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男児はデカい物に憧れるのだ
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「……あ、さっき見かけたデッキに入ってたアステちゃんのカード、あった!
1枚……800円か。うーん、まあギリ許容範囲……!」
「アステ☆リスクのシリーズはそれなりに値段落ち着いてる方だね。1000円超えてるカード無いし」
「これで落ち着いてるって本当!?800円ってランチ食べれるよ!?」
「うん。落ち着いてはいるけど800円が決して安くないことは知ってる」
カードゲーム歴が長いと金銭感覚が狂ってくる。
興味のあるデッキに必須のレアカードが1枚500円なら「お、安いじゃん」と4枚買って、気が付くと2000円が財布から消えていたり、1枚10円のストレージコーナーで安く買い物をするつもりが、700円くらい支払っていることがある。
最近ようやく気付いたのだが、500円の買い物を2つすると1000円になるのだ。
1000円は大金だ。
「でもさ、あっちのカード何?
2500円って書いてあるけど!?たっか!!」
彼女が驚いたのは宇宙船から人型メカに変形するロボット"ヴェリアル"が活躍するSFロボットアニメ『夢幻のヴェリアル』の敵陣営の機体、”ジークフリート”のカードだ。
通常レアリティだが1枚2500円の値札が貼られている。
「今の環境で猛威を振るってるデッキの必須カードだからね。需要が高いからこんな値段になってる」
「うーわ……。4枚買ったら10000円?ランチどころの騒ぎじゃないよ。回らないお寿司屋行けるじゃん。
そういえばさ、アステ☆リスクのデッキにこのカード入れちゃ駄目なの?」
「あ、それはダメ。フェイヴクロスのデッキは一つの作品タイトルで統一しなきゃいけないんだ」
「へぇ……そこは厳しいんだ。まあ、興味のない作品のカードは買わなくてもいいってのはありがたいかな」
そう言いながら、彼女はもう一度ショーケースを覗き込む。
「というかさ……アステちゃんのカード、ここに1枚しかないんだけど」
「あー、多分在庫がないんだろうね」
1枚800円の響アステのカードはショーケースに1枚しかない。
「同じ効果のカードならこっちに」
僕はショーケースの上部、高額カードが並べられた区画を指差す。
そこには800円のアステのカードと同じ効果をしているが、イラストの違うカードが置かれていた。
光り方の加工も豪華で、アステを演じたであろう声優さんのサインと『諦めない心が、私の魔法だ!』と、恐らく彼女の決め台詞であろう文字が刻印されている。
値札には15000円の表記が。
「流石に買えないって!!
でも、同じ効果のカードでもこんな激レアそうなやつがあるんだね。パックの当たり枠的なやつ?」
「そうだね。出たら超ラッキーなやつ。12BOXに1枚入っているかどうかってレベルのレアリティのやつだね」
「うわ、宝くじみたい……。でもファンとしてはちょっと欲しくなっちゃうね。アステちゃん役の一ノ瀬弘美さんも好きなんだ、私」
声優ファンでもあるらしい。
あんまりオタクって感じの見た目じゃないけど(失礼)、どうやらしっかりオタク気質な女性ではあるようだ。
「てか、しのぶちゃんのカードに至っては1枚も置いてないし……。他のお店行けばあるかな?」
「あー、それなんだけど」
僕は少し申し訳なくなりながら言う。
「悪いけど――西冷市でクロフェイのシングルカード扱ってるの、この店だけだよ」
「……マジ?」
「マジ」
桜花は絶望した顔でショーケースに額をぶつけそうになる。
「じゃあどうやってみんなカード集めてるの……?ブースターパックいっぱい買って自力で引き当ててるとか……?」
「まあ、ブースターを箱でいっぱい買う場合もあるけど……。この店で見つからなかったら通販サイトだよ。大体のプレイヤーがネット通販やフリマアプリで欲しいカード集めてるかな。
地方は特にね……。あんまりリアル店舗に在庫とか、特価価格とか期待はしてない」
「こんなところでも地方の問題が立ちふさがる……!」
彼女はがっくりと肩を落とした。
「いつもそうだ!この地方に住んでると惨めな思いをするんだ!
