記憶を嫌う少年と記憶を探す少女の物語

Rin凜Lin

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第2 少年の過去

アビーとの戦闘

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 木の上のアビーに切っ先を向ける。
 奴の武器は近接用のナイフと投げナイフ。
 リーチは短いが、それを補うのが奴の驚異的なスピードだ。
 魔法はまだ確認できていないが、使ってこないのなら好都合。
 使ってきたとしても、魔弾のような魔力単体の攻撃は無効にできる。
 落ち着いて対処すればどうにでもなるはずだ。
 アビーが木から降りて、じっとこちらを見つめる。

「いいなぁ……その死んだような目……」

 まただ。
 恍惚の表情を浮かべている。
 変態か、こいつは。

「ここ最近、様々な死体から目だけくり抜かれている。お前が犯人だな?」

「そうだよ。」

 否定すること無く、当たり前のように答えた。

「なぜ目を狙う?」

「だってキラキラしていて綺麗なんだもん。それに目は真実を映してくれる……でも君の目は少し不思議。死んでいる人みたいに光が無いのに君は生きている。すごく珍しくて価値があるよ!」

 人と話してる気がしない。
 狂ってる……

「だから──」

 アビーの姿がまたブレる。

「その目ちょーだい。」

 次は背後だった。
 咄嗟に前に転がり、攻撃を回避する。

「やっぱいい反応するね。楽しいなぁ……!」

 アビーはナイフから滴る血を舐める。
 回避しきれなかった。
 俺の背中は切り裂かれ、灼熱感が奔っている。
 だが、切られた傷は浅い。
 まだ動ける。
 俺は奴に向けて、剣を構え直す。

「あれ?そういえばシエルくんの魔法見てないなぁ。いくら剣の腕が立つからといっても、魔法無しじゃ厳しいよね?」

 アビーが不思議そうに小首を傾げる。

「条件付きかな?それとも身体能力強化だから僕が気づけてないだけかな?それとも──」

 アビーがニヤリと笑う。

「相手に干渉する系かなぁ?」

 ……バレたのか?
 いや、奴は魔法を使っていないはずだ。
 魔法を無効にする俺の力には気づけない。
 揺さぶる為のハッタリだ。

「楽しければ何でもいいけどね。」

 その言葉と共にナイフが飛ぶ。
 それを弾き落とそうとしたその時、突然ナイフが2本に増えた。
 1本は落としたものの、もう1本は腕に刺さった。

「これが僕の魔法『複製デュプリケート』。面白いでしょ?」

 アビーの回すナイフが増殖して地面に落ちる。
 物を増やす魔法……なるほど、俺の能力が発動しないわけだ。
 俺の能力はを掻き消すことができる。
 アビーの剣が魔力のみで作られたものなら消すことはできるが、物理武器をそのまま複製するアビーの魔法とは相性最悪というわけだ。

 俺は腕のナイフを引き抜き、地面に捨てた。
 大丈夫、腕は問題無く動く。

「ねぇ~もう諦めちゃおうよ~」

「何……?」

「だって君はまだ僕に攻撃できてないじゃん。だからおとなしく目を僕にちょーだい。」

 その言葉に俺は奴のナイフを投げる。

「当たらな──」

 俺は最速で奴に近づき、直剣を横に薙いだ。
 アビーは驚異的なバックステップを見せ、俺から距離を取った。

「……当たったな。」

 奴の肩から手にかけて血が流れ、地面に滴り落ちた。

「なるほど。ここから本気って訳ね。」

 アビーの口角が上がる。

「楽しくなってきた。」

 それを引き金に奴の攻撃性が増す。
 一瞬で距離を詰められ両手のナイフで連撃を浴びせてくる。
 今まで戦ってきた中ではトップクラスの速さだ。
 だが奴の連撃を受けて一つだけ分かった事がある。
 奴は急所を狙う際、必ず突きを行う。
 それが分かっていれば、

