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第4話
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「―――ただいま」
「おかえりー」
幼馴染のタクの部屋に入ると、タクは俺が出て行った時と一切違わない格好で、ゲームに集中していた。
「―――まだやってたんだ」
小川拓海ーーータクとは小学生からの親友だ。
もちろん、姉のこともよく知っている。
本当だったら、今日も一緒に行きたいと言ってたんだけど・・・・・。
タクは、一旦ゲームをやめると、くるりと振り返った。
「―――大丈夫?さっくん」
「うん」
俺がソファーに座ると、タクもその隣に座り、俺の顔を覗きこんだ。
「―――良かった。泣いてないね」
優しく笑うタク。
お通夜に行ったら、俺はきっと泣いてしまうと思ったから、タクにはここで待っててと言ったんだ。
泣き顔を見られたくなかったから・・・・・。
「・・・・変なやつがいて。なんか、泣く雰囲気じゃなくなった」
「変なやつ?誰?」
「なっちゃんの、彼氏ってやつ」
俺の言葉に、タクが『ああ』と呟く。
「結婚することになってたんでしょ?変なやつなの?」
「うん。変。すげえ変。なんか俺の中に―――」
「さっくんの中に?」
「・・・・・・・」
「さっくん?」
「―――風呂、入ってくる」
「へ?」
目を瞬かせるタクを後に、俺は風呂場に向かった。
脱衣所で服を脱ぎ、洗面台の鏡に映った自分の顔を見る。
―――俺の中に、なっちゃんが?
「―――ばかばかしい」
真田柊真。
姉と結婚するはずだった男に、今日初めて会った。
メールと一緒に送られてきた写真を見ていたから、すぐにあいつが真田だとわかった。
人のよさそうな、穏やかな雰囲気の男。
なっちゃんと似合いそうだなって思った。
おっとりしてて、お人よしのなっちゃんは、いつも俺のことにばかり気を使って自分のことは後回し。
そんななっちゃんが、俺は大好きだった。
たった1人の姉。
2人きりの姉弟。
―――これからは、1人きりになるんだな・・・・・
その時だった。
『―――咲也』
鏡の中の、俺の口が動いた。
「・・・・・え!?」
―――なんだ?今の・・・・俺の声・・・・・じゃなくて・・・・
『咲也・・・・やっと会えた』
にっこりと笑う、鏡の中の俺。
その声は・・・・・
「なっちゃん・・・・・・?」
『気付いてくれた・・・・・咲也、お帰り』
「ほんとに・・・・・なっちゃん?じゃあ、本当に俺の中にいるの?」
あいつの言ったことは、本当だった・・・・・?
『そうよ。咲也・・・・元気だった?』
「元気・・・・・なわけ、ないじゃん!なっちゃんが死んじゃったのに・・・・・!」
俺の言葉に、なっちゃんが悲しそうに表情を曇らせた。
『ごめんね・・・・・。咲也に、花嫁姿、見てもらおうと思ってたのに・・・・・』
「そんなもん、見たかねえよ。俺は、ずっとなっちゃんと一緒にいたかったんだ。帰ってきたら・・・・ずっと一緒にいられるって思ってた。なのに、勝手に結婚は決めるわ、俺が帰る前に死んじまうわ・・・・・
俺は・・・・これから、どうすればいいんだよ?」
『咲也・・・・泣かないで』
「泣いてねえよ!」
俺はなっちゃんから目をそらし、きゅっと下唇を噛んだ。
『ごめんね。わたしはもう、咲也の頭を撫でてあげることも、涙を拭いてあげることもできない・・・・・』
震えるなっちゃんの声に、俺はぎゅっと拳を握りしめた。
「そんなの・・・・・俺だって、もう子供じゃねえんだから・・・・」
『そうね・・・・・。だけど、わたしにとって咲也は、いつまでも可愛い弟だから・・・・・』
「・・・・・・」
『ねえ咲也、柊真と話してみて、どうだった?』
「どうって・・・・・別に」
『すごく、優しい人なのよ。きっと、あなたともうまくやっていけると思うの』
その言葉に、俺は鏡の中の自分―――なっちゃんを見つめた。
「―――どういう意味?」
『柊真のことを、お兄さんだと思って欲しいの。わたしの代わりに、柊真にこれからのこととか、いろいろ相談して・・・・・きっと力になってくれると思うの』
「・・・・・ふざけてんの?そんなこと、思えるわけないじゃん。俺、今日初めてあの人に会ったんだよ?いくらなっちゃんの恋人だからって、兄貴だなんて・・・・・!」
『でも咲也、あなたはまだ大学生だし、これからきっと、1人じゃ困ることが―――』
「ふざけんな!俺は―――俺は、兄貴なんていらない!俺にはなっちゃんだけだ!なっちゃんだけが俺の家族なんだよ!あんな奴―――!!」
『さっくん!?どうしたの!?何怒鳴ってるの!?』
脱衣所の扉を、タクがどんどんと叩いていた。
「あ・・・・・」
鏡の中の俺の顔をしたなっちゃんが、悲しそうに顔をゆがませ―――
次の瞬間には、そこには額に汗を浮かべた青白い俺の顔が映っていた。
『さっくん!!大丈夫!?』
ガチャリと、扉を開ける。
タクが、心配そうな顔でそこに立っていた。
「さっくん・・・・・どうしたの?なんか、声がしたからびっくりして・・・・・」
「・・・・ごめん。何でもない」
「なんでもないって・・・・・」
「大丈夫だから・・・・風呂入ったら、もう寝るよ。ごめんね、心配かけて」
「いいけど・・・・・。ねえ、明日、やっぱり俺も一緒に行こうか?さっくん、顔色悪いよ」
その言葉に、俺はちょっと考えた。
きっと、明日もあいつは来るだろう。
「・・・・・そうだね。じゃあ、明日はタクと一緒に行くよ。タクは、大丈夫?何か予定は?」
「俺なら大丈夫。じゃあ、ゆっくり風呂に入って、疲れとってね」
「うん、ありがとう」
扉を閉め、溜息をつく。
―――めまいがする。
俺は、額を抑え、しばらくその場から動くことができなかった・・・・・。
「おかえりー」
幼馴染のタクの部屋に入ると、タクは俺が出て行った時と一切違わない格好で、ゲームに集中していた。
「―――まだやってたんだ」
小川拓海ーーータクとは小学生からの親友だ。
もちろん、姉のこともよく知っている。
本当だったら、今日も一緒に行きたいと言ってたんだけど・・・・・。
タクは、一旦ゲームをやめると、くるりと振り返った。
「―――大丈夫?さっくん」
「うん」
俺がソファーに座ると、タクもその隣に座り、俺の顔を覗きこんだ。
「―――良かった。泣いてないね」
優しく笑うタク。
お通夜に行ったら、俺はきっと泣いてしまうと思ったから、タクにはここで待っててと言ったんだ。
泣き顔を見られたくなかったから・・・・・。
「・・・・変なやつがいて。なんか、泣く雰囲気じゃなくなった」
「変なやつ?誰?」
「なっちゃんの、彼氏ってやつ」
俺の言葉に、タクが『ああ』と呟く。
「結婚することになってたんでしょ?変なやつなの?」
「うん。変。すげえ変。なんか俺の中に―――」
「さっくんの中に?」
「・・・・・・・」
「さっくん?」
「―――風呂、入ってくる」
「へ?」
目を瞬かせるタクを後に、俺は風呂場に向かった。
脱衣所で服を脱ぎ、洗面台の鏡に映った自分の顔を見る。
―――俺の中に、なっちゃんが?
「―――ばかばかしい」
真田柊真。
姉と結婚するはずだった男に、今日初めて会った。
メールと一緒に送られてきた写真を見ていたから、すぐにあいつが真田だとわかった。
人のよさそうな、穏やかな雰囲気の男。
なっちゃんと似合いそうだなって思った。
おっとりしてて、お人よしのなっちゃんは、いつも俺のことにばかり気を使って自分のことは後回し。
そんななっちゃんが、俺は大好きだった。
たった1人の姉。
2人きりの姉弟。
―――これからは、1人きりになるんだな・・・・・
その時だった。
『―――咲也』
鏡の中の、俺の口が動いた。
「・・・・・え!?」
―――なんだ?今の・・・・俺の声・・・・・じゃなくて・・・・
『咲也・・・・やっと会えた』
にっこりと笑う、鏡の中の俺。
その声は・・・・・
「なっちゃん・・・・・・?」
『気付いてくれた・・・・・咲也、お帰り』
「ほんとに・・・・・なっちゃん?じゃあ、本当に俺の中にいるの?」
あいつの言ったことは、本当だった・・・・・?
『そうよ。咲也・・・・元気だった?』
「元気・・・・・なわけ、ないじゃん!なっちゃんが死んじゃったのに・・・・・!」
俺の言葉に、なっちゃんが悲しそうに表情を曇らせた。
『ごめんね・・・・・。咲也に、花嫁姿、見てもらおうと思ってたのに・・・・・』
「そんなもん、見たかねえよ。俺は、ずっとなっちゃんと一緒にいたかったんだ。帰ってきたら・・・・ずっと一緒にいられるって思ってた。なのに、勝手に結婚は決めるわ、俺が帰る前に死んじまうわ・・・・・
俺は・・・・これから、どうすればいいんだよ?」
『咲也・・・・泣かないで』
「泣いてねえよ!」
俺はなっちゃんから目をそらし、きゅっと下唇を噛んだ。
『ごめんね。わたしはもう、咲也の頭を撫でてあげることも、涙を拭いてあげることもできない・・・・・』
震えるなっちゃんの声に、俺はぎゅっと拳を握りしめた。
「そんなの・・・・・俺だって、もう子供じゃねえんだから・・・・」
『そうね・・・・・。だけど、わたしにとって咲也は、いつまでも可愛い弟だから・・・・・』
「・・・・・・」
『ねえ咲也、柊真と話してみて、どうだった?』
「どうって・・・・・別に」
『すごく、優しい人なのよ。きっと、あなたともうまくやっていけると思うの』
その言葉に、俺は鏡の中の自分―――なっちゃんを見つめた。
「―――どういう意味?」
『柊真のことを、お兄さんだと思って欲しいの。わたしの代わりに、柊真にこれからのこととか、いろいろ相談して・・・・・きっと力になってくれると思うの』
「・・・・・ふざけてんの?そんなこと、思えるわけないじゃん。俺、今日初めてあの人に会ったんだよ?いくらなっちゃんの恋人だからって、兄貴だなんて・・・・・!」
『でも咲也、あなたはまだ大学生だし、これからきっと、1人じゃ困ることが―――』
「ふざけんな!俺は―――俺は、兄貴なんていらない!俺にはなっちゃんだけだ!なっちゃんだけが俺の家族なんだよ!あんな奴―――!!」
『さっくん!?どうしたの!?何怒鳴ってるの!?』
脱衣所の扉を、タクがどんどんと叩いていた。
「あ・・・・・」
鏡の中の俺の顔をしたなっちゃんが、悲しそうに顔をゆがませ―――
次の瞬間には、そこには額に汗を浮かべた青白い俺の顔が映っていた。
『さっくん!!大丈夫!?』
ガチャリと、扉を開ける。
タクが、心配そうな顔でそこに立っていた。
「さっくん・・・・・どうしたの?なんか、声がしたからびっくりして・・・・・」
「・・・・ごめん。何でもない」
「なんでもないって・・・・・」
「大丈夫だから・・・・風呂入ったら、もう寝るよ。ごめんね、心配かけて」
「いいけど・・・・・。ねえ、明日、やっぱり俺も一緒に行こうか?さっくん、顔色悪いよ」
その言葉に、俺はちょっと考えた。
きっと、明日もあいつは来るだろう。
「・・・・・そうだね。じゃあ、明日はタクと一緒に行くよ。タクは、大丈夫?何か予定は?」
「俺なら大丈夫。じゃあ、ゆっくり風呂に入って、疲れとってね」
「うん、ありがとう」
扉を閉め、溜息をつく。
―――めまいがする。
俺は、額を抑え、しばらくその場から動くことができなかった・・・・・。
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