転生しても実家を追い出されたので、今度は自分の意志で生きていきます

藤なごみ

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1巻

1-12

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「私は第一王妃おうひのビクトリアよ。こちらは息子のルーカスと娘のルーシー。八歳と六歳よ」
「そして私が第二王妃のアリア。昨日は娘のエレノアの命を救ってくれて本当にありがとうね。エレノアは、アレク君とリズちゃんと同じで今年四歳になるのよ」

 医務室にいたのって、みんな王家の人たちだったんだ。
 ビクトリア様は薄い金髪のロングヘアで、アリア様はピンク色のセミロングヘアがよく似合っている。二人とも、プロポーション抜群ばつぐんだ。
 堂々とした王妃様たちとは反対に、子どもたちは少しもじもじしている。
 スポーツ刈りの子がルーカス様、ロングヘアの女の子がルーシー様かな?
 昨日助けた女の子は、アリア様の陰に隠れていて、金色の髪とドレスの裾だけがちらちらと見えている。
 王家の血を引く人って、みんなリズに似た鮮やかな金髪だ。もしかして遺伝かな。
 みんなの自己紹介が終わると、ティナ様が言う。

「アレク君は実家が起こしたことに戸惑っていると聞いたわ。でも、あなたは私を治してくれた恩人なのよ。そのうえ孫をずっと守ってくれて……心から感謝するわ」
「僕、これからもリズのことは絶対に守ります」
「ええ。でもね、あなたはまだ小さな子どもなの。お兄ちゃんとして頑張ってきたのでしょうけど、これからは私が保護者になりますからね。大人に甘えてちょうだいね」

 ティナ様が僕とリズを抱きしめた。
 とても温かい気持ちになり、ティナ様の胸の中でポロポロと泣いてしまう。
 リズも一緒に泣いているのかな。鼻をすする音が聞こえた。

「孫が生きているって分かって、とっても嬉しかったの。亡き息子から、アレク君のお父さんとリズちゃんのお母さんが、仲良しだったと聞いているわ。私にとってはアレク君も孫みたいなものだわ……だからね、私のことはおばあちゃんって呼んでほしいの」
「ええっと……おばあ様と呼ばせてください」
「ええ、ええ。徐々に慣れていけばいいわよ」
「リズはおばあちゃんって呼ぶね!」
「あらー! リズちゃん、ありがとう」

 リズは緊張がほぐれてきたようで、ティナおばあ様に向かってにっこりと微笑んだ。
 おばあ様は旦那さんを亡くし、それ以来この王城で暮らしているそうだ。
 ふと、エレノア様のことが気になった。

「アリア様、エレノア様のお加減はどうですか?」
「まったく問題ないわ。もともと持病があったのに、それもすっかりよくなったみたいなの。本当にありがとう」
「そうですか。それはよかったです!」

 すると、アリア様にくっついてもじもじしていたエレノア様がこちらにやってきた。

「あのね、昨日はエレノアを治してくれてありがとうなの」
「うん、元気になってよかったです。エレノア様」
「……あのね、エレノアって呼んでほしいの」

 えっ? 王女様を呼び捨てにするってまずいような……

「本人の希望なんだもの。呼んであげて」

 僕が困っていたら、アリア様が助言をくれた。

「えっと、それじゃあエレノア、よろしくね」
「うん。えへへ、お兄ちゃん」

 どうやら助けた僕に懐いてくれたみたい。
 ところが、エレノアが僕を「お兄ちゃん」と呼んだ途端、リズの眼差しが鋭くなった。

「駄目なの。リズのお兄ちゃんだから、そうやって呼んじゃ嫌!」
「エレノアだって、お兄ちゃんって呼んでもいいよね?」

 僕を見つめてエレノアが聞いてきた。

「うー……お兄ちゃんって言っていいのはリズだけだもん!」
「じゃあ、エレノアはアレクお兄ちゃんって呼ぶの。ルーカスお兄ちゃんとルーシーお姉ちゃんもいるから一緒なの」