「うわ!?」

 俺は突きを受け流し、そのまま奴の後ろに回る。
 直剣じゃ避けられる。
 俺は奴の背中に向けて短剣を投げた。

「やるぅ~!」

 短剣は背中の右上辺りに刺さっていた。
 アビーは身体を捻り、中心をずらしていた。
 器用な奴だ。
 アビーは短剣を引き抜き、血を舐める。

「久しぶりだなぁ……この感じ。」

 傷を負っても尚、奴の笑顔は消えることが無い。
 むしろ興奮状態が増している。

「でもちょっと落ち着かないと勝てそうにないなぁ。」

 短剣を捨てて、奴は投げナイフを6本同時に投げた。
 そのナイフは空中で増殖し始める。
 ……多少リスクを取らないと、奴に致命的ダメージを負わせることはできない。
 俺はナイフに向かってスタートを切った。
 最低限のナイフを弾き落とし、アビーとの距離を強引に潰す。
 無論ナイフを全て弾けている訳では無いので、俺の身体は切り刻まれた。

「嘘でしょ!?」

 そして奴に向けて直剣を振り被る。

「やっばぁ!!」

 アビーが回避しようと後ろに下がるがもう遅い。
 振り下ろした俺の剣は奴の上半身を斜めに裂いた。
 しかし、手応えを感じたその瞬間、足元が青白く光る。
 まさか……!

「一緒に飛んじゃお。」

 貼り付けたような笑みを浮かべたアビーの表情を最後に、耳を劈く轟音と灼熱を帯びた衝撃に身体が吹き飛ばされた。
 激しく地面を転がり、止まる頃には全身ボロボロになっていた。

 アビーは俺に切られる直前に小型の爆弾を転がしていた。
 起爆寸前まで増え続けた爆弾は威力を増し、攻撃の為に踏み込んだ俺は避けられなかった。
 だが、あの距離ならアビーだって無事じゃ無いはず。
 咳と共に血を吐き出して、衝撃で震える身体を無理矢理立たせる。

「危なかったぁ……死んだかと思ったよ。」

「……まじか……」

 アビーは爆傷はあるものの、口角を上げてこちらを見つめていた。

「髪がボサボサになっちゃったよ。」

 髪をくるくるといじり出すアビーに対して剣を向ける。

「爆弾持ってるとは思わなかった?その傷きついでしょ~」

 余裕そうにしているが、奴のダメージも大きいはずだ。
 しばらく待てば身体の震えはマシになる。
 だが、それを見逃すほど甘くはない。
 奴のナイフが顔を目掛けて飛んできた。
 地面を転がってそれを避ける。
 情けないが、当たるよりかは遥かにいい。

「限界でしょ?辛いでしょ?楽にしてあげるよ?」

 それはこいつも同じだ。
 ナイフのキレが先ほどよりもない。
 少し耐えればまだなんとかなる。
 ……耐えられればな。

「ボロボロになったシエルくん……いい……すごくいい!」

 恍惚の表情を浮かべるアビーの一挙手一投足を逃さないよう警戒する。

「でもそろそろ死んでもらおうかな。その目欲しいし。」

 アビーがナイフを器用に回しながら、こちらに近づいてくる。
 近接戦になるなら防御に徹する。
 とにかく今は時間を稼ぐんだ。

「楽しかったよ。じゃあね。」

 アビーがナイフを逆手に持ち、俺に向けて振り下ろしたその瞬間だった。

「『瞬雷しゅんらい』!」

 俺とアビーの間に何かが現れた。
 衝撃でアビーが後退り、ナイフを刺すことはできなかった。

「シエルには指一本触れさせない……!」

「クリティ……!?」

 そこにはクリティの姿があった。

「なんで戻ってきた……!負傷者は──」

「もう全員運んだよ。後のことは他の兵士に任せてる。だから次はシエルを助ける番。」

 バチバチと雷が弾ける音と共に、雷の槍を形成していく。

「仲間を傷つけたあなたは絶対に許さない。」

 アビーに向けてそれを構えた。
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