恋人が乗り移った君に恋をした

まつも☆きらら

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第21話

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『両親が死んだ10年前・・・・咲也はまだ10歳で、わたしもまだ高校生だった。どうやって生きて行ったらいいのかもわからなくて、言われるがままに叔父と叔母の家で一緒に暮らすことになったの』

夏美が静かに話し始めた。

『でも、わたしも咲也も昔からあの夫婦が苦手で・・・・わたしが高校を卒業したら、この家で咲也と2人で暮らそうと思ってた。それまでは、お世話になるしかないって。

両親の保険金があったけど、なるべく自分たちだけで生活できたらって、わたしはアルバイトを始めて、毎日帰るのが遅かった。

咲也は小さいころからお姉ちゃん子だったから、寂しい想いをさせちゃってると思ってたけど・・・・。でも、寂しいだけだと思ってたの。元気がなかったり、いつもぼんやりしているように見えたのは・・・・・』

「それが、違ったってこと?」

『そう・・・・わたし、テスト前はバイトを休むことにしてたんだけど、叔父さんはそんなこと知らなくて。

わたしが帰った時、みんなの姿は見えなくて。叔母さんはまたお買い物に行ってるんだろうって思ってたんだけどね。不気味なくらい静かで・・・・いやな予感がしたの。

咲也を探してて・・・・叔父さんの部屋の前に立った時、中から叔父さんの声が微かに聞こえてきて・・・・わたし、ノックをしないで、そっとドアを開けて覗いてみたの。そしたら・・・・・』

夏美の体が震えだし、きゅっと拳を握りしめた。

『叔父さんが・・・・寝ている咲也を裸にして、その体に触れていたの・・・・』

「そんな・・・・・・」

俺の体から血の気が引いて行く。

『わたし、驚いて叔父さんを問い詰めた。叔父さんは、ただ可愛いから触れたかっただけだって、そう言ってた。でも・・・・叔父さんはそのために咲也に睡眠薬まで飲ませていたのよ』

「睡眠薬・・・・・?」

『ええ。咲也にわからないようにジュースに混ぜて、飲ませていたの。だから、咲也の様子がおかしかったんだって、わたしはその時ようやく気付いて・・・・・ずっと一緒にいたのに・・・・ずっと、気付いてあげられなかった・・・・・』

夏美が、両手で顔を覆った。

「夏美・・・・・」

俺は、夏美の肩を抱き寄せた。

『すぐにバイトを辞めようと思った。咲也を1人にできないって。でも、どうしてもすぐには辞められなくて・・・・1ヶ月、どうしても続けなくちゃならなくて・・・・・叔父さんにお願いしたの。叔母さんには黙ってるから、絶対に咲也には手を出さないでって。叔父さんは叔母さんに頭が上がらないから、承諾してくれたわ。でも・・・・・』

夏美の瞳から、涙が零れ落ちた。

『あの人は・・・・病気なのよ。我慢が・・・・できなくて・・・・・』

「まさか・・・・・」

『ジュースに睡眠薬を混ぜて咲也に飲ませて・・・・・でも、その時はなぜか薬がなかなか効かなかったらしくて・・・・意識が朦朧とする咲也に、叔父さんは無理やりもっと睡眠薬を飲ませたの。

咲也は・・・・意識が戻らなくて・・・・わたしのバイト先に、叔母さんから電話があったの。咲也が意識不明で病院に運ばれたって・・・・。

咲也は、3日間眠り続けて、ようやく意識を取り戻した。幸い、後遺症は残らなかったけれど・・・・しばらくは暗闇を怖がって、夜、眠れない日が続いたの。その時・・・・咲也が、わたしを守ろうとしたんだって、わかったのよ』

「守ろうとした?どういうこと?」

『咲也も、意識が朦朧としていてはっきりとは覚えてなかったの。でも・・・・・叔父さんに言われたことは、覚えてたわ。
叔父さんは、咲也にこう言ったのよ。「夏美ちゃんに、辛い想いはさせたくないだろう?咲也が叔父さんの言うとおりにしていれば、夏美ちゃんには何もしないよ」って・・・・・。
咲也は、わけもわからず・・・・ただ、わたしを守りたい一心で、睡眠薬を飲んだのよ!』

夏美の目からは、大粒の涙がぽろぽろと流れては落ちた。

俺の体は、怒りで震えていた。

「警察に・・・・言おうとは思わなかったの?」

『もちろん、思ったわ。叔父さんを訴えようと思った。叔母さんにも、もう隠しておけないと思った。でも、叔父さんは叔母さんに「咲也が眠れないっていうから睡眠薬を渡したけど、飲む量を間違えたんじゃないか」って話してたのよ。叔母さんはその話を信じて・・・・・わたしの言葉なんて、聞く耳持ってくれなかった。高校生の言うことなんて、信用してくれない。警察だって、きっと同じだって、わたしは絶望的な気持ちになったの』


