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第十五章 人神教国

第三百十四話 王都防衛と発生しなかった魔獣の謎

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「あっ、やっぱりそうだっんだねー」
「ふむ、奴らならそれくらいは当たり前にやるのだぞ」

 ララとリリとオリヴィエが南門に辿り着くと、軍に帯同していたリーフとシルと遭遇した。
 既にリーフとシルは、善良な住民が魔獣化されたのを把握していた。
 しかし、魔物も沢山現れている。
 魔獣は千体程で、思ったよりは多くない。
 しかし、魔物をどうにかしないと先には進まない。
 さて、どうする?

「魔物をある程度減らしてから、魔獣をどうにかするのだぞ」
「急がば回れだねー。ララとリリ、ピンポイントで攻撃できる?」
「ララにお任せだよ!」
「リリならできるよ」
「オリヴィエも頑張る」

 元々ララとリリは双子なので、感覚共有みたいな事ができる。
 オリヴィエは、補助魔法で他人の正確性を上げることもできる。
 上手く組み合わせれば、精密爆撃みたいな攻撃が可能だ。
 ララとリリは、直ぐに合体魔法の準備に入った。
 併せて、オリヴィエも補助魔法を詠唱する。

「リリ、いつでもオッケーだよ」
「オリヴィエも大丈夫?」
「大丈夫。もう二人に補助魔法をかけたから、後はお任せだよ」
「よーし、やっちゃいましょう」

 補助魔法をかけられたララとリリは、二人の周りに沢山の魔法弾を発生させた。
 そして、一気に魔物を目掛けて魔法を放った。

「「ホーミングセイントダークバレット!」」

 無数の魔法弾が、魔物のみを正確に襲っていく。
 ターゲットを認識して、意図的に魔法弾が魔物を追撃するようにしている。
 双子の感覚制御に併せて、オリヴィエの補助魔法があっての代物だ。

「ほー、中々の魔法だねー」
「ふむ、自動追尾の制御は大変なのだぞ」

 リーフとシルも思わず感嘆する魔法だった。
 そして、多くの魔物を倒したら次はララの聖魔法とリリの回復魔法の合体魔法。

「リーフ、シル!」
「魔獣化された人を元に戻すよ!」
「了解だよー」
「よし、人に戻ったら直ぐに救出するのだぞ」
「「は!」」

 リーフとシルの準備が完了した所で、ララとリリは合体魔法を放った。

「「えーい!」」
「よし、突撃だよー」
「「おー!」」

 ララとリリの合体魔法が放たれたタイミングで、リーフは兵に向かって指示を出した。
 兵は、一斉に人に戻された人を救助していく。
 今回は兵の数も多いので、兵一人で一人の救助で済み、更に残りの兵で魔獣のままのものを討伐していく。
 そもそもが魔獣から人に戻ったのも、千体中で二百人もいなかった。
 ドワーフ自治領から支給された武器なので、兵でも難なく魔獣を切り裂いていく。
 
「ララとリリとオリヴィエ、こっちは大丈夫だから王都に戻ってもいーよー」
「後始末も含めて、ここからは兵の仕事だぞ」
「分かった!」
「リーフもシルも、怪我しないでね!」
「頑張ってね」

 これ以上ララ達が頑張ると兵がいる意味がなくなるので、ララ達も素直にリーフとシルに任せて王都に戻っていった。

「今回は魔物だけですから、慌てないで対応しましょう」
「「「はい!」」」

 王都内にも魔物は現れていたが、不思議と魔獣は現れていなかった。
 学園生を指揮するチナは、不思議と思いつつも気を緩めないで魔物の討伐にあたっていた。
 
「ヒヒーン」
「あ、馬だ」
「やはり魔物のだけですか?」
「ヒヒーン」
「うーん、何でしょうか。魔獣が全く現れないなんて」

 時々、魔物を倒している馬と遭遇する。
 学園生も、流石に魔物を倒す馬に慣れて来たようだ。
 馬は手応えのない魔物ばかりで、飽き飽きしているらしい。
 
「ヒヒーン」
「「「頑張ってね!」」」

 学園生に見送られながら、馬は再び走り去っていった。

「あ、バハムートだ!」
「ホワイトも乗っているよ」

 少しすると、まだ子どもの飛龍に乗ったネズミがこちらにやってきた。
 バハムートとホワイトのコンビだ。
 二人は空飛ぶネズミということで、王都でも有名になっている。
 学園生も直ぐに飛龍とネズミに気がついて、声をかけている。

「バハムート、ホワイト。魔獣見かけた?」
「ガウー」
「チュー」

 バハムートとホワイトは、首を振りながら答えてくれた。
 二匹の探索にも、何も引っかからないらしい。
 
「ガウ!」
「チュー」
「「またね!」」

 学園生に見守られて、バハムートとホワイトが再び飛んでいった。
 その様子を見送っていると、学園生から声がかかった。

「チナ先生、路地裏に小さな女の子が」
「何か魔道具を持って震えています」

 チナはもしかしての事を考えていたので、恐らく当たりなのだろうと思った。
 路地裏に向かって学園生が見つけた女の子に近づくと、小さな女の子はとある魔道具を持ってガクガクと震えていた。
 マシュー達とほぼ変わらない、見た目は三歳か四歳位の小さな女の子。