 それぞれ僕の腕を取って、バチバチと火花を散らしている……
 腹違いの妹がリズを睨んでいるものだから、ルーカス様とルーシー様がオロオロし始めた。
 対しておばあ様たち大人組は、面白いものを見たとでも言いたげに目を輝かせる。

「あら、私の孫はモテモテね」
「まだ四歳なのに女の戦いに巻き込まれるなんて……将来はどうなるのかしら?」
「こんなに積極的なエレノアは初めて見たわ」

 みんなで好き勝手言い合い、完全に傍観者だ。
 止める人がいないから、リズとエレノアがどんどんヒートアップしていく。

「お兄ちゃんはリズと結婚するの!」
「アレクお兄ちゃんはエレノアと結婚するの!」


 ついには結婚とか言い出した。
 これ、本人たちは意味が分かってないんじゃ……

「はいはい、二人ともそこまでにしてね」
「アレク君が困っているわよ」

 ビクトリア様とアリア様が、ようやくリズとエレノアを引き離してくれた。
 ルーカス様とルーシー様が僕のところにやってくる。

「僕より小さいのに、すっごいモテモテじゃん!」
「エレノアがあんなにはしゃいでいるの、私、初めて見たわ」

 なぜか二人とも、僕のことを尊敬した目で見てきた。


 さて、一度は引き離されたリズとエレノアだったけど、昼食になったらすっかり僕のそばに戻ってきてしまった。

「お兄ちゃん、お口あーんってして!」
「アレクお兄ちゃん、あーん!」

 僕を挟んで座り、ご飯を食べさせようとしてくる。

「ふう、やっと業務が一息ついた……って、なんだこの状況は?」

 合流した陛下が目を白黒させた。
 さっきまでの出来事を知らないので、何がなんだか分からないようだ。

「エレノアにはどうもアレク君が白馬の王子様に見えているようですわ」
「なるほど、それでこの状況か……エレノア、余にも食べさせてくれないか?」
「いや!」

 アリア様から説明を受けた陛下は、エレノアを引き離そうとしてくれたのだろう。ただ、娘に速攻で断られてしまった。

「ほら。アレク君が食べにくいから、二人とも少し離れましょうね」
「うー、分かった……」
「はい、おばあ様」

 ティナおばあ様が手助けをしてくれたので、僕はやっと解放された。

「アレク君、リズちゃん。今後は週に一度、王都に来てね。私もエレノアも二人に会いたいわ」
「もちろんです、ティナおばあ様。どこか【ゲート】を繋いでもいい場所を教えていただけますか?」
「この部屋はどうかしら? 私の自室だから、まったく問題ないわよ」

 いや、さすがにそれはまずいのでは……と思ったけど、断れる雰囲気ではなかった。


「ハハハッ、それでリズちゃんはこんなにもむくれているんだな」

 昼食を終え、僕とリズ、そしてスラちゃんはティナおばあ様の部屋を出て、ヘンリー様のところに向かった。
 リズはエレノアとのやり取りですっかり機嫌が悪くなってしまい、僕の腕にべったりとくっついたまま離れようとしない。

「エレノアは病気がちで苦しい思いをしていたからな。君たちのおかげで病気まで治ったゆえ、すっかりれてしまったんだろう。まあ、子どものことだ。じきに大人しくなるであろう」

