恋人が乗り移った君に恋をした

まつも☆きらら

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第14話

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「―――やばい」

俺は、風呂につかりながら1人呟いた。

何がやばいって、風呂上がりの咲也がやばすぎる。

白いバスローブに身を包んで、髪をタオルで拭きながら現れた咲也。

濡れた黒髪と、ほんのり上気した白い肌。

艶かしく浮き出た鎖骨に、汗が光って輝いて見えた。

男なのに、その姿は色っぽくて、思わず目をそらせてしまう。

明らかに挙動不審になった俺を咲也が怪訝そうに見ていたけれど、俺はその場から逃げだすように風呂場へ駆け込んだのだった。

―――どうかしてる。咲也は、夏美の弟だぞ。

男相手に、なんだってこんなにドキドキするんだ。

俺はどうにか風呂を出るまでに心を落ち着かせ、リビングへ戻った。


咲也は、すでにパジャマに着替えペットボトルの水を飲んでいた。

何となくほっとして、俺は咲也の向かい側のソファーに腰を下ろした。

グレーのボーダーのスウェット地のパジャマを着た咲也は、前髪がぺたんと降りて凛々しい眉毛を隠し、普段よりも幼く見えた。

―――可愛い。

ソファーの上に体育座りをしてテレビを見ている姿は、『男』というよりは『男の子』という感じ。

「・・・・コーヒーでも飲む?」

「へ?ああ、いいよ、俺が入れる。咲也も飲むでしょ?」

「うん・・・・。ありがと」

小首を傾げてはにかむ咲也。


―――参ったな・・・・可愛すぎて、直視できない・・・・・


まるで、中学生の初恋みたいじゃないか。

それでも何とか心を落ち着かせ、コーヒーを入れて戻る。

『ーーーありがと、柊真』

突然変わった声に、俺は思わず動きを止める。

「―――夏美?もう代わったの?」

『うん。咲也が、いいって』

そう言って、嬉しそうに微笑む夏美。

顔は咲也のままなのに、声と表情が変わるだけで、がらりと雰囲気が変わる。

今、目の前にいるのは咲也であって咲也じゃない。

俺の恋人だった女性、夏美・・・・・。

テーブルにコーヒーを置いてソファーに座った俺に、ぴったりと寄り添う夏美。

夏美が生きていた頃、こうして2人肩を寄せ合って過ごしていたけれど。

あの時は、いつもほのぼのとして・・・・・・自然に手を繋いだり、キスをしたり。

照れ合いながらもそこには緊張感なんてなくて。

いつも笑ってた。

俺は、そんな夏美とのゆったりとした時間が好きで・・・・・

ずっと夏美と一緒にいたいと、プロポーズしたんだ。

夏美は、満面の笑みを浮かべ、頷いてくれた。

ごく自然な成り行きだった。

そこに涙なんて一切なくて。

ただ、ほのぼのとした空気が流れてた。

―――でも、今は・・・・・

中身は夏美のはずなのに、自分にピタリと寄り添っているのが咲也だというだけで・・・・・

胸が、うるさいくらいにドキドキと高鳴っていた。

『―――柊真と、こうして過ごしたかったの』

夏美が言った。

『外では、無理だものね。咲也に迷惑が掛かっちゃう』

「だね。それに、俺の身が持たない」

その言葉に、夏美が目を瞬かせて俺を見た。

『どうして?』

「だって、咲也って人気者じゃん。タクも、幹雄くんも圭くんも咲也が大好きなんだよ?俺がこんなふうに咲也とくっついてんの見たら、俺、ただじゃ済まされない」

そう言って、わざとげっとした顔をしてみせると、夏美がぷっと吹き出した。

『あはは、そうかも。タクのことは昔から知ってるけど・・・・咲也があのカフェでバイトをしてから、初めてお店に行ったとき、わたしあの2人にすごい目で睨まれたもの』

「マジで?」

『うん。わたしと咲也ってあんまり似てないから、姉だってわからなかったのね。もちろんすぐに咲也が紹介してくれたから、その後はとても親切にしてもらったけど。―――わたし以上に、咲也のことを心配してくれてるのよね』

そう言って微笑む夏美は嬉しそうで・・・・・

だけど、やっぱりどこか寂しそうだった。

「―――夏美」

俺の声に、夏美が顔を上げる。

『・・・・柊真・・・・キス、して・・・・・?』

俺は夏美の髪を撫で・・・・・・

そっと、唇を合わせた。

触れるだけの軽いキス。

夏美が、ちょっと不満そうに口を尖らせる。

『もっと、ちゃんとして』

言われて、俺は戸惑った。

最初の時は、俺も感情が高ぶって相手が咲也だということも忘れ、夏美にするように恋人としてのキスをしたけれど・・・・・

だけど、冷静になって見てみれば、今目の前にいるのは咲也なわけで・・・・・

『今、柊真とキスしてるのはわたしよ・・・・・?』

夏美の、潤んだ瞳が俺を見つめる。

俺は、もう一度夏美にキスをした。

今度は深く、舌を絡めて・・・・・

『ん・・・・・っ、ふ・・・・・』

目を瞑って聞いていれば、それは間違いなく夏美の声で。

だけど、その唇の感触は―――

俺が知っている夏美のものではなくて

咲也の・・・・・・

長いキスの後、そっと夏美を抱きしめる。

その体も、やっぱり咲也の少し細すぎる体で。

俺は、すぐには夏美の―――咲也の顔が見れなかった。

もう少し、落ち着いてから・・・・・

そう思った時。

『柊真ーーー』

夏美が俺の首に腕を絡め、再び深いキスをしてきた。

何度も何度も、俺の髪に手を差し入れながら―――

『柊真・・・・お願い・・・・』

熱っぽい瞳で見つめられ、俺の胸がドクンと音をたてた。

夏美の瞳が、俺を求めていた・・・・・。
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