15 / 37
第十四話「突然の申し出」
しおりを挟む
第十四話「突然の申し出」
重い瞼を持ち上げ、いつの間にか気を失っていた事を悟る。
隣で寝ているはずのグレンがいないところを見ると、既に沈んだはずの太陽は天高く上っていることだろう。
侍女達は私に気遣ってカーテンすら開けずにいてくれているため、憶測でしかないが。
「グレンったら、ここまでしなくても……」
カラカラに干涸らびた潤いのない喉に潤わせたい。
サイドテーブルに置かれている鈴を鳴らし、侍女に私が起きた事を告げた。
そうすれば、着替えと共に飲み物を用意してくれるはずだ。
予想通り、着替えと飲み物を持ってきた侍女達の手を借りて役に立たない足腰に鞭を打ち、なんとか寝台に腰掛ける。
「ヒルダ」
「心得ております。本当、毎日愛されて羨ましいですわ。ユキノ様」
何を隠そうヒルダは希少な治癒魔法を使える一族出身だ。
そのため、毎日ガクガクと震える足腰に回復魔法をかけてもらい生活している。
蜜月では毎日寝台と友達だった為、ヒルダが私の侍女にと公爵家から来てくれなければ私は今も毎日寝台と友達だったに違いない。
「ヒルダ。いつもありがとう」
普段から世話になりっぱなしでお礼を言っていなかった事に気付き、思い付きで今までの感謝を口にしただけ。
ただそれだけのはずだが、目の前の光景はなんなのだろうか。
瞳は雨粒が落ちた水面の如く揺らぎ、目尻には涙が溢れんばかりに溜まっているヒルダ。
初めて見る彼女の涙に、私は驚きに打たれオロオロと頼りなく目を泳がせるしか出来なかった。
永遠に続くかと思われた居たたまれない状況だったが、ヒルダはすぐに落ち着きを取り戻し頭を下げた。
「取り乱してしまい、申し訳ありません」
「いいえ、大丈夫よ? ヒルダこそどうしたの? 何かあった?」
「あんなに小さかったユキノ様が、もうすぐ結婚式を挙げる事、そして一介の侍女にもお礼が言えるような立派な女性になった事に、今更ながら感激してしまいました。歳を重ねると涙脆くなって嫌ですね……」
娘のように可愛がられてきた自覚があるだけに、私は照れるしかない。
「そんな……いきなり照れるじゃない」
「感慨深くなってしまっただけですので、ささ、着替えを済ませてしまいましょうか」
「ええ、そうね」
そうして着替えが終わり、遅めの昼食を食べ終えた頃。
第二王子から面会の申し出があった。
「夕刻、お会いしたいとの事です。いかがなさいますか?」
第二王子って、どんな人だっけ……?
一応第一王子であるグレンの妻ではあるが城内の派閥には疎く、妻としての自覚も覚悟も足りないのだろう。
グレンと二つしか年の差がなく王位継承権を持つ弟。というふわっとした情報しか知らない。
「グレンは?」
「会うのであれば同行するとの事です。決して一人で会わないようにとの伝言も預っております」
代々シエロニアは一人の女性を囲うようで、妻が自分以外の男性と会うのを忌み嫌う。
国王様もその一人で、一夫多妻制の権利を放棄して王妃様だけを愛し、慈しんでいる。
「そう。……一度ぐらいは会っておくべきよね。グレンにもそう伝えて」
「かしこまりました」
頭を下げた侍女が部屋を出たのを横目に、仕方ないと重い腰を上げた。
ヒルダに余所行きのドレスに着替える事を告げ、準備が整うのを待つ。
「グレンの瞳と同じ色のドレスにして」
生温かい視線をヒルダから受けたが気にしたら負けだと思うことにする。
「こちらでどうでしょうか?」
「ええ、それにしましょう」
ちょうど昼頃に届いたマーメイドドレスを選び、侍女達に囲まれて支度をする。
「第二王子のセクト様ってどんな方?」
髪を梳かしている間に小さな疑問を口にした。
そうすれば城に長く仕えている侍女が口を開く。
「可哀想な境遇の御方です。心優しく、旦那様と同じくとても優秀ですよ」
「そうなのね」
可哀想な境遇とは一体なんだろうか。
気軽に聞いてはいけない気がして私は口を噤んだ。
そうこうしているうちに支度が整った。
支度が出来たタイミングを見計らったかのようにグレンが部屋へと訪れる。
「いつにも増して綺麗だ」
「ありがとう」
「正直、気飾って綺麗なユキノを誰にも見せたくない」
優しく抱き締められ、耳元で囁かれた。
しかし、会うと決めた事を反故するわけにもいかないのが現実だ。
それはグレンも理解しているようで、強引に行かせないようにするわけでもない。
「仕方ない。行こうか」
「ええ、そうね」
心の底から渋々といった感情が伝わっる顔をしたグレンが面白く、笑うと小突かれてしまった。
心配しなくてもいいのに。
確かにシナリオ通りに進む世界から逃げようとは思っているが、彼の元からはそうそう離れられないと理解しているのだから。
重い瞼を持ち上げ、いつの間にか気を失っていた事を悟る。
隣で寝ているはずのグレンがいないところを見ると、既に沈んだはずの太陽は天高く上っていることだろう。
侍女達は私に気遣ってカーテンすら開けずにいてくれているため、憶測でしかないが。
「グレンったら、ここまでしなくても……」
