記憶を嫌う少年と記憶を探す少女の物語

Rin凜Lin

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1章 出会い

記憶を失った少女

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「─────♪」

「分かったからそう急かすなって……」

 昼食を終えた俺たちは外へ出た。
 この家は人気のない森の中に建っているのだが、周りは開けているため太陽の光に照らされる。
 今日はいい散歩日和だ。

「───。」

「ごめん。」

 遅いと伝えられてしまったが、これだけは忘れてはいけない。
 俺は腰に携えた剣に触れた。
 森の中には人を襲うモンスターがいる。
 この付近は比較的安全な方だが、何が起きてもいいように準備はしておく。

「あ、ベルの髪跳ねてる。」

「!」

 ベルはどこ?と小首を傾げて自身の髪に触れた。
 しかし本当は跳ねてなんかいない。

「嘘だよ。」

「!!」

 ベルが軽い力で殴ってきた。
 ちょっとからかいながら、俺たちは森の中を進んだ。
 森の中は家の周りとは違って、木によって日の光が遮られ薄暗い。
 日の光が差し込んでいるところも少しあるのだが、基本的には木陰の下だ。
 なのでとても涼しく、快適に散歩することができる。

「────。」

「ん?別に簡単な仕事だ。」

 ベルは今日の仕事が気になったようだ。

「───────?」

「ダンジョンの視察と記録。あとは軽く魔物退治。」

「─────。」

「そうだな。」

 ここ最近の仕事は街の付近に現れた魔物退治ばかりだ。
 どうも森に住んでいた奴らが、本来の縄張りから離れて、街に近づいてきているらしい。
 結構な数の依頼をこなしたが、どいつも気が立っていて凶暴だった。
 縄張りを広げようとしているのか、森の中で食料が尽きたのか。あるいは、何かから逃げるために街に来たのか。
 理由はなんであれ、街の人達の悩みの種であることは変わりない。
 俺は報酬がちゃんと貰えれば依頼は受けるし、場合によってはその魔物たちも倒す。
 後の始末は魔警員にでも任せておこう。

「─────。」

「無理はしない。可能ならずっとゴロゴロしていたいし。」

 散歩中はこんな他愛もない話をしながらぶらぶらと歩いている。
 正直、こういった時間は嫌いじゃない。
 しかしそんな時間は突然終わることになる。

「!」

 ベルが突然足を止めた。

「……何かいるのか?」

 そう聞くとベルは小さく頷いた。
 妖精は魔力での感知能力が高く、周りの生物の気配を察知できる。
 モンスターだろうか?
 俺はいつでも戦えるように身構える。
 しかし、ベルは待ってと止めてきた。

「─────。」

「モンスターの他に変なものを感じる?」

 どうやらモンスターの気配とは別の何かがいるらしい。

「確認しておこう。」

 ここは家からの距離もそこまで遠くない。
 何かあったら困るため、確認だけでもしておいた方がいい。
 森の奥へ進んでいくと、少し開けた場所に出た。
 日の光が差し込んでいて明るい場所だ。
 その近くの草むらで身を潜めながら周りを見ていると、

「!」

 ベルが何かに気付いたみたいだ。
 指をさしている方を見ると……

「……女……?」

 森の中に一人の少女が立っていた。
 少女はキョロキョロと辺りを見渡していて、どこか落ち着きが無いように見える。
 冒険家?いや、それにしては荷物が少ない。
 街の人が迷い込んでしまったのだろうか。
 そう考えていると、

 グルルルル……!!

 少女の近くの草むらからモンスターが現れた。
 まずいな……彼女は武器も持ってなさそうだ。
 俺が草むらから出ようとすると、ベルが服を引っ張って止めてきた。
 ベルは心配そうな表情をしながらこちらを見つめている。

「大丈夫。あのモンスターをどうにかしたら、帰るように言うよ。」

 そう言うとベルは手を離してくれた。
 俺は草むらから飛び出し、モンスターの目の前に立った。
 三匹……狼か。
 鋭い牙と爪を立て、飢えているのか涎を垂らしてこちらを見ている。
 しばらく睨み合いが続いた後、一匹の狼が俺の方へ飛びかかってきた。
 そいつに対して剣を鞘に入れたまま、頭に突きを放った。
 眉間に直撃した狼の身体が宙を舞い、どしゃりという音を立て地面に落ちた。
 すぐに態勢を立て直し、こちらを威嚇してきた……が、

「今すぐここから消えろ。」

 鞘から抜いた剣を奴らに向け、殺気をあらわにした。
 すると狼たちは少しずつ後退していき、森の奥へと姿を消した。
 剣を鞘にしまい後ろを振り返ると、ポカーンとした表情を浮かべた少女がその場で座り込んでいた。

