月の影に隠れしモノは

しんいち

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はじまり

3 お一人様、川村慎也2

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 自らの思いのみを「正」とし、他は「邪」と決めつけて「正」を他人に押し付ける両親と兄たち…。これに対する反発も、慎也の人嫌いな性格に多大な影響を与えていたことは否めない。
 慎也自身もどちらかというと頑固であり、正しいと思うことは曲げない方だ。だが、それを人に押し付けようとは思わないし、自分も押し付けられたくないのだ。
 他人には他人の正しいと思うことがあって良いと思う。なのに、彼の周りには、両親・兄始め、その「知り合い」も含め、「正」は一つのみと押し付けてくる人が多過ぎた。
 だから他人と関わることが嫌になってしまったのだ。

 その点、大叔父は、押し付けることはしない人だった。
 前述の鬼の話では無いが、「正」は人の数だけありうるという考え方で、この点でも慎也と近く、大叔父の所は居心地が良かった。
 また、八百万の神様がいるという神道の考え方も慎也の性に合った。貴いモノは一つでなくても良い。沢山有ったって良いでは無いか…。

 とまあ、こういうようなことで、大叔父の養子になった訳では無く姓はそのままだが、慎也は大叔父のところに居を移し、以後は、実の家族とは完全絶縁状態となってしまったのだ。
 そしてその後、大叔父の資金で神主の資格を取得できる大学に進んだ、ということであった。


 慎也が入った大学は三重県の伊勢市。奈来早神社の本宮とも言うべき伊勢神宮がある地だ。
 学校の決まりで、一・二年生の間は寮生活…。人付き合いが苦手な慎也には苦痛だったが、実家にいた時のことを思えば楽だったし、三年生からは気楽な下宿生活となった。
 何もない田舎の大学であるから、特に遊ぶところも無いし、相変わらずの、ほぼ「お一人様」。勉強するしかない環境で、まあまあ、そこそこ優秀と認められるような成績を修めることが出来た。
 卒業後は、親代わりになってくれた大叔父に孝養を尽くしたいとも考えていたが…。四年生時の十二月。元気そのものだった大叔父が、八十八歳でポックリ亡くなってしまった…。
 この為、慎也は卒業して直ぐに大叔父の跡を継いで、いきなりの宮司就任と相成ってしまたのだ。
 ピンピンコロリは本人には理想の形かもしれないが、跡を継ぐ慎也にとっては堪ったものではなかった…。
 だって、神職資格を取ったといっても、引継ぎもなくて、「大学卒業、ハイ宮司」では何も分からない。何しろ、職員も居ない、宮司一人っきりの神社だ。尋ねる相手も居ないのだ…。
 当初、慎也は大いに困った。
 しかし、この神社、基本的に、「暇」なのである。実際のところ、掃除くらいしかすることが無いというのが実状なのであった。

 ところで、この神社の宮司としての収入は、祈祷きとうと地鎮祭等出張祭典での「初穂料」である。
 お守り等の授与品収益と賽銭さいせんは、神社設備の維持費に当てることになっている。が、もともと参拝者が少なく、こちらもすずめの涙。下手をすると赤字…。
 そして、参拝者が少ないということは、当然、祈祷もほとんど無いということ。
 つまりは、収入ゼロ、或いはマイナスという計算になってしまい、これでは全く生活が出来ない。
 神主と言えど、かすみを喰って生きて行くというわけには行くまい…。

 だが、宮司としての収入が見込め無い代わり、慎也は、大叔父の個人的遺産を贈与されていた。
 何故なぜか大叔父は結構な土地持ちであって、慎也がそれを全て引き継いだのだ。
 結果、アパート家賃や企業へ貸している土地の賃貸料が、何もしなくても入ってくる。
 贅沢ぜいたくしなければ生活できるため、神社からの収入が無くても危機感は無い。
 そんなことで、最初は大いに戸惑とまどったものの、今では「暇」な神社生活を楽しんでいたのだ。

 緑に囲まれ、小鳥のさえずりの中、人にあまり関わらずに生きて行ける…。
 慎也にとって、ここは「天国」のような場所であり、大叔父には、どれだけ感謝してもしきれない思いだった。
 こんな理想生活を、彼は三年間続けた。
 そして…。
 この「天国」は、いきなり終わりを告げる。

 慎也は、「この世」から忽然と消えてしまうことになるのだ。

 もしかすると……。
 この運命を、大叔父は、知っていたのかもしれない…。
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