カラカラに干涸らびた潤いのない喉に潤わせたい。
サイドテーブルに置かれている鈴を鳴らし、侍女に私が起きた事を告げた。
そうすれば、着替えと共に飲み物を用意してくれるはずだ。
予想通り、着替えと飲み物を持ってきた侍女達の手を借りて役に立たない足腰に鞭を打ち、なんとか寝台に腰掛ける。
「ヒルダ」
「心得ております。本当、毎日愛されて羨ましいですわ。ユキノ様」
何を隠そうヒルダは希少な治癒魔法を使える一族出身だ。
そのため、毎日ガクガクと震える足腰に回復魔法をかけてもらい生活している。
蜜月では毎日寝台と友達だった為、ヒルダが私の侍女にと公爵家から来てくれなければ私は今も毎日寝台と友達だったに違いない。
「ヒルダ。いつもありがとう」
普段から世話になりっぱなしでお礼を言っていなかった事に気付き、思い付きで今までの感謝を口にしただけ。
ただそれだけのはずだが、目の前の光景はなんなのだろうか。
瞳は雨粒が落ちた水面の如く揺らぎ、目尻には涙が溢れんばかりに溜まっているヒルダ。
初めて見る彼女の涙に、私は驚きに打たれオロオロと頼りなく目を泳がせるしか出来なかった。
永遠に続くかと思われた居たたまれない状況だったが、ヒルダはすぐに落ち着きを取り戻し頭を下げた。
「取り乱してしまい、申し訳ありません」
「いいえ、大丈夫よ? ヒルダこそどうしたの? 何かあった?」
「あんなに小さかったユキノ様が、もうすぐ結婚式を挙げる事、そして一介の侍女にもお礼が言えるような立派な女性になった事に、今更ながら感激してしまいました。歳を重ねると涙脆くなって嫌ですね……」
娘のように可愛がられてきた自覚があるだけに、私は照れるしかない。
「そんな……いきなり照れるじゃない」
「感慨深くなってしまっただけですので、ささ、着替えを済ませてしまいましょうか」
「ええ、そうね」
そうして着替えが終わり、遅めの昼食を食べ終えた頃。
第二王子から面会の申し出があった。
「夕刻、お会いしたいとの事です。いかがなさいますか?」
第二王子って、どんな人だっけ……?
一応第一王子であるグレンの妻ではあるが城内の派閥には疎く、妻としての自覚も覚悟も足りないのだろう。
グレンと二つしか年の差がなく王位継承権を持つ弟。というふわっとした情報しか知らない。
「グレンは?」
「会うのであれば同行するとの事です。決して一人で会わないようにとの伝言も預っております」
代々シエロニアは一人の女性を囲うようで、妻が自分以外の男性と会うのを忌み嫌う。
国王様もその一人で、一夫多妻制の権利を放棄して王妃様だけを愛し、慈しんでいる。
「そう。……一度ぐらいは会っておくべきよね。グレンにもそう伝えて」
「かしこまりました」
頭を下げた侍女が部屋を出たのを横目に、仕方ないと重い腰を上げた。
ヒルダに余所行きのドレスに着替える事を告げ、準備が整うのを待つ。
「グレンの瞳と同じ色のドレスにして」
生温かい視線をヒルダから受けたが気にしたら負けだと思うことにする。
「こちらでどうでしょうか?」
「ええ、それにしましょう」
ちょうど昼頃に届いたマーメイドドレスを選び、侍女達に囲まれて支度をする。
「第二王子のセクト様ってどんな方?」
髪を梳かしている間に小さな疑問を口にした。
そうすれば城に長く仕えている侍女が口を開く。
「可哀想な境遇の御方です。心優しく、旦那様と同じくとても優秀ですよ」
「そうなのね」
可哀想な境遇とは一体なんだろうか。
気軽に聞いてはいけない気がして私は口を噤んだ。
そうこうしているうちに支度が整った。
支度が出来たタイミングを見計らったかのようにグレンが部屋へと訪れる。
「いつにも増して綺麗だ」
「ありがとう」
「正直、気飾って綺麗なユキノを誰にも見せたくない」
優しく抱き締められ、耳元で囁かれた。
しかし、会うと決めた事を反故するわけにもいかないのが現実だ。
それはグレンも理解しているようで、強引に行かせないようにするわけでもない。
「仕方ない。行こうか」
「ええ、そうね」
心の底から渋々といった感情が伝わっる顔をしたグレンが面白く、笑うと小突かれてしまった。
心配しなくてもいいのに。
確かにシナリオ通りに進む世界から逃げようとは思っているが、彼の元からはそうそう離れられないと理解しているのだから。
4
あなたにおすすめの小説
【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)
かのん
恋愛
気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。
わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・
これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。
あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ!