「……大丈夫か?」

「あ、えと……はい。」

 差し出した俺の手を引き、少女は立ち上がった。
 少女は俺より背が低く、髪は俺と同じ白色だった。
 長い髪を一つにまとめているが、前髪が長く、左目が隠れてしまっている。

「あのっ!ありがとう……ございました。」

 白髪の少女はこちらに深々と頭を下げてきた。

「早く帰れ。」

 そう言ってベルの元へ戻ろうと──

「ま、待って!」

 したが、少女に止められた。

「……謝礼ならいらない。」

 そう伝えたが、少女はなぜか人差し指で頬を搔き、困った表情をしている。

「帰り道が分からないのか?その山道を──」

「ち、違うんです!」

 少女は深呼吸をして、空色の瞳でこちらを真っ直ぐ見つめて、

「ここはどこ……ですか?」

「……は?」

 訳の分からないことを言った。

「お前、冒険家か?」

「ぼ、ぼうけんか……?な、なにそれ……?」

 どういうことだ……?
 ここがどこかも分からないということは街の人間ではない。
 だが、冒険家や旅人のような身なりをしているという訳でもない。
 こいつは一体……?

「……ん?」

 後ろから服の裾を引っ張られ、振り返るとそこにはベルがいた。
 どうやら心配になって近付いてきたようだ。

「え!可愛い……!」

 少女がベルに対して笑顔で手を振ったが、ベルは俺の後ろへと隠れてしまった。
 まぁ誰かも分からない人とは関わりづらいのだろう。……俺もそうだし。

「き、嫌われた?なんかごめんね……」

 少女がそう言うとベルは小さく頭を下げた。

「珍しいな。」

 知らない人に対してベルが反応することは滅多にない。
 そもそも人前に出てくることが珍しいのだが。

「─────。」

 敵意を感じない……か。
 お得意の感知能力で調べたんだろう。
 ベルがそう言うのならば間違いはない。

「……名前は?」

「え?」

「あんたの名前だよ。」

「名前……分かんない……」

「は?」

 本当にこいつはなんなんだ……?

「じゃあどこから来た?」

「ね、寝ちゃってて……起きたらここにいました。」

「……馬鹿にしてるわけじゃないよな?」

「そんなことしないよ!」

 少女の反応に少し呆れているとベルが再び裾を引っ張ってきた。

「────?」

「ごめん、もう一回やってくれ。」

「──────?」

 ゆっくりと動かしてくれたが、見たことのない手話だ。
 俺が理解できていないことを読み取ってくれたのか、ベルは木の棒を持ち、地面に文字を書いてくれた。

「……記憶喪失?」

 ベルが頷いた。
 自分の名前が分からず、どこから来たのかも分かっていない……
 なるほど。確かに一理ある。

「─────。」

「騎士団のところに連れていくのはいいが、名前くらいはないと向こうも対応しづらいはずだ。」

 女の方を見ると、手話が理解できていないのかキョトンとした顔をしている。
 
「なんか持っていないのか?ギルドカードとか身分が証明できるやつ。」

「ない……です……」

 何も分からないし、何も持っていないのか。
 思わずため息が出てしまったが、女の指が光ったことに気付いた。
 よく見るとそれは太陽の光に反射した指輪だった。

「それ、ちょっと見せてくれ。」

「え……これ?」

 女が指輪を外し、俺に手渡した。
 指輪の裏側に名前が刻まれているかもしれない。
 確認してみると、

「……サヘラ……?」

 サヘラと刻まれていた。

「名前っぽいが、分かるか?」

「分かんない……けど確かにそんな名前だった気がする……」

「曖昧だな。自分の名前だぞ?」

「う~ん……」 

 女は頭を抱えた。

「……とりあえずサヘラって呼ぶ。いいな?」

「う、うん。」

 騎士団のところへ連れていって、サヘラという名前で調べてもらおう。
 仮にサヘラという名前じゃなかったとしても、一度身柄預けてしまえばあとはどうにかしてくれるだろう。
 そう思い早速街にある魔警署へ行こうとしたが、

 グルルルル……!!

「─────!」

 しまった。長居しすぎた。
 先ほど逃げた狼たちが仲間を引き連れて戻ってきた。
 俺は剣を抜き、狼たちに向けて構える。
 だが奴らの数が思ったよりも多い。
 全員殺す?
 いや、なるべくこの付近の生態系を乱したくはない。
 奴らに俺たちの臭いも覚えられたら厄介だ。
 ……となると答えは一つ。

「撤退するぞ。」

 俺は近場の木を切り裂いた。
 狼の視界を遮るように木々が倒れる。

「走れ!」

「は、はい!」

 俺たちは狼とは反対方向へ走っていった。
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