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れっつ・てぃーちんぐ①~長々とやってるけど絶対ガバいので雰囲気捉える程度にして読み飛ばしてもらっていいです~
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「……っ、え、えええ……カード置く場所、多くない?」
ハイテンションで始めたと思った彼女だったが、早速困惑していた。
シートいっぱいに広がった”デッキ””ライフエリア””場外””エネルギーエリア””バトルエリア”……などの文字を、まるで未知の英単語を見るかのように凝視している。
「早速難しそうなんだけど……」
「カードゲーム慣れしてないと最初はそんなもんだよ。遊んでればすぐ慣れると思うから。
じゃあまずはデッキをシャッフルして、そのシートの左上の"デッキ”って書いてるとこに起きます」
「はーい」
彼女はプレイシートの上で手を止め、脇に置いてあったデッキを両手で包むようにして、そーっとカードを混ぜ始める。
まるで陶器でも扱っているかのような慎重さだ。
ぎこちないけど、なんだかんだで丁寧で、カードを大切にしたい気持ちはひしひしと伝わってきた。
ここまでカードの扱いに慣れてない人を見るのは初めてなので、新鮮な気分。……正直に申し上げると、とても可愛らしい。
僕は無地のプレイマットを広げ、先ほど友人と遊ぶのに使っていたスタリバのデッキを取り出してシャッフルし、同じ様にデッキ置き場へと置いた。
「結構しっかり組んでるデッキしか持ってきてないから、多分こっちの方が強すぎることになっちゃいそうな気はするけど、大丈夫?」
「ん?ああ。それは大丈夫。ルールさえ教えてもらえればいいわけだし。
……わぁ。そのカード、可愛い入れ物に入ってるんだね」
彼女が僕のデッキを指さした。
僕のデッキのカードは星型のヘアピンを輝かせた、青髪のショートヘアのアイドル――スタリバの下鶴宙のイラストが描かれたカードスリーブに入っている。
そしてキャラクタースリーブに傷がつかないよう、しっかり無地のスリーブを上から重ね、二重にしている。
「ああ、これ?スリーブって言って、カードを保護する入れ物だよ。
あ、スリーブって言っても、別にこの“袖”のことじゃないよ?」
僕は冗談のつもりで自分の服の袖をつまんでみせた。
「それは分かる」
「……」
即答だった。
馬鹿にしてると思われたかな……。
いや違う、ちゃんと真面目に返してくれただけだ。うん。
「じゃあ、普段はジャンケンで先攻後攻決めるんだけど……説明しながらの方がやりやすいので、僕が先攻でもいいかな?」
「あ、おっけー。それじゃ……なんか掛け声とか無いの?」
「掛け声?」
「ほら、デュエル!とかスタンドアップ!とかゲートオープン!みたいな対戦前の掛け声。
カードゲームのアニメとかだとみんな言ってるじゃん」
「あー……」
始める際の掛け声……。そういえばクロスフェイヴを遊ぶ時にそんなことを言った覚えが無いことを思い出す。
普段の大会は「よろしくお願いします」の一言で始めているし、そもそも公式でゲーム開始前の掛け声等決めていなかったような気がする。
大型大会の配信では実況解説担当の人が「それでは、ゲームスタートです!」と言っていた記憶があるが。
「無いね、そういうの」
「無いの?テンションちょっと下がるな―」
「……まぁ、無くてもゲームは出来るから。それじゃ次にゲーム開始前の準備だね。
まずはお互いに山札から5枚を引いて手札にする」
「うーい。5枚ね」
僕がデッキ置き場に置かれた自分のデッキから5枚を引いて手札にすると、目の前の彼女もそれを真似するようにして、おそるおそるカードを5枚引いた。
「この時、手札の内容が気に入らなければ一度だけ引き直しが出来る。
例えば最初の方のターンに出せるカードはカードの左上に0の数字が書かれているカードなので――」
そう言いながら、僕は自分の手札に存在するカードを1枚、彼女に見せた。