 一緒についてきた陛下は楽観視しているけど、この騒ぎはもう少し続きそうな気がするよ……

「さて、真面目な話をしよう。アレクとリズには、今後王城に来た時に、余の子どもたちと共に勉強をしてもらう。今のところ、第三の日を予定している」

 第三の日……前世の言い方で呼ぶと、水曜日か。

「では、その日におばあ様のお部屋に転移すればいいってことですね」

 僕はまだまだこの世界の知識がとぼしい。王城での勉強会は、とても役立つはずだ。

「リズの誕生日はエレノアと同じ九月だが、それまでに事件が片付くかどうか……厳しい場合は、自室で誕生日会を開けるよう手配させる」
「助かります」

 なんにせよ、バイザー伯爵家のことが片付かないと僕たちの存在はおおやけにできない。調査の進展を待つしかないよね。

「明朝に調査官と兵を我が領へ派遣することになっていてね。そこを拠点にバイザー伯爵領を調べていくんだ。アレク君の【ゲート】を使いたいんだが、お願いできるかい?」
「もちろんです、ヘンリー様。僕、王城に行ったらいいですか?」
「いや。ヘンリーの屋敷を訪問するように、余が命じておく。アレクたちはそのまま向こうに戻ることになるだろうからな」

 おお、王城に行かなくてもいいのか。それはラッキーだ。

「では、次の第三の日にまた伺います」
「忘れると叔母上とエレノアが拗ねるぞ……また会おう」

 なんとなく、約束を忘れたらティナおばあ様は辺境伯領に乗り込んできそうな気がする。気をつけよう。
 その後、僕たちはヘンリー様と共に王城を後にした。


 屋敷に戻ると、僕たちの扱いについてヘンリー様がジェイドさんとソフィアさんに説明した。
 王立学園に行っているマイクさんには、後で説明をするそうだ。

「ハハハッ、早くも三角関係か」
「小さいといっても女の子ですから。恋に早い遅いはないですよ」

 ジェイドさんの呑気のんきなコメントに、ソフィアさんが反論した。
 ヘンリー様ときたら、リズとエレノアの争いまで説明したのだ。
 おかげでリズがまた僕にギュッと抱きついてきた。
 なぜか、スラちゃんまでリズのマネをしてくっついてくる。

「リズちゃんはライバルがいっぱいだ」
「うう……お兄ちゃんのお嫁さんはリズだけでいいの!」

 ソフィアさんの発言で、リズがさらに不機嫌になった。
 リズ……そんなに僕を睨まないでよ。
 結局リズは一日中べったりになってしまい、寝る時もいつも以上に抱きつかれたのだった。


  ◆ ◇ ◆


 翌朝、ヘンリー様の屋敷に役人が一人と兵士が二人やってきた。
 ホーエンハイム辺境伯領に向かい、その後現地調査を行うそうだ。
 ティナおばあ様とエレノアに対する毒物混入の件については、王都の調査チームが秘密裏に調べを進めるとのことだった。

「これから王都も忙しくなる。ジェイドの補佐として、ソフィアもこちらに残ってくれ」
「はい、ヘンリー様。王城と連絡を取り合って対応いたします」

 もちろん、ゴブリン襲撃の件もある。
 襲撃者は王都に移送したので、新たに何か分かったら嫡男ちゃくなんのジェイドさんとソフィアさんが確認してくれるそうだ。

「マイクも学園で話を聞いてみてくれ。意外な事実が分かるかもしれない」
「バイザー伯爵と親しい貴族家の子が、何か知ってるかもしれませんしね。探ってみます」

 マイクさんは社交的だし、こういう情報収集には向いてそうだ。

「私は領地に戻るが……何かあったらすぐに連絡を入れる。王都のことは頼んだぞ」

 そうして僕たちとヘンリー様、調査官は【ゲート】でホーエンハイム辺境伯領に帰った。

「お帰りなさいませ、ヘンリー様」
「王都の調査官が滞在することになった。部屋を用意してくれ」

 屋敷の庭に【ゲート】を繋ぐと、すぐに執事が駆けつけてきた。
 ちなみに兵士たちは、門付近の詰所に滞在するそうだ。

「イザベラとエマたちに、二人のことを話さないと。世話になっている冒険者たちにもな」
「ジンさんたちにですか?」
「冒険者として活動する時は、君たちの保護をお願いすることになる。なに、彼らは私もよく知っているし、口もとても堅い」

 ちなみにギルマスや司祭様、騎士団長にはヘンリー様から話を通しておいてくれるらしい。
 ジンさんたちには午後に来てもらうことにしたので、先にイザベラ様とエマさんとオリビアさんに僕たちの出自の話をする。

