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はじまり
2 お一人様、川村慎也1
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日本のほぼ真ん中にある岐阜県。ここは、旧美濃国の美濃地方と、旧飛騨国の飛騨地方に大別できる。
その、県南側半分を占める美濃地方。更にその西部、愛知県や三重県に近い所に位置する安森郡安森町は、長良川と揖斐川に挟まれた「輪中」の町だ。
町の東端、長良川河畔には、この近辺の神社としては広い境内を持つ奈来早神社というお宮が鎮座している。
有名な三重県伊勢市の伊勢神宮内宮と同じ、太陽神「天照大御神」をお祀りしている神社であり、その伊勢神宮とも関り深い神社だ。
第十一代垂仁天皇の時代、倭姫命の神鏡奉遷の際に、美濃県主が船を二隻献上した。その船の木材調達場所に、創祠されたという…。
細かな話をし出すとヤヤコシイので端折ってしまうが、詰まる所は、伊勢神宮が現在の場所に鎮座する前に各地を転々としたという「元伊勢伝承」に関わるお宮であり、約二千年の歴史を誇る由緒ある神社なのである。
ここの現在の宮司は、川村慎也。二十五歳。
由緒あっても田舎の寂れた神社のこと。戦乱や洪水等の為に記録が散逸して何代目になるのかは不明だが、先代宮司の跡を継いで三年になる。
彼は、率直に言って人嫌い。一人で居るのが大好きで、無人島での一人暮らしに憧れるような、社交性皆無の男だ。
そんな人物が、若くして宮司…。それも、彼は親の跡を継いで就任したのでもなかった。
何故、こんなことになったのか…。
つまらない話かもしれないが、彼は、一応、この話の中心人物。だから、まず、彼が宮司になった経緯と、その生活ぶりを紹介しておこう…。
奈来早神社の先代の宮司は、慎也の母方祖父の弟だった。つまり、慎也の大叔父ということになる。
巫女も他の職員も無く、宮司一人のみしか居ない神社…。
慎也の実家は隣町だが、彼はこの神社が好きで、中学生の頃から毎日入り浸っていた。
というのも、由緒あり、境内も広いのだが、この神社、参拝者が少ない。いや、殆ど居ないのである。
人と接するのが苦手な慎也の逃げ場所には、もってこいの所だったのだ。
宮司である大叔父は温厚な性格で、また非常に博識な人であった。
いつも穏やかな笑顔を浮かべ、境内で一人ボーっとしている慎也に対して小言めいたことは一切言わなかった。
そして時々鬱陶しくない程度に話しかけ、慎也が興味を持った様々なことを教えてくれた。
…食べられる野草や薬草について。
マッチやライターを使わない火の起こし方や、薪での炊飯。
味噌・醤油・酒・酢といった物の作り方。
魚や野菜の保存食の作り方。
草木の繊維での布作りに、わら細工・竹細工・木工等々…。
慎也は歴史関係のことや、民話も好きだった。そういった話も、大叔父に、よくしてもらった。
その中には、鬼の話も…。
「鬼は、悪い存在ではない。中央に従わなかった者であるだけだ。
勝てば官軍、負ければ賊軍。正義が勝つのではなく、勝った方が正義になるだけ…。
負けてしまった方は悪とされ、鬼と呼ばれ、追われ、隠れ住まなければならなくなった。しかし、負けた側の鬼にも、生きてゆく権利は有るはずだ」
何の話から鬼の話になったか、慎也は覚えていない。しかし、大叔父の、この言葉は、何故かよく覚えている…。
大叔父には、子供が居なかった。その大叔父から慎也に、神社の跡を継がないかという話があった。これは、彼が高校一年生の時のことだ。
この神社に、いつまでも居られるという悪くない話。慎也は乗り気になり、直ぐに両親に許可を求めた。
慎也には超絶優秀な兄が二人も居ることもあり、両親は二つ返事で許してくれたというか…。
以後は大叔父の子の扱いにするとして、彼はポイッと家から放り出されてしまった……。
実を言うと、両親・兄たちには、熱心な「信仰」があり、それに全く興味を示さないどころか異教の「神社」に入り浸っている慎也は、家族に異端者・邪魔者扱いされていたのだ。
