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新たな仲間と、…別れ
161 恵美の去就1
しおりを挟む「あ、あの~…。たいへん申し上げにくいのですが……」
しんみりした雰囲気の中、アマが言い出しにくそうに、恵美の方を向いて言った。
恵美は、パンパンと顔を叩いて涙を落ち着かせてから、アマの方を向く。
「こうなってきますと…、あの話は、どうなりますでしょうか……」
皆、何の話かと、不審気にアマと恵美の顔を見た。
「う~ん。言い出しにくいけど、仕方無いよね~」
全員の注目を浴びながら、立ち上がった恵美。そして、毎度恒例の、恵美爆弾が投下される。
「私も、ここを出ま~す。子供たちと一緒に、アマちゃんの村へ行きま~す」
「はあ~! 聞いてない、そんなこと!」
誰よりも早く、舞衣が叫んだ。発言の主、恵美を向いて。
「そりゃ~そうよう。今、初めて言いましたから~」
恵美は、何でも無いことのように言う。
だが、娘たちは、色めき立った。自分たちだけで行かなければならないと思っていたのに、恵美が付いてきてくれるというのだから…。
「アマちゃんは、ホントは慎也さんに来て欲しかったんだろうけどね~。キッパリ断られちゃったから、私が代わりに頼まれたのよ~。村再建のための手助けして欲しいって~」
アマが申し訳なさそうに頷いている。
「人界の優れた知識で、村をもっと豊かに、住みやすくしたいのです。その指導者としてお招きしたく…」
「大事にしてくれるって言うし~、子供たちの面倒も見られるし~、こっちの三分の一しか老けないから、若いままでいられるしね~」
「だ、だって、恵美さん!あなた、実家を継がないといけないって、言ってたでしょう! どうするの?許してもらえたの?」
慌てる舞衣に、恵美はシレっとして言う。
「そう、それ! うちの先代大物忌が突然死で、大事な伝えが途切れてる~って、前に話したでしょう? 途切れた伝えを調査しに行く~って言ったら、一発オーケーよ~。母様は渋ってたけどね~」
全くもって、抜け目ない。が、もしかすると、恵美の主目的は、そちらの方なのかもしれない。
まあ、どちらが主で、どちらが従であっても、恵美の決断は変わらない。彼女は既に行くと決心し、準備も進めていた。言い出すタイミングを迷っていただけのこと…。
「そんな! イヤだ! 恵美が居なくなるなんて!」
しかし、今度は沙織が、恵美に取りすがった。
「何言ってるのよ~。あなたも出ていくんでしょうが~」
「だって、だって! 私、絶対帰ってくるもん! その時、あなたが居ないなんて、考えられない!」
「バッカね~。一生行くわけじゃないのよ。帰ってくるわよ~、私だって。ほら~、実家を継がないといけないし~」
「いつ帰ってくるのよ。一ヶ月? 二ヶ月?」
「いや~。それは、どうかな~。最低一・二年~。あるいは、もうちょっとかな~」
「嫌よ、そんなに会えないなんて!」
駄々っ子のようになってしまっている沙織の服を、彼女の子の幸がクイクイと、引っ張った。
「ねえ、母様。私たちは、恵美母様が来てくれると心強いよ。ちょっとの間だけ、我慢してよ」
沙織は渋い顔をして黙る。
「お願い!母様!」
少し考え、娘に恥ずかしい姿をさらしていることに気が付いた。やむなく、渋々頷く。
「やった~!」
「恵美母様が一緒だ」
「これで、何にも心配しなくていいね」
沙織が了承したからと言って、それが皆に了承されたことにはならないのだが、娘たちは歓声を上げた。こうなると、誰も反対できない。
ただ一人、恵美の子、月が拗ねてみせた。
「なによ。折角、口うるさい母様から離れられると思ったのに!」
そうは言うものの、口元が綻んでいる…。
本当は嬉しいのに、この言い草。母親そっくりだ。
皆もそんなことは承知で、笑顔になった。
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