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第14話
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ムウはいつの間にか、料理を覚えていた。
家にいる時間が多いムウは、俺が絵を描いている時以外はテレビを見ていることがほとんどだ。
そのテレビで、ムウがよく見ているのがなぜか料理番組で。
いつの間にか料理のレパートリーも増え、それがまた、どれを食べてもうまいときてる。
「うまっ。ムウくん、すげえなあ。俺、毎日ここに食べにきたいよ」
奈央がパスタを食べて、感心したように言う。
「お前は母ちゃんの作ってくれる飯食えよ。ちゃんと作ってくれるんだろ」
「そうだけどさぁ。ムウくんの作るものっておしゃれでうまくて・・・。こんなん作られたら惚れちゃうよ」
その言葉に、ムウが目を瞬かせる。
「え、ナオ、俺に惚れちゃうの?」
「ムウ」
「惚れちゃう惚れちゃう。ムウくん、俺と付き合ってくれる?」
「奈央!」
「え~どうしようかな~」
「ムウ!」
むっとする俺に、2人がゲラゲラと笑う。
まったくもう・・・・。
すっかり仲良くなったのはいいけど、奈央も諒も、ムウのこと好き過ぎるんだよ。
冗談のつもりかもしれないけど、なんかひやひやすんだよな・・・・・。
「じゃあね、ムウくん、また新しいゲーム持って来るから」
「うん!またね、ナオ」
奈央が10時過ぎにようやく帰り、ムウと2人きりになる。
「ムウ、風呂入る?」
「うん!」
風呂には、相変わらず2人一緒に入っていた。
俺もさすがに慣れてしまって、ムウに1人で入れとは言わなくなった。
それでも、ムウのきれいな体を見るとやっぱりドキドキしてしまうけれど・・・・・。
「ねえ、今日は画廊でなんの話してきたの?」
バスタブに浸かり、先日100均の店で買ってきたアヒルのおもちゃを弄りながらムウが聞く。
俺はムウの向かい側で足を曲げ、体を小さくして湯につかりながら、髪をかき上げた。
「あー、なんか、個展をやらないかって」
「個展って何?」
「画廊の店内を借りて、絵を展示してもらうんだよ。そこにお客さんに見に来てもらって、気に入ったモノがあれば買うこともできる」
「ふーん。それを、アキがやるの?いつ?」
「まだ、やるって決まったわけじゃないよ。今の状態じゃ出せる絵がなくて・・・・。でも、オーナーは1年後に出来るように準備を始めたらどうかって言ってくれてるんだ」
「1年後・・・・・?」
ムウが、突然アヒルを弄っていた手を止め、俺を見上げた。
「うん。やっぱりこれから出す絵を描くとなると、そのくらいの期間は必要ってことになって」
「そう・・・・なんだ・・・・・」
ムウは低い声でそう言うと、アヒルを離し、俯いた。
「ムウ?どうかした?」
「―――ううん、なんでもないよ」
俺の言葉に、ムウは顔を上げ笑顔をつくったけれど、それはいつものはじけるような笑顔ではなかった。
「ムウ・・・・?もしかして・・・・1年後には、ここにいられないの?天国に、帰るの・・・・・?」
俺の胸が、ドクンと嫌な音をたてた。
そりゃあ、最初からわかってたことだけど。
ムウは、いつかは天国に帰ってしまうんだって。
でも―――
ムウが、俺の言葉にびくりと体を震わせた。
「ちが―――違うよ。俺は―――」
ムウが何か言おうとしたけれど、俺は、その言葉を聞く前にムウの体を引き寄せていた。
「アキ―――っ」
その声を遮るように、俺はムウの赤い唇を塞いだ。
「―――んっ、ぁ・・・・・・ッ」
一瞬体を強張らせるムウの後頭部を手で押さえ、その唇の隙間から舌を侵入させ戸惑うムウの舌を無理やり絡め取る。
―――いやだ。ムウと、離れるなんて―――
―――ムウが、好きだ・・・・・
いつもみたいに、優しくて穏やかなアキじゃなかった。
こんなに、アキって力が強かった・・・・・?
俺が、抵抗できないくらい・・・・・?
熱い口づけに、俺は頭が真っ白になっていたけれど・・・・・
突然、気付いてしまった。
この熱さは、リロイの口付けとは違うって。
リロイとのキスは・・・・・あれは・・・・・
熱いと感じていたあれは・・・・・・
―――熱かったんじゃない―――痛かったんだ・・・・・
舌が絡み合って、俺は初めてのことにそれが『熱い』と感じていたけど―――
あれは、『痛み』だったんだ。
兄弟で愛し合うことは禁区だって。
2人の関係は知られてはいけないことだって。
俺もリロイも知ってた。
もし誰かに知られたら、罰を受けなければならないって、わかってたんだ・・・・・。
だから、俺の体は『痛み』を感じたんだ。
それは、このままじゃいけない。やめなければいけないということを、体が俺に知らせていた警告・・・・・。
それなのに俺は、それに気付かなかった―――
いや・・・・・気付かないふりをしてただけなのかも・・・・・・
―――ポチャン―――
何かがお湯の中に落ちる音に、アキがはっとして唇を離した。
俺の目からは水晶の涙が零れ、お湯の中に落ちていた。
「ムウ?なんで泣くの?・・・・いやなの・・・・?」
アキが、悲しそうな目で俺を見つめた。
俺は首を横に振り、今度は自分からアキにキスをした。
「―――好きだよ、アキ・・・・・」
アキがほっとしたように息を吐き、俺を優しく抱きしめてくれた。
「俺も、好き・・・・。ムウ、どこにも行かないで・・・・・」
耳に、こめかみに、瞼についばむようなキスをして―――
再び舌を絡め合う。
アキの舌先から熱を感じ、やがて体中が熱くなる。
それは確かに熱いと感じるもの。
アキからしか感じることができない、熱―――
俺は、バカだ。
できそこないの天使。
警告にも気付かずに―――
リロイをあんな目にあわせてしまったのは、俺の責任だ。
―――リロイ、ごめんね・・・・・。
絶対に、リロイを檻から出さなくちゃならない。
自分の命に代えても―――
「ん・・・・・ッ、ふ・・・・・ぁ・・・・」
キスの合間に吐息が漏れ、アキの手が俺の体をなぞり、快感が背中を這いあがる。
「アキ・・・・・好き・・・・アキ・・・・・」
俺はアキの首に噛みつくようにキスをして、その背中に腕を回してきつく抱きついた。
アキが、俺の耳元に囁く。
「―――ムウ、部屋に行こう・・・・のぼせそうだよ・・・・・」
アキの熱い吐息に、俺の体が震えた・・・・・。
家にいる時間が多いムウは、俺が絵を描いている時以外はテレビを見ていることがほとんどだ。
そのテレビで、ムウがよく見ているのがなぜか料理番組で。
いつの間にか料理のレパートリーも増え、それがまた、どれを食べてもうまいときてる。
「うまっ。ムウくん、すげえなあ。俺、毎日ここに食べにきたいよ」
奈央がパスタを食べて、感心したように言う。
「お前は母ちゃんの作ってくれる飯食えよ。ちゃんと作ってくれるんだろ」
「そうだけどさぁ。ムウくんの作るものっておしゃれでうまくて・・・。こんなん作られたら惚れちゃうよ」
その言葉に、ムウが目を瞬かせる。
「え、ナオ、俺に惚れちゃうの?」
「ムウ」
「惚れちゃう惚れちゃう。ムウくん、俺と付き合ってくれる?」
「奈央!」
「え~どうしようかな~」
「ムウ!」
むっとする俺に、2人がゲラゲラと笑う。
まったくもう・・・・。
すっかり仲良くなったのはいいけど、奈央も諒も、ムウのこと好き過ぎるんだよ。
冗談のつもりかもしれないけど、なんかひやひやすんだよな・・・・・。
「じゃあね、ムウくん、また新しいゲーム持って来るから」
「うん!またね、ナオ」
奈央が10時過ぎにようやく帰り、ムウと2人きりになる。
「ムウ、風呂入る?」
「うん!」
風呂には、相変わらず2人一緒に入っていた。
俺もさすがに慣れてしまって、ムウに1人で入れとは言わなくなった。
それでも、ムウのきれいな体を見るとやっぱりドキドキしてしまうけれど・・・・・。
「ねえ、今日は画廊でなんの話してきたの?」
バスタブに浸かり、先日100均の店で買ってきたアヒルのおもちゃを弄りながらムウが聞く。
俺はムウの向かい側で足を曲げ、体を小さくして湯につかりながら、髪をかき上げた。
「あー、なんか、個展をやらないかって」
「個展って何?」
「画廊の店内を借りて、絵を展示してもらうんだよ。そこにお客さんに見に来てもらって、気に入ったモノがあれば買うこともできる」
「ふーん。それを、アキがやるの?いつ?」
「まだ、やるって決まったわけじゃないよ。今の状態じゃ出せる絵がなくて・・・・。でも、オーナーは1年後に出来るように準備を始めたらどうかって言ってくれてるんだ」
「1年後・・・・・?」
ムウが、突然アヒルを弄っていた手を止め、俺を見上げた。
「うん。やっぱりこれから出す絵を描くとなると、そのくらいの期間は必要ってことになって」
「そう・・・・なんだ・・・・・」
ムウは低い声でそう言うと、アヒルを離し、俯いた。
「ムウ?どうかした?」
「―――ううん、なんでもないよ」
俺の言葉に、ムウは顔を上げ笑顔をつくったけれど、それはいつものはじけるような笑顔ではなかった。
「ムウ・・・・?もしかして・・・・1年後には、ここにいられないの?天国に、帰るの・・・・・?」
俺の胸が、ドクンと嫌な音をたてた。
そりゃあ、最初からわかってたことだけど。
ムウは、いつかは天国に帰ってしまうんだって。
でも―――
ムウが、俺の言葉にびくりと体を震わせた。
「ちが―――違うよ。俺は―――」
ムウが何か言おうとしたけれど、俺は、その言葉を聞く前にムウの体を引き寄せていた。
「アキ―――っ」
その声を遮るように、俺はムウの赤い唇を塞いだ。
「―――んっ、ぁ・・・・・・ッ」
一瞬体を強張らせるムウの後頭部を手で押さえ、その唇の隙間から舌を侵入させ戸惑うムウの舌を無理やり絡め取る。
―――いやだ。ムウと、離れるなんて―――
―――ムウが、好きだ・・・・・
いつもみたいに、優しくて穏やかなアキじゃなかった。
こんなに、アキって力が強かった・・・・・?
俺が、抵抗できないくらい・・・・・?
熱い口づけに、俺は頭が真っ白になっていたけれど・・・・・
突然、気付いてしまった。
この熱さは、リロイの口付けとは違うって。
リロイとのキスは・・・・・あれは・・・・・
熱いと感じていたあれは・・・・・・
―――熱かったんじゃない―――痛かったんだ・・・・・
舌が絡み合って、俺は初めてのことにそれが『熱い』と感じていたけど―――
あれは、『痛み』だったんだ。
兄弟で愛し合うことは禁区だって。
2人の関係は知られてはいけないことだって。
俺もリロイも知ってた。
もし誰かに知られたら、罰を受けなければならないって、わかってたんだ・・・・・。
だから、俺の体は『痛み』を感じたんだ。
それは、このままじゃいけない。やめなければいけないということを、体が俺に知らせていた警告・・・・・。
それなのに俺は、それに気付かなかった―――
いや・・・・・気付かないふりをしてただけなのかも・・・・・・
―――ポチャン―――
何かがお湯の中に落ちる音に、アキがはっとして唇を離した。
俺の目からは水晶の涙が零れ、お湯の中に落ちていた。
「ムウ?なんで泣くの?・・・・いやなの・・・・?」
アキが、悲しそうな目で俺を見つめた。
俺は首を横に振り、今度は自分からアキにキスをした。
「―――好きだよ、アキ・・・・・」
アキがほっとしたように息を吐き、俺を優しく抱きしめてくれた。
「俺も、好き・・・・。ムウ、どこにも行かないで・・・・・」
耳に、こめかみに、瞼についばむようなキスをして―――
再び舌を絡め合う。
アキの舌先から熱を感じ、やがて体中が熱くなる。
それは確かに熱いと感じるもの。
アキからしか感じることができない、熱―――
俺は、バカだ。
できそこないの天使。
警告にも気付かずに―――
リロイをあんな目にあわせてしまったのは、俺の責任だ。
―――リロイ、ごめんね・・・・・。
絶対に、リロイを檻から出さなくちゃならない。
自分の命に代えても―――
「ん・・・・・ッ、ふ・・・・・ぁ・・・・」
キスの合間に吐息が漏れ、アキの手が俺の体をなぞり、快感が背中を這いあがる。
「アキ・・・・・好き・・・・アキ・・・・・」
俺はアキの首に噛みつくようにキスをして、その背中に腕を回してきつく抱きついた。
アキが、俺の耳元に囁く。
「―――ムウ、部屋に行こう・・・・のぼせそうだよ・・・・・」
アキの熱い吐息に、俺の体が震えた・・・・・。
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