転生しても実家を追い出されたので、今度は自分の意志で生きていきます

藤なごみ

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1巻

1-4

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  ◆ ◇ ◆


 翌朝。

「ふわあ、よく寝た」

 久々にベッドで寝たので、とってもスッキリと目が覚めた。
 ベッドの上で伸びをすると、リズも起きたみたいだ。
 着替えて朝ご飯代わりのベリーを食べる。

「それにしても、ベリーがいっぱいあるね……」
「またエマお姉ちゃんたちにあげようよ!」

 今日は何をしようかな……そんなことを考えながら、朝食を終えた僕たちは部屋を出る。

「「ありがとうございました!」」
「二人とも、また泊まってね」

 宿屋の受付で元気よくお礼を言って、鍵を返す。
 冒険者ギルドの中は、まだ朝早いのに冒険者たちでいっぱいだ。
 僕たちもギルドの受付に向かう。

「おはよう。君たちの話は副マスターから聞いているわ。アレク君とリズちゃん、朝から元気ね」

 受付のお姉さんにいろいろ聞こうとしたら、先に向こうから話しかけられた。

「ちょうどこの後初心者冒険者向けの講座があるから、アレク君とリズちゃんは必ず受けてね」

 おお、そうなんだ。

「講座を受けるために、何か準備はいりますか?」
「特にいらないわ。受付に申し出てくれれば大丈夫よ」
「分かりました。では、よろしくお願いします」
「お願いします!」

 僕たちがハキハキと頼むと、お姉さんが笑みをこぼす。

「はい、分かりました。三十分後に始まるから、時間になったらここに来てね」

 あっ、素材の買い取りについて聞いておかないと。

「お姉さん、ウルフってギルドで買い取ってもらえますか? 血抜きはできているはずです」
「あら、ちゃんと処理までしてあるのね。あそこにいるおじさんに言えば、素材を引き取ってくれるわ。お金もそこで払われるわよ」

 そう言って、お姉さんは受付の隣を指差した。

「お兄ちゃん、行こー!」

 話を聞くと、リズが僕の手を引っ張って走り出してしまった。

「リズ、慌てないで!」

 お姉さんには、後で改めてお礼を言おう。

「おお、エマ様とオリビア様を助けたっていう坊主たちだな? 凄い魔法使いだって聞いてるぜ。どうしたんだ?」

 いかつい顔だけどニカッと笑いかけてきたおじさんに、用件を伝える。

「ウルフの買い取りか……状態を確かめるから、こっちのテーブルに置いてくれ」

 僕たちが魔法袋からウルフを出すと、おじさんは少し驚いた顔をした。

「ハハハッ、なかなかの数を倒したな」
「でも、夢中だったから毛皮が傷だらけで……」
「初めてにしちゃ上出来だ。次は頭を狙うといい。ウルフの頭は素材にならないから、買い取り価格が下がらないぞ。じゃあ、ギルドカードを出してくれ」

 きっと、魔物ごとに狙うべき部位があるんだろうな。
 ギルドカードを出すと、おじさんが素早く手続きを済ませてくれた。

「ウルフは二十万ゴールドってところだ。ギルドカードに実績を登録しておいたぞ」
「お金は、僕とリズで半分ずつもらえませんか?」
「しっかりしたお兄ちゃんだな……この二つの袋にそれぞれ金が入っている。またたくさん仕留めてこいよ」
「「ありがとうございます」」