スタドルの登場キャラの一人、真中あかり。赤色のボブヘアーが特徴的な女子高生アイドル。……僕の推しキャラであるソラと、もう一人のキャラと3人で『ビクトリーライン』というユニットを組んでいる、という情報も付け加えておこう。
スタドルのアプリ内で手に入るノーマルカードのイラストが描かれたそのカードには、左上に"0"の数字が書かれている。
「この種類のカードが無ければ引き直しした方がいいね。あるかな?」
「ええと……あっ、ある。これでいい?」
彼女は自分の手札から1枚カードをこちらへと見せた。
早坂しのぶ、という名前のポニーテールの快活そうなキャラが描かれたカードの左上には"0"の数字が。
「あとは0のカードがもう1枚か、1って書かれてあるカードがあればいいんだけど……ある?」
「ん、大丈夫」
「よかった。じゃあ次は山札の上から6枚を裏向きのままライフエリアに置きます」
「次は、6枚、と……」
僕らは互いに6枚のカードをライフエリアに並べる。
これで準備完了だ。
「じゃあ準備が整ったので、早速僕のターンから。
まずはスタートフェイズ。ダウン状態っていう、横向きになっているカードが場にあればそれを全てアップ状態っていう縦向きの状態に戻すんだけど、まだ場にカードが無いからこのフェイズはスキップだね。
次にドローフェイズ。山札の上からカードを1枚ドローします」
「ドロー……?」
彼女が不思議そうな顔をした。
「……ドローって単語は分かる?」
「むっ。カードゲーム初心者だからって馬鹿にしないでくれる?」
「あ、それはごめん」
疑問がありそうな顔を浮かべてたから知らないものかと。
「ただ、コトブキ先生がどうやって説明してくれるか気になるから、一応聞いてあげようかな」
「……知らないってことでいいんだね」
やっぱり知らんのかい。
しかしマジか。ドローが伝わらないか。
カードゲームのこと全く知らないとそうなるのか……。そういえば”ドロー”ってカードゲーム用語みたいなもんか。
デュエル!とかの単語は知ってるのに、不思議な子だ。
「ドローっていうのはデッキの上からカードを引く行為のことだよ」
「なるほど。良く説明できました」
「…………」
この子、僕が堂々と嘘吐いてたらどうするつもりだったんだよ。
とりあえず、僕は山札の上からカードを1枚引いた。
「次にセットフェイズだね。
手札のカードを1枚、裏向きにしてアクションマーカーエリアに置く」
「アクションマーカーエリア……。ここのエネルギーエリアって書いてる領域の下にあるやつね」
彼女はプレイマットの『アクションマーカーエリア』と書かれたエリアを指差す。
僕はうんうん、とうなずいた。
「ここに手札の好きなカードを1枚置くんだ。
このエリアに置いてあるカードが1ターンに使用出来るカードの使用数を表すんですけど、まあそれは後で説明するよ。ここにカードを置いたら山札から1枚引く。
次にメインフェイズ。このフェイズでは手札からのカードの使用や効果の発動などが出来る。まずカードを場に登場させるね」
そう言って僕はエネルギーエリアを指差す。
「エネルギーエリアで発生しているエネルギーがまだ無いので、必要エネルギーが0のカードしか使えない状態です」
「さっき見せてもらったやつね」
「そう。なので僕は必要エネルギーが0の『真中あかり』を、エネルギーエリアに登場させる」
僕はゲーム開始前に彼女にも見せたカードを場に登場させる。
「このカードは枠の色が青色で、カードの1番下に①って書いてるので、現在エネルギーエリアでは青のエネルギーが1個発生している状態」
「カードの1番下の数字は発生させるエネルギー量と。ふむふむ」
「カードを手札から使用する際は行動権を支払う必要がある。
さっき僕がアクションマーカーエリアに置いた裏向きのカードがそれだね。カードを手札から使用する時は、このエリアに置いたカードを横向きにします」
「なるほど……。1ターンに何枚もカードは使えない、と」
「そうだね。メインフェイズが終われば次はアタックフェイズ。
エネルギーエリアの正面にある、バトルエリアに存在するキャラクターでアタックを行うんだけど……今はそこにカードが存在しないので、このフェイズですることは何も無いね。