アステ☆リスクの映画の舞台挨拶も『全国各地で開催!』って言っときながら中四国だけ開催場所ハブるし!Spreamの全国ツアーもこの県に来なかった!」
「その気持ちは凄い分かる……!」
スタリバの声優陣が行うリアルライブも近場で開催された試しはない。
チケット代が大体10,000円。だが開催場所に向かうだけで片道10,000円は超える。往復で20,000強。チケット代の倍くらいかかることを考えると、気軽に参加出来ない。
……まあ、友人の神奈はマイヤちゃんの担当声優さんが参加する回だけはこの前行ってたんだけど。バイトしまくったり要らないカード売って旅費+チケット代+宿泊費+現地でのグッズ代、合わせて60,000円くらいを必死にかき集めていたのだけど。
彼の熱意には時々驚かされるし、尊敬もする。
ゲームのキャラ(小学生)と本気で結婚したがっている熱意に関してはノーコメント。
「……とりあえず光ってないやつでもいいから探そうよ!
あれでしょ?ストレージってやつに安いカード入ってるんでしょ?」
「そう、あの段ボール箱の山ね。1枚10円のやつ」
「よし、行くぞコトブキ先生!宝探しだ!」
元気よく宣言し、ストレージコーナーへ向かう。
僕もその後をついていく。
店の隅のストレージコーナー。かなりのスペースが設けられているが、大半は大人気ゲーム作品『プログラムモンスター』を原作とする『プロモンカード』、30年以上の歴史があり新作テレビアニメが現在も大人気放送中の『ウルスラグナ』、グルグルコミックというキッズ向けホビーアニメで連載されている『レジェンド・アニマーク』など、人気も高くプレイヤーの多いカードゲームの物が多い。
他にはオリジナルの美少女キャラと昨年放送されたテレビアニメがコアな層にウケて人気を博している新規TCG『Eden's Logic』、週刊少年ステップで20年程連載されているSF侍活劇漫画の『刀影電』を原作とする『刀影電TCG』……それらに並んで、『クロスフェイヴ』と書かれたストレージの箱がいくつか、端の方に並べられていた。
「……うわ。ぐっちゃぐちゃだねここ」
「まあ、ストレージ利用する人って結構いるから……」
ストレージコーナーのカード達は、お世辞にも綺麗に並べられているとは言い難かった。
同じカードゲームでもモンスターや魔法、罠といったカード種類ごとには並んでいなかったり、酷い場合は別のカードゲームのカードが挿さっている。
他の利用者や店の迷惑にならないよう、ストレージのカードは元の形に綺麗に並べ直してください、との注意書きの紙が店内に貼られてはいるのだが、そんな店員の願いが届いていないプレイヤーが多いらしい。
嘆かわしいことである。
「とりあえずクロフェイのコーナーからアステ☆リスクのカードだけでも救出しますか~」
彼女は腕まくりをしながら、乱雑にカードが突っ込まれたストレージコーナーからカードを取り出して、目当てのカードを探していく。
「じゃあ僕はこっちの箱を探すよ」
「ん、ありがと」
彼女は束をひっくり返しながら、次々と別タイトルのカードを引っ張り出す。
「あ、これ。『桜火の封魔師』じゃん。これさ、今アニメめっちゃ流行ってるよね」
彼女は週刊少年ステップ連載の『桜火の封魔師』という漫画が原作のアニメイラストが描かれたカードを見ながら言った。
現在アニメ3期が放送中で、イラストに映っているのは主人公の柊朔の2期のシーンだ。
「僕も漫画買って読んでるよ。ちょうど今放送されてるとこの"秋葉原決戦編"が大好きだから、高クオリティでアニメ化してもらって本当にありがたい」
「へー……。どんな話?」
「えーと、人々に害をなす妖魔っていうのが人知れず蔓延っている現代日本を舞台に、妖魔を封じる封魔師って職業に就いた少年少女と、彼らが使役する妖魔による活躍を描くオカルトバトル作品って感じ?」
「へぇ。まあ、あんだけ流行ってるってことは凄く面白いんだろうね。去年映画もやってたよね?
