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向き合う時。
今だから。
しおりを挟む「うーん、こっちにも何も書いてない」
「歴史の方にもないねえ……」
俺と美沙さんは、文夫じいちゃんの書庫で、俺の不思議な力について何か分かることがないかと探していた。
この力と向き合っていくことができると思ったから、これ以上知る必要はないことなのかもしれないけれど、ここまで来たら知りたいというのが本音だ。
「ねえ、これ、絵本かね?」
美沙さんが手に取った本を、一緒に覗き込む。
それはとても古い本で、表紙には神楽の絵。タイトルも作者名も何処にも書いていない。
俺と美沙さんは顔を見合わせて、その本を開いた。
※※※
むかしむかし、この地のみに伝わる神楽という、五穀豊穣を祈り、神様を楽しませる舞がありました。
この地に住まう神様達は、みんなその舞を楽しみにしています。
その中に、とてもとても神楽を楽しそうに舞う人間がいました。
神様達は、その人間を見るのが大好きです。
もっともっと舞って欲しい。その人間が幸せになって欲しい。
そう思って声をかけました。
きっと神楽が大好きで、いつも自分も楽しみ、何より神様を愛していたからでしょうか。
その人間には、神様の声が届きました。
神様達は、嬉しくなり、その人間によく声をかけるようになりました。
大事なことは一生懸命伝わるように祈りました。
特に自然の神様達は、その人間が幸せになれるように祈っています。
何故か声が届かないこともありました。
その人間が、神様の声を拒否することがあったのです。
それでも、その人間と神様は、最後まで幸せに暮らしました。
ただ、神様達は悲しみました。人の寿命とは、なんて短いのだろうと。もっとずっと、あの舞を見ていたかったと。
しかし、神様は気がつきました。
その人間の息子もまた、とても楽しそうに神楽を舞っていたのです。
神様達は決めました。
この人間のように、自分達を楽しませてくれる舞を舞ってくれる人間に、これからも声をかけていこうと。
そしてこの楽しい舞を絶やすまいと。
こうしてこの地では、楽しく、楽しませて舞う最初の神楽の人間の家系を主に、神様の声が聞こえる人間が出てくるのでした。
※※※
「これ……」
俺も美沙さんも、しばらく声がでなかった。
「陽介さんのおじいさまも、同じように声が聞こえとったりしたんよね。ってことは、この人の家系が、陽介さんの家系なん……?」
「で、でも、これ、絵本じゃし……。作者名もなんもなあし……。それに俺が神楽を舞い始めたのは最近で?」
「ほんでも、これ以外になんも手がかりになるもんはなあよ?それに、子供の頃から神楽は好きじゃったんじゃろ」
俺と美沙さんは、その絵本を大事に持つと、役場にいるじいちゃんの元に行くことにした。
《ふふっ、懐かしいね》
《陽介も早く舞台に立たないかな》
その声に、俺はビックリして立ち止まった。
「この絵本は、ほんまのことなん……?」
俺の言葉に、美沙さんは何か察したように、何も言わなかった。
役場に行って、じいちゃんに絵本を見せると、じいちゃんも驚いていた。
役場でご先祖様を遡ることもできると言われたけれど、俺はそれをしないことにした。
だって……。
俺がこの場所が大好きで、みんなが大好きで、神楽が大好きなのは変わらないから。
ただ、俺のこの好きが、誰かから受け継がれたものだと思ったら、なんだか嬉しかった。
それに……。
俺は神楽が大好きで、今練習もしているのに、一番大事な五穀豊穣と、神様を楽しませることを考えながら舞うことはまだできていない。
もし、この絵本が本当で、俺がそんな舞を舞うことができるのならば、舞いたい。そう思った。
「神様の声なのかはよお分からんけど、なんかスッキリしたわ」
俺の言葉に、美沙さんが笑って答えてくれた。
俺はここに来て、色んな事があって、沢山の感情を取り戻した。
だからだろうか、今、初めて俺は、自分のこの不思議な力が嬉しいと共に、心から向き合うことができたんじゃないかと思う。
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