 大体、一ゴールドが一円くらいの感覚でいいのかな。
 盗まれたら大変なので、すぐに魔法袋にしまった。
 買い取りが終わって、僕たちはギルドの受付に戻る。

「戻りました。さっきはありがとうございました」
「お疲れ様。ちょうど講師の冒険者も来たわよ」

 受付のお姉さんに案内されて、ギルド内の個室に向かう。

「はい、ここが今日の初心者向けの講座を行うところよ。頑張ってね」

 お姉さんと別れ、部屋のドアを開ける。

「あら、アレク君とリズちゃんじゃない!」

 そこには昨日ぶりの再会になる、カミラさんがいた。

「あっ、カミラさんが先生なんですね」
「私たちもいるわよ」
「ナンシーさんとルリアンさんだ!」

 リズがタタタッと走り出して、ナンシーさんに抱きついた。
 この三人、トップクラスの魔法使いだって言ってたもんね。いろいろ話を聞けそうだ。
 部屋は教室みたいな場所で、たくさんの机が並んでいる。
 一番前に他よりも小さい机と椅子があるから、僕とリズはそこに座るんだろう。
 講座を受ける人たちが集まってきたので、僕たちは席に着いた。
 スラちゃんはリズの机の上にちょこんと乗る。
 集まった人たちの年齢はバラバラだ。中には、僕とリズより少し大きいくらいの子もいる。

「参加者がそろったようなので、これから初心者向けの講座を始めます。私はBランク冒険者のカミラよ。こちらにいるルリアンとナンシーと共に、今回の講師を担当します……では、はじめに冒険者のルールについての説明から始めましょう」

 ルリアンさんとナンシーさんが、みんなに冊子を配っていく。
 どうやらこれが教科書らしい。

「まず、冒険者は基本的に自己責任の世界です。自分の身は自分で守ることが大原則となってきます」

 冒険者の仕事は薬草の採取などの簡単なものから、魔物の討伐といった命がけの依頼までさまざまだという。自分の実力に見合ったものを選ばないといけないんだね。

「あなたたちにはまず、Gランク冒険者として活動してもらいます。依頼は自分のランクより一つ上のものまでなら、自由に受けることができるわよ。中にはランクを問わない依頼もあります。依頼を一定回数成功させる、もしくはギルドに対して貢献こうけんすると昇格していく仕組みね。ただし、依頼を連続して失敗した時はランク降格。また、年に一回も依頼を受けていない場合も同様の措置そちを取るわ」

 冒険者として確実に、かつ継続的に仕事を受けないといけないのか。
 ルリアンさんが横から補足する。

「ギルドカードは実績を確認したり、身分証として必要になったりするのでなくしたら駄目ですよ。ランクが上がるとさまざまな特権を持つことができますが、詳しくは冊子を確認してくださいね」

 特権ってどんなものだろう? 後で読んでおかなくちゃ。
 ただ、僕たちが特権を得るためには相当頑張らないといけないのは間違いない。

「ここまでで何か質問は?」
「はい!」

 カミラさんの問いかけに、リズが元気よく手を挙げた。

「冒険に行く時の注意ってなあに?」
「いい質問ね」

 カミラさんが笑みを浮かべる。

「依頼を受ける時は必ず事前に詳細を調べ、下準備をしなければいけないわ。特に高ランクの依頼になればなるほど事前にどれだけ情報を集めるかがかぎ。薬草採取にしても、辞典で植物や魔物について学んでおくのがおすすめよ。こうした書籍は冒険者ギルドでも販売はんばいしているから、最初のうちに買っておくといいでしょう。装備もしっかりと揃え、特に薬草やポーションは常にストックしておく必要があります。前衛だけではありません。後衛の魔法使いにとって、魔力切れで気絶してしまっては大問題ですからね」

 確かに、カミラさんの言う通りだ。魔力が切れたら【鑑定】は使えないわけだし、僕も辞典を買って魔法に頼りすぎないように勉強しないと。

「ギルドではいろいろな講座を開いているわ。無料で参加できるから、積極的に参加してね」

 ナンシーさんが話をまとめた。僕はちらりと後ろを振り返る。
 うーん……ほとんどの人は真剣に講義を聞いているけど、中にはちょっと退屈そうにしている人もいる。
 たとえば、一番後ろの席にふんぞり返って座っている男の人。筋肉ムキムキなんだけど、つまらなそうにあくびをしているし……こういうちゃんと話を聞かない人って依頼を失敗しちゃいそうだなぁ。

