月の影に隠れしモノは

しんいち

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帰還、そして出産

70 美月来訪1

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 五月三十日。昼過ぎ。

 今日は、美月との約束の日。このため、神社は人気上昇中の祥子と恵美に任せて、舞衣は自宅待機だ。

 恵美には、くれぐれも調子に乗って夜の暴露話をしないよう釘を刺してある。
 が、不安で、祥子にも、くれぐれも恵美を調子づかせないよう依頼。
 だが、こちらも現代常識との認識のギャップがあり、大いに不安だ。
 結局、慎也に責任もって監視してもらう以外にない……。


 慎也宅の門前。元気な声が響いた。

「こんにちは~!」

「は~い」

 待ちに待った声で、舞衣は、すぐに離れの玄関を出て駆けた。
 門は開けたままになっている。そして、そこには舞衣に向かって微笑む顔。

「美月!」

「舞衣さん!」

 二人はヒシっと抱き合った…が、すぐに舞衣は美月から離れた。そして、自分の左ほおを美月に向け、その頬を指差した。

「何ですか?」
と、美月…。

 仙界で…。舞衣は誤解の上、勝手にうらんで美月を思いっきり引っぱたいていた。その借りを返しておきたい。電話でも「一発殴らせてもらえれば…」と美月に言われた。

「どうぞ。一発、思いっきり!」

「・・・・。舞衣さん、冗談ですよ、あんなの…」

 美月は困惑した。電話の際に、冗談でもあんなこと言ったのを後悔した。

「ダメ。ケジメだから! 思いっきり、やっちゃって!」

 少し考え、そして美月は、おもむろに姿勢を正した。

「分かりました。では、遠慮なく、思いっきり、いかせて頂きます!」

 右手を大きく振り上げる。
 舞衣は覚悟して目を瞑り、歯を喰いしばった。

 ・・・ ペチ…。 

 美月の手が頬に当たる感覚。しかし、痛くは無い…。温かく柔らかい手が、そのまま、舞衣の頬に触れている。
 舞衣が目を開けると、美月の笑顔があった。

「借りは、お返ししました」

「美月!」

 二人は再び抱き合った。

「ちょっと、舞衣さ~ん。いい加減にして、入ってもらってくださ~い」

 玄関の方で沙織が呼んでいる。そういえば、まだ門を入ったところだ。あわてて舞衣は、美月の手を引いて、玄関に向かった。

「やめてくださいよ。舞衣さん! 元トップアイドル二人があんなところで! 人目に付くんですからね」

 石垣で高くなっている分、門のところは遠くからでも良く見えるのだ。

「ゴメ~ン。沙織さん」

 舞衣は、離れの玄関から顔を出している沙織に向かって手を合わせ、笑いながら謝罪した。
 そのまま、離れ玄関を通り過ぎ、母屋の玄関から美月を上げた。そして、母屋の座敷へ通し、美月を上座へ坐らせた。
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