詰まるところ、これは体の良い厄介払い…。
薄情なものだが、気に入らない信仰を強要され続けるよりは、慎也もずっとマシ。向こうにとっても、家族に異端者がいるのは恥ずかしいことのようだったから、互いに良いことだったのかもしれない。
その、県南側半分を占める美濃地方。更にその西部、愛知県や三重県に近い所に位置する安森郡安森町は、長良川と揖斐川に挟まれた「輪中」の町だ。
町の東端、長良川河畔には、この近辺の神社としては広い境内を持つ奈来早神社というお宮が鎮座している。
有名な三重県伊勢市の伊勢神宮内宮と同じ、太陽神「天照大御神」をお祀りしている神社であり、その伊勢神宮とも関り深い神社だ。
第十一代垂仁天皇の時代、倭姫命の神鏡奉遷の際に、美濃県主が船を二隻献上した。その船の木材調達場所に、創祠されたという…。
細かな話をし出すとヤヤコシイので端折ってしまうが、詰まる所は、伊勢神宮が現在の場所に鎮座する前に各地を転々としたという「元伊勢伝承」に関わるお宮であり、約二千年の歴史を誇る由緒ある神社なのである。
ここの現在の宮司は、川村慎也。二十五歳。
由緒あっても田舎の寂れた神社のこと。戦乱や洪水等の為に記録が散逸して何代目になるのかは不明だが、先代宮司の跡を継いで三年になる。
彼は、率直に言って人嫌い。一人で居るのが大好きで、無人島での一人暮らしに憧れるような、社交性皆無の男だ。
そんな人物が、若くして宮司…。それも、彼は親の跡を継いで就任したのでもなかった。
何故、こんなことになったのか…。
つまらない話かもしれないが、彼は、一応、この話の中心人物。だから、まず、彼が宮司になった経緯と、その生活ぶりを紹介しておこう…。
奈来早神社の先代の宮司は、慎也の母方祖父の弟だった。つまり、慎也の大叔父ということになる。
巫女も他の職員も無く、宮司一人のみしか居ない神社…。
慎也の実家は隣町だが、彼はこの神社が好きで、中学生の頃から毎日入り浸っていた。
というのも、由緒あり、境内も広いのだが、この神社、参拝者が少ない。いや、殆ど居ないのである。
人と接するのが苦手な慎也の逃げ場所には、もってこいの所だったのだ。
宮司である大叔父は温厚な性格で、また非常に博識な人であった。
いつも穏やかな笑顔を浮かべ、境内で一人ボーっとしている慎也に対して小言めいたことは一切言わなかった。
そして時々鬱陶しくない程度に話しかけ、慎也が興味を持った様々なことを教えてくれた。
…食べられる野草や薬草について。
マッチやライターを使わない火の起こし方や、薪での炊飯。
味噌・醤油・酒・酢といった物の作り方。
魚や野菜の保存食の作り方。
草木の繊維での布作りに、わら細工・竹細工・木工等々…。
慎也は歴史関係のことや、民話も好きだった。そういった話も、大叔父に、よくしてもらった。
その中には、鬼の話も…。
「鬼は、悪い存在ではない。中央に従わなかった者であるだけだ。
勝てば官軍、負ければ賊軍。正義が勝つのではなく、勝った方が正義になるだけ…。
負けてしまった方は悪とされ、鬼と呼ばれ、追われ、隠れ住まなければならなくなった。しかし、負けた側の鬼にも、生きてゆく権利は有るはずだ」
何の話から鬼の話になったか、慎也は覚えていない。しかし、大叔父の、この言葉は、何故かよく覚えている…。
大叔父には、子供が居なかった。その大叔父から慎也に、神社の跡を継がないかという話があった。これは、彼が高校一年生の時のことだ。
この神社に、いつまでも居られるという悪くない話。慎也は乗り気になり、直ぐに両親に許可を求めた。
慎也には超絶優秀な兄が二人も居ることもあり、両親は二つ返事で許してくれたというか…。
以後は大叔父の子の扱いにするとして、彼はポイッと家から放り出されてしまった……。
実を言うと、両親・兄たちには、熱心な「信仰」があり、それに全く興味を示さないどころか異教の「神社」に入り浸っている慎也は、家族に異端者・邪魔者扱いされていたのだ。
詰まるところ、これは体の良い厄介払い…。
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