彼女の推しアニメがTCGに参戦した時に発動する。僕は先生と呼ばれる。そうした場合、恋は別に始まらなくてもよいものとする

檻井百葉

文字の大きさ
7 / 9

れっつ・てぃーちんぐ②~長々とやってるけど絶対ガバいので以下略

しおりを挟む
「アクションマーカーエリアにカードをセット。そしてドロー。
 アクションマーカーは3枚まで場にセットできる。次からはこのフェイズは飛ばしていいんだけど、別のカードをセットしたい場合は、既に置かれているセットカードを手札に戻して、別のカードをセットする必要があるね」
「なるほど。今は使わないけどもっと後のターンから使いたいなーと思ったカードをここに控えておいて後から拾い直すっていう、第2の手札みたいな使い方も出来るんだ」
「そういうこと」


 中々呑み込みが早い。
 このアクションマーカーエリアがクロフェイプレイヤーから”実質手札”と呼ばれている理由もすっかり見抜いている。


「じゃあ移動フェイズはスキップ。
 メインフェイズ。1アクションでエネルギーエリアに1エネルギーの虎居詩乃とらいうたのを登場」


 今度は金髪のダウナー系な表情をしたアイドル、ウタノを登場させる。
 ソラ、あかり、ウタノの3人が盤面に並び立ち、スタリバでも人気のユニット『ビクトリーライン』が僕の盤面に完成した。
 ……あかりだけ僕の場に2人いるけど。


「詩乃の登場時効果。場のカード1枚を選んでパワーを+1000させる。僕はバトルエリアのあかりに+1000」
「えっ、アステちゃんと同じパワーになっちゃった」


 先ほどまで2000だったあかりのパワーが3000へと上昇する。
 前のターンに彼女が出した響アステと同等のパワーを得た。


「更に2アクション目。エネルギーラインに2エネルギーの宙を登場」


 今度はまた別の宙を登場させる。


「このキャラの一番下には②って書かれてるので、青色の2エネルギーが発生している状態だね。
 さて、4エネルギーあるので…3アクション目。エネルギーラインにいる0エネルギーの宙の上に、このカードを重ねてエヴォルさせる!」
「おお、知らん単語出てきた」


 僕は手札の必要エネルギーが4の、下鶴宙のカードを、エネルギーラインにいる0エネの宙に重ねることで場に出した。
 ちなみにイラストはゲーム内カードイラストの流用では無く、クロスフェイヴ用に新規で描き下ろされた豪華なイラストだ。所謂レアカード。


「カードにエヴォルと書かれている種類のカードは、普通に場に出すだけじゃなくて、同名のカードの上に重ねて出すことも出来る。この時エネルギーラインのカードの上に重ねて出した場合、バトルエリアへの移動が可能。
 なので、エヴォルの宙をバトルエリアに移動」
「うわ、一気にバトルエリアにカードが2枚も」
「さて、エヴォル宙の効果。エヴォルで登場した時、デッキからカードを1枚引いて、手札から『真中あかり』か『虎居詩乃』をダウン状態で場に出す。
 僕は手札から、3エネルギーの詩乃をバトルエリアに登場」


 僕はターン開始時のドローで引いた、必要エネルギーが3の詩乃のカードを出す。


「え、ズルい!3アクションで4枚のカード出してるじゃん!」
「そういう効果なもんで申し訳ない。さて、ダウン状態のカードは攻撃出来ないし、そもそも『速攻』の効果を持っていないカードは出したターンに攻撃出来ないんだけど……。
 ここで僕はエネルギーエリアにいる2エネの宙の効果を使う」


 気が付けば、ティーチング形式の対戦なのに、ガチで対戦する時のムーブをかましている自分がいた。
 手加減は良くないと思ったのか、それとも気分が回復してきて、クロフェイの対戦を楽しもうとしているのか。
 このターンに場に出した宙の効果を僕は発動させる。


「『起動効果』のアイコンがある効果は、発動条件を満たしている時に効果の発動を宣言すれば発動出来る。この宙の効果は、場に『下鶴宙』『真中あかり』『虎居詩乃』の3種類が場にいる時、手札を1枚棄てることで場のカード1枚をアップ状態にして、『速攻』の能力を付与する。
 先ほどバトルエリアに出した詩乃を選択!」
「……ってことは、このターン3人でアタック出来るってこと!?」
「そゆこと」
「ズルい~~!!」


 頭を抱えて文句を述べる彼女を眺めつつ、僕はバトルエリアにダウン状態で出した詩乃のカードを縦向きの状態にする。


「さて、次にアタックフェイズ。まずはパワー3000のあかりでアタック!」


 あかりのカードを横向きにして、ライフへのアタックを宣言する。


「今回はそっちのバトルエリアにキャラクターがいるからブロックが出来るよ。どうする?
 ちなみにパワーが同じだとブロックした側が敗北して、場外に置かれるけど」
「じゃあこのままブロックしてもアステちゃんは負けちゃうってことか。うーん、ライフで受ける!」
「ライフの上から1点で。トリガーチェックお願いします」
「トリガーチェック、何か来い!……お、アステちゃんの決め台詞のカードだ」


 ライフから捲れたカードは、キャラカードでは無く使い切りのイベントカード『魔法少女は諦めない!』というカードだ。
 効果は0アクションで使用し、自分のダウン状態のアクションマーカーを1枚アップにするという、行動権追加の効果。
 そしてそのトリガーは『ヒール:自分のライフが相手のライフ以下の時、山札の上から1枚をライフエリアに裏向きで置いてもよい』という効果だ。