あと、場に出したカードは基本的に『速攻』という効果を持っていない限りはそのターン攻撃出来ない」
「ふむふむ」
「あと、エネルギーエリアとバトルエリアに存在できるカードはそれぞれ3枚だから、合計6枚までのカードを場に出せるね。既にカードが置いてあるところに新しくカードを出したい場合は、既に置かれているカードを場外に置く。
さて、色々説明したけど僕はこれでターンを終了。そっちのターンだよ」
僕は右の掌を差し出して、ターン移行を示した。
「それじゃ、私のターンね。人生初ドロー!……わわっ」
彼女は随分と気合を入れて山札からカードを引いたのか、山札の上から数枚のカードが散らばってしまった。
彼女は慌てて散らばったカードを元に戻す。
「そうだ。後攻の1ターン目は追加でもう1枚ドローできるよ」
「あ、そうなの?じゃあ追加の……ドロー!
そして手札を1枚アクションマーカーとして裏向きに置いて……またドロー、だね」
僕は「それで合ってるよ」といった感じでうんうんとうなずく。
「次にメインフェイズで、場に出せるのは必要エネルギーが0のカード。
早坂しのぶをエネルギーエリアに登場!」
0エネルギーの、『早坂しのぶ』というキャラクターカードが彼女の盤面に現れた。
「このカードは枠の色が黄色でカードの下に書いてある数字は1だから、今私の場には黄色のエネルギーが発生してるわけか。なるほど」
「あ、そのカード登場時効果あるよ」
「登場時効果?あ、本当だ。何か書いてる。
カードを場に出した時に発動する効果……で合ってる?」
「それで合ってる。そのカードの効果は、『山札の上から1枚確認して、山札の上か下に置く』だね」
「じゃあ確認するね」
彼女は山札の上を確認して「これは今持ってても使わないかな……」と言ってから、そのカードを山札の下に置いた。
「これでターン終了かな」
「それでは僕のターン。ドローして、手札を1枚アクションマーカーとしてセット、更にドロー」
一度説明した行動なので、淡々と続ける。
「それではメインフェイズ……の前に、このターンから移動フェイズが入ります」
「移動?」
「エネルギーエリアに置いてあるカードをバトルエリアに出したり、バトルエリアにいるカードをエネルギーエリアに引っ込めることが出来るフェイズだね。
では僕はあかりをエネルギーラインからバトルエリアに。これで攻撃が可能です」
「よーし、バッチこいあかりちゃん」
「それではメインフェイズ。発生エネルギーが0なので、0エナジーの下鶴宙をエネルギーラインに登場」
スタドルの登場キャラの一人、下鶴宙。僕の一番の推しキャラである。
2番目の持ち曲の曲調がユーロビートって感じでめっちゃ好きです。と誰に説明するわけでも無く脳内で呟く。
「宙の登場時効果。山札の上から1枚を確認して、山札の上か下へ」
「あれ?その子の効果ってこっちのしのぶと一緒?」
「んー、結構同じ効果のカードが多いんだよこのゲーム
色や作品ごとに違う効果のカード作りまくるのも大変だし」
「へぇ……。よく分かんないけど、大人の事情、みたいな感じなんだ」
「まあ、そう捉えてもらっていいかな。
確認したカードはそのまま山札の上へ。アクションマーカーがまだ一つ残ってるので、これを使って1エネルギーの真中あかりをエネルギーエリアに登場させる」
今度は別のあかりのカードを場に登場させる。
0エネルギーのカードイラストがゲーム内のノーマルカードだったのに対して、こちらはレアカードの方のイラストだ。
「同じ人が場に複数人いても大丈夫なんだ」
「まあ、こればっかりはゲームの都合上仕方ないですね……」
「へー、なんか変な感じ。急にもう一人の自分が現れたらビックリしちゃわない?」
「……まあ、カードだからね」
同じキャラが場に複数いる、こういったキャラクターTCGに慣れていないと奇妙に映るかもしれない。
実際、目の前の彼女は微妙に納得がいっていないようだ。
――これを見ろ!場にマイヤしかいない!これぞ俺の求めた究極の布陣!マイヤ以外の女など不要!フハハハハハ!!