まだ高校生だった夏美にとって、精神的にぎりぎりだったんだろう。

そして、夏美と咲也はすぐにその家を出て、2人でこの家に戻ったと。


それから、咲也は家事などを積極的に自分でやるようになり、夏美を助けるようになったという。

『わたしは、ずっと咲也を守ってるつもりだったのに・・・・・本当は、わたしが咲也に守られてたのよ・・・・・今だって・・・・あの男に襲われた時、わたしは咲也を守ろうとしたのに、咲也はわたしを抑え込んだの』

「咲也が・・・・・・」

『咲也の、心の声が聞こえた。「なっちゃん、出ちゃダメだ!出るな!」って・・・・・。わたしはもう死んでるのに・・・・・咲也は、わたしを守ろうとしたのよ・・・・・』

そう言って泣き続ける夏美を、俺は抱きしめた。

そして、心に決めた。

「夏美・・・・・咲也は、俺が守るから」

その言葉に、夏美が顔を上げる。

『柊真・・・・?』

夏美には、嘘をつきたくない。

この気持ちを、夏美にはちゃんと伝えなきゃいけない。

そう思った。

「夏美、俺・・・・・咲也のこと―――」

そこまで言った時。

夏美の手が、俺の唇に触れた。

―――え・・・・・?

『その先は・・・・・まだ、言わないで?』

「え・・・・・・」

『わかってる・・・・・つもりよ?柊真の気持ち・・・・・』

そう言って、夏美は寂しげに微笑んだ。

『でも・・・・・お願い。まだ、言わないで欲しいの』

「夏美・・・・・」

『あのね、来週、この近くで花火大会があるの。知ってる?』

「ああ・・・・・そういえば、どっかでポスター見たかも」

『その花火大会を・・・・柊真と一緒に、見たいの。ずっと、楽しみにしてたの。毎年咲也と一緒に見ていた花火大会を、今年は柊真も一緒に・・・・・3人で、見れたらいいなって。だから、それまで。それまで、咲也の中にいさせて欲しいの・・・・・』

そう言って瞳を潤ませる夏美に、いやだなんて言えるわけがない。

「・・・・わかった。約束、するよ」

『ありがとう、柊真』

そう言って夏美はふわりと笑い、ゆっくりと立ち上がった。

「夏美?」

『咲也を、休ませなくちゃ。また、熱が出てきたみたい。――――最近ずっと、夜遅くまでわたしと話をしてたの』

「え・・・・・そうなの?」

咲也の部屋へと向かう夏美の体を支えながら、俺も夏美について歩いて行った。

『うん・・・・・咲也の具合が悪いのは、たぶんそのせいだと思う』

「え・・・・・」

『ちょっと、ここで待ってて?パジャマに着替えちゃうから』

そう言われ、部屋の外で少し待ち、パジャマに着替えた夏美に部屋へ招き入れられる。

『咲也と話すとき―――鏡に映る咲也の体を借りて、わたしは喋ってるけど・・・・。結局それも咲也の体だから。咲也は、2倍の体力を使ってるんだと思うの。加えて睡眠不足と、不摂生。いつもならちゃんと自分で料理を作るのに、最近はインスタントものか、それすら食べないでいることが多いの。ちゃんと食べなさいって言ってるんだけど・・・・』

咲也の部屋のベッドに横になる夏美。

ふとんをかけてやると、夏美は俺の手をぎゅっと握った。

『柊真・・・・咲也を、見てやってくれる?』

「え・・・・・」

『たぶん、柊真の言うことなら聞くと思うの。ちゃんと食べろって。ちゃんと寝ろって。柊真がここに泊ってくれてもいいし』

と、いきなり夏美が言いだしたもんだから、俺はぎょっと目を剥いた

「は!?いや、それは―――」

『約束、守ってくれるんでしょう?柊真』

にっこりと微笑む夏美。

―――咲也の顔で、その笑顔は反則だろ!

ふと、夏美が真剣な顔になる。

『・・・・・本当は、ずっと前から気付いてたの。咲也が・・・・他の子とはちょっと違うって』

「違う・・・・・?」

『小さいころから、咲也は女の子よりも可愛くて・・・・・もちろん女の子にも人気があったけど。男の人から、好かれることがすごく多かった。同じ年頃の男の子なら、まだ仲が良くていいわねって思うだけでよかった。でも、近所の大人の男の人や、先生までが、咲也をいやらしい目で見てることに気付いて・・・・・。わたし、ずっと心配だったの。咲也のことが・・・・・』

―――そういうことだったのか。

年が離れてるとは言っても、夏美の咲也への過保護ぶりは少し度が過ぎているんじゃないかと思うことがあった。

そういうことが原因だったのなら、納得できる。

普通なら年頃の女の子に対する心配が、咲也には必要だったのだろう。

咲也に自覚がない分、余計に・・・・・。

結局、あの叔父にされていたことも、咲也にははっきり告げられていないのだ。


『・・・・柊真になら、任せられると思ってるの』

そう言って、夏美はちょっといたずらっぽい笑みを浮かべた。

『咲也を・・・・大切にしてくれるでしょう?』

「あ・・・・・うん・・・・・」

『咲也が目覚めた時―――傍にいてあげてね?』

そう言って、目を閉じた夏美を。

俺はちょっと恨めしく思いながら見つめたのだった・・・・・。

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