「そう、でもリズちゃんのおばあ様が生きていてよかったわ」
「私たちが王立学園に行っても、王都で会えるんだね!」
「離れるのは寂しいなと思っていたんです!」

 うん、ホーエンハイム家の三人はエレノアのことには触れないでくれた。
 一晩経ってリズの機嫌が直ったとはいえ、何かの拍子にまた機嫌が悪くなったら大変だ。


 午後になって、ジンさんたちがやってきた。

「そうか……アレクは大変だな。その歳で奪い合いになるなんて」
「リズちゃん、ファイト! 大丈夫だよ、こんなにお兄ちゃんと仲良しなんだから」

 ジンさんはエレノアのことに触れちゃったけど、カミラさんがうまくフォローしてくれた。
 冒険者のみんなには、僕とリズの呼び方も接し方も今まで通りにするようお願いした。
 僕たちがもしかしたら貴族の子どもじゃないかというのは、初めて会った時から思っていたらしい。

「王家の人にそっくりなリズの金髪もそうだが……アレクの言葉遣いは平民の家で育ったにしちゃ丁寧だったからな。それに、二人ともとんでもなく大人びているから、苦労してきたことは分かってたぜ」
「何か事情があるんだろうなとは察していたわ」

 ジンさんもレイナさんも、さすがだな。

「明日、初心者向けの武器講習があるのよ。よかったら参加しない? 冒険者としても戦闘の幅が広がるしね」
「おお、どんな武器がいいかな?」

 レイナさんからのアドバイスに、リズがワクワクしている。
 魔法使いのカミラさんたちも武器で戦えるんだ。自分に合う武器を探してもいいかもしれない。
 剣術は貴族の嗜みだと聞く。しっかり訓練しないと。


  ◆ ◇ ◆


 そして翌日。
 今日は冒険者ギルドの初心者向け武器講習だ。リズとスラちゃんと一緒にギルドへ向かう。

「僕たち、【身体強化】すれば大きい武器でも使えるけど、最初は自分に合ったものにしようね」
「うー、リズはかっこいい武器にするんだもん! 大きいやつがいい!」

 ゴブリンの襲撃と王都訪問で騎士や兵士を見てきたリズが、かっこいい剣が欲しいとごねる。
 あとで誰かに説得してもらえないかな……

「ゴブリン退治の報酬計算が終わったの。今渡しても平気かしら?」

 講習の受付をしたら、ゴブリン退治の報酬を渡された。

「ありがとうございます。また、半分ずつでお願いします」
「そうかなと思って、最初から二つに分けておいたわ。王都での指名依頼については、手続きが終わり次第、また支払うから」

 ずっしりと重たい袋なので、結構な金額のようだ。
 それだけ、ゴブリンキングを倒したのは凄かったんだね。

「すでに訓練場に今回の講師がいるから、もう行っておく?」
「はい、そうします」

 受付のお姉さんの提案で、僕たちは訓練場に入る。

「おお、二人とも早いな」
「あれ? 今日の講師はギルドマスターですか?」

 訓練場にはギルドマスターのベイルさんが待っていた。

「おう。武器全般の扱いならジンより俺のほうが詳しいからな。ジンたちはヘンリー様からの指名依頼に出てるんだ」

 もしかして、調査官の人と一緒にバイザー伯爵家について調べているのかな。
 僕は小声で話す。

「ジンさんたち、これから忙しくなりそうですね」
「そうだな。しかも内容が内容だけに、しばらくは指名依頼が続くだろう」

 ベイルさんも僕たちの事情を分かってくれているみたい。
 リズがたくさん並んだ武器を眺めてる。

「凄いね。いっぱい種類があるよ」
「冒険者は用途に応じて扱う武器を変える。お前らは貴族だから、ゆくゆくはしっかり剣術を学ぶだろう。ただ、今は自分のスタイルに合った武器を選べばいい」
「ロングソードってこれ?」
「それはファルシオンだ。安価で狩猟しゅりょうにも使えるから、冒険者にも人気の武器だ」
「ふーん、そうなんだ!」

