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梅干しと、父の思い

53 漬物、どうぞ2

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 さてと、最後に和歌山の梅干しです。
これを用意したのは、勿論、もくろみあっての事。
父さんの梅干しのこと、ナギさんに訊かなきゃいけませんからね。そのキッカケとして。
 そして、私自身も改めて梅干しの味を確認したかったのです。
だから、一番有名で美味しそうな紀州南高梅の、ちょっとお高いのを買ってきました。

 改めて食べてみると…。
いや、不味くはないですよ。美味しいです。
 でも、やっぱり記憶している昔の味とは違う気がする。

 何が違うんだろうと思って、原材料を見てみると。あれ、調味料が入っている…。
もしかして、この味が強くて梅の風味を消しているのかな?
 ナギさんも、どうぞ。あ~ん。

 梅干しを食べたナギさん。へへへ、酸っぱい顔…。
そして、私に向かって一言。

「そういえば、あなたの父さんの慎吾、梅干し漬けてたよね。これは、その残り?」

「えっ!!」

 そうですよ!
そのことを訊きたいと思っていたのですよ!

 こっちから聞く前に言われるとは思っていませんでした。
やっぱりナギさん、父さんが梅干し漬けてたの、知ってたよ!!

「ナギよ、それだ!そのこと、詳しく教えよ!」

「へ? ナニ? どういうこと?」

 ビックリ顔の私と詰め寄るビンちゃんの様子に、目を白黒するナギさん。
経緯を話し、そして、用意してあったあの本とメモをナギさんに見せると…。

「なるほどね。事情は分かりました。
 え~と、この本は…。あ、多分、治平の使っていたものね」

「え、治平って、お爺ちゃん? お爺ちゃんも、梅干し漬けてたの?」

「そうよ。今のあなたの家の梅の木は、治平が植え替えた物よ。
その前にも違う種類の梅の木がたくさん有ってね。
昔から、多喜家の梅干しは美味しいって評判で、贈答用に使っていたし、販売もしていたのよ。
中でも治平は研究熱心な人でね。代々の漬け方だけでなくて本とかでも色々調べたり、どの種類の梅が良いかも試験栽培したりして、結果、選んだのが今の木。
大事に育てて、毎年漬けていたんだけど、年齢的に重いモノが持てなくなって、慎吾が継いだの。あなたが産まれた頃の事ね。最初は治平の指示で漬けていたわね」

 ということは、あの本の書き込みはお爺ちゃんだ。
多分、お爺ちゃんは塩17%で漬けていたんだな。

「治平が死んだ後、慎吾も何か自分で試していたみたいね。
失敗して、結構捨ててたこともあったわ」

 そっか、その結果が、このメモ書きなんだ。
で、タカイの小父さんに味を認められたってことか…。

「でもナギさん。このメモ、すっごく丁寧に詳しく書いてありますよ。
まるで誰かに伝えるみたいに。
父さん、タカイの小父さんに製法を伝えようとしてたのかな?」

「何言ってるのよ、ハルカ!
あなたよ!
その覚書は、あなたの為に慎吾が書いたものよ」

 へ? 私?

 何にも聞いてないっていうか、お父さんが梅干し漬けてたって事さえ知らなかったのに?
 それによ。私に伝えるんだったら、もっと分かりやすい所に残してよ!
これじゃあ、漬物に興味持って本を開かない限り、分かんないじゃない。
見つける可能性なんて、ほぼゼロよ。
 ちゃんと教えておいてくれれば、私だって我が家の伝統を守り伝えるのに……。

「ナギよ。しかし、やたら詳しいでは無いか。
全ての氏子の事をそんなに細かに見ておるのか?
真面目だな」

「まさか! そんなこと出来ませんよ。
ただ、多喜家は、この地の重要な家ですし、慎吾はよくお参りに来てくれました。
その上に、ハルカが産まれて…。ハルカは目立ちますからね。
気になって、よく覗いていたのですよ」

 なるほど、なるほど。私は氏神様に目をかけてもらっていたわけですね。
やっぱり私はラッキーガール…。
 よし、そういうことであるならば、お父さんの梅干し、なんとして復活させますよ!
 俄然、ヤル気が出てきました!!
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