……えーと、なんか丸っこい絵柄の女の子だな。『キャンデリア・ドロップ』?日常系っぽいアニメもこのゲーム出てるんだ」
「あ、それこの前まで深夜にやってた日常物だね。全然戦ったりとかはしない」
「この雨山珠美ってキャラクター可愛いね。身長ちっちゃいけどおっぱい大きいし」
「だよね!」
思わず大きな声を出した僕に対して、彼女は怪訝そうな顔をする。
おおっと。
「……コトブキ先生、もしかして巨乳好き?」
「え?あ、えーと……。まあ、嫌いじゃないです……」
癖がバレた瞬間だった。
ああそうだよ。
巨乳好きだよ。悪いかよ。
男児はみんな、巨大ロボットとか巨大ヒーローとかに触れて大きくなるんだよ。
だから大きい物が好きになるのは必然なんだよ。
「ふーん……。さっき使ってたデッキの真中あかりって子も、胸大きかったもんね。だからか」
「そ、それは違うし。一番好きなのは宙だし。アイツの体型は普通だし」
「どうだかなぁ。……うーん」
彼女はどこか残念そうに、自分の胸元に視線を落とす。
……こんなこと言うと気色悪いったらありゃしないが、自分の胸のサイズでも気にしてるのだろうか。
まあ、確かに、大きくはな――。
「うぐえっ!」
突如、僕の脳天にチョップが飛んだ。
見ると、彼女が綺麗な手刀を作っていた。
「何事!?」
「今、失礼なこと考えてたかなーと思ったので制裁を」
「はぁ?してないけど!」
堂々と嘘を吐く僕である。
いや、正直に言ったらセクハラになるし。
「どうだかなぁ」
ニマニマ笑いながら、彼女はカード探しを再開した。
それから少しして――。
「こっちにアステ☆リスクのカードまとまってたよ」
僕が見つけた数枚の束を差し出すと、彼女はぱぁっと笑顔になって覗き込んだ。
「お、ほんとだ!……あ、この小春ちゃんのカードはさっき見たデッキに入ってたやつ」
「見つかって良かったね。お、このキャラいいね」
彼女と共にアステ☆リスクのシリーズのカードを整理していた僕の指先が自然と止まった。
淡いピンク色の巻き髪を垂らした少女――『牧 聖菜』というキャラクターが描かれたカードだ。
包容力を感じる柔らかい笑顔と、ほんわかした雰囲気。
そして、制服の上からでも分かる……まぁ、色々と主張の強いシルエット。
あ、やべっ。
案の定、彼女がにやーっとした笑みを浮かべる。
「……巨乳だから?」
「ノーコメント」
「ノーコメントって言ってる時点でもうアウトじゃん」
「違うし。別に胸だけで言ったわけじゃないし」
「ふぅ~ん?まあまあ、否定が弱い気もするけど~?」
彼女はわざとらしく僕の顔を覗き込んでくる。
……相変わらず顔が近い。
「あ、でもその子ね」
ふいに彼女の声色が、ほんの少しだけ落ち着いたものになった。
「4話で――あ、やばっ」
「え、ちょっと待って。今何を言いかけた!?4話でこの子に何が起きんの!?」
「言わないよ。ネタバレは悪だもん。
ただ、聖菜ちゃんを好きになるとちょーっと視聴に覚悟いるかなって……」
「えぇ……。もしかして4話で死ぬとか?」
「だから言わないってば。アステ☆リスクは初見の人の心を殴ってくるから、ちゃんと覚悟して観るように」
彼女はけらけらと笑った。
……鬱アニメ特集に魔法学園アステ☆リスクの名前があったのは、どうやら間違いでも無さそうだ。
えー、この巨乳ちゃん酷い目に遭っちゃうのかよー……。
1枚……800円か。うーん、まあギリ許容範囲……!」
「アステ☆リスクのシリーズはそれなりに値段落ち着いてる方だね。1000円超えてるカード無いし」
「これで落ち着いてるって本当!?800円ってランチ食べれるよ!?」
「うん。落ち着いてはいるけど800円が決して安くないことは知ってる」
カードゲーム歴が長いと金銭感覚が狂ってくる。
興味のあるデッキに必須のレアカードが1枚500円なら「お、安いじゃん」と4枚買って、気が付くと2000円が財布から消えていたり、1枚10円のストレージコーナーで安く買い物をするつもりが、700円くらい支払っていることがある。
最近ようやく気付いたのだが、500円の買い物を2つすると1000円になるのだ。
1000円は大金だ。
「でもさ、あっちのカード何?