「これから訓練場に移動して、君たちの実力を確かめます。それぞれ得意な武器、魔法で私たちと勝負するの。私もナンシーたちも、本業は魔法使いだけど、武器も一通り扱えるから手加減はいらないわよ」


 ……ということで、みんなでギルドにある訓練場にやってきた。

「あ、アレク君とリズちゃんは一番最後にするから、ちょっと待っていてね」

 ナンシーさんに言われ、僕たちは練習場の隅で体育座りをして他の人を見守る。
 スラちゃんはぴょんぴょんと跳ねながら、僕とリズの頭の上を行ったり来たりしている。
 参加者たちを見回して、カミラさんが言う。

「では、最初にやりたいという人はいるかしら?」
「俺がやるぞ!」

 さっきまでつまらなさそうにしていた筋肉ムキムキの男性が、大きな剣を持って名乗りを上げた。
 なんだかやる気満々みたいだ。

「もし俺がぶちのめしちまっても、実力を測れなかった先生の自己責任ってやつだよな?」
「もちろん。それができればの話だけどね」

 筋肉ムキムキの人はニヤニヤと笑っているけど、僕は絶対に無理だと思うな。
 カミラさん、リーチが短いダガーを選んでいるのに、余裕そうな表情をくずさないし。

「きっと、カミラさんが簡単に勝っちゃうね」

 リズも僕と同じ意見みたいだ。
 カミラさんと男の人がそれぞれ武器を構える。
 そして試合が始まった。

「オラ、オラ、オラッ!」

 男の人が振るう大剣を、カミラさんはなんなくよける。
 その様子に気を悪くしたのか、彼はさらに剣を振り回した……が、まったく当たる気配がない。

「後があるのでこのくらいにしましょうか。あなたは剣技講習をしっかり受けなさい」

 そう言ったカミラさんが、素早く男のふところに飛び込む。
 そして相手の首筋にダガーを突きつけた。

「お、俺の剣技が……」

 男の人が呆然とした。

「それではどんどんいきましょう。ルリアンとナンシーも空いてるから、遠慮なくかかってきなさい。ただ、もしまだ一度も実戦をしたことがない場合は申し出てね」

 練習場の隅で「の」の字を書いていじけている対戦相手をスルーし、カミラさんが呼びかけた。
 ルリアンさんとナンシーさんも指導を開始して、初めて武器を持つ人にも的確なアドバイスをしている。
 やっぱり、トップクラスの冒険者って凄いな。
 三十分くらいすると、僕とリズ以外の冒険者の実力確認が終わったみたい。
 ようやく僕たちの番だ。立ち上がって中央に進み出る。

「今から戦うアレク君とリズちゃんは、すでに魔法使いとして実力がある子たちよ」
「まだまだ実戦経験は少ないそうですが、魔力量が際立っていますからね」

 あの……ルリアンさんとナンシーさん、なんだかハードルを上げていませんか?
 他の人たちが「うそだろ」って顔をしているよ。
 そんなことはお構いなしに、カミラさんが口を開く。

「二人とも、手加減なしの全力で魔法を使っていいわよ。どんな魔法が得意かな?」

 うーん……改めて言われるとなかなか思いつかない。

「カミラさん、僕とリズってよく一緒に魔力循環をしていたんです。だから、二人の魔力をめてそのまま放つ……っていうのは駄目ですか?」
「あら、そんな練習をしていたのね。きっと幼い頃から魔力循環をしていたから、二人とも際立って魔力が多いんだわ。それは一種の【合体魔法】よ。お互いの相性がいいと、魔法の効果が増したり、異なる属性の魔法を重ねがけできたりするの……それなら、私とルリアン、ナンシーで【魔法障壁】を張りましょう。【合体魔法】と【合体魔法】をぶつけ合う形でどうかしら?」
「はーい。お兄ちゃん、やってみようよ!」

 カミラさんたちが三層の【魔法障壁】を作り出す。
 僕とリズは手を繋ぎ、負けじと魔力を溜めていく。

「カミラさんたち、いっくよー!」

 ヒューン、ズドドドーーン!
 リズの声を合図に一気に魔力を放出すると、訓練場にすさまじい音がとどろいた。
 僕たちが出した極太ごくぶとの魔力のビームが、ガリガリとカミラさんたちの【魔法障壁】をけずっていく。
 ビームと【魔法障壁】が衝突しょうとつした余波で、リズの頭の上にいたスラちゃんがころりと落ちた。
 あ、これってかなりマズイかも。

「リズ、ストップ! これ以上は駄目!」

 急いでビームを止めると、【魔法障壁】が消滅する寸前だった。
【魔法障壁】だけでは防御ぼうぎょしきれなかったのか、カミラさんたちはボロボロだ。
 いけない、やりすぎた。慌てて僕たちは三人に駆け寄る。

「あわわわわ。リズ、早く回復魔法を!」
「ごめんなさい、やりすぎちゃった!」

 すぐにリズが怪我を癒やすと、カミラさんたちが息をついた。

「怪我をさせてしまってごめんなさい」
「魔力、あんまり溜めないようにしたんだけど……グスッ」

 思いがけず大怪我をさせてしまった……それが怖くて、リズと一緒にポロポロと泣いてしまう。
 すると、ルリアンさんとナンシーさんが僕たちを抱きしめた。
 カミラさんがしょんぼりする僕の頭を撫で、苦笑する。

「たまにとんでもない逸材いつざいが現れるいい例ね。アレク君たちは悪くないわ。冒険者は自己責任の世界……相手の力量を測り間違えるととても危険だわ。そこのあなたも、分かったわね?」

 筋肉ムキムキの人が真剣な表情でコクコクと頷いていた。他の人もおびえているみたい。

「今日の講座はこれで終わり。解散しましょう」

 ナンシーさんの号令でお開きになったけど……僕とリズはまだ涙が止まらない。
 カミラさんたちに手を引かれて食堂へ向かうと、ジンさんとレイナさんが待っていた。

「おっ、来たな……って、なんで泣いてるんだ?」
「何かあったの?」

 僕とリズの様子に気づき、心配そうだ。
 二人の質問にルリアンさんが答える。

「初心者向けの講座でちょっとありまして……講座の中で、新人の実力確認をするでしょう?」
「ああ、それがどうした?」

 ジンさんが尋ね返すと、今度はナンシーさんが説明する。

「実は、アレク君とリズちゃんの【合体魔法】が私たちの【魔法障壁】を破りかけてね……怪我をさせてしまったって、二人とも反省しているみたいなのよ」
「そっか。優しい子だから、無自覚に人を傷つけて悲しくなっちゃったんだね」

 僕とリズがコクコクと頷くと、レイナさんが頭を撫でてくれた。

「しかし、凄いな。カミラたち三人の【魔法障壁】をいとも簡単に……」
「意識して【合体魔法】を使うのが初めてで、加減が分からなかったようね。今度ちゃんと教えてあげるから、ゆっくり慣れていきましょう」

 きちんと魔力を制御しないと危険だってよく分かった。

「ほら、お喋りはここまでだよ。ご飯を食べれば元気になるよ」

 僕たちが涙を拭った頃、ウェイトレスのおばさんが昼食を持ってきた。
 とてもいいにおいで、リズが途端に笑顔になった。
 早速メインの焼肉にフォークを伸ばしている。

「お兄ちゃん、これ、肉汁がジュワッてしておいしいよ!」

 すっかり元気になったリズを見て、カミラさんが苦笑いして言う。

「しばらくは私たちは予定があって忙しいけど……片付いたら一緒に魔法の修業をしようね」

 これから頑張って修業しよう。


「カミラさんたちのご飯代は僕に払わせてください。ウルフを売ったから、お金はあるんです」

 昼食後、僕は三人に向かって申し出た。

「怪我をさせちゃってごめんなさいの代わりなの」

 リズも同じ気持ちなのか、頭を下げている。テーブルの上のスラちゃんもペコリとお辞儀した。

「じゃあ、今回は奢ってもらおうかしら。でも、これでこの件は終わり。もう気にしないで」

 ある意味区切りってのもあるけど……少し気持ちが晴れた。

「さて、それじゃ、移動するか」
「私とジン、これから会議に出るんだけど、カミラたちも来てほしいそうよ」

 昨日話していたゴブリンの討伐に関する話し合いだね。

「行ってらっしゃい」

 ここでお別れかなと思って手を振ったら、ジンさんとレイナさんが不思議そうな顔をする。

「何してるんだ? アレクとリズも一緒に行くんだぞ」
「そうよ。君たちが第一発見者なんだから」

 思わずリズと顔を見合わせる。
 ルリアンさんとナンシーさんが手を繋いでくれたので、僕たちも向かうことになった。
 冒険者ギルドを出る。
 ジンさんたちは足の遅い僕とリズに合わせて、ゆっくり進んでくれているみたい。
 屋台が立ち並ぶ市場を抜けると、周囲に住宅が増え始めた。
 しばらくすると、高級そうな屋敷があるエリアに入る。
 そして大通りに面した、ひときわ大きい屋敷に到着した。
 リズと揃って声を上げる。

「「うわあ、おっきい!」」

 立派な門や広い庭まである、大豪邸だいごうていだ。
 ジンさんが門兵に声をかけると、すぐに屋敷から執事しつじがやってきた。

「こちらへどうぞ」

 高そうな調度品が並ぶ応接室に通される。
 僕とリズはすっかり緊張してしまい、出されたジュースの味さえ分からない。

「ここはいつ来ても圧倒されるな」
「そりゃ、領主様の邸宅ていたくだもの」

 苦笑いするジンさんに、カミラさんが言った。
 ああ、だからこんなに豪華なお家なんだ。
 しばらくすると、応接室のドアがノックされた。
 ドアを開けて入ってきたのは、昨日会ったこの町の司祭様……ヘンドリクスさんだ。

「「こんにちは!」」
「おお、先に来ておったか」

 僕とリズが挨拶するとヘンドリクスさんは頭を撫でてくれた。
 すぐに騎士団長のガンドフさんもやってきて、僕たちをポンポンと叩いていく。

「お待たせして申し訳ありません」
「すまんな、待たせた」

 次に、冒険者ギルドの副マスターのマリーさんと、初めて見る大きな男の人が入ってきた。
 男の人は髪を短くり上げていて、筋肉ムキムキのかなり厳つい体格だ。
 マリーさんと一緒に来たってことは、もしかしてこの人がギルドマスター?

「こんにちは、アレクサンダーです」
「リズはエリザベスです!」
「お、このちびっこが例の子か。しっかりしているな。俺は冒険者ギルドのマスター、ベイルだ」
「ベイルさん、強く撫ですぎです。二人の髪の毛がボサボサになってしまったでしょう?」

 そう言って、マリーさんが手ぐしで僕たちの髪を整えた。

「会議が始まる前に連絡だ。兵から、森にゴブリンが大量にいたと報告があった。すでに領主様には共有したが……」

 ガンドフさんの言葉に、ベイルさんが顔をしかめる。

「はあ、マジかよ。最近は平和だと思っていたんだがな」

 やっぱりゴブリンが大量発生していたんだ。
 そんな話をしていると……

「やあ、待たせてしまったな」

 応接室に、新たに男性が入ってきた。
 他のみんなが立ち上がったので、慌てて僕とリズも真似をする。
 その男性は、フリルの付いたシャツに深緑色のジャケットを羽織はおっている。ジャケットには金色の刺繍が入っていて、とっても豪華な雰囲気だ。
 きらびやかな服を着ている人を見ると、僕たちを追い出したゲインとノラを思い出すんだけど……この人からは嫌な感じがちっともしない。


 彼が着席したので、改めて僕たちもソファに座った。

「まずはお礼を言おう、小さな魔法使いたち。娘を助けてくれてありがとう。私はエマとオリビアの父でヘンリーと言う。ここ、ホーエンハイム辺境伯領の領主だが……あまりかしこまらないでくれ」
「初めまして、アレクサンダーです」
「エリザベスです」
「なるほど。幼いのに凄く大人びていて礼儀正しいという話は事実だったんだな」

 辺境伯って、確か前世で読んだ異世界ものではかなりの上位貴族だった。

「さて、君たちのおかげで貴重な情報が手に入った。騎士団の調査でもゴブリンが確認されたが、より詳しく調べたい。冒険者ギルドから人員を出せるか?」
「ここにいるジンたちにパーティを組んでもらう予定です」

 ヘンリー様の質問に、ベイルさんが答えた。
 この五人なら実力があるし……騎士団も同行するそうだから、しっかり調査できるはずだ。

「万が一、ゴブリンが町を襲ってくるようなら、教会にも冒険者の治療や住民の避難先として協力を求めることになるだろう」
うけたまわりましたぞ、ヘンリー様。治癒師ちゆしを派遣しましょう」

 治癒師とは、回復魔法が得意な魔法使いのことらしい。
 ヘンドリクスさんが胸を叩いた。そういえばこの町の教会ってどんな建物だろう。
 頭の中に、社会の教科書に載っていた教会の写真が思い浮かぶ。

「調査が終わり次第、討伐隊を出そう。各組織も準備を進めてくれ」

 ヘンリー様はみんなに声をかけた後、なぜか僕たちに向き直った。

「さて、アレク君とリズちゃん。君たちにも協力を願いたい。娘から、『回復魔法が使える』と聞いたが、それは本当かね?」
「はい、使えます。ただ、僕よりリズのほうが上手です」
「ふむ……実は、いざという時には教会で治療の手伝いをしてもらいたいのだ。頼めるか?」

 ヘンリー様のお願いに僕は頷いた。
「戦闘に参加しろ」と言われたのなら、断っていたかもしれない。
 ただ、怪我人を治療するのなら僕たちでも力になれる。
 リズもスラちゃんもふんすっと気合を入れている。

「ありがとう、二人とも。それでは話はまとまったしお茶にしようか。準備を始めてくれ」

 そう言ったヘンリー様が、そばにいた使用人に指示をした。
 使用人が応接室を出ていき、しばらくすると……

「「失礼します」」
「あ、エマお姉ちゃんとオリビアお姉ちゃんだ! お洋服、綺麗だね!」

 ドアを開けて、エマさんとオリビアさんが入ってきた。
 二人とも昨日のような軽装ではなく、フリルのついたドレスを着ていてとてもはなやかだ。
 使用人と一緒にお茶とお菓子を持ってきたみたい。

「リズちゃんが分けてくれたベリーで、ベリーパイを作ったの。みんなで食べて!」
「アレク君とリズちゃんは命の恩人だから、感謝の気持ちをいっぱい込めました」

 各人の前に切り分けられたベリーパイが並ぶ。
 真っ先にパイに飛びついたリズが、一口食べて瞳を輝かせた。

「エマお姉ちゃん、オリビアお姉ちゃん! これ、とってもおいしいよ!」

 リズの言う通り、甘酸っぱくて凄くおいしい。

「気に入ってもらえてよかったー!」
「おかわりもありますから、どんどん食べてくださいね」

 こうして和やかな時間が過ぎた。


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