鬼に飼われて生きる少女 ~異世界転移し、鬼と一緒にヒトを食べて生きています~

しんいち

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鬼の仲間として

66 切腹の反響 そして、エピローグ

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 切腹した三人は、翌日の午後に出荷されていきました。カリさんが編集した動画を付けて。

 その翌々日のことです。カリさんが慌てて私のところへ走り込んできました。

「たいへんだ、美玖! ちょっと来てくれ」

 何事かとカリさんについて、彼女の仕事部屋へ。
 あら、何か近代的。パソコンがあるよ。カリさんがそのモニターを指差します。

 え、電子メール? リューサ牧場あて…。
 えっと、リューサ牧場のゴールド首輪のニンゲンさんへって、私のこと?

 内容は…。ニンゲンを苦しめずに殺すのに賛同します?!
 や、やった!賛同者だ!
 それから、あ、これも。
 うん?これも……。いったい何通来てるの?

「凄いぞ、美玖。少し前から次々来ている。既に20を超えたぞ」

 おお~!やったよ。

 結局、夕方までに200を超えてしまったメール。全部が全部、賛同ということではありませんでした。中には手厳しいご批判も。しかし、九割を超える確率で賛同表明です。
 お肉って、こんなにたくさんの人に買われるのかなと思ったら、そうではなくて、画像の方がなんかバズっちゃっているようです。宣伝のために一部を無料で公開しているのだとか。私の賛同を呼びかける部分も入っていたみたいですし、ご丁寧にリューサ牧場の連絡先まで公開されていたとか。
 その為に、こんなことに……。

 動画販売もあの変態社長がしているのですが、売れた数によって牧場にもお金が入ってくるそうです。今までにない反響で、これは期待できるとのこと。
 い、いや、なんか、トンデモナイことになって来たかもしれませんよ!

 翌日も…カリさん、悲鳴を上げています。仕事にならないと…。
 次から、次から、メールが届きます。電子メールだけでなく、お手紙でも賛同表明が届きました。
 中には長文で私のことを散々に批判というか罵倒する内容のモノも有ります。

 …はいはい、ニンゲンの分際で申し訳ありません。
 …はいはい、おっしゃる通り、小娘如きが出しゃばりましてスミマセン。
 …えっ?「お前を捻り殺して喰ってやる」って、それはだけはゴカンベンくださいな。
 …「生意気すぎる。月夜の晩ばかりじゃないぞ」って、ふっるい脅し文句ですよ。私、外を出歩きませんから大丈夫ですよ~。

 ハハハ…。まあ、多少の反発は仕方ないですよ。カリさんが心配してたのは、これのことですね。
 でも、こんなのは極一部。殆どが「ニンゲンを苦しめない事に賛成!」という賛同の表明なのでした。


 夕方前にはリューサ様からの呼び出しです。カリさんと一緒に、指定の客間に行きますと、そこにリューサ様と共に変態社長が…。

「ネタシマイチャシトコイゴス、タナア。スデシマデオノクヤシュ・・・」

 えっと、何言ってるかと言いますと、「主役のお出ましです。あなた凄いコトしちゃいましたね」です。
 話は続きます。この社長、あの切腹動画は別として、あんな表明されては反発でリューサ牧場のお肉が売れなくなるだろうと思っていたとのこと。
 わざわざ私の発言部分と牧場の連絡先を公開したのは、批判で大炎上させてからクレーム付けに来るつもりでいたんですってよ。……なによそれ、ホント性格悪いわ!!

 でも、結果は全くの正反対で賛同の方が圧倒的。お肉も注文殺到で、急遽倍に値上げしたのに完売してしまったというんです。

 で、以後は、大事に育てて苦しめずに屠殺した最高級のお肉として売り出しましょうという提案。ただ、苦しめなかった証拠として、屠殺場面の動画は必須だとか。
 どうしてそんなに屠殺の場面を見たがるんでしょうね。この辺りは、やっぱ、ちょっと変態的ですよね…。
 しかし、これはとってもアリガタイ提案ですよ。
 ハルたちの願い、叶いました! やった!!

 更には、封筒を手渡されてしまいました。金一封…。社長からのボーナスだそうです。
 いや他所よその社長から貰っちゃって良いのかなと、リューサ様を見ると、ニッコリ笑って頷いてくれます。
 じゃあ、有難く頂戴しましょう。



 リューサ様の話では、他の牧場においても時々異能力を顕現させるニンゲンが出て脱走事件が起きるんだそうです。
 この世界では鬼さんも異能力を持っている方々がいます。どこからを異能力と認定するかによって異なってきますが、おおよそ10鬼に1鬼くらいの割合で何らかの異能力を持っているのだとか。…ラクッサさんのあのトテツモナイ調理スキル。アレも異能力と言って良いくらいのモノですしね。
 そんな世界でありますから、ニンゲンも異能力に目覚めやすいのでしょう。
特に追い詰められれば・・・。

 そう、あの、苦しめて殺す方法が良くないのですよ。それによって追い詰められ、異能力が顕現してしまうのです。ミクがそうだったように…。

 だからですよ、そういった意味でも、やっぱり、安らかに逝かせてあげなければいけないのです。これは、ニンゲンを食用としている鬼さんたちの為でもあるのですよ。
 そうしないと、その内トンデモナイ能力発揮して反撃してきて、逆に鬼がニンゲンに食べられる立場になっちゃっても文句言えないんですからね!
 そして、そんなことになったら、鬼の仲間になっている私としても、非常に困るのです!
 私はニンゲンからしたら、完全な裏切者ですからね!


 翌日もメール反響は凄い。お手紙も続々。やっぱり、全部が全部賛同では無く、悪口雑言の類や反対意見も有ります。ですが、殆どは賛同意見なのです。
 嬉しいですね。
 妖界のニュースなんかでも取り上げられてしまい、テレビ局の取材まで入ります。私もインタビューなんかされちゃいましたよ。き、緊張しましたよー!

 皆さん、私のこと、口々に褒め称えてくれます。だけどですね。私は流されて生きているだけなんです。別に何にもしていないのですよね。
 凄いのは、切腹したあの三人のニンゲンです。勇者って言っても良いんじゃあないですかね。皆さん、三人を称えてあげてくださいな。

 こういうことで、「やっぱり最後は苦しめずに送ってやるべきだ」という圧倒的な世論が形成されてしまいました。
 勢いというものは凄いモノ。もうこうなれば、批判する方が難しくなります。

 但し、新年の丸焼きに関しては、伝統行事であり継承すべきだという意見も多いですね…。
 仕方ないかもしれません。中には今までのような残酷なのを好む鬼さんも、やはり居るのです。狩猟本能が…。というやつですね。それまで否定してしまうこともできません。
 すべて禁止してしまうと、地下に潜って酷いことをするなんて事件も起きかねませんしね。つまりですね、人界に行って密猟とか……。

 そんなの、最悪! 絶対やめて欲しいというか、ダメですよ。絶対ダメ!!

 まあ、伝統行事の犠牲になるのは主に男の子たちです。男の子たちガンバ! 多少の痛みは我慢してね。
 多少じゃないって?
 いや、男の子は我慢するモノですよ。私は女の子だから良いんです!

 う~ん、私も考え方が鬼っぽくなってきてるかな…。


 さてさて、十二月を除いては屠殺もそれ程神経を使わなくても良くなりました。
 女の子も最後はキモチ良く逝かせてあげられるようになりましたよ。例のナユさんの変態的器具です。女の子にも使用することになり、刃を隠したギロチンでの、苦痛の無い屠殺になったのです。

 出荷されたお肉は、今までよりも味が良くなったと評判です。やっぱり、苦しめると硬直して、味も悪くなるんじゃないかと思うんですよね。
 ニンゲンにも良く、鬼にも良い、正に一石二鳥です。

 あ、それから、変態社長から貰った金一封、大して入っていませんでしたけど、リューサ様からも後でボーナス貰っちゃいまして(こちらは、かなりの額)、で、そのお金で私はお墓を作りました。
 ナオ・マミ・ハルの合同のお墓です。髪の毛を少しだけ取って置いてあり、それを入れました。
 場所は牧場内の住居区域出入口に近い場所。屠殺の時は、まずそこにお参りします。
 ナオたちの集落のニンゲンたちにも、それが彼女らのお墓だと教えてあります。病気で発狂して死んだということになっているのです。時々お参りに来ている子もあります。



 ということで…。
 私は今日もニンゲンのお肉を食べ、そして、今からニンゲンの屠殺です。
 屠殺前には、三人の勇者のお墓参り。苦しめずに殺しますよと誓ってから…。

 あのあと、リューサ様から訊かれました。「元の世界に帰りたい?」って…。
 いや、もうそんな気は、全くありません。帰ったところで人殺しの私に居場所なんて無いんです。

 私はヒトであってヒトでない、ヒトデナシ…。
 妖界の鬼の仲間、ヒトデナシの美玖です。

 この鬼の住む世界で、一生暮らしてゆきますよ。



―――――――


 と、まあ、これが、我らが世界に迷い込んできた少女美玖の話。
 如何でしたでしょうか?

 美玖は「自分は流されて生きているだけ」だなんて言いますけどね。そんなことありませんよ。凄い子だと思います。
 美玖が居なければ、妖界のニンゲンの女は何時まで経っても残虐に屠殺されていたことでしょう。

 うん? おや、ニンゲンを殺して食べるなんて、野蛮で許されないですって?
 う~ん。じゃあ、牛を殺して食べるのは良いのですか? 豚は?鶏は?
 何か違いますかね?

 ニンゲンは知能が高いから?
 賢い動物は食べちゃあいけないのですか?

 ふ~ん。じゃあ、バカは殺して食べてもオーケーなんだ……。

 弱肉強食は自然の摂理。ニンゲンの住む世界だってそうなのだと思いますがね。
単に、その世界では人間が頂点に立っているというだけのことでないのですか?

 まあ、別の世界のお話なんですからね。そんなこと議論してても始まらないコトですね。


 あ、そうそう、美玖は疑っていましたけどね。あれは、ホントに偶然なんですよ。
私が美玖を妖界に引き込んだのではありませんからね。
 それだけは信じてくださいな。

 いや、ホントに、ホントなんですってば・・・。

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