2500円って書いてあるけど!?たっか!!」
彼女が驚いたのは宇宙船から人型メカに変形するロボット"ヴェリアル"が活躍するSFロボットアニメ『夢幻のヴェリアル』の敵陣営の機体、”ジークフリート”のカードだ。
通常レアリティだが1枚2500円の値札が貼られている。
「今の環境で猛威を振るってるデッキの必須カードだからね。需要が高いからこんな値段になってる」
「うーわ……。4枚買ったら10000円?ランチどころの騒ぎじゃないよ。回らないお寿司屋行けるじゃん。
そういえばさ、アステ☆リスクのデッキにこのカード入れちゃ駄目なの?」
「あ、それはダメ。フェイヴクロスのデッキは一つの作品タイトルで統一しなきゃいけないんだ」
「へぇ……そこは厳しいんだ。まあ、興味のない作品のカードは買わなくてもいいってのはありがたいかな」
そう言いながら、彼女はもう一度ショーケースを覗き込む。
「というかさ……アステちゃんのカード、ここに1枚しかないんだけど」
「あー、多分在庫がないんだろうね」
1枚800円の響アステのカードはショーケースに1枚しかない。
「同じ効果のカードならこっちに」
僕はショーケースの上部、高額カードが並べられた区画を指差す。
そこには800円のアステのカードと同じ効果をしているが、イラストの違うカードが置かれていた。
光り方の加工も豪華で、アステを演じたであろう声優さんのサインと『諦めない心が、私の魔法だ!』と、恐らく彼女の決め台詞であろう文字が刻印されている。
値札には15000円の表記が。
「流石に買えないって!!
でも、同じ効果のカードでもこんな激レアそうなやつがあるんだね。パックの当たり枠的なやつ?」
「そうだね。出たら超ラッキーなやつ。12BOXに1枚入っているかどうかってレベルのレアリティのやつだね」
「うわ、宝くじみたい……。でもファンとしてはちょっと欲しくなっちゃうね。アステちゃん役の一ノ瀬弘美さんも好きなんだ、私」
声優ファンでもあるらしい。
あんまりオタクって感じの見た目じゃないけど(失礼)、どうやらしっかりオタク気質な女性ではあるようだ。
「てか、しのぶちゃんのカードに至っては1枚も置いてないし……。他のお店行けばあるかな?」
「あー、それなんだけど」
僕は少し申し訳なくなりながら言う。
「悪いけど――西冷市でクロフェイのシングルカード扱ってるの、この店だけだよ」
「……マジ?」
「マジ」
桜花は絶望した顔でショーケースに額をぶつけそうになる。
「じゃあどうやってみんなカード集めてるの……?ブースターパックいっぱい買って自力で引き当ててるとか……?」
「まあ、ブースターを箱でいっぱい買う場合もあるけど……。この店で見つからなかったら通販サイトだよ。大体のプレイヤーがネット通販やフリマアプリで欲しいカード集めてるかな。
地方は特にね……。あんまりリアル店舗に在庫とか、特価価格とか期待はしてない」
「こんなところでも地方の問題が立ちふさがる……!」
彼女はがっくりと肩を落とした。
「いつもそうだ!この地方に住んでると惨めな思いをするんだ!