 リズは【身体強化】をかけて、ファルシオンをぶんぶん振り回している。

「こらっ、振り回したら駄目だって!」

 危ないので注意したけど……かなり気に入っているみたいだ。
 スラちゃんも武器を興味深く見ている。触手でロングソードを持ち上げているので、もしかしたら使えるのかも。
 そうしていると、参加者が集まってきた。
 幼女とスライムがぶんぶん剣を振り回している光景にビックリしていたが、ギルドマスターから無視するよう言われて落ち着いた。
 リズとスラちゃんがどうもすみません……

「これから午前を使って武器の講習を行う。今日紹介する武器は、すべてギルド内で購入可能だ」

 二十人ほど集まったところで、ギルドマスターによる武器の講習が始まった。
 メンバーは僕たちよりも少し年上の子どもや女性がほとんどだ。男性冒険者は自分で武器を決めることが多いとのことだった。

「全員少なくともナイフは持っておけ。冒険中に何かと便利だ」

 そういえば、確か初心者セットにナイフもあったっけ。

「単純な戦闘なら、リーチが長い分、剣よりやりのほうがいい。グレイブを使う手もある」

 確かに、王城にも槍を持った兵がたくさんいたな。

「剣を使いたいなら片手剣は扱いやすくておすすめだ。さっきリズが振り回していたのはファルシオンだが、これはかまや斧の代わりにもなる。メイスや棍棒こんぼうも、技術がいらない分扱いやすいな。あとはダガーかな」

 今回集まった中には、護身用の武器を探している人もいる。どういう用途で武器を使うのかによって、得物が変わりそうだ。

「魔法使いなら、頑丈なつえを棍棒の代わりにするって手もある。弓やむちは扱いが難しいので、初心者にはおすすめしないぞ……各武器の取り扱いを簡単にまとめた。これを参考にして、各自で武器を選んでみてくれ」

 説明用紙をもらって、それぞれ武器のサンプルを見に行く……メイスやダガーを選ぶ人が多いみたいだ。

「リズはこれにする!」

 リズはすっかりファルシオンが気に入った様子だ。
 ちなみにスラちゃんはロングソードにするらしい。
 僕もいろいろと試してみたんだけど……

「アレクなら、ダガーの二刀流もいいな」
「えっと、こんな感じですか?」

 ダガーを構えてみる。

「おお、お兄ちゃんかっこいい!」

 リズが褒めてくれたので悪い気はしない。
 ベイルさんのおすすめもあって、僕はダガーの二刀流を目指すことにした。
 その他の人も、武器が決まったみたいだ。

「冒険者にとって、武器は冒険の相棒になる。手入れをして大事に使えよ」

 最後にベイルさんが総括して、講習はおしまい。
 解散となり、ギルド内の売店に向かう。

「ダガー二本とファルシオン一本、あとロングソードをください。腰に差したいので、ベルトもお願いします」
「すまないね、ロングソードは売り切れているんだよ。ダガーとファルシオンはすぐに用意するから」

 あらら、スラちゃんががくりと落ち込んでしまった。
 後でヘンリー様にロングソードを用意できないか聞いてみよう。

「練習用の木剣はありますか?」
「あるよ。毎度あり」

 練習用の剣も購入したし、明日から早速試そっと。
 売店のおばさんから買った品を受け取って、魔法袋にしまう。
 ついでに武器の使い方の本も購入したので、今度読んでみよう。