「ねえ? 大丈夫?」
「お、お姉ちゃんは?」
「この街にある学園の先生だよ」

 チナはできるだけ優しい声で、小さな女の子に声をかけた。
 すると、女の子は少しだけ震えが止まった。

「その手にある物はどうしたの?」
「し、知らない人がお家に現れて、ここに連れて来られたの。この魔道具を発動させて薬を飲めば、人神様の所に行けるって言って。でも、怖くて怖くて」
「そう。じゃあ、あなたは人神教国の人なのね」
「そ、そう。孤児院みたいな所に住んでいる」

 チナは女の子の話を聞いて、表情に出さないように心の中で憤った。
 こんな小さい子を、捨て駒の様に使おうとしていたなんて。
 周囲にいる学園生も、この状況に憤っていた。

「大丈夫だよ。この魔道具を使わなくても、お薬を飲まなくても大丈夫」
「本当?」
「うん、お姉ちゃんが約束する。だから、魔道具とお薬をお姉ちゃんに渡してね。持っているのも怖いでしょう?」
「うん、とても怖いの。はい、お姉ちゃん」
「良い子ね、ありがとう」

 チナは女の子から魔道具と薬を受け取ったら、直ぐにマジックバックにしまった。
 女の子を生活魔法で綺麗にして、回復魔法で手足にあった擦り傷を治してあげた。

「そう言えば自己紹介をしていなかったわね。私はチナ、学園の先生をしています」
「私は、ライリーです。チナ先生」
「そう、良い名前ね。ライリーはお腹空いている?」
「少し」
「じゃあ、パンと飲み物をあげるね。とっても美味しいのよ」
「うわあ、とっても美味しい。ありがとう、チナ先生」
「どういたしまして。ライリーは何歳かな?」
「六歳」
「そ、そうなんだね」

 ライリーはお腹をグーグー鳴らしていたので、スラタロウ特製のパンを分けてあげた。
 ライリーは、パンの美味しさに初めて満面の笑みを見せてくれた。
 普段、余り食事を取っていないのだろう。
 ライリーは、一気にパンを食べてしまった。
 そして、ライリーが六歳と言ったことにチナはかなり驚いた。
 恐らく人神教国では、慢性的に食物が不足しているのだろう。
 王国の孤児院では、こんな事は絶対にありえない。
 さて、ライリーの事をどうにかしないといけない。
 チナはここは思い切って、偉い人に相談してみようと判断した。

「魔物もほぼいないし、この子を保護した事で魔獣も現れないでしょう。あなた達は学園に戻って、他の先生の指示に従って下さい」
「「「はい!」」」
「私は王城に向かいますので、他の先生に聞かれたらそう答えて下さい」
「「「分かりました」」」

 学園生に指示を出して、チナはライリーを抱き上げてそのまま王城に向かった。
 ライリーは驚くほど軽く、痩せこけていた。
 城門で兵に事情を説明すると、そのまま大会議室まで通されてしまった。
 ライリーはお腹が一杯になったのか、チナに抱きついたまま眠ってしまった。

「こんな小さい子を使って、魔獣を発生させようとは」
「しかも、こんなにも成長できていないとは」
「サトーやビアンカからも報告を受けていますが、民に食料が足りない証拠ですね」

 大会議室に通されたチナは、街であったことを説明した。
 王妃様達は、眠るライリーの頭を撫でながら悲しい表情をしていた。
 魔道具と薬も軍関係者に渡し、直ぐに本物と鑑定された。
 人神教国はこの子を使って魔獣を発生させた上に、この子まで魔獣化させようとしていた事が確定した。

「この子は全く普通の子」
「だから馬もホワイトも分からなかったんだね」

 そして、レイアとフェアが話した事が結論となるだろう。
 今までこの手の事は、悪意のある人物が行ってきた。
 だから探索が使える者なら、直ぐに探す事ができた。
 しかし、今回は全く悪意のない女の子だ。
 高性能の探索が使える者であっても、探すのは無理だろう。

「でも、この大きさでレイアよりもお姉ちゃん」
「ミケちゃんと同じ歳なのに、コタローよりも小さいよ」

 レイアとフェアは、ライリーの余りにの小ささにビックリしていた。
 この子には、暖かい環境が必要だ。
 チナはそんな事を思っていた。

「他の孤児の子の確認も必要だけど、スラタロウの栄養のある暖かい料理が必要だね」
「スラタロウの料理を食べれば、直ぐに大きくなるよ」
「スラタロウの料理は美味しいよね!」

 王都での魔獣発生は、事前に防がれた。
 しかし、チナはライリーを見ながらやるせない気持ちを抑えきれなかった。
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