アステ☆リスクの映画の舞台挨拶も『全国各地で開催!』って言っときながら中四国だけ開催場所ハブるし!Spreamの全国ツアーもこの県に来なかった!」
「その気持ちは凄い分かる……!」
スタリバの声優陣が行うリアルライブも近場で開催された試しはない。
チケット代が大体10,000円。だが開催場所に向かうだけで片道10,000円は超える。往復で20,000強。チケット代の倍くらいかかることを考えると、気軽に参加出来ない。
……まあ、友人の神奈はマイヤちゃんの担当声優さんが参加する回だけはこの前行ってたんだけど。バイトしまくったり要らないカード売って旅費+チケット代+宿泊費+現地でのグッズ代、合わせて60,000円くらいを必死にかき集めていたのだけど。
彼の熱意には時々驚かされるし、尊敬もする。
ゲームのキャラ(小学生)と本気で結婚したがっている熱意に関してはノーコメント。
「……とりあえず光ってないやつでもいいから探そうよ!
あれでしょ?ストレージってやつに安いカード入ってるんでしょ?」
「そう、あの段ボール箱の山ね。1枚10円のやつ」
「よし、行くぞコトブキ先生!宝探しだ!」
元気よく宣言し、ストレージコーナーへ向かう。
僕もその後をついていく。
店の隅のストレージコーナー。かなりのスペースが設けられているが、大半は大人気ゲーム作品『プログラムモンスター』を原作とする『プロモンカード』、30年以上の歴史があり新作テレビアニメが現在も大人気放送中の『ウルスラグナ』、グルグルコミックというキッズ向けホビーアニメで連載されている『レジェンド・アニマーク』など、人気も高くプレイヤーの多いカードゲームの物が多い。
他にはオリジナルの美少女キャラと昨年放送されたテレビアニメがコアな層にウケて人気を博している新規TCG『Eden's Logic』、週刊少年ステップで20年程連載されているSF侍活劇漫画の『刀影電』を原作とする『刀影電TCG』……それらに並んで、『クロスフェイヴ』と書かれたストレージの箱がいくつか、端の方に並べられていた。
「……うわ。ぐっちゃぐちゃだねここ」
「まあ、ストレージ利用する人って結構いるから……」
ストレージコーナーのカード達は、お世辞にも綺麗に並べられているとは言い難かった。
同じカードゲームでもモンスターや魔法、罠といったカード種類ごとには並んでいなかったり、酷い場合は別のカードゲームのカードが挿さっている。
他の利用者や店の迷惑にならないよう、ストレージのカードは元の形に綺麗に並べ直してください、との注意書きの紙が店内に貼られてはいるのだが、そんな店員の願いが届いていないプレイヤーが多いらしい。
嘆かわしいことである。
「とりあえずクロフェイのコーナーからアステ☆リスクのカードだけでも救出しますか~」
彼女は腕まくりをしながら、乱雑にカードが突っ込まれたストレージコーナーからカードを取り出して、目当てのカードを探していく。
「じゃあ僕はこっちの箱を探すよ」
「ん、ありがと」
彼女は束をひっくり返しながら、次々と別タイトルのカードを引っ張り出す。
「あ、これ。『桜火の封魔師』じゃん。これさ、今アニメめっちゃ流行ってるよね」
彼女は週刊少年ステップ連載の『桜火の封魔師』という漫画が原作のアニメイラストが描かれたカードを見ながら言った。
現在アニメ3期が放送中で、イラストに映っているのは主人公の柊朔の2期のシーンだ。
「僕も漫画買って読んでるよ。ちょうど今放送されてるとこの"秋葉原決戦編"が大好きだから、高クオリティでアニメ化してもらって本当にありがたい」
「へー……。どんな話?」
「えーと、人々に害をなす妖魔っていうのが人知れず蔓延っている現代日本を舞台に、妖魔を封じる封魔師って職業に就いた少年少女と、彼らが使役する妖魔による活躍を描くオカルトバトル作品って感じ?」
「へぇ。まあ、あんだけ流行ってるってことは凄く面白いんだろうね。去年映画もやってたよね?