「どんな武器にした?」
「かっこいいのにしたの!」
「かっこいいの?」

 屋敷に戻り、昼食時にエマさんが尋ねてきた。リズの答えに首を傾げている。

「僕はダガーで、リズはファルシオンです。【身体強化】を使って、練習していこうと思います」
「アレク君はともかく、リズちゃんは凄いのを選んだね……」

 ヘンリー様がビックリするのも無理はない。リズの体格には大きすぎるもんね……

「当面は木剣で練習します。ところで、ロングソードってありませんか? 売り切れちゃっててスラちゃんの分がなくて……」
「ああ、用意するよ。それにしてもアレク君はしっかり者だね。もう少し大きくなったら、ちゃんとした剣術を習うといい。そのあたりはおいおい話そう」

 女性は必須ではないとのことだが……個人の意思によるらしく、現にエマさんとオリビアさんは剣を習っているという。
 ただ、女の人は刺繍や裁縫さいほうの勉強がマストらしい。お転婆てんばなリズにそれができるか、今からとても心配だ。


  ◆ ◇ ◆


 翌日。
 明日は第三の日なので王城に行く。だから、お土産を用意しないと。

「お兄ちゃん、おばあちゃんはどんなものなら喜んでくれるかな?」
「うーん、なんでも喜んで受け取ってくれそうだけど……買ったものより、手作りのプレゼントのほうがいいかもね」
「よーし! 探してみよー!」

 リズと手を繋いで商店街を歩いていく。
 スラちゃんはいつも通り、リズの頭の上だ。

「あら、アレク君とリズちゃんじゃない。こんにちは」

 この間の奉仕活動で一緒だった、商会のおかみさんが声をかけてきた。
 おや、商会の店頭に何か書いてあるぞ。

「えっと……『アクセサリーを作ってみましょう』?」
「そうなの。オリジナルのアクセサリーを作る教室をたまにやっているのよ」
「おお! お兄ちゃん、おばあちゃんに作ってプレゼントしようよ!」
「あら、プレゼントを探していたの? 簡単なものなら、リズちゃんにもできると思うわ」
「それなら参加してもいいですか?」
「もちろん」

 渡りに船だ。アクセサリー作りに参加することになったので、材料費を払って店内に入る。

「あ、アレク君とリズちゃんだ」
「「こんにちは」」

 教室の参加者もこの前の奉仕活動で一緒だった人が多いみたい。
 僕たちとしてはやりやすいな。

「二人も、アクセサリー作りをするの?」
「うん!」

 尋ねてきたお姉さんに、リズが元気よく答えた。

「初めてならブローチなんてどう? ビーズをうまく組み合わせると、簡単だけど綺麗なブローチになるのよ」
「うわあ、とっても素敵!」

 お姉さんが実物を見せてくれた。

「リズ、最初はお花のブローチを作ろうね」
「うん!」

 僕とリズは、ピンクと白のビーズを使ったお花のブローチを選ぶ。
 これならビーズをチクチク針と糸で刺せばいいので、とっても簡単だ。

「お、アレク君は上手だね」
「うまい、うまい!」

 他の参加者たちに褒められたけど、針使いには少し自信があるよ。
 なんせ前世の僕は、服のほつれを自分で直していたのだ。
 ある程度土台を作ったら、今度はリズと一緒にビーズをい込む。

「できてきた!」
「リズちゃんもうまいわ。筋がいいのね」

 何回か針を指に刺していたけど、慣れてきたのかリズも手際よく進んでいるみたいだ。
 僕が最後の仕上げをすると、初めてにしては上出来なブローチができた。

「うん、うまくできたね。プレゼントなんでしょ? せっかくだし箱をあげるわ」

 おかみさんが、出来上がったブローチを木の箱に入れてくれた。
 これなら、プレゼントとしてバッチリだ。

「おばあちゃん、喜んでくれるかな?」
「きっと大喜びしてくれるよ」

 リズが木の箱を大事に魔法袋にしまう。

「リズちゃん、もし刺繍や裁縫の勉強をするならまたお店に来るといいわ。たまに教室を開いているからね」
「うん! また新しいのを作って、プレゼントするの!」

 裁縫は貴族の女性としての必須の技術だ。
 今回の体験で興味を持ってくれたらいいな。


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