月の影に隠れしモノは

しんいち

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帰還、そして出産

57 離婚の危機?2

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 慎也は、賓客対面の下座真ん中に。お茶を出し終えた舞衣が、その左に。祥子は、一膝下がって右に坐った。

 沙織はブスっとした不機嫌顔。双子は恥ずかしそうにしている。
 恵美は、相変わらずのポーカーフェイスで、お茶をひとすすりして湯飲みを置き、すまして言う。

「被害者の会を代表しまして~、私から申し上げま~す」

 一呼吸置き、慎也をジロッと見る。

「あなたは~、自分がしたことを分かっていますか~?
未成年の乙女、それも~、二人は中学三年生の十四歳!その純潔を奪って~、妊娠させました~。さらには~、三人は現役総理のお孫さんで~す。
さ~あ、ただで済むと、お思いですか~?」

 一応成人している自分のことは棚に置いて、恵美はグイッと慎也に詰め寄った。
 慎也は青くなる。
 舞衣も困り、慎也の膝へ手を乗せた。
 後ろ右斜めから、祥子がささやく。

「そうじゃなあ…。世が世なら打ち首獄門、曝し首じゃなあ…」

「ひ、他人ひとごとじゃないですよ、祥子さん!」 

 舞衣は、後ろの祥子をにらんだ。
 上座では、総理の孫である沙織が、への字口をして顔を横斜め上にそむけている。同じく総理の孫で中学生の双子は、二人揃って恥ずかしそうにうつむいている。

「あ、あの~。あれは仕方なかったというか、そうしないと帰れなかったんですから……」

 慎也の返答に、沙織と恵美が、キッと彼をにらみつけた。

「妊娠させておいて、仕方がなかったは無いでしょう!」
「責任は~、キーッチリとって頂きま~す!」

 慎也は硬直した。まるで、体が石化してしまったような気分だ…。

(ダメだ、終わった! よりによって総理の孫だなんて、絶対ただでは済まない……)

「さて~、どうしてもらいましょうか~」

 恵美が上目遣うわめづかいで言う……。獲物を狙うヘビのような目つきだ。
 慎也は、そのヘビに睨まれたカエル状態。

「ど、どうしろと……」

「どうすれば、良いと思いますか~」

「うっ」

 質問で返され、言葉に詰まる。
 舞衣も、青くなって両手で口を押えている。

「妊娠させた責任って言ったら~、結婚してもらうしかないですよね~。
舞衣さんと結婚なさったそうですけど~、そっちとは、すぐに分かれて頂きましょっか~」

「そ、そんなの嫌です!」

 舞衣が叫んで膝立ちになり、机をバンと叩いた。置かれている湯飲みがカチャッと音を立てる。
 祥子も同調して抗議の声を上げようとしたその時、それまでうつむいていた双子が、先に声を上げた。

「恵美姉様、もうこれくらいで!」
「舞衣様が、おかわいそうです!」

 恵美は、それまでの鋭い表情を急に変え、悪戯いたずらっぽい顔になって笑った。

「ははは~、そうよね~。だ~たい、総理の孫三人とも妊娠していて、誰と結婚すれば?って話ですよね~。かくいう私も妊娠してますし~。それに、そちらのお二人さんも同じ~。
で、舞衣さんと結婚で、祥子さんは良いんですか~?」

「ワラワは戸籍が無いからの~。結婚出来ないのじゃ。よって妾にしてもろうとる」

「ですよね~。法的に重婚出来ないし~、それしか無いのよね~。というわけで、私たちも、それに乗っかりま~す」

「は?」

「ですから~、舞衣さんが正妻でしょ~。祥子さんは二号さん? 私たちは三~六号さんで~す」

「へっ?」

 キョトンとした顔の、下座三人。
 平然としている恵美。
 ほおを膨らませて不服そうな沙織。
 恥ずかしそうな双子…。

 ・・・。

 舞衣が、おずおずと切り出した。

「あ、あの~、意味分かってます? 祥子さん以下は、みんな内縁関係ってことですよ」

「もっちろん、分かってますよ~。内藤総理も御了承ですので~、これは決定事項で~す。否やは許されませ~ん」

(わ、訳が分からん。総理も了承? どういうこと?)

 慎也の頭の中はパニックである。

「まあ、約一名~、不服の人もいますがね~」

 その「約一名」の沙織が、怒り声を発する。

「だ、だって、こんなふしだらな! お爺様も、どうかしちゃってます。あり得ません!」

 プリプリ怒っている姉を白々しそうに眺めながら、双子の妹の方が爆弾を投じた。

「こんなこと言ってますけど、お姉様もあの日のことが忘れられなくて、毎夜お部屋で一人もだえていますので…」

「環奈! なんてことを!」

 沙織の顔は、羞恥で一気に真っ赤になる。
 双子の、もう一人も続ける。

「お姉様は、慎也さんを独り占め出来ないから御不満なんでしょう?
でも、それはダメですよ」

「杏奈まで!」

 沙織は両手で顔を隠した。双子はそんな姉を放っておいて、一瞬見つめ合ってから一緒に言った。

「「私たちは、舞衣様の近くに居られるだけで幸せです!」」

「へっ?」

「「あ、あの、大ファンなんです!」」

 二人同じように、うっとりした顔で舞衣を見詰めている。
 見詰められている舞衣は、戸惑とまどいを隠せない。
 そういえば、この二人は仙界でも、舞衣の方ばかり見ていた。中学生が、交合・妊娠なんてことを全く抵抗せず受け入れたのも、憧れの舞衣がしていたからか……。

(俺は、どうでもいいのかよ)

 慎也は突っ込みを入れたくなったが、口には出さない。それに気付いたのか、双子は続ける。

「「もちろん、私たちも慎也さんでしたら、身をゆだねても……」」

 美少女双子に、恥ずかしそうにシンクロしながら見られると、慎也も目のやり場に困る。

「私も、忘れてもらっては困ります~。で、四人の協議の結果~、私が三号さん、沙織が四号さん、杏奈ちゃんが~五号さん、環奈ちゃんが~六号さんです~。ちなみに、年齢順で~す」

「あ、あの、その三号さんとか、そういう呼び方、やめようね。世間体悪いし……」

 慎也が、ささやかな抵抗を試みた。が、恵美は意に介さない。

「仕方ありませ~ん。事実ですから~!」

「よかったのう、主殿、これがハーレムというやつかのう。ほ~ほっほっ!」

(よ、良くない。絶対良くない!)

 慎也は、両隣を確認した。祥子は面白そうにしているが、舞衣は、やはり、微妙な顔だ。

「そういうことで~、今日から、私たちも、ここに住みま~す」

「そ、そんないきなり!」

 準備もへったくれも無い、突然の、思いもかけない要求…。目を白黒させている慎也をそっちのけに、双子が舞衣に駆け寄って両手でそれぞれ、舞衣の左右の手を取った。

「「宜しくお願いします。舞衣様!」」

「ま、舞衣様…?」

 舞衣の顔も引きつっている。

(ああ、この二人は、やっぱり舞衣さん目当てだ)

 正面では、やれやれ…とあきらめ顔で双子の様子を眺め、額を指先でむ沙織。そして、面白がっているとしか思えないような表情の恵美。
 慎也は、抵抗を断念した。受け入れるしかないようだ。


「それはそうと、主殿、神社の方は良いのかえ?」

 そうだった。早く開けないと、また混乱する。

「私たちも、お手伝いしま~す」

 三人プラス押しかけ女房四人は、自宅を出て、急いで神社へと向かったのだった。
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