「お、ヒールトリガーだ。ラッキーだったね」
「ヒール?あ、本当だ。山札の上から1枚をライフに追加……。これで実質0点ってことね」
「そゆこと。強力なトリガーだから、デッキに4枚までしか入れられないけど」


 へぇー、と納得した様子で彼女は山札の上から1枚をライフへと追加した。


「次はエヴォルの宙でアタック。パワーは4000!」
「えーと、その次にアタックしてくるだろう詩乃って子のパワーは3000だから……またアステちゃんやられちゃうじゃん!ライフで受ける!
 また何か来い!」


 トリガー運に頼る気満々のようだ。
 全部のカードがトリガーを持っているわけでは無いので必ずしも何かしらの効果が発動するというわけではないのだが、その『アタックの度に何が起きるか分からないドキドキ感』もこのゲームの醍醐味ではあったりする。
 あと、運要素が強いとカードゲーム初心者の作品ファンでもカードゲーム熟練者に勝てるチャンスが生まれる。
 多分クロスフェイヴの開発運営もそういうのを想定して、このゲームの運要素を強めに作っているんだと思われる。


「トリガーチェック!……パワートリガー?」
「お、またもやラッキーだね。これで次の詩乃の攻撃は止まるよ」


 捲れたのは霞埼澄華という、メガネを掛けた女性教師が描かれたカードだ。この人は魔法少女じゃなくて学校の先生っぽいな。
 そのカードのトリガー欄に書かれているのは『パワー:自分の場のキャラを1枚まで選んで、パワー+3000。そのキャラがダウン状態の場合、アップ状態にしてもよい』と記載されている。


「なるほど。これでアステちゃんをパワーアップさせれば次に来る詩乃って子の攻撃をブロックしてもパワー勝負で勝てるってわけね」
「そうそう。ただアタック側はブロックされてパワー勝負に負けても退場しない。
 なので詩乃でアタック。アタック時効果。場に『下鶴宙』と『真中あかり』がいるので、山札からカードを2枚引いて、手札から1枚を場外に棄てる」
「とりあえずそのアタック自体はブロック。
 さっきから場にその3人が揃ってると使える効果が多いね。仲良しなの?」
「仲良しっていうか、この3人で『ビクトリーライン』っていうユニットを組んでるんだ。
 だからユニットの3人が揃ってると強い……っていうのがこのデッキのコンセプト」
「へー。原作再現、的なやつ?」
「そうそう。アニメやゲームの名シーンやキャラクターの能力なんかをカード効果で再現してるのが多いから、作品ファンがカード効果を読むと結構楽しいよ」
「へえ……アステちゃんの効果が、私のライフや他のキャラを守る系ばっかりなの、そういう理由なんだ」


 アステのカードを眺めながら、彼女はぽそりと呟いた。


「“自分が傷付いてもみんなを守る”ってスタンスがカードでも同じなんだね。なんか、いいなこういうの」


 その横顔は素直に楽しそうで、僕は思わず「おぉ」と心の中でガッツポーズをしてしまった。

(めっちゃハマってくれてる……)

 ついさっき出会ったばかりの彼女だけど、こうして夢中でカードを見ている姿は見ていると楽しい。
 このままハマってクロフェイプレイヤーになってくれたら嬉しいのだが。
 このゲーム、地元で毎週大会に参加するような熱心なプレイヤーは少ないので、新規プレイヤーは貴重なのだ。


「さて、一気に3点もぎ取るつもりだったけど、1点で終わっちゃったか。ターン終了」
「よーし、じゃあ私のターン!ドロー!
 アクションマーカーをセットして更にドロー。カードの移動はせずに、メインフェイズ。
 ……よし、流れは分かってきた。運も良いみたいだし――このまま勝っちゃおうかな、コトブキ先生?」


 何やら良いカードでも引いたのだろうか。
 彼女はフッフッフと不敵な笑みを浮かべて手札からカードを出そうとしている。
 そのノリに、僕も付き合ってやることにした。


「ハハハハ、やってみたまえ、愚かな生徒よ」
「悪役演技似合わないね、先生!よーし、魔法少女のキラキラでアイドルを圧倒しちゃおっかな!」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

高校生なのに娘ができちゃった!?

まったりさん
キャラ文芸
不思議な桜が咲く島に住む主人公のもとに、主人公の娘と名乗る妙な女が現われた。その女のせいで主人公の生活はめちゃくちゃ、最初は最悪だったが、段々と主人公の気持ちが変わっていって…!? そうして、紅葉が桜に変わる頃、物語の幕は閉じる。

旧校舎の地下室

守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。

ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話

桜井正宗
青春
 ――結婚しています!  それは二人だけの秘密。  高校二年の遙と遥は結婚した。  近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。  キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。  ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。 *結婚要素あり *ヤンデレ要素あり

俺を振ったはずの腐れ縁幼馴染が、俺に告白してきました。

true177
恋愛
一年前、伊藤 健介(いとう けんすけ)は幼馴染の多田 悠奈(ただ ゆうな)に振られた。それも、心無い手紙を下駄箱に入れられて。 それ以来悠奈を避けるようになっていた健介だが、二年生に進級した春になって悠奈がいきなり告白を仕掛けてきた。 これはハニートラップか、一年前の出来事を忘れてしまっているのか……。ともかく、健介は断った。 日常が一変したのは、それからである。やたらと悠奈が絡んでくるようになったのだ。 彼女の狙いは、いったい何なのだろうか……。 ※小説家になろう、ハーメルンにも同一作品を投稿しています。 ※内部進行完結済みです。毎日連載です。

処理中です...