……確か盤面を同じキャラで埋め尽くすという楽しみ方をした邪悪な奴が身内にいたな、と余計なことを思い出す。
「1エネあかりの登場時効果で1枚ドロー。このままアタックフェイズに移ります」
「ついに攻撃が……!来な、アイドルちゃん!」
彼女は右の人差し指をくいっと曲げて、「かかってこいよ」というジェスチャーを行う。
先ほどから随分と好戦的である。
「バトルエリアに存在するキャラクターをダウン状態……横向きにすることでアタックを行う。
あかりでアタック!」
僕はあかりのカードを横向きにしてアタックを宣言する。
「そっちのバトルエリアにキャラクターがいればブロックを行うことも出来るんだけど、いないので攻撃はそのままライフに向かう。
ライフエリアの一番上のカードを捲ってもらえるかな?」
「おっけー。……あっ、コハルちゃんのカードだ」
坂巻小春、と書かれた大人しそうな小柄な女の子のカードがライフから捲れる。
この子も魔法少女なのかな?
「この時、ライフから捲れたカードの下部分に『トリガー』と書かれてあればそれを発動させる。
そのカードには『カードを1枚引く』って書いてるね」
「ということは、山札からカードを引いても良いと?」
「そう。元気よくドローしちゃってよ」
「では……再びのドロー!」
彼女はまた勢いよくカードを引いた。カードゲームアニメの主役張りに気合の入ったドローだ。
元気が良くて、見ていると少しほっこりする。
「それじゃ、こちらはターン終了。
この時、ダウン状態のカードが場にいればそれをアップ状態……要するに縦向きに戻す」
僕はターンの終了宣言と共に、攻撃を終了したあかりのカードを縦向きに戻す。
「それじゃ私のターン、ドロー!移動フェイズ……ここは移動させない方が良さそうかな。
次に手札を1枚アクションマーカーにして、1枚ドロー!
メインフェイズに移って、まずは1エネルギーのアステちゃんをエネルギーエリアに登場!」
ゲーム開始前にも見せてもらった、マジカルロッドを構えた勇ましい表情の主人公、響アステのカードがエネルギーエリアに現れる。
カード効果は起動効果……メインフェイズに効果の発動を宣言し、バトルエリアにいる自身をダウン状態にすることで、必要エネルギーが1以下の相手バトルエリアのキャラをダウン状態に出来る、と書いてある。
中々厄介な効果だ。
「そして……2エネルギーのアステちゃんも場に登場!」
今度は別のイラストの響アステが現れる。こちらは戦闘中のシーンだろうか?口元に血が滲み、敵を睨みつけるような表情を浮かべている。
思ったより血なまぐさい戦闘が多いのだろうか。魔法学園アステ☆リスクとやらは。
「こっちのアステちゃんは2回ブロックって能力を持ってるんだけど。相手の攻撃を2回防げるって認識で合ってる?」
「あ、それで大丈夫」
2回ブロック。
相手キャラの攻撃をブロックした際に、まだ自身が場に残っていればアップ状態になる効果だ。
パワーは3000。先ほどアタックしたあかりのパワーは2000なので簡単に防がれてしまう。
「えーと、場に出したカードは『速攻』を持っていなければ攻撃できなくて、このアステちゃんにその効果は無いから……ターン終了で」
「じゃあ、僕の3ターン目。ドロー」
さて、3ターン目からだ。
このゲームが派手に動き出すのは。
ハイテンションで始めたと思った彼女だったが、早速困惑していた。
シートいっぱいに広がった”デッキ””ライフエリア””場外””エネルギーエリア””バトルエリア”……などの文字を、まるで未知の英単語を見るかのように凝視している。
「早速難しそうなんだけど……」
「カードゲーム慣れしてないと最初はそんなもんだよ。遊んでればすぐ慣れると思うから。
じゃあまずはデッキをシャッフルして、そのシートの左上の"デッキ”って書いてるとこに起きます」
「はーい」
彼女はプレイシートの上で手を止め、脇に置いてあったデッキを両手で包むようにして、そーっとカードを混ぜ始める。
まるで陶器でも扱っているかのような慎重さだ。
ぎこちないけど、なんだかんだで丁寧で、カードを大切にしたい気持ちはひしひしと伝わってきた。
ここまでカードの扱いに慣れてない人を見るのは初めてなので、新鮮な気分。……正直に申し上げると、とても可愛らしい。
僕は無地のプレイマットを広げ、先ほど友人と遊ぶのに使っていたスタリバのデッキを取り出してシャッフルし、同じ様にデッキ置き場へと置いた。
「結構しっかり組んでるデッキしか持ってきてないから、多分こっちの方が強すぎることになっちゃいそうな気はするけど、大丈夫?」
「ん?ああ。それは大丈夫。ルールさえ教えてもらえればいいわけだし。
……わぁ。そのカード、可愛い入れ物に入ってるんだね」
彼女が僕のデッキを指さした。
僕のデッキのカードは星型のヘアピンを輝かせた、青髪のショートヘアのアイドル――スタリバの下鶴宙のイラストが描かれたカードスリーブに入っている。
そしてキャラクタースリーブに傷がつかないよう、しっかり無地のスリーブを上から重ね、二重にしている。
「ああ、これ?スリーブって言って、カードを保護する入れ物だよ。
あ、スリーブって言っても、別にこの“袖”のことじゃないよ?」
僕は冗談のつもりで自分の服の袖をつまんでみせた。
「それは分かる」
「……」
即答だった。
馬鹿にしてると思われたかな……。
いや違う、ちゃんと真面目に返してくれただけだ。うん。
「じゃあ、普段はジャンケンで先攻後攻決めるんだけど……説明しながらの方がやりやすいので、僕が先攻でもいいかな?」
「あ、おっけー。それじゃ……なんか掛け声とか無いの?」
「掛け声?」
「ほら、デュエル!とかスタンドアップ!とかゲートオープン!みたいな対戦前の掛け声。
カードゲームのアニメとかだとみんな言ってるじゃん」
「あー……」
始める際の掛け声……。そういえばクロスフェイヴを遊ぶ時にそんなことを言った覚えが無いことを思い出す。
普段の大会は「よろしくお願いします」の一言で始めているし、そもそも公式でゲーム開始前の掛け声等決めていなかったような気がする。
大型大会の配信では実況解説担当の人が「それでは、ゲームスタートです!」と言っていた記憶があるが。
「無いね、そういうの」
「無いの?テンションちょっと下がるな―」
「……まぁ、無くてもゲームは出来るから。それじゃ次にゲーム開始前の準備だね。
まずはお互いに山札から5枚を引いて手札にする」
「うーい。5枚ね」
僕がデッキ置き場に置かれた自分のデッキから5枚を引いて手札にすると、目の前の彼女もそれを真似するようにして、おそるおそるカードを5枚引いた。
「この時、手札の内容が気に入らなければ一度だけ引き直しが出来る。
例えば最初の方のターンに出せるカードはカードの左上に0の数字が書かれているカードなので――」
そう言いながら、僕は自分の手札に存在するカードを1枚、彼女に見せた。
スタドルの登場キャラの一人、真中あかり。赤色のボブヘアーが特徴的な女子高生アイドル。……僕の推しキャラであるソラと、もう一人のキャラと3人で『ビクトリーライン』というユニットを組んでいる、という情報も付け加えておこう。
スタドルのアプリ内で手に入るノーマルカードのイラストが描かれたそのカードには、左上に"0"の数字が書かれている。
「この種類のカードが無ければ引き直しした方がいいね。あるかな?」
「ええと……あっ、ある。これでいい?」
彼女は自分の手札から1枚カードをこちらへと見せた。
早坂しのぶ、という名前のポニーテールの快活そうなキャラが描かれたカードの左上には"0"の数字が。
「あとは0のカードがもう1枚か、1って書かれてあるカードがあればいいんだけど……ある?」
「ん、大丈夫」
「よかった。じゃあ次は山札の上から6枚を裏向きのままライフエリアに置きます」
「次は、6枚、と……」
僕らは互いに6枚のカードをライフエリアに並べる。
これで準備完了だ。
「じゃあ準備が整ったので、早速僕のターンから。
まずはスタートフェイズ。ダウン状態っていう、横向きになっているカードが場にあればそれを全てアップ状態っていう縦向きの状態に戻すんだけど、まだ場にカードが無いからこのフェイズはスキップだね。
次にドローフェイズ。山札の上からカードを1枚ドローします」
「ドロー……?」
彼女が不思議そうな顔をした。
「……ドローって単語は分かる?」
「むっ。カードゲーム初心者だからって馬鹿にしないでくれる?」
「あ、それはごめん」
疑問がありそうな顔を浮かべてたから知らないものかと。
「ただ、コトブキ先生がどうやって説明してくれるか気になるから、一応聞いてあげようかな」
「……知らないってことでいいんだね」
やっぱり知らんのかい。
しかしマジか。ドローが伝わらないか。
カードゲームのこと全く知らないとそうなるのか……。そういえば”ドロー”ってカードゲーム用語みたいなもんか。
デュエル!とかの単語は知ってるのに、不思議な子だ。
「ドローっていうのはデッキの上からカードを引く行為のことだよ」
「なるほど。良く説明できました」
「…………」
この子、僕が堂々と嘘吐いてたらどうするつもりだったんだよ。
とりあえず、僕は山札の上からカードを1枚引いた。
「次にセットフェイズだね。
手札のカードを1枚、裏向きにしてアクションマーカーエリアに置く」
「アクションマーカーエリア……。ここのエネルギーエリアって書いてる領域の下にあるやつね」
彼女はプレイマットの『アクションマーカーエリア』と書かれたエリアを指差す。
僕はうんうん、とうなずいた。
「ここに手札の好きなカードを1枚置くんだ。
このエリアに置いてあるカードが1ターンに使用出来るカードの使用数を表すんですけど、まあそれは後で説明するよ。ここにカードを置いたら山札から1枚引く。
次にメインフェイズ。このフェイズでは手札からのカードの使用や効果の発動などが出来る。まずカードを場に登場させるね」
そう言って僕はエネルギーエリアを指差す。
「エネルギーエリアで発生しているエネルギーがまだ無いので、必要エネルギーが0のカードしか使えない状態です」
「さっき見せてもらったやつね」
「そう。なので僕は必要エネルギーが0の『真中あかり』を、エネルギーエリアに登場させる」
僕はゲーム開始前に彼女にも見せたカードを場に登場させる。
「このカードは枠の色が青色で、カードの1番下に①って書いてるので、現在エネルギーエリアでは青のエネルギーが1個発生している状態」
「カードの1番下の数字は発生させるエネルギー量と。ふむふむ」
「カードを手札から使用する際は行動権を支払う必要がある。
さっき僕がアクションマーカーエリアに置いた裏向きのカードがそれだね。カードを手札から使用する時は、このエリアに置いたカードを横向きにします」
「なるほど……。1ターンに何枚もカードは使えない、と」
「そうだね。メインフェイズが終われば次はアタックフェイズ。
エネルギーエリアの正面にある、バトルエリアに存在するキャラクターでアタックを行うんだけど……今はそこにカードが存在しないので、このフェイズですることは何も無いね。
あと、場に出したカードは基本的に『速攻』という効果を持っていない限りはそのターン攻撃出来ない」
「ふむふむ」
「あと、エネルギーエリアとバトルエリアに存在できるカードはそれぞれ3枚だから、合計6枚までのカードを場に出せるね。既にカードが置いてあるところに新しくカードを出したい場合は、既に置かれているカードを場外に置く。
さて、色々説明したけど僕はこれでターンを終了。そっちのターンだよ」
僕は右の掌を差し出して、ターン移行を示した。
「それじゃ、私のターンね。人生初ドロー!……わわっ」
彼女は随分と気合を入れて山札からカードを引いたのか、山札の上から数枚のカードが散らばってしまった。
彼女は慌てて散らばったカードを元に戻す。
「そうだ。後攻の1ターン目は追加でもう1枚ドローできるよ」
「あ、そうなの?じゃあ追加の……ドロー!
そして手札を1枚アクションマーカーとして裏向きに置いて……またドロー、だね」
僕は「それで合ってるよ」といった感じでうんうんとうなずく。
「次にメインフェイズで、場に出せるのは必要エネルギーが0のカード。
早坂しのぶをエネルギーエリアに登場!」
0エネルギーの、『早坂しのぶ』というキャラクターカードが彼女の盤面に現れた。
「このカードは枠の色が黄色でカードの下に書いてある数字は1だから、今私の場には黄色のエネルギーが発生してるわけか。なるほど」
「あ、そのカード登場時効果あるよ」
「登場時効果?あ、本当だ。何か書いてる。
カードを場に出した時に発動する効果……で合ってる?」
「それで合ってる。そのカードの効果は、『山札の上から1枚確認して、山札の上か下に置く』だね」
「じゃあ確認するね」
彼女は山札の上を確認して「これは今持ってても使わないかな……」と言ってから、そのカードを山札の下に置いた。
「これでターン終了かな」
「それでは僕のターン。ドローして、手札を1枚アクションマーカーとしてセット、更にドロー」
一度説明した行動なので、淡々と続ける。
「それではメインフェイズ……の前に、このターンから移動フェイズが入ります」
「移動?」
「エネルギーエリアに置いてあるカードをバトルエリアに出したり、バトルエリアにいるカードをエネルギーエリアに引っ込めることが出来るフェイズだね。
では僕はあかりをエネルギーラインからバトルエリアに。これで攻撃が可能です」
「よーし、バッチこいあかりちゃん」
「それではメインフェイズ。発生エネルギーが0なので、0エナジーの下鶴宙をエネルギーラインに登場」
スタドルの登場キャラの一人、下鶴宙。僕の一番の推しキャラである。
2番目の持ち曲の曲調がユーロビートって感じでめっちゃ好きです。と誰に説明するわけでも無く脳内で呟く。
「宙の登場時効果。山札の上から1枚を確認して、山札の上か下へ」
「あれ?その子の効果ってこっちのしのぶと一緒?」
「んー、結構同じ効果のカードが多いんだよこのゲーム
色や作品ごとに違う効果のカード作りまくるのも大変だし」
「へぇ……。よく分かんないけど、大人の事情、みたいな感じなんだ」
「まあ、そう捉えてもらっていいかな。
確認したカードはそのまま山札の上へ。アクションマーカーがまだ一つ残ってるので、これを使って1エネルギーの真中あかりをエネルギーエリアに登場させる」
今度は別のあかりのカードを場に登場させる。
0エネルギーのカードイラストがゲーム内のノーマルカードだったのに対して、こちらはレアカードの方のイラストだ。
「同じ人が場に複数人いても大丈夫なんだ」
「まあ、こればっかりはゲームの都合上仕方ないですね……」
「へー、なんか変な感じ。急にもう一人の自分が現れたらビックリしちゃわない?」
「……まあ、カードだからね」
同じキャラが場に複数いる、こういったキャラクターTCGに慣れていないと奇妙に映るかもしれない。
実際、目の前の彼女は微妙に納得がいっていないようだ。
――これを見ろ!場にマイヤしかいない!これぞ俺の求めた究極の布陣!マイヤ以外の女など不要!フハハハハハ!!
……確か盤面を同じキャラで埋め尽くすという楽しみ方をした邪悪な奴が身内にいたな、と余計なことを思い出す。
「1エネあかりの登場時効果で1枚ドロー。このままアタックフェイズに移ります」
「ついに攻撃が……!来な、アイドルちゃん!」
彼女は右の人差し指をくいっと曲げて、「かかってこいよ」というジェスチャーを行う。
先ほどから随分と好戦的である。
「バトルエリアに存在するキャラクターをダウン状態……横向きにすることでアタックを行う。
あかりでアタック!」
僕はあかりのカードを横向きにしてアタックを宣言する。
「そっちのバトルエリアにキャラクターがいればブロックを行うことも出来るんだけど、いないので攻撃はそのままライフに向かう。
ライフエリアの一番上のカードを捲ってもらえるかな?」
「おっけー。……あっ、コハルちゃんのカードだ」
坂巻小春、と書かれた大人しそうな小柄な女の子のカードがライフから捲れる。
この子も魔法少女なのかな?
「この時、ライフから捲れたカードの下部分に『トリガー』と書かれてあればそれを発動させる。
そのカードには『カードを1枚引く』って書いてるね」
「ということは、山札からカードを引いても良いと?」
「そう。元気よくドローしちゃってよ」
「では……再びのドロー!」
彼女はまた勢いよくカードを引いた。カードゲームアニメの主役張りに気合の入ったドローだ。
元気が良くて、見ていると少しほっこりする。
「それじゃ、こちらはターン終了。
この時、ダウン状態のカードが場にいればそれをアップ状態……要するに縦向きに戻す」
僕はターンの終了宣言と共に、攻撃を終了したあかりのカードを縦向きに戻す。
「それじゃ私のターン、ドロー!移動フェイズ……ここは移動させない方が良さそうかな。
次に手札を1枚アクションマーカーにして、1枚ドロー!
メインフェイズに移って、まずは1エネルギーのアステちゃんをエネルギーエリアに登場!」
ゲーム開始前にも見せてもらった、マジカルロッドを構えた勇ましい表情の主人公、響アステのカードがエネルギーエリアに現れる。
カード効果は起動効果……メインフェイズに効果の発動を宣言し、バトルエリアにいる自身をダウン状態にすることで、必要エネルギーが1以下の相手バトルエリアのキャラをダウン状態に出来る、と書いてある。
中々厄介な効果だ。
「そして……2エネルギーのアステちゃんも場に登場!」
今度は別のイラストの響アステが現れる。こちらは戦闘中のシーンだろうか?口元に血が滲み、敵を睨みつけるような表情を浮かべている。
思ったより血なまぐさい戦闘が多いのだろうか。魔法学園アステ☆リスクとやらは。
「こっちのアステちゃんは2回ブロックって能力を持ってるんだけど。相手の攻撃を2回防げるって認識で合ってる?」
「あ、それで大丈夫」
2回ブロック。
相手キャラの攻撃をブロックした際に、まだ自身が場に残っていればアップ状態になる効果だ。
パワーは3000。先ほどアタックしたあかりのパワーは2000なので簡単に防がれてしまう。
「えーと、場に出したカードは『速攻』を持っていなければ攻撃できなくて、このアステちゃんにその効果は無いから……ターン終了で」
「じゃあ、僕の3ターン目。ドロー」
さて、3ターン目からだ。
このゲームが派手に動き出すのは。
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