、この家はさっくんの両親が残してくれた家だ。
家族4人の思い出も、なっちゃんとの思い出もたくさん詰まっているだろう。
「それでね、よければこの家、売りに出したらどうかと思うのよ?もちろん咲也くんがこれから住むところはわたしたちも一緒に探して大学を卒業するまではお世話させてもらうし、なんならマンションの部屋を買っちゃってもいいじゃない?それで―――」
「売りませんよ」
さっくんの低い声が、叔母さんの猫なで声をぴしゃりと遮る。
「―――この家は、俺たち家族の家です。売るつもりはありません」
さっくんの言葉に、叔母さんの顔が引きつる。
「俺たちって、もうあなたしか―――」
ちょうどそのとき真田も家につき、入ってきた。
「俺1人になっても、売るつもりはありません。俺はずっとこの家で暮らしていきますから」
「咲也くん、でも―――」
「何を期待してるんですか?この家と土地を売った金で俺に適当なマンションに住まわせて、残った金を借金返済に充てようって?」
その言葉に、夫婦の顔色がわかる。
「叔父さん、相変わらずギャンブルにハマってるんでしょ?それで借金して、首が回らないって聞いたけど?」
叔父さんの顔は蒼く、汗が額に浮かんでいた。
叔母さんが悔しそうに唇を噛む。
「そ・・・・・そんなこと、あなたに関係ないでしょう。ただわたしたちは、あなたに年相応の生活をさせようと―――」
「ご親切にどうも。けど、俺ももう今年で20歳です。自分のことは自分で決められますから、叔父さんと叔母さんの力は必要ありませんよ。今回は、俺が留学中のことで葬儀一切を取り仕切ってもらって感謝してます。ありがとうございました」
そう言って、さっくんがぺこりと頭を下げる。
「でも、もう大丈夫ですから。お引き取りいただいて結構ですよ」
そう言って叔父夫婦を見る瞳は鋭く、何の感情もないその目が、逆に有無を言わせぬ圧力をかけているようだった。
「な―――生意気な!子供のくせに、何を言ってるのよ!今までだって、わたしたちがどれだけあなたたちのために―――」
そう言って叔母さんがさっくんに迫った時だった。
さっくんの体がぐらりと揺れたかと思うと―――
まるでスローモーションのように、さっくんがその場に崩れ落ちた。
「さっくん!?」
俺は慌ててさっくんの上にかがみ込み、その肩をつかんだ。
「さっくん!」
息が荒い。
咄嗟にその額に触れると、驚くほど熱かった。
「―――熱が」
「ちょ、ちょっと、大丈夫なの?病院に連れて行った方が―――ねえあなた、わたしたちがここに残ってるから、咲也くんを病院に―――」
叔母さんがそう言って隣の叔父さんの腕を引っ張ってなんの合図か目配せをしている。
何か、よからぬことを企んでいるに違いない。
俺はカッとなって2人に文句を言おうとしたけれど―――
「もう、帰ってもらっていいですか?」
そう言ったのは、真田だった。
「咲也くんは僕たちがついてるから、大丈夫です。あなたたちの役目はもう終わりましたから、どうぞお引き取りを」
猫背だった背筋がピンと伸び、相手を見下すような冷淡な瞳が、2人をまっすぐに見据えていた。
「な、なんであなたにそんなこと――――あなたは部外者で―――」
「すぐにここを出ていかないと、警察を呼びますけど、いいですか?」
抑揚のない事務的な言い方が、一層冷酷に感じさせる。
「・・・・し、失礼するよ。ほら、行こう」
その場の空気に耐えられなくなったのか、夫の方が妻の腕を引っ張る。
「あ、あなた、でも―――」
「いいから!もう行こう!」
叔父に引きずられる様にして、夫婦が家から出て行った。
玄関の扉が閉まる音がすると、真田がすぐにさっくんの傍にかがみこんだ。
「大丈夫?病院に、連れて行く?」
「あ・・・・・たぶん、大丈夫。さっくん、昔からよく疲れてたり、緊張が続いたりすると熱を出してたから・・・・・休ませれば、よくなると思う」
俺の言葉に、真田がほっと息を吐き出す。
さっきまでの能面のような冷たい表情は消え、眉を下げた人のよさそうな顔に戻っていた。
「そっか・・・・・。ふとん、持ってこようか?それとも部屋に運んだほうがいい?咲也くんの部屋ってどこかな」
「・・・・・2階です。俺が、ふとん持ってきますから」
「え、1人じゃ大変だろ?俺も手伝うよ」
そう言って、当然のように俺に着いて来ようとする真田。
「大丈夫ですよ。掛け布団1枚持ってくるだけだから。それより、さっくんをソファーに寝かせるの、手伝ってください」
「あ、うん、わかった」
そう言って、真田は俺と一緒に潤くんをソファーに寝かせたのだった・・・・・。
0
あなたにおすすめの小説
愛してやまなかった婚約者は俺に興味がない
了承
BL
卒業パーティー。
皇子は婚約者に破棄を告げ、左腕には新しい恋人を抱いていた。
青年はただ微笑み、一枚の紙を手渡す。
皇子が目を向けた、その瞬間——。
「この瞬間だと思った。」
すべてを愛で終わらせた、沈黙の恋の物語。
IFストーリーあり
誤字あれば報告お願いします!
