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二人の弟子
48 送り犬1
しおりを挟む「さてと、貴様ら、何故にこの者に取り憑いた。
取り殺すとはどういうことか。キリキリ説明せよ」
ビンちゃんの詰問に、観念した雄が先に口を開きます。
「我らは信濃国大平の地にあった大山祇神の祠を守る眷属なり。
村が廃村となり、人が住まなくなって我が主は神上がりなされた。
神からは、我らも好きにして良いとの仰せであったが、祠が残る限りは、その場をお守りせんと残っておった」
続けて雌が。
「その祠もついに朽ち、さてそろそろ潮時か、この世ともおさらばせんと思うて居たところ、この者が、ことも有ろうに我が主の神体石の前で尻をまくり上げ、ビチ糞を垂れまくって!」
更に、雄。
「これは許すまじ。せめてこのアマを道ずれにしてからでなくては消えることも出来ぬと取り憑き、最後の力を振り絞って呪いをかけ続けてきたのを…」
「無念ながら邪魔され、引きずり出されてしまったという次第」
交互に言葉を繋いでゆく二匹。
し、しっかし…。
ビ、ビチ糞って……。
それは、まあ、怒るわよね。
御神体なんて、そんな神聖なモノを、そんなモノで穢されたら。
息も穏やかになって、眠っているレイラのお腹のシャツを戻し、頬をぺしぺし叩いて起こします。
ベッドの下を指差しながら、睨みつけて命令口調。
「ここに正座しなさい」
目を覚ましたレイラは、「は、はい~??」と訳が分からないといった表情。
でも大人しく従い、床に正座します。
「レイラ。あなた、長野で何をしてきたの!
壊れてしまっているとはいえ、神様の祠の前でお尻捲ってウンチして御神体にそれを掛けるなんて!!」
「は、はあああ~!! 何で師匠がそんなこと、知ってるの?!
あ、祐奈か、あいつ~!!
いや、でも、単なる広場で、壊れた祠なんてありませんでしたよ。
あ、そう言えば、少し大きい石は、いくつか転がっていたかな。
アソコだけ小さな空地になっていて、変な場所だなっとは思いましたけど…」
あ、あれ?
・・・空地と石??
そ、そうよね。レイラは祠の前でそんなことする子じゃないよ。
壊れていたとしても残骸があれば、すぐに分かるはず。
待て、朽ちたって言ってたけど…それ、どういう状態?
もしかして、祠の木材のかけらも完全に朽ち果てて、石だけになった状態?
もしそうだとすれば、そりゃ分かんないよ。
切羽詰まってたろうから、よく観察もしてないだろうし……。
「え~と、あのですね、ワンちゃんズさん。ちょっとお伺いします。
あなたたちが、まだ肉体を持っていたころを想像してください。
山道を散歩していたとします。知らない道です。
そこに、ボロボロになって傾いた神様の祠がありました。
ワンちゃんって、何かあるとオシッコ掛けたりしますよね。
祠にオシッコ掛けます?」
「ワ、ワンちゃんズとは、我らのことか?
なにをバカなことを言うか! 我らは神の眷属なるぞ!
いくら何でもそんなところに尿を掛けるものか!」
「同じく、当り前だ。愚弄するのか!」
二匹揃って私に凄んできますが、ビンちゃんにシッカリ首根っこを掴まれて、ぶら提げられたままです。
何も出来やしないのは分かってますが、ちょっとビビる…。
「え~と、眷属になる前のことを想像して回答頂きたいのですが、まあ良いです。
そうですよね。祠と分かるようなモノにオシッコかけませんよね。
じゃあ、さっきと同じです。散歩していました。
目の前にちょっとした大きさの石がコロッと転がっていました。
さあ、どうします?」
「そ、それは、肉体のある頃で合ったなら、我らの習性であるから、尿を掛けて臭いを付けたかもな」
「確かに、我も同じく」
「ですよね。
で、この子がウンチした場所、客観的に見て、どっちの場所だった?
あなたたちにとっては良~く知った神様の祠のあった場所。
でも、そこに初めて来たとしたら、それが分かる状態だった?」
「そ、それは……」
「分からないかも…しれませぬ……」
「とっても大切な石でも、それなりにきちんと祀られていない限り分からないでしょ?
悪気はなかったんだし、許してもらえない?」
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