……えーと、なんか丸っこい絵柄の女の子だな。『キャンデリア・ドロップ』?日常系っぽいアニメもこのゲーム出てるんだ」
「あ、それこの前まで深夜にやってた日常物だね。全然戦ったりとかはしない」
「この雨山珠美ってキャラクター可愛いね。身長ちっちゃいけどおっぱい大きいし」
「だよね!」
思わず大きな声を出した僕に対して、彼女は怪訝そうな顔をする。
おおっと。
「……コトブキ先生、もしかして巨乳好き?」
「え?あ、えーと……。まあ、嫌いじゃないです……」
癖がバレた瞬間だった。
ああそうだよ。
巨乳好きだよ。悪いかよ。
男児はみんな、巨大ロボットとか巨大ヒーローとかに触れて大きくなるんだよ。
だから大きい物が好きになるのは必然なんだよ。
「ふーん……。さっき使ってたデッキの真中あかりって子も、胸大きかったもんね。だからか」
「そ、それは違うし。一番好きなのは宙だし。アイツの体型は普通だし」
「どうだかなぁ。……うーん」
彼女はどこか残念そうに、自分の胸元に視線を落とす。
……こんなこと言うと気色悪いったらありゃしないが、自分の胸のサイズでも気にしてるのだろうか。
まあ、確かに、大きくはな――。
「うぐえっ!」
突如、僕の脳天にチョップが飛んだ。
見ると、彼女が綺麗な手刀を作っていた。
「何事!?」
「今、失礼なこと考えてたかなーと思ったので制裁を」
「はぁ?してないけど!」
堂々と嘘を吐く僕である。
いや、正直に言ったらセクハラになるし。
「どうだかなぁ」
ニマニマ笑いながら、彼女はカード探しを再開した。
それから少しして――。
「こっちにアステ☆リスクのカードまとまってたよ」
僕が見つけた数枚の束を差し出すと、彼女はぱぁっと笑顔になって覗き込んだ。
「お、ほんとだ!……あ、この小春ちゃんのカードはさっき見たデッキに入ってたやつ」
「見つかって良かったね。お、このキャラいいね」
彼女と共にアステ☆リスクのシリーズのカードを整理していた僕の指先が自然と止まった。
淡いピンク色の巻き髪を垂らした少女――『牧 聖菜』というキャラクターが描かれたカードだ。
包容力を感じる柔らかい笑顔と、ほんわかした雰囲気。
そして、制服の上からでも分かる……まぁ、色々と主張の強いシルエット。
あ、やべっ。
案の定、彼女がにやーっとした笑みを浮かべる。
「……巨乳だから?」
「ノーコメント」
「ノーコメントって言ってる時点でもうアウトじゃん」
「違うし。別に胸だけで言ったわけじゃないし」
「ふぅ~ん?まあまあ、否定が弱い気もするけど~?」
彼女はわざとらしく僕の顔を覗き込んでくる。
……相変わらず顔が近い。
「あ、でもその子ね」
ふいに彼女の声色が、ほんの少しだけ落ち着いたものになった。
「4話で――あ、やばっ」
「え、ちょっと待って。今何を言いかけた!?4話でこの子に何が起きんの!?」
「言わないよ。ネタバレは悪だもん。
ただ、聖菜ちゃんを好きになるとちょーっと視聴に覚悟いるかなって……」
「えぇ……。もしかして4話で死ぬとか?」
「だから言わないってば。アステ☆リスクは初見の人の心を殴ってくるから、ちゃんと覚悟して観るように」
彼女はけらけらと笑った。
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