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鬼の仲間として

54 責任者就任

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 翌日。イマさんのスーツを着ます。身長的には合ってますが、胸の辺りが少しダブつくかな…。イマさん、結構胸大きかったですからね。まあ、キツイよりはマシですね。
 これから私は、部下への責任者就任の挨拶をします。といっても、部下を集めて何てことは致しません。みんな、仕事で忙しいのですからね。何にも知らない私がそんな偉そうなこと出来ませんよ。
 ですので、私の方から出向きます。

 まずは農場へ。
 オッミさんとナルーさんが一緒に居ますね。オッミさんはカリさんの部下で出荷担当です。私の部下になるのはナルーさんです。
 で、取り敢えず責任者になってしまったことの伝達と、仕事はこれまで通りということを。但し、今までは口頭報告していたのを書面にして報告するように伝えます。正直に、その理由も…。
 ナルーさん、少し困惑顔でしたが、承知してくれました。他の通勤鬼さんからの分の報告もナルーさんが取りまとめて書面にしてくれることになりました。
 ありがとうございます。信頼してますから、宜しくお願いしますよ。
 これで農場は大丈夫ですね。

 さてさて、次が問題なんです。牧場です。
 農場よりも牧場の方が収益は高く、重要な部門。そして、そこの仕事の取りまとめ役が、あのキヅミさんなんですよ。とことん私のことを嫌っている鬼さんです。
 更には、私って、キヅミさんが大好きだったイマさんを死なせた張本人なんですよね。
 もしかすると、イマさんの仇だって、ブスっと刺されたりして……。

 こ、怖いよ。出来ることなら行きたくないです…。
 が、上司として、そんなこと言ってられませんよね。
 まあ、まさか、いきなり上司を刺すなんてことはしないでしょう。罵倒されるくらいは覚悟しなきゃいけないでしょうがね。

 牧場到着。う、キヅミさんが居ます。鋭い目つき。やっぱり、怖い…。
 いつもは即座に追い出されますが、今日はそうは参りません。言うべきことは言わないと、ですよ。

「え~と、キヅミさん」

「はい、なんでしょう。美玖さん」

 えっ? 美玖さん??

 私、今まで『オマエ』呼ばわりされていました。それが急に名前呼び。オマケに『さん』付け。
 更に…。

「ナユさんから聞きました。生産部門の責任者に就任、おめでとうございます。それから、私は部下ですので、『さん』は付けずに呼び捨てにしてください」

「えっと…、呼び捨て? それで良いの?」

「はい。ここではリューサ様をお呼びするときのみ『様』。上司は『さん』。同輩以下は呼び捨てが基本です。私は美玖さんの直接の部下ですので、呼び捨てでお願いします。でないと規律が乱れます」

「え、え~と、了解です。以後、そうさせてもらいます」

 う~ん、そういえば私、『リューサさん』って、いつも呼んでましたね。これ、失礼ですよね。以後は『リューサ様』って呼ばなきゃね。
 いや、それは良いとして、もっと重要なことがあるのですよ。

「仕事に関してですが、全てこれまで通りでお願いします。
但し、ハッキリ言って私は素人で、何にも分かりません。ですので、当面はあなたに全委任します。
リューサ様への報告書も、あなたが作成してください。私はそれを確認し、問題なければ私の署名を付け加えてリューサ様に提出します。
お願いできますか?」

「よ、宜しいのですか? 私なんかに全委任で……」

「はい。イマさんが信頼して任せて来た鬼さんです。間違いないはずです。
私も、信頼してお任せします」

「分かりました。ありがとうございます。
ただ…あ、あの……今まで通りですと…、そ、その……」

 そうなんです。
 今まで通り…。あなたの訊きたいことは分かっていますよ。

「報告書の件以外は、全て今まで通りです。ですので、屠殺の権限はあなたには渡しません。その権限につきましても、今まで通り、剥奪です」

「で、では、誰が?」

「あなたが心配する必要はありません。私がしますから」

「ええっ! そ、そんな……」

「何ですか? 今まで通りでしょ。
今まではイマさんがしてきました。私はイマさんの仕事を引き継いだのです。ですから、私がします。こちらは既に経験していますから、お気遣いなく」

「あ、あの、申し訳ありませんでした。前に私、大変酷いことを……」

 うん、言われましたよね。酷いコト。

「大丈夫ですよ。私はニンゲンであって、ニンゲンでない、ヒトデナシです。
だって、内臓はイマさんに貰いましたから鬼ですしね。だからと言って完全な鬼でもないしね。ヒトデナシってのが、一番ピッタリなんですよね。
まあ、だから、ニンゲン殺しても全然オッケーよ」

「そ、そんな……。も、申し訳ありませんでした!」

 う~ん、ヒトデナシ。とっても自虐っぽいけど。これ、面白いでしょ。これから私はそう名乗ることにします。
 あ、あんまりキヅミさんを虐めても可哀想ですね。

「キヅミ。あなたが優しい鬼さんで、屠殺が出来ないってのはイマさんから聞いていました。
正直なところ、リューサ様からは部下にさせれば良いって言われています。ですが、イマさんは、あなたを『育てる仕事』に専念させていました。
あなたなら、愛情をもってニンゲンの世話が出来るからということだと思います。私もそうして欲しいのです。
ここのニンゲンは、十二年くらいの短い命。せめてその間だけでも幸せに暮らしてもらいたいの」

 キヅミさん、困惑顔のまま黙って聞いています。私は続けます。

「そして、育てるのと屠殺は、やっぱり分けた方が良いと私も思うのよね。
だからイマさんは、屠殺は自分でしていたのですから、私もそれを受け継いで自分でするの。
まあ、そういうことなんですよ。
あなたは何も気にせずに、自分の仕事に専念してください」

「わ、分かりました。ありがとうございます」

 キヅミさんは深々と頭を下げました。あ、あれ?もしかして泣いてる?
 そういえば私、罵倒される覚悟で来たけど、全くそんな素振りが無いどころか、形勢大逆転って感じです。彼女、ホントはどう思っているんでしょう?

「あ、あのですね。こんなこと訊くと、返答に困るのは分かってますけどね。
あのね、正直なところ、私のこと、どう思ってるかな?
やっぱり、イマさんの仇だとか…」

「と、トンデモありません。美玖さんはイマさんの肉体を取り込んだ御方です。いわば、イマさんの化身なのです。
それに、イマさんの考えとやり方を継ぐとおっしゃっていただきました。お優しい配慮も頂きました。感謝しこそすれ、仇だなんて滅相も無いことです。
誠心誠意、お仕えさせて頂きます!」

 え、エエっと…化身?
 それにですね、なんか硬いっていうか、何て言うか…。そう、体育会系っぽい?
 まあ、そんなことは、どうでもよいです。

「ありがとう。これから、宜しくお願いしますね」

「こちらこそ、宜しくお願い致します!」

 ビシッと九十度の最敬礼…。う~ん、間違いないね。体育会系ですね…。

 その後、キヅミさんによって集合させられた通勤の女鬼さんの前でも御挨拶させて頂きました。皆さんキチンと整列し、お辞儀も揃って美しい。いや~、体育会系だな~。
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