本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。
完結しておりますので、安心してお読みください。
一級魔法使いになれなかったので特級厨師になりました
しおしお
恋愛
魔法学院次席卒業のシャーリー・ドットは、
「一級魔法使いになれなかった」という理由だけで婚約破棄された。
――だが本当の理由は、ただの“うっかり”。
試験会場を間違え、隣の建物で行われていた
特級厨師試験に合格してしまったのだ。
気づけばシャーリーは、王宮からスカウトされるほどの
“超一流料理人”となり、国王の胃袋をがっちり掴む存在に。
一方、学院首席で一級魔法使いとなった
ナターシャ・キンスキーは、大活躍しているはずなのに――
「なんで料理で一番になってるのよ!?
あの女、魔法より料理の方が強くない!?」
すれ違い、逃げ回り、勘違いし続けるナターシャと、
天然すぎて誤解が絶えないシャーリー。
そんな二人が、魔王軍の襲撃、国家危機、王宮騒動を通じて、
少しずつ距離を縮めていく。
魔法で国を守る最強魔術師。
料理で国を救う特級厨師。
――これは、“敵でもライバルでもない二人”が、
ようやく互いを認め、本当の友情を築いていく物語。
すれ違いコメディ×料理魔法×ダブルヒロイン友情譚!
笑って、癒されて、最後は心が温かくなる王宮ラノベ、開幕です。
【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました
佐倉穂波
恋愛
転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。
確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。
(そんな……死にたくないっ!)
乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。
2023.9.3 投稿分の改稿終了。
2023.9.4 表紙を作ってみました。
2023.9.15 完結。
2023.9.23 後日談を投稿しました。
【完結】異世界召喚 (聖女)じゃない方でしたがなぜか溺愛されてます
七夜かなた
恋愛
仕事中に突然異世界に転移された、向先唯奈 29歳
どうやら聖女召喚に巻き込まれたらしい。
一緒に召喚されたのはお金持ち女子校の美少女、財前麗。当然誰もが彼女を聖女と認定する。
聖女じゃない方だと認定されたが、国として責任は取ると言われ、取り敢えず王族の家に居候して面倒見てもらうことになった。
居候先はアドルファス・レインズフォードの邸宅。
左顔面に大きな傷跡を持ち、片脚を少し引きずっている。
かつて優秀な騎士だった彼は魔獣討伐の折にその傷を負ったということだった。
今は現役を退き王立学園の教授を勤めているという。
彼の元で帰れる日が来ることを願い日々を過ごすことになった。
怪我のせいで今は女性から嫌厭されているが、元は女性との付き合いも派手な伊達男だったらしいアドルファスから恋人にならないかと迫られて
ムーライトノベルでも先行掲載しています。
前半はあまりイチャイチャはありません。
イラストは青ちょびれさんに依頼しました
118話完結です。
ムーライトノベル、ベリーズカフェでも掲載しています。
バッドエンド回避のために結婚相手を探していたら、断罪した本人(お兄様)が求婚してきました
りつ
恋愛
~悪役令嬢のお兄様はヤンデレ溺愛キャラでした~
自分が乙女ゲームの悪役キャラであることを思い出したイザベル。しかも最期は兄のフェリクスに殺されて終わることを知り、絶対に回避したいと攻略キャラの出る学院へ行かず家に引き籠ったり、神頼みに教会へ足を運んだりする。そこで魂の色が見えるという聖職者のシャルルから性行為すればゲームの人格にならずに済むと言われて、イザベルは結婚相手を探して家を出ることを決意する。妹の婚活を知ったフェリクスは自分より強くて金持ちでかっこいい者でなければ認めないと注文をつけてきて、しまいには自分がイザベルの結婚相手になると言い出した。
※兄妹に血の繋がりはありません
※ゲームヒロインは名前のみ登場です
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません
きぬがやあきら
恋愛
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」
「正直なところ、不安を感じている」
久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー
激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。
アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。
第2幕、連載開始しました!
お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。
以下、1章のあらすじです。
アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。
表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。
常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。
それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。
サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。
しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。
盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。
アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?
転生してモブだったから安心してたら最恐王太子に溺愛されました。
琥珀
恋愛
ある日突然小説の世界に転生した事に気づいた主人公、スレイ。
ただのモブだと安心しきって人生を満喫しようとしたら…最恐の王太子が離してくれません!!
スレイの兄は重度のシスコンで、スレイに執着するルルドは兄の友人でもあり、王太子でもある。
ヒロインを取り合う筈の物語が何故かモブの私がヒロインポジに!?
氷の様に無表情で周囲に怖がられている王太子ルルドと親しくなってきた時、小説の物語の中である事件が起こる事を思い出す。ルルドの為に必死にフラグを折りに行く主人公スレイ。
このお話は目立ちたくないモブがヒロインになるまでの物語ーーーー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる