Angel tears

まつも☆きらら

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第25話

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『―――ムウ』

遠くの方で、俺を呼ぶ声が聞こえた気がした。

―――誰・・・・・?

『ムウ・・・・・自分を信じなさい』

聞いたことのない声・・・・

いや・・・・どこかで聞いたことがあるような・・・・・?

『自分を信じ・・・・そして愛するものを信じなさい・・・・』

誰・・・・・・?





目覚めた俺は、寝室の天井を見つめていた。

隣では、アキが寝息を立てていた。

「・・・・・アキ・・・・」

俺の体をしっかり抱きしめたまま、眠るアキ。

きっと、すごく心配をかけた。

俺はアキの頬に触れるだけのキスをして、そっと体を起こした。

妙に体が軽くなった気がして、俺は自分の体を見下ろした。

驚くことに、体中にあったアザや傷が、きれいに消えていた。

どうしてだかはわからないけれど、これはきっと、あの声の人がやってくれたんだと、そう思った。

姿は見えなかった。

だけど、あれはもしかして―――



「―――ムウ?」

アキが、目を瞬かせた。

「アキ、おはよう」

俺が笑ってそう言うと、アキはがばっと勢いよく起き上った。

「ムウ、まだ起きちゃダメだ!傷が―――あれ・・・?」

アキが、不思議そうに俺の顔を見つめる。

「ん?」

「・・・あれ?」

アキが、俺のスウェットをぺろりとまくりあげる。

「んふふ、何してんの、朝から」

「え、だって、傷は?あんなにたくさんあったのに・・・・何で?天使って、そんなに早く傷が治っちゃうものなの?」

「さぁ」

「さぁって!」

「よくわかんないけど・・・・天国にいる時とここにいる時とじゃそういうのも違うのかもね」

「へえ・・・・なるほど・・・・・」

もはや理解不能といった感じで、アキが首を傾げた。

その様子がおかしくて、思わず笑ってしまう。

でも、アキは真剣な表情で、俺を見つめた。

「じゃあ、もう痛くないんだよな・・・・?」

その心配そうな瞳に、俺ははっとして笑うのを止めた。

「うん・・・大丈夫。心配かけてごめんね」

ぎゅっと抱きつくと、アキがふわりと俺の体を抱きしめてくれた。


―――あったかい


アキの、ぬくもりだ。

やっぱり俺は、アキが好きだ。

この温もりは、俺にとって特別。

アキといるときにだけ、感じる温もり・・・・・






「ムウちゃ~ん!!よかった!本当に傷、消えてるね!」

諒が入ってくるなりムウに抱きつくもんだから、俺の方が慌てる。

「諒!いきなり抱きつくなよ!」

「え~、いいじゃん、明来ちゃんのケチ~」

「ケチじゃねえしっ」

「ふはは、アキ面白い」

「ムウ、笑うな!全然面白くないから!」

「もう、落ち着きなさいよあんたたちは!ムウくん、本当に大丈夫なの?どこも痛くないの?」

奈央が、俺たちの間に割って入ってくる。

「うん、大丈夫だよ。ごめんね、2人にも心配かけちゃって」

ムウの笑顔に、奈央も諒もほっとしたように微笑んだ。

「ならいいけど・・・・で、そのエプロンは何事?」

と、奈央が首を傾げる。

ムウは、何ともかわいらしいピンクのふりふりのエプロンをつけていた。

「料理、作ろうと思ったの。みんなに心配かけちゃったから、そのお詫び?」

「そうなの?え~、超嬉しい!ムウちゃんの手料理久しぶりだもんね!」

「そうだね。でもそんなエプロン、よく持ってたね明来さん」

「いや・・・・今日、たまたま買い物に行ったときに見つけて、ムウが欲しいって言うもんだから」



『これがいい!絶対これ!これ買ってー!!』



・・・・・周囲の視線を一身に集め、そのエプロンを買うとムウを引っ張ってそそくさとその場を後にしたのだ。

きれいなものとか、かわいらしいものが好きなんだよなぁ、ムウは・・・・

「しまりのない顔しちゃって。ようやく会えたからって甘やかし過ぎなんじゃないの?」