雫
ゆい
BL
涙が落ちる。
涙は彼に届くことはない。
彼を想うことは、これでやめよう。
何をどうしても、彼の気持ちは僕に向くことはない。
僕は、その場から音を立てずに立ち去った。
僕はアシェル=オルスト。
侯爵家の嫡男として生まれ、10歳の時にエドガー=ハルミトンと婚約した。
彼には、他に愛する人がいた。
世界観は、【夜空と暁と】と同じです。
アルサス達がでます。
【夜空と暁と】を知らなくても、これだけで読めます。
2025.4.28 ムーンライトノベルに投稿しました。
虚ろな檻と翡翠の魔石
篠雨
BL
「本来の寿命まで、悪役の身体に入ってやり過ごしてよ」
不慮の事故で死んだ僕は、いい加減な神様の身勝手な都合により、異世界の悪役・レリルの器へ転生させられてしまう。
待っていたのは、一生を塔で過ごし、魔力を搾取され続ける孤独な日々。だが、僕を管理する強面の辺境伯・ヨハンが運んでくる薪や食事、そして不器用な優しさが、凍てついた僕の心を次第に溶かしていく。
しかし、穏やかな時間は長くは続かない。魔力を捧げるたびに脳内に流れ込む本物のレリルの記憶と領地を襲う未曾有の魔物の群れ。
「僕が、この場所と彼を守る方法はこれしかない」
記憶に翻弄され頭は混乱する中、魔石化するという残酷な決断を下そうとするが――。
『2度目の世界で、あなたと……』 ― 魔法と番が支配する世界で、二度目の人生を ―
なの
BL
Ωとして生まれたリオナは、政略結婚の駒として生き、信じていた結婚相手に裏切られ、孤独の中で命を落とした。
――はずだった。
目を覚ますと、そこは同じ世界、同じ屋敷、同じ朝。
時間だけが巻き戻り、前世の記憶を持つのは自分だけ。
愛を知らないまま死んだ。今度こそ、本物の愛を知り、自ら選び取る人生を生きる。
これは、愛を知らず道具として生きてきたΩが、初めて出会った温もりに触れ、自らの意思で愛を選び直す物語。
「愛を知らず道具として生きてきたΩが転生を機に、
年上αの騎士と本物の愛を掴みます。
全6話+番外編完結済み!サクサク読めます。
後宮に咲く美しき寵后
不来方しい
BL
フィリの故郷であるルロ国では、真っ白な肌に金色の髪を持つ人間は魔女の生まれ変わりだと伝えられていた。生まれた者は民衆の前で焚刑に処し、こうして人々の安心を得る一方、犠牲を当たり前のように受け入れている国だった。
フィリもまた雪のような肌と金髪を持って生まれ、来るべきときに備え、地下の部屋で閉じ込められて生活をしていた。第四王子として生まれても、処刑への道は免れられなかった。
そんなフィリの元に、縁談の話が舞い込んでくる。
縁談の相手はファルーハ王国の第三王子であるヴァシリス。顔も名前も知らない王子との結婚の話は、同性婚に偏見があるルロ国にとって、フィリはさらに肩身の狭い思いをする。
ファルーハ王国は砂漠地帯にある王国であり、雪国であるルロ国とは真逆だ。縁談などフィリ信じず、ついにそのときが来たと諦めの境地に至った。
情報がほとんどないファルーハ王国へ向かうと、国を上げて祝福する民衆に触れ、処刑場へ向かうものだとばかり思っていたフィリは困惑する。
狼狽するフィリの元へ現れたのは、浅黒い肌と黒髪、サファイア色の瞳を持つヴァシリスだった。彼はまだ成人にはあと二年早い子供であり、未成年と婚姻の儀を行うのかと不意を突かれた。
縁談の持ち込みから婚儀までが早く、しかも相手は未成年。そこには第二王子であるジャミルの思惑が隠されていて──。
愛などもう求めない
一寸光陰
BL
とある国の皇子、ヴェリテは長い長い夢を見た。夢ではヴェリテは偽物の皇子だと罪にかけられてしまう。情を交わした婚約者は真の皇子であるファクティスの側につき、兄は睨みつけてくる。そして、とうとう父親である皇帝は処刑を命じた。
「僕のことを1度でも愛してくれたことはありましたか?」
「お前のことを一度も息子だと思ったことはない。」
目が覚め、現実に戻ったヴェリテは安心するが、本当にただの夢だったのだろうか?もし予知夢だとしたら、今すぐここから逃げなくては。
本当に自分を愛してくれる人と生きたい。
ヴェリテの切実な願いが周りを変えていく。
ハッピーエンド大好きなので、絶対に主人公は幸せに終わらせたいです。
最後まで読んでいただけると嬉しいです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる