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1巻
1-8
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「ほら、行ってきな」
「頑張ってね」
受付に何人か集まっていくので、ジンさんたちと別れて向かう。
「では、これから部屋に移動します。忘れ物のないようにね」
ギルドのお姉さんが僕たちを先導する。
この前初心者講座を受けた、教室っぽいあの部屋だ。
今回参加する人は、僕たちくらいの子どもや女性がほとんどみたい。
しばらくすると、一人のおじさんが入ってきた。
「はい、では講座を始めよう。まず薬草のサンプルを受け取ってくれ」
参加者一人一人に薬草のサンプルが配られた。【鑑定】すると、そのまま《薬草》と表示された。
……って、【鑑定】に頼らないようにしたいと思っていたんだっけ。薬草辞典も準備しよう。
「見た目はなんてことのない普通の草だ。あまり日当たりがいいと生育が難しく、森の木陰によく生える」
へー、日当たりがいいと駄目なんだ……なんだか不思議だな。
「葉は採ってもすぐにまた生えてくる。だから、根ごと採っては駄目だ。採取する時は必ず葉を採取してくれ」
「はーい」
あっ、リズとスラちゃんが元気よく手を上げたから、周りの人がクスクスと笑っている。
講師のおじさんが微笑ましそうな顔で続ける。
「薬草は十枚一組で買い取りに出せる。ギルドの売店で、束ねるための専用の紐が売っているから、事前に購入するといいだろう。手提げカゴや背負いカゴも、ギルドで購入可能だ」
カゴは、薬草採取に行く前に買っておきたいな。
僕たちには魔法袋があるけれど……リズとスラちゃんがとても張り切っているから、たくさん採るかもしれないし。
「一番注意したいのが、魔物の襲撃だ。薬草を採取する時は、視線がどうしても地面に向きがちだ。場合によっては護衛を頼むことも考えてくれ」
ゴブリンの襲撃事件があったし、しばらくは今まで以上に周囲を警戒する必要があるのかな。
僕は【探索】を使えるけど……この魔法や【鑑定】は意外と高度なのだと最近気づいた。
他の人たちだと難しいかも。
「今回は若手の冒険者を護衛に付ける。次回以降は事前にギルドに相談してほしい」
座学はこれで終わりらしい。
三十分の休憩を挟み、森に移動するそうだ。
受付に戻ると、ジンさんとレイナさんが僕に近寄ってきた。
「お、講座は終わったか……って、アレク一人か? 妹はどうした?」
「リズとスラちゃんは食堂に走っていっちゃって……」
「お兄ちゃんは大変ね。気をつけて」
二人はこの後用事があるとのことで、少し話をするとすぐに去っていった。
さて、僕は買い物をしないと。売店に寄り、薬草採取に必要なものを探す。
「おや、薬草を採りに行くのかい?」
店員のおばさんに、僕は頷いた。
「はい、これから初めて行くんです」
「そうかい、そうかい。薬草採りに必要なセットはこれだよ。いくついる?」
「ええっと……セットは二つ分で、薬草を束ねる紐を多めにください」
「はいよ、背負いカゴはどうする?」
「念のため欲しいです。魔法袋があるので、全部入れていきます」
「ほう、魔法袋を持っているのかい。それなら大丈夫だね」
おばちゃんのおかげで、どんどん準備が進む。
「あんた、初心者だろう? 簡易的な冒険者セットもあるけど、ついでに買っていくかい?」
冒険者セットはこの前イザベラ様に買ってもらったやつがあるけど……少し中身が違うから、こっちのも買っておこう。
「それもお願いします。あと、フライパンも一つ。お金はこれで足りますか?」
「大丈夫さ。こっちがお釣りだよ、毎度あり」
さて、買い物はできたぞ。
講座が終わって一直線に食堂に向かっていったリズは……おっ、他の子たちといたのか。
「あっ、お兄ちゃんだ! また後でね!」
一緒にいた子たちと別れて、こちらに駆け寄ってくる。
「はい、薬草を採るための道具だよ。こっちはこの前とは別の冒険者セットね」
「ありがとう!」
薬草採取の道具を渡すと、リズは早速魔法袋にしまう。
「リズは何をしていたの?」
「大きなお弁当を頼んだの。森に行ったら、みんなで食べるんだ!」
ドヤ顔のリズが、腰に手を当て胸を張る。
この前もらったお菓子も余っているし……お昼に一緒に出そう。
『薬草採取に行く人は、受付に集まってください』
おっと、受付のお姉さんから集合の合図がかかった。
「おや、君たちも参加するのか」
護衛役らしき青年冒険者が、なぜか僕に話しかけてきた。
誰だろう?
「ハハハ、こうして話をするのは初めてだもんな。先日のゴブリン事件の時に俺もいたんだよ。もちろん、君たちの活躍は近くで見ていた」
「小さいのに、本当に凄い魔法使いだね」
もう一人、同じく護衛役らしい女性も近寄ってきて、僕たちを褒めてくれた。
「そうだったんですね。今日はよろしくお願いします」
「こちらも、これだけの人数を守るのはいい訓練になる。お互い頑張ろうな」
とっても感じのいい人たちだ。だからこそ、今回の護衛に選ばれたのかもしれない。
人も揃ったところで、みんなで森に向かう。
「お、今日から薬草採取が再開かい?」
「うん、そうだよ!」
「そうかい、気をつけていってくるんだよ」
城壁を守っていた門番の声を受けて、僕たちは森に入った。
「今日は初日なので、森の奥には行かないでください。帰る時もみんなで帰ります」
護衛の女性の注意を聞き、薬草採取が始まった。
さて、どのあたりに生えているのだろうか?
うーん……試しに【探索】で範囲を絞れないかな。
集中し、さっき見た薬草のサンプルをイメージする。
脳裏にたくさんの薬草の反応が浮かんだ。
うまく【探索】を応用できたみたいだ。早速採りに行く。
「お兄ちゃん、見て! いっぱいだよ!」
「う、うん。凄いね……」
ところが、その場所に着くと、すでにリズが薬草を採っていた。
どうも、勘で薬草が生えているところを見つけたらしい。
スラちゃんと以心伝心だったり、ゴブリンの襲撃に最初に気づいたり……リズは凄く勘が鋭い。
もしかして、僕の魔法より高性能なの……? 薬草が生えている場所を次々と見つけている。
リズは他の参加者も案内できるくらい余裕があるみたい。みんな大量の薬草が採れてご満悦だ。
「お兄ちゃん、どうしたの?」
「いや、なんでもないよ……」
僕は【探索】を使うのをやめて、地道に採取に励むことにした。
なんだか敗北感が凄い。
「ドンマイ」と言いたげに肩を叩いてくるスラちゃんに慰められているうちに、時間が過ぎた。
お昼になり、全員で森の入り口まで戻ってきた。
リズが地面にシートを敷き、魔法袋から買ってきた食事を出す。
肉や野菜を挟んだいろいろなサンドウィッチに、ジャムがたっぷり使われたパイ。ゆで卵やミートボール、オレンジや桃といった果物まである。
「また随分といっぱい買ったね?」
「みんなで食べるんだもん!」
それにしたって量が多いぞ……
「護衛のお兄さんとお姉さん、よかったら一緒に食べませんか?」
「いいのか?」
せっかくなので、護衛の二人を呼ぶ。
僕とリズ、仲良くなった子どもたちと大人が二人……みんながお腹いっぱいになるまで食べて、ようやく完食した。
「リズ、もし買ったものが余ったらどうするつもりだったの?」
「スラちゃんが食べてくれるもん」
「最初から余らせるつもりで買ったら駄目だよ。スラちゃんには、スラちゃんのためのご飯を買ってあげないと」
「えー!」
スラちゃんはスライムだからなんでも食べる。でも残飯処理係ではない。
さすがに、今回は怒らないと。
護衛のお姉さんも注意してくれる。
「お兄ちゃんの言うことが正しいわ。リズちゃんがみんなのために張り切っていたのは分かるけど、ちゃんと食べ切れる分だけ用意しないとね」
「むむむっ……分かったよー」
リズが渋々と頷いた。
僕はこっそりお姉さんに近づき、お礼を言う。
「ありがとうございます」
「いいのよ。君はとてもいいお兄ちゃんだけど、大人が教えるべきことだからね」
確かにそうなのかな。今度、ヘンリー様やイザベラ様にも相談してみよう。
本来なら午後も薬草を採るはずだったけれど、午前の頑張りで薬草を結ぶ紐がなくなってしまったので、早めにギルドに帰ることになった。
ギルドに着くと、みんな買い取りスペースに駆けていく。
「おお、凄いな。こんなにもたくさん採ってきたのか? やるじゃないか」
買い取り役のおじさんが驚いた。
おまけに結構高値で売れたので、特に子どもたちは大喜びだった。
かくして、予定よりも早めに屋敷に帰ったのだが……
「お帰りなさい……あら、どうしたの?」
出迎えてくれたイザベラ様が、膨れっ面のリズを見て怪訝な顔をした。
「薬草採取で、ちょっと……」
「むぅー」
僕とお姉さんに注意されて、いったんは納得したリズだったが、帰るうちにご機嫌ななめになり、ぷぅっとむくれてしまったのだ。
リズの手を引いて食堂に移動しつつ、僕は今日の出来事を報告する。
「なるほどね。リズちゃんは、みんなのためにたくさんご飯を買いたかったのね」
席に着いたイザベラ様が、リズの目をじっと見つめる。
「でも、少しはしゃぎすぎちゃったわね。お兄ちゃんとその護衛の人が注意するのも分かるわ」
「うん……」
椅子に座って足をぶらぶらさせながら、リズが返事をする。
「今度は必要な分だけ頼むようにしましょうね。用意してくれる人も、準備が大変になっちゃうもの」
「……はぁい」
リズは頭のいい子だから、次からは気をつけてくれるはずだ。
イザベラ様に改めて注意されて、しょんぼりしている。
「アレク君、あなたはいい子だけどまだ幼いわ。リズちゃんのお世話を、すべて自分一人でする必要はないの。小さい子の面倒を見るのは大人としての義務よ。気にせず相談してね」
思い切って報告してよかった。
イザベラ様が僕の頭を撫でながらニコッと微笑んでくれたので、少し肩の力が抜けた。
その日の夜。
「お兄ちゃん」
明日に備えて早めに寝ようとすると、リズが僕に抱きついてきた。
「うん、どうしたの?」
「今日はごめんね」
「いいんだよ。リズが周りの人を気遣ったのは、とてもいいことなんだから」
そうして、いつも通り抱き合ってベッドに入る。
そういえば、前世では自分でやるのが当たり前で、誰かに心配されることなんてほとんどなかったな……
イザベラ様の言葉を思い出し、なんだか温かい気持ちのまま眠りについた。
◆ ◇ ◆
翌朝。
今日から三日間の魔法訓練が始まる。
「わー、いっぱい冒険者がいるね!」
ギルドに到着すると、リズが歓声を上げた。
受付には多くの人が集まっている。
中には剣を持っている人もいるけど……どういうことだろう?
「おはよう、アレク君にリズちゃん」
僕たちの後ろから、カミラさんが声をかけてきた。
その後ろには、ルリアンさんとナンシーさんもいる。
「今回の訓練って僕たちだけじゃないんですね」
「この間のゴブリン事件もあって、『強くなりたい』と願う人が多かったのよ」
カミラさんが言うと、ルリアンさんとナンシーさんも続く。
「アレク君とリズちゃんだけの特別訓練にしようかとも思ったのですが、そうも言ってられず……」
「ただ、もともと教えようと思っていた内容に変更はないよ」
「そうだったんですね! 今日はよろしくお願いします」
カミラさんたちにとっては、まとめて教えたほうが楽ちんだよね。
剣を持っている人たちには、ジンさんとレイナさんが稽古をつけるんだって。
ということで、みんなでギルドの訓練場に移動する。
剣術や体術を習う組と魔法を練習する組に分かれて、講習スタートだ。
「訓練を始める前に、適性を調べてみましょうか」
カミラさんは魔導具らしき水晶を準備する。魔導具とは魔力で動く便利なアイテムのことだ。
ルリアンさんとナンシーさんが説明を引き継ぐ。
「魔法には複数の種類があります。誰もが使える無属性魔法に、基本となる火・水・風・土・回復の五属性です。たとえば【身体強化】は無属性の魔法ですね」
「他には光と闇、雷と空間といったレアな属性があるわ。聖属性はさらに希少な属性よ」
このあたりは、前に読んだ魔法の本にも載っていたな。
ただ、空間属性と聖属性というのは初めて聞いたぞ。
「無属性は基本的に誰にでも使える属性です。もちろん、使える魔法の難易度は人によって変わってきます。またそれとは別に、大体の人は一つか二つ属性の適性を持っています」
一つか二つ……僕、基本の五属性と光と闇、それに雷属性を使えるんだけど……
「はい、準備ができたわ。では順番に属性を調べましょう」
カミラさんが用意したのは、手を置くと適性属性の色が光るという不思議な魔導具だった。
これを使うと、無属性以外の適性が分かるらしい。
「アレク君とリズちゃんはちょっと待っていてね」
当たり前のように僕とリズは後回しにされた。すでにカミラさんたちは僕たちがさまざまな属性の魔法を使えるって知っているから、他の人にショックを与えないよう配慮したのかも。
「僕は火と風だ!」
「私、光属性が使えるのね!」
魔法講習の参加者たちが次々と水晶に手を置き、その結果に一喜一憂している。
やっぱり使える魔法は無属性を除いた一つか二つみたい。
「お待たせ、リズちゃんから調べてみましょうね」
しばらくすると、やっと僕たちの順番が回ってきた。
リズが元気よくカミラさんのところに向かう。
ところが、水晶に手を置く直前、頭の上に乗っていたスラちゃんがぴょんと飛び下り、水晶に乗ってしまった。
「あー!」
水晶を取られたリズが叫ぶ。
「あら、スラちゃんが触っちゃったわね。もう一度準備するからちょっと待って……って、え?」
カミラさんが水晶を回収しようとして固まった。
なんと、水晶が三色に光っている。
「風と土、それに回復に適性ありですか……」
「無属性を含めて、四つの属性を使えるスライムなんて聞いたことがないわ」
ルリアンさんとナンシーさんも驚いている。
あれ? スラちゃんって、風魔法しか使えなかったはず。
もしかして、ゴブリンをいっぱい吸収したから成長したの? そういえば、僕たちが治療院で回復魔法を使っているのも、じっと観察していたような……
スラちゃんがドヤ顔するので、リズがむくれてしまった。
カミラさんが再び水晶を用意する。
「リズちゃん、お待たせ。どうぞ」
「むー、絶対にスラちゃんの数を超えるもん!」
ピカーッと水晶が輝く。
リズの結果は回復と光……そしてなんと聖属性だった。
とんでもない結果だが、リズにとっては属性数のほうが大事だったらしい。スラちゃんを超えられなくて悔しがっている。
スラちゃん、リズの周りをぴょんぴょん跳ねて煽らないの。
「凄い結果が続いたけど、これは序の口よ。最後に診断するアレク君については、例外だと思ってみんなは無視していいから」
カミラさん、カミラさん。僕って珍獣扱い?
周りの人が、なんだなんだとざわめく。
「それじゃあ、アレク君。手を置いてね」
ピカーッ。
僕が手を置くと、水晶が眩く輝く。
「予想していましたが、こんな結果は初めて見ましたよ……」
ルリアンさんが呆れたように言った。
僕は、聖属性を除く全部の属性に適性があった。
使ったことがない空間属性にも適性があるようだ。前から思っていたんだけど、僕って異世界転生者なわけだし……魔法チートがあるのかも?
「たまに彼みたいな才能の塊が現れるけど、気にしなくていいからね。他人は他人、自分の結果に向き合うことが大切よ」
ナンシーさんがその場をまとめると、カミラさんが話を変えた。
「では、魔法の練習に移りましょう」
さて、ここからが本番だ。
「魔法使いの中には魔力量や使える属性数を自慢する人がいるわ。でも、自分の魔法を完璧にコントロールできてこそ、一流の魔法使い。今日は日常でできる練習の仕方と、魔法を制御する方法を教えます」
うう、これは少し耳が痛い話だ。
【合体魔法】を制御しきれなかったわけだし……
「まずは日々の訓練は、体内の魔力を循環させる魔力循環が重要です。一日五分でもいいので、毎日必ずやりましょう」
これも本に書いてあった内容だ。家を追い出される前は毎日やっていたし、今でもなるべく続けるようにしている。
「カミラさん! リズ、いつもお兄ちゃんと手を繋いでやっているよ」
「うんうん。二人の魔力量が多いのは小さい頃からの練習の賜物ね。でも一人での魔力循環も練習したほうがいいわ。二人でやるのとは魔力の流れが少し違うの。お兄ちゃんとどっちがうまくできるか、勝負ね」
「おおー! 頑張る!」
カミラさん、リズをあまり煽らないで。
負けず嫌いだから、きっと僕に勝負を挑んでくる。
「もう一つが、魔力玉を使った魔力の調整訓練ね。両手でボールを包むようなイメージで魔力を流すと、このように魔力玉ができるわ。この玉を大きくしたり小さくしたりして、魔力を調整する訓練をします」
説明しながら、カミラさんが実演した。
お、これは本に書いてなかったぞ。
魔力玉を作ることは簡単だ。ただ、大きくしたり小さくしたりするのは難しい。
他の人もかなり苦戦しているみたいだ。隣にいるリズは、魔力玉を小さくできず悩んでいる。
カミラさんは余裕の笑みを浮かべてサイズを変えているから、このあたりが一流の魔法使いとの違いなんだろうな。
「これができるようになると、魔法の制御が簡単になるわ」
カミラさんの言葉に、ルリアンさんとナンシーさんが続ける。
「今日の講座はお昼までなので、時間まで魔力の循環と魔力玉の調整をやりましょう」
「どんどん質問してね。聞くのは恥ずかしいことじゃないから」
ということで、それぞれ自由に練習を始めた。
リズが早速カミラさんに泣きつくと、それを皮切りに他の人もどんどん遠慮なく質問し始めた。
僕はしばらく一人で試行錯誤しようと思う。
苦心して魔力玉を大きくしたり小さくしたりしていると、後ろからルリアンさんとナンシーさんの話し声が聞こえてきた。
「あのリズちゃんでさえ『うまくできない』って聞きに来たのに、一人で練習していますよ」
「やっぱりアレク君は凄いわね」
いやいや、本当にこれは難しいってば。
それからしばらくして、カミラさんが手を叩いて呼びかける。
「はい、これで今日の講習は終わり! 明日も頑張りましょうね」
いつの間にかお昼の時間になっていたみたいだ。
結局リズは、少しだけ魔力玉を小さくすることに成功していた。
ただ、その横でスラちゃんが簡単に魔力玉のサイズを変え、リズを煽るものだから負けん気に火がついてしまったらしい。屋敷に帰っても魔力玉の練習をするそうだ。
その後、僕とリズは、カミラさんたちと一緒に久々にギルドの食堂で昼食をとることにした。
ジンさんとレイナさんも同席している
「アレク、リズ。カミラたちの訓練はどうだった?」
「かなり難しいです」
「うまくできなかった……」
「ハハハッ。リズ、なんだよその顔は」
ジンさんの指摘に、リズがますます膨れっ面になってしまった。
「やっぱり魔法の制御はまだまだです。できたつもりになっていたけど、もっと頑張らないと」
「頑張るもん。お兄ちゃんには負けないもん」
僕たちが言うと、ジンさんとレイナさんが微笑んだ。
「偉いぞ。いくら才能があっても、訓練は必要だ」
「そうそう、きちんと訓練をしないと、自分だけでなく周りの人も危ないもの」
今まで自己流だったから、今日の訓練はためになった。
「明日の訓練も難しいわよ。でも、一流の魔法使いになるには避けて通れないから、一緒に頑張りましょう」
「はい、頑張ります」
「リズも頑張るよ!」
カミラさんの言葉に、僕たちは拳を握った。
ちなみに午後はヘンリー様の屋敷の庭で復習をしたんだけど……頑張りすぎて魔力切れになり、気絶してしまった。何事もほどほどにしないと。
「頑張ってね」
受付に何人か集まっていくので、ジンさんたちと別れて向かう。
「では、これから部屋に移動します。忘れ物のないようにね」
ギルドのお姉さんが僕たちを先導する。
この前初心者講座を受けた、教室っぽいあの部屋だ。
今回参加する人は、僕たちくらいの子どもや女性がほとんどみたい。
しばらくすると、一人のおじさんが入ってきた。
「はい、では講座を始めよう。まず薬草のサンプルを受け取ってくれ」
参加者一人一人に薬草のサンプルが配られた。【鑑定】すると、そのまま《薬草》と表示された。
……って、【鑑定】に頼らないようにしたいと思っていたんだっけ。薬草辞典も準備しよう。
「見た目はなんてことのない普通の草だ。あまり日当たりがいいと生育が難しく、森の木陰によく生える」
へー、日当たりがいいと駄目なんだ……なんだか不思議だな。
「葉は採ってもすぐにまた生えてくる。だから、根ごと採っては駄目だ。採取する時は必ず葉を採取してくれ」
「はーい」
あっ、リズとスラちゃんが元気よく手を上げたから、周りの人がクスクスと笑っている。
講師のおじさんが微笑ましそうな顔で続ける。
「薬草は十枚一組で買い取りに出せる。ギルドの売店で、束ねるための専用の紐が売っているから、事前に購入するといいだろう。手提げカゴや背負いカゴも、ギルドで購入可能だ」
カゴは、薬草採取に行く前に買っておきたいな。
僕たちには魔法袋があるけれど……リズとスラちゃんがとても張り切っているから、たくさん採るかもしれないし。
「一番注意したいのが、魔物の襲撃だ。薬草を採取する時は、視線がどうしても地面に向きがちだ。場合によっては護衛を頼むことも考えてくれ」
ゴブリンの襲撃事件があったし、しばらくは今まで以上に周囲を警戒する必要があるのかな。
僕は【探索】を使えるけど……この魔法や【鑑定】は意外と高度なのだと最近気づいた。
他の人たちだと難しいかも。
「今回は若手の冒険者を護衛に付ける。次回以降は事前にギルドに相談してほしい」
座学はこれで終わりらしい。
三十分の休憩を挟み、森に移動するそうだ。
受付に戻ると、ジンさんとレイナさんが僕に近寄ってきた。
「お、講座は終わったか……って、アレク一人か? 妹はどうした?」
「リズとスラちゃんは食堂に走っていっちゃって……」
「お兄ちゃんは大変ね。気をつけて」
二人はこの後用事があるとのことで、少し話をするとすぐに去っていった。
さて、僕は買い物をしないと。売店に寄り、薬草採取に必要なものを探す。
「おや、薬草を採りに行くのかい?」
店員のおばさんに、僕は頷いた。
「はい、これから初めて行くんです」
「そうかい、そうかい。薬草採りに必要なセットはこれだよ。いくついる?」
「ええっと……セットは二つ分で、薬草を束ねる紐を多めにください」
「はいよ、背負いカゴはどうする?」
「念のため欲しいです。魔法袋があるので、全部入れていきます」
「ほう、魔法袋を持っているのかい。それなら大丈夫だね」
おばちゃんのおかげで、どんどん準備が進む。
「あんた、初心者だろう? 簡易的な冒険者セットもあるけど、ついでに買っていくかい?」
冒険者セットはこの前イザベラ様に買ってもらったやつがあるけど……少し中身が違うから、こっちのも買っておこう。
「それもお願いします。あと、フライパンも一つ。お金はこれで足りますか?」
「大丈夫さ。こっちがお釣りだよ、毎度あり」
さて、買い物はできたぞ。
講座が終わって一直線に食堂に向かっていったリズは……おっ、他の子たちといたのか。
「あっ、お兄ちゃんだ! また後でね!」
一緒にいた子たちと別れて、こちらに駆け寄ってくる。
「はい、薬草を採るための道具だよ。こっちはこの前とは別の冒険者セットね」
「ありがとう!」
薬草採取の道具を渡すと、リズは早速魔法袋にしまう。
「リズは何をしていたの?」
「大きなお弁当を頼んだの。森に行ったら、みんなで食べるんだ!」
ドヤ顔のリズが、腰に手を当て胸を張る。
この前もらったお菓子も余っているし……お昼に一緒に出そう。
『薬草採取に行く人は、受付に集まってください』
おっと、受付のお姉さんから集合の合図がかかった。
「おや、君たちも参加するのか」
護衛役らしき青年冒険者が、なぜか僕に話しかけてきた。
誰だろう?
「ハハハ、こうして話をするのは初めてだもんな。先日のゴブリン事件の時に俺もいたんだよ。もちろん、君たちの活躍は近くで見ていた」
「小さいのに、本当に凄い魔法使いだね」
もう一人、同じく護衛役らしい女性も近寄ってきて、僕たちを褒めてくれた。
「そうだったんですね。今日はよろしくお願いします」
「こちらも、これだけの人数を守るのはいい訓練になる。お互い頑張ろうな」
とっても感じのいい人たちだ。だからこそ、今回の護衛に選ばれたのかもしれない。
人も揃ったところで、みんなで森に向かう。
「お、今日から薬草採取が再開かい?」
「うん、そうだよ!」
「そうかい、気をつけていってくるんだよ」
城壁を守っていた門番の声を受けて、僕たちは森に入った。
「今日は初日なので、森の奥には行かないでください。帰る時もみんなで帰ります」
護衛の女性の注意を聞き、薬草採取が始まった。
さて、どのあたりに生えているのだろうか?
うーん……試しに【探索】で範囲を絞れないかな。
集中し、さっき見た薬草のサンプルをイメージする。
脳裏にたくさんの薬草の反応が浮かんだ。
うまく【探索】を応用できたみたいだ。早速採りに行く。
「お兄ちゃん、見て! いっぱいだよ!」
「う、うん。凄いね……」
ところが、その場所に着くと、すでにリズが薬草を採っていた。
どうも、勘で薬草が生えているところを見つけたらしい。
スラちゃんと以心伝心だったり、ゴブリンの襲撃に最初に気づいたり……リズは凄く勘が鋭い。
もしかして、僕の魔法より高性能なの……? 薬草が生えている場所を次々と見つけている。
リズは他の参加者も案内できるくらい余裕があるみたい。みんな大量の薬草が採れてご満悦だ。
「お兄ちゃん、どうしたの?」
「いや、なんでもないよ……」
僕は【探索】を使うのをやめて、地道に採取に励むことにした。
なんだか敗北感が凄い。
「ドンマイ」と言いたげに肩を叩いてくるスラちゃんに慰められているうちに、時間が過ぎた。
お昼になり、全員で森の入り口まで戻ってきた。
リズが地面にシートを敷き、魔法袋から買ってきた食事を出す。
肉や野菜を挟んだいろいろなサンドウィッチに、ジャムがたっぷり使われたパイ。ゆで卵やミートボール、オレンジや桃といった果物まである。
「また随分といっぱい買ったね?」
「みんなで食べるんだもん!」
それにしたって量が多いぞ……
「護衛のお兄さんとお姉さん、よかったら一緒に食べませんか?」
「いいのか?」
せっかくなので、護衛の二人を呼ぶ。
僕とリズ、仲良くなった子どもたちと大人が二人……みんながお腹いっぱいになるまで食べて、ようやく完食した。
「リズ、もし買ったものが余ったらどうするつもりだったの?」
「スラちゃんが食べてくれるもん」
「最初から余らせるつもりで買ったら駄目だよ。スラちゃんには、スラちゃんのためのご飯を買ってあげないと」
「えー!」
スラちゃんはスライムだからなんでも食べる。でも残飯処理係ではない。
さすがに、今回は怒らないと。
護衛のお姉さんも注意してくれる。
「お兄ちゃんの言うことが正しいわ。リズちゃんがみんなのために張り切っていたのは分かるけど、ちゃんと食べ切れる分だけ用意しないとね」
「むむむっ……分かったよー」
リズが渋々と頷いた。
僕はこっそりお姉さんに近づき、お礼を言う。
「ありがとうございます」
「いいのよ。君はとてもいいお兄ちゃんだけど、大人が教えるべきことだからね」
確かにそうなのかな。今度、ヘンリー様やイザベラ様にも相談してみよう。
本来なら午後も薬草を採るはずだったけれど、午前の頑張りで薬草を結ぶ紐がなくなってしまったので、早めにギルドに帰ることになった。
ギルドに着くと、みんな買い取りスペースに駆けていく。
「おお、凄いな。こんなにもたくさん採ってきたのか? やるじゃないか」
買い取り役のおじさんが驚いた。
おまけに結構高値で売れたので、特に子どもたちは大喜びだった。
かくして、予定よりも早めに屋敷に帰ったのだが……
「お帰りなさい……あら、どうしたの?」
出迎えてくれたイザベラ様が、膨れっ面のリズを見て怪訝な顔をした。
「薬草採取で、ちょっと……」
「むぅー」
僕とお姉さんに注意されて、いったんは納得したリズだったが、帰るうちにご機嫌ななめになり、ぷぅっとむくれてしまったのだ。
リズの手を引いて食堂に移動しつつ、僕は今日の出来事を報告する。
「なるほどね。リズちゃんは、みんなのためにたくさんご飯を買いたかったのね」
席に着いたイザベラ様が、リズの目をじっと見つめる。
「でも、少しはしゃぎすぎちゃったわね。お兄ちゃんとその護衛の人が注意するのも分かるわ」
「うん……」
椅子に座って足をぶらぶらさせながら、リズが返事をする。
「今度は必要な分だけ頼むようにしましょうね。用意してくれる人も、準備が大変になっちゃうもの」
「……はぁい」
リズは頭のいい子だから、次からは気をつけてくれるはずだ。
イザベラ様に改めて注意されて、しょんぼりしている。
「アレク君、あなたはいい子だけどまだ幼いわ。リズちゃんのお世話を、すべて自分一人でする必要はないの。小さい子の面倒を見るのは大人としての義務よ。気にせず相談してね」
思い切って報告してよかった。
イザベラ様が僕の頭を撫でながらニコッと微笑んでくれたので、少し肩の力が抜けた。
その日の夜。
「お兄ちゃん」
明日に備えて早めに寝ようとすると、リズが僕に抱きついてきた。
「うん、どうしたの?」
「今日はごめんね」
「いいんだよ。リズが周りの人を気遣ったのは、とてもいいことなんだから」
そうして、いつも通り抱き合ってベッドに入る。
そういえば、前世では自分でやるのが当たり前で、誰かに心配されることなんてほとんどなかったな……
イザベラ様の言葉を思い出し、なんだか温かい気持ちのまま眠りについた。
◆ ◇ ◆
翌朝。
今日から三日間の魔法訓練が始まる。
「わー、いっぱい冒険者がいるね!」
ギルドに到着すると、リズが歓声を上げた。
受付には多くの人が集まっている。
中には剣を持っている人もいるけど……どういうことだろう?
「おはよう、アレク君にリズちゃん」
僕たちの後ろから、カミラさんが声をかけてきた。
その後ろには、ルリアンさんとナンシーさんもいる。
「今回の訓練って僕たちだけじゃないんですね」
「この間のゴブリン事件もあって、『強くなりたい』と願う人が多かったのよ」
カミラさんが言うと、ルリアンさんとナンシーさんも続く。
「アレク君とリズちゃんだけの特別訓練にしようかとも思ったのですが、そうも言ってられず……」
「ただ、もともと教えようと思っていた内容に変更はないよ」
「そうだったんですね! 今日はよろしくお願いします」
カミラさんたちにとっては、まとめて教えたほうが楽ちんだよね。
剣を持っている人たちには、ジンさんとレイナさんが稽古をつけるんだって。
ということで、みんなでギルドの訓練場に移動する。
剣術や体術を習う組と魔法を練習する組に分かれて、講習スタートだ。
「訓練を始める前に、適性を調べてみましょうか」
カミラさんは魔導具らしき水晶を準備する。魔導具とは魔力で動く便利なアイテムのことだ。
ルリアンさんとナンシーさんが説明を引き継ぐ。
「魔法には複数の種類があります。誰もが使える無属性魔法に、基本となる火・水・風・土・回復の五属性です。たとえば【身体強化】は無属性の魔法ですね」
「他には光と闇、雷と空間といったレアな属性があるわ。聖属性はさらに希少な属性よ」
このあたりは、前に読んだ魔法の本にも載っていたな。
ただ、空間属性と聖属性というのは初めて聞いたぞ。
「無属性は基本的に誰にでも使える属性です。もちろん、使える魔法の難易度は人によって変わってきます。またそれとは別に、大体の人は一つか二つ属性の適性を持っています」
一つか二つ……僕、基本の五属性と光と闇、それに雷属性を使えるんだけど……
「はい、準備ができたわ。では順番に属性を調べましょう」
カミラさんが用意したのは、手を置くと適性属性の色が光るという不思議な魔導具だった。
これを使うと、無属性以外の適性が分かるらしい。
「アレク君とリズちゃんはちょっと待っていてね」
当たり前のように僕とリズは後回しにされた。すでにカミラさんたちは僕たちがさまざまな属性の魔法を使えるって知っているから、他の人にショックを与えないよう配慮したのかも。
「僕は火と風だ!」
「私、光属性が使えるのね!」
魔法講習の参加者たちが次々と水晶に手を置き、その結果に一喜一憂している。
やっぱり使える魔法は無属性を除いた一つか二つみたい。
「お待たせ、リズちゃんから調べてみましょうね」
しばらくすると、やっと僕たちの順番が回ってきた。
リズが元気よくカミラさんのところに向かう。
ところが、水晶に手を置く直前、頭の上に乗っていたスラちゃんがぴょんと飛び下り、水晶に乗ってしまった。
「あー!」
水晶を取られたリズが叫ぶ。
「あら、スラちゃんが触っちゃったわね。もう一度準備するからちょっと待って……って、え?」
カミラさんが水晶を回収しようとして固まった。
なんと、水晶が三色に光っている。
「風と土、それに回復に適性ありですか……」
「無属性を含めて、四つの属性を使えるスライムなんて聞いたことがないわ」
ルリアンさんとナンシーさんも驚いている。
あれ? スラちゃんって、風魔法しか使えなかったはず。
もしかして、ゴブリンをいっぱい吸収したから成長したの? そういえば、僕たちが治療院で回復魔法を使っているのも、じっと観察していたような……
スラちゃんがドヤ顔するので、リズがむくれてしまった。
カミラさんが再び水晶を用意する。
「リズちゃん、お待たせ。どうぞ」
「むー、絶対にスラちゃんの数を超えるもん!」
ピカーッと水晶が輝く。
リズの結果は回復と光……そしてなんと聖属性だった。
とんでもない結果だが、リズにとっては属性数のほうが大事だったらしい。スラちゃんを超えられなくて悔しがっている。
スラちゃん、リズの周りをぴょんぴょん跳ねて煽らないの。
「凄い結果が続いたけど、これは序の口よ。最後に診断するアレク君については、例外だと思ってみんなは無視していいから」
カミラさん、カミラさん。僕って珍獣扱い?
周りの人が、なんだなんだとざわめく。
「それじゃあ、アレク君。手を置いてね」
ピカーッ。
僕が手を置くと、水晶が眩く輝く。
「予想していましたが、こんな結果は初めて見ましたよ……」
ルリアンさんが呆れたように言った。
僕は、聖属性を除く全部の属性に適性があった。
使ったことがない空間属性にも適性があるようだ。前から思っていたんだけど、僕って異世界転生者なわけだし……魔法チートがあるのかも?
「たまに彼みたいな才能の塊が現れるけど、気にしなくていいからね。他人は他人、自分の結果に向き合うことが大切よ」
ナンシーさんがその場をまとめると、カミラさんが話を変えた。
「では、魔法の練習に移りましょう」
さて、ここからが本番だ。
「魔法使いの中には魔力量や使える属性数を自慢する人がいるわ。でも、自分の魔法を完璧にコントロールできてこそ、一流の魔法使い。今日は日常でできる練習の仕方と、魔法を制御する方法を教えます」
うう、これは少し耳が痛い話だ。
【合体魔法】を制御しきれなかったわけだし……
「まずは日々の訓練は、体内の魔力を循環させる魔力循環が重要です。一日五分でもいいので、毎日必ずやりましょう」
これも本に書いてあった内容だ。家を追い出される前は毎日やっていたし、今でもなるべく続けるようにしている。
「カミラさん! リズ、いつもお兄ちゃんと手を繋いでやっているよ」
「うんうん。二人の魔力量が多いのは小さい頃からの練習の賜物ね。でも一人での魔力循環も練習したほうがいいわ。二人でやるのとは魔力の流れが少し違うの。お兄ちゃんとどっちがうまくできるか、勝負ね」
「おおー! 頑張る!」
カミラさん、リズをあまり煽らないで。
負けず嫌いだから、きっと僕に勝負を挑んでくる。
「もう一つが、魔力玉を使った魔力の調整訓練ね。両手でボールを包むようなイメージで魔力を流すと、このように魔力玉ができるわ。この玉を大きくしたり小さくしたりして、魔力を調整する訓練をします」
説明しながら、カミラさんが実演した。
お、これは本に書いてなかったぞ。
魔力玉を作ることは簡単だ。ただ、大きくしたり小さくしたりするのは難しい。
他の人もかなり苦戦しているみたいだ。隣にいるリズは、魔力玉を小さくできず悩んでいる。
カミラさんは余裕の笑みを浮かべてサイズを変えているから、このあたりが一流の魔法使いとの違いなんだろうな。
「これができるようになると、魔法の制御が簡単になるわ」
カミラさんの言葉に、ルリアンさんとナンシーさんが続ける。
「今日の講座はお昼までなので、時間まで魔力の循環と魔力玉の調整をやりましょう」
「どんどん質問してね。聞くのは恥ずかしいことじゃないから」
ということで、それぞれ自由に練習を始めた。
リズが早速カミラさんに泣きつくと、それを皮切りに他の人もどんどん遠慮なく質問し始めた。
僕はしばらく一人で試行錯誤しようと思う。
苦心して魔力玉を大きくしたり小さくしたりしていると、後ろからルリアンさんとナンシーさんの話し声が聞こえてきた。
「あのリズちゃんでさえ『うまくできない』って聞きに来たのに、一人で練習していますよ」
「やっぱりアレク君は凄いわね」
いやいや、本当にこれは難しいってば。
それからしばらくして、カミラさんが手を叩いて呼びかける。
「はい、これで今日の講習は終わり! 明日も頑張りましょうね」
いつの間にかお昼の時間になっていたみたいだ。
結局リズは、少しだけ魔力玉を小さくすることに成功していた。
ただ、その横でスラちゃんが簡単に魔力玉のサイズを変え、リズを煽るものだから負けん気に火がついてしまったらしい。屋敷に帰っても魔力玉の練習をするそうだ。
その後、僕とリズは、カミラさんたちと一緒に久々にギルドの食堂で昼食をとることにした。
ジンさんとレイナさんも同席している
「アレク、リズ。カミラたちの訓練はどうだった?」
「かなり難しいです」
「うまくできなかった……」
「ハハハッ。リズ、なんだよその顔は」
ジンさんの指摘に、リズがますます膨れっ面になってしまった。
「やっぱり魔法の制御はまだまだです。できたつもりになっていたけど、もっと頑張らないと」
「頑張るもん。お兄ちゃんには負けないもん」
僕たちが言うと、ジンさんとレイナさんが微笑んだ。
「偉いぞ。いくら才能があっても、訓練は必要だ」
「そうそう、きちんと訓練をしないと、自分だけでなく周りの人も危ないもの」
今まで自己流だったから、今日の訓練はためになった。
「明日の訓練も難しいわよ。でも、一流の魔法使いになるには避けて通れないから、一緒に頑張りましょう」
「はい、頑張ります」
「リズも頑張るよ!」
カミラさんの言葉に、僕たちは拳を握った。
ちなみに午後はヘンリー様の屋敷の庭で復習をしたんだけど……頑張りすぎて魔力切れになり、気絶してしまった。何事もほどほどにしないと。
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