奈央に呆れた視線を向けられても、構うもんか。

だってムウがまた隣にいてくれるのが、こんなに嬉しいんだから。

「ムウちゃん何作ってくれんの?」

キッチンへと入っていくムウのあとを、諒がついて歩く。

「えっとね~、からあげでしょ~、卵焼きでしょ~、それから~・・・・」



「本当に、すっかりきれいになってるね、傷」

リビングのソファーに座りながら、奈央がちらりとキッチンへ視線を向けて言った。

俺も奈央の向かい側に座る。

「うん、俺もびっくりした」

「・・・・理由については?やっぱり着地の失敗って?」

「いや・・・・そのことについては聞いてないんだ。ムウってさ、あれで意外と頑固なんだよ。本当のこと、言わないって決めたら絶対に言わないと思う」

「でも・・・・明来さん、考えなかった?もしあれが、リロイさんがやったものだったらって」

奈央が、俺の方に顔を寄せ声をひそめた。

「え・・・・どういう意味?」

「・・・・リロイさんとムウくんが、ただの兄弟じゃなくて・・・・体の関係があったとしたら、だよ。リロイさんが、ムウくんと明来さんの関係を知ったとしたら、どうなると思う?ムウくんに、自分以外の恋人ができたと知ったら―――」

俺の体から、血の気が引いた。

―――まさか・・・・俺のせいで、ムウが・・・・・?

カタンッ

俺は、思わずソファーから立ちあがった。

「ちょ、明来さん落ち着いて!これはあくまでも1つの可能性で、そうと決まったわけじゃ―――」

「でも・・・・あり得る。それだったら、ムウが俺に本当のことを言わない理由も―――」

リロイに俺という存在がが知られたことで、ムウがリロイに乱暴されたんだとしたら、それをムウが俺に言うはずない。

それなら、帰ってくるのが遅くなった理由も・・・・

「―――俺、ムウに聞いて―――」

キッチンへ行こうとした俺の腕を、奈央が慌てて掴む。

「待って待って!気持ちはわかるけど―――隠してるムウくんの気持ちも考えてあげなって!」

―――ムウの、気持ち・・・・・

「ちょっとちょっと!このサラダ激うまだよ!」

諒が、サラダの入ったボールを片手にキッチンから出てきた。

「マジムウちゃんって天才だね!ほら奈央、明来ちゃん、これ食べてみて!」

「って、あなた、フォークくらい持ってきなさいよ。手で食えっつーの?」

「うひゃひゃ、ほんとだ、忘れてた。ムウちゃんフォーク―――」

そう言いかけた諒の後ろから、ムウがひょいと顔を出す。

「持ってきたよ、はい」

ムウの手に、4本のフォーク。

「俺もまだ味見してないのに~」

「ごめんごめん。じゃ、みんなで食べよ」

諒とムウもソファーに座り、ムウが持ってきた小皿をみんなに配る。

「今ね、からあげの下味つけてるから、もうちょっと待ってて―――ほら、あ~んアキ」

「・・・・あ~ん」

促されるようにまたソファーに座り、ムウの差し出したサラダを口にする。

「おいしい?」

「・・・・うん、うまい」

「ふふ、よかった」

嬉しそうに笑うムウ。



今朝起きた時も、ムウは俺を見て嬉しそうに笑ってくれた。


昨日も、傷だらけだったけど、俺を見て安心したように笑ってくれた。


ムウの笑顔を見れると、俺も嬉しくて―――


『―――リロイさんが、ムウくんと明来さんの関係を知ったとしたら、どうなると思う?』



だけど、ムウは俺には何も言わない。


ただ、その無邪気な笑顔を向けてくれるんだ。


だったら俺も、聞かない方がいいんだろうか。


ムウが辛い想いをしているのに、それに気付かないふりをして笑っていた方がいいのか・・・・・?


俺には、何が正しいのかわからなかった。


ただ、ムウが隠し通したいと思っているのなら、無理やり事実を聞くことはしない方がいいのかもしれないと、笑っているムウを見て思った。


それは、俺の勘でしかなかったけれど―――


本当のことを俺が知ってしまったら、ムウは俺の前からいなくなってしまうのではないか―――


そんな不安が、俺の頭をよぎったのだった・・・・・・。
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