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第六章 叙爵と極秘作戦

第百四十五話 各地の動き

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 ギース伯爵領の惨状は、関係各所に衝撃をもたらした。

 人神教国の国境付近に陣取っていたアルスや軍務卿にも、ギース伯爵領の状況が送られた。

「とー」
「やー」
「えーい」
「せいやー」
「わうーん」

 国境付近には散発的に魔獣や魔物が現れていたが、ララ達がまるでおもちゃで遊ぶかの様に蹴散らして行く。
 兵士も子ども達の強さを知っているので、苦笑しながらその様子を眺めていた。

「ほらララ達、兵士の練習に成らないので戻っておいでー」
「「「「はーい」」」」

 リーフに言われてララ達は本陣に戻ってくる。
 子ども達の様子を、アルスとシルクは諦めの様子で見つめていた。

「全く、強すぎて兵の練習にもならないな」
「あの子らにとっては、ただの遊びの一環なのでしょうね」

 ビアンカが作った防壁が強固過ぎて、敵の攻撃は全く効果がない。
 一体どれだけの兵がいれば、この防壁を攻略できるのだろうか。
 そんな考えをしていた俺の横で、軍務卿が難しい顔をしていた。
 最近いつも一緒にいるミミや、孫のヴィルも心配そうにしている。
 そんな時に魔道具が発動した。
 どうやらギース伯爵領の件で、ビアンカからの連絡の様だ。
 早速その内容を確認するが、あまりの酷い内容に目を疑った。

「これは本当の事か? 国の一大事だぞ」
「アルス王子、儂にも見せてくれ」
「ああ、驚きの内容だ」 
「いや、何故か虫の居所が悪いのでな。何かあったかと思っていたのだよ」
「私にも読ませて下さい」

 ギース伯爵夫妻が誘拐の上に殺害され、嫡男夫婦も殺害された。
 残ったのは長女と嫡男の赤ん坊だけだという。
 しかも魔物の溢れも引き起こされたが、それは何とか防いだという。
 そして主犯格と思われる、貴族当主の捕縛か。
 正直サトー達がいなければ一体どんな事になっていたか、想像に難くない。

「アルス王子、直ぐに小隊を派遣しましょう」
「国境の守りも固めないといけないし、こちらも下手に動けない。軍務卿、悪いが飛龍で現地に向かってくれぬか?」
「勿論です。まさに国防の危機です」
「感謝する。早速父上とビアンカに連絡をしよう」

 アルス王子は、念の為に飛龍部隊を一人そばに控えさせていた。
 念の為とはいえ、まさか本当に使うとは思っても見なかった。

「ララもいく」
「リリも行くよ」
「レイアも」
「ミミも」

 と、ここで子ども達も一緒に行くと言い出した。
 俺は子ども達を止めようと思ったが、軍務卿は連れて行くと言った。

「この子達ならきっと役に立つ。ヴィルよ、アルス王子の言うことをよく聞きこの難局に対応せよ」
「分かりました、お祖父様」

 軍務卿は一個小隊に直ぐにギース伯爵領に向かうように指示を出し、子ども達と乗り手の騎士と共に飛龍で飛び立った。

「ドラコは行かなくて良いのー?」
「僕はここで皆を守るよ」
「わん!」

 まだ過剰戦力だと思いつつも、俺は直ぐに父上とビアンカに向けて返信の文書を作成し始めた。

 一方、ブルーノ侯爵領には、ショコラによって情報がもたらされた。

 ルキアは執務室で仕事をしていたが、そこに外で遊んでいた子ども達が入ってきた。

「ルキアお姉ちゃん、エステルお姉ちゃんの鳥がやってきたよ」
「ありがとうね、貴方達は外に行ってね」
「「はーい」」

 子ども達が部屋から出たのを見計らって、私はショコラの脚にくくりつけられた書類を取った。

「ショコラもありがとうね」
「ピィ」

 見た目は小さなふくろうなのに、未だにピイピイ鳴くショコラを褒めてあげた。
 ショコラは少し休むのか、私の机の上で丸くなった。

「お父様、これを見てください」
「これは、何ということだ!」

 思わず目を見開いたお父様を見れば、そこに書かれていた内容の衝撃が分かる。
 私はそばにいたメイドに、じいやかばあやを呼ぶように伝えた。
 直ぐにじいやが執務室にきてくれた。

「お嬢様、お呼びでしょうか?」
「一部隊と救護班を準備して、ギース伯爵領に派遣をお願いします。戦闘はもうありませんが、救助の手が必要です」
「かしこまりました。直ぐに準備いたします」

 じいやは私の机の上にいるショコラを見て、ギース伯爵領て何かあると悟ったようだ。
 本来なら私も今すぐに行きたいと思っているが、その気持ちをぐっと我慢して準備のための書類を準備始めた。

「ルキアは強くなったな」
「いえ、まだまだです」
「いや、強くなったさ。自慢の娘だ」
「ありがとうございます、お父様」

 まるで私の心の中を見透かしたかの様な、お父様からかけられた言葉。
 私は少し気持ちが楽になって、ふぅっと深呼吸してから書類に取りかかった。

 王城では、緊急の軍事対策会議が開かれていた。
 前日ギース伯爵領から派遣された早馬が王城に到着して、ギース伯爵領の難事が報告されていたからだ。
 会議の途中で、突然国王と宰相が会議室に入ってきた。

「会期中失礼する。ギース伯爵領について、追加の情報が入った」
「では報告する。皆しかと心して聞くように」

 宰相が報告の前にわざわざこころしてと言うということは、余程のことなのだろう。
 集まっていた軍の幹部は、皆息を呑んだ。

「人神教国に加えて、ゴレス侯爵にブラントン子爵とマルーノ男爵の三家が結託し、ギース伯爵領を襲撃した」

 まさかの内容に幹部達は目を見開いた。
 三家は軍内部でも人神教絡みで常に問題を起こしていたが、まさかそこまでの事をするとは思えなかった。

「先行したエステル殿下とビアンカ殿下にライズ子爵とリンドウ男爵の活躍により、何とか襲撃は食い止められた。三家の当主も捕縛している。しかしながら、ギース卿夫妻が人神教国と三家により誘拐された上に殺害された」

 更に宰相より、追加で情報がもたらされた。
 当主誘拐の上に殺害とは、言語道断である。
 三家の当主が捕まって済む話ではない。

「既に近衛部隊よって軍にいる三家の関係者は捕縛し、王都の屋敷の捜索を行っている。また国境より軍務卿か小隊を引き連れて向かっているが、王都からも三家の領地とギース伯爵領へ派遣をするように。特にギース伯爵領は人神教国と森を通じて接しているため、厳重に警備をするように」
「「はっ!」」

 会議は一気に役割分担へ移りだした。
 王国始まって以来の大事件の為、派遣される軍も慎重に選定が始まった。
 そんな中、陛下と宰相は会議室の隅にアイザック伯爵を呼び寄せた。

「アイザック卿、未確認だがギース伯爵家は嫡男の赤ん坊と長女を除いて殺害されたと連絡があった」
「えっ、陛下本当ですか?」
「ああ、ビアンカからの情報だからほぼ間違いないだろう。卿の所は、たしかギース伯爵の長女と婚約しているといるのを聞いたのだが」
「はい、私の所の三男と婚約しております。お互い嫡男がいるので、王都で暮らす予定でした。軍人家系ではありますが内政が得意なので、王城に勤める予定です」
「悪いが軍とは別でも良いから、ギース伯爵領へ向かってくれないか。このままでは国境の要所たるギース伯爵領が立ち行かなくなる」
「分かりました、直ぐに準備します」
「嫡男の嫁の実家には、別口で連絡した。アイザック卿に連絡するように申し付けてある」
「ご配慮ありがとうございます」
「国としてもできるだけの援助はする。ただ赤ん坊が爵位継承者になるので、皆で支えなければならない。子を持つ親として、なんとも不憫でならない」
「私も痛感しております。親にとって、この成長がなりよりの楽しみです。それを見ることすらできないのは、あまりにも不憫です」

 アイザック伯爵は、会議を幹部に任せて急ぎ王都の屋敷に向かった。
 幹部の中にはアイザック伯爵の息子がギース伯爵の長女と婚約している事を知っている者がいるので、会議を中座したアイザック伯爵に声をかけて会議を再開させた。
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