22 / 83
出会い
1-3
しおりを挟む「さ、冷めないうちにどうぞ」
ノルさんに促されて、僕とルカは、料理を口に運ぶ。
「わぁ……凄く、あたたかい味……!!」
ルカが、感動したように、声をあげた。
「ロキ、少し苦そうですね。ロキは、苦みが嫌いですから、その薬草は、ロキには、美味しく感じませんよ」
チィが、僕に向けて言った。
確かに、苦い。ギア王国では、僕たちの好みが、食事にも反映されるから、こんなに苦いものは、食べたことがない。でも……苦いのだけれど……。
口の中で、噛んでいるときに、ふわっと感じる甘みが、美味しく感じて、もっと食べたいという気持ちになる。
「苦いけれど、僕、これ、好きだ。凄く美味しい……!」
僕は、笑顔で言ったけれど、チィは、何も返してこない。なんでだろう……。まぁ、チィは、返す必要がないと判断した時には、返事をくれないから、いつものことだ。
「デザートには、ヴィーヴル王国の側にある森で採れた、果物をどうぞ。これ、美容に良いから、エミリィも好きなんだよ」
そう言って、ノルさんは、僕たちの前に、エミリィさんの前に置いたものと、同じ果物を、置いてくれた。
「森に、果物を採りに行くんですね」
ルカが、食べる手を止めずに、目を輝かせて、ノルさんに聞く。
物心ついたときから、ずっとルカと一緒にいるけれど、こんなに、楽しそうにしているルカを見るのは、初めてで、何故か、僕も嬉しくなる。
「そうだよ。森には、野生の龍や、攻撃的な動物たちもいるから、ギルドメンバーが、パーティーを組んで、採りに行くことが、多いな。それを、色んなお店におろすことで、その収入が入るんだ。動物の肉も、その時に、狩るんだよ」
ノルさんは、僕たちに説明してくれながら、エミリィさんの前に行った。
「エミリィ、今日の夜は、何が食べたい?」
「別に、なんでも良い」
エミリィさんが、ノルさんに、素っ気なく返したけれど、何故か、エミリィさんのまとう空気が、柔らかい。
「ノルさんに対して、エミリィさんは、ライキさんや、キラさんに対しての態度と、全く違って、とても穏やかですね。お二人の関係性が良いことが分かりますが、どういう関係なのでしょうか」
突然のチィの言葉に、僕もルカも、驚いて、一瞬、固まってしまった。
「んー? イケナイ関係?」
ノルさんが、少しふざけたように笑って、エミリィさんが、それを睨み付けたけれど、僕たちを睨む目とは、全く違う。
「変なこと言わないで」
「じゃあ、どんな関係?」
ノルさんが、エミリィさんに、いたずらっぽく笑う。
下を向いて、無言で食べ始めた、エミリィさんを見て、ライキさんが、ため息をついた。
「ノルさん、いじめすぎですよ。普通に、恋人同士だって言えば良いじゃないですか」
恋人同士……。言葉の意味は分かるけれど、ギア王国では、あまり聞かない単語に、僕は、どう反応して良いのか分からなかった。
「そんなことしてると、キラさんに、とられますよ。さっきも、エミリィのことを、誘ってましたし」
ライキさんが、食べながら放った一言に、ノルさんの眉が、ピクリと動く。
「エミリィ? ライキは何を言ってるのかな? ちょっと一緒に、別室へ行こうか」
ノルさんが、笑顔で言ったけれど、なんだか怖い……。
「ノル、おかわり」
そんなノルさんをよそに、エミリィさんは、ノルさんに、空になった、グラスを渡した。
「はいはい」
ノルさんが、それに対して、笑顔で準備をする。
「ノルさんと、エミリィさんが、恋人同士なのは理解しました。ノルさんと、ギルドマスターのキラさんは、友人だと聞きましたが、恋敵なのでしょうか。それに、人間関係に関して、ライキさんは、詳しいんですね。ライキさんは、やはり、この国の、重要人物なのですね」
チィの言葉に、ライキさんが、苦笑した。
「俺は、エミリィの親友ってだけ。それに、ノルさんと、マスターは、敵なんかじゃないよ。ちょっと、ノルさんの、エミリィへの愛が、重いだけだ」
「ですが、キラさんが、エミリィさんを誘っていたのは、事実です」
「……この複雑な感情的なものは、チィには、どう説明したら良いんだろうな」
ライキさんが、難しそうな顔をする。
0
あなたにおすすめの小説
ゲーム未登場の性格最悪な悪役令嬢に転生したら推しの妻だったので、人生の恩人である推しには離婚して私以外と結婚してもらいます!
クナリ
ファンタジー
江藤樹里は、かつて画家になることを夢見ていた二十七歳の女性。
ある日気がつくと、彼女は大好きな乙女ゲームであるハイグランド・シンフォニーの世界へ転生していた。
しかし彼女が転生したのは、ヘビーユーザーであるはずの自分さえ知らない、ユーフィニアという女性。
ユーフィニアがどこの誰なのかが分からないまま戸惑う樹里の前に、ユーフィニアに仕えているメイドや、樹里がゲーム内で最も推しているキャラであり、どん底にいたときの自分の心を救ってくれたリルベオラスらが現れる。
そして樹里は、絶世の美貌を持ちながらもハイグラの世界では稀代の悪女とされているユーフィニアの実情を知っていく。
国政にまで影響をもたらすほどの悪名を持つユーフィニアを、最愛の恩人であるリルベオラスの妻でいさせるわけにはいかない。
樹里は、ゲーム未登場ながら圧倒的なアクの強さを持つユーフィニアをリルベオラスから引き離すべく、離婚を目指して動き始めた。
次期国王様の寵愛を受けるいじめられっこの私と没落していくいじめっこの貴族令嬢
さら
恋愛
名門公爵家の娘・レティシアは、幼い頃から“地味で鈍くさい”と同級生たちに嘲られ、社交界では笑い者にされてきた。中でも、侯爵令嬢セリーヌによる陰湿ないじめは日常茶飯事。誰も彼女を助けず、婚約の話も破談となり、レティシアは「無能な令嬢」として居場所を失っていく。
しかし、そんな彼女に運命の転機が訪れた。
王立学園での舞踏会の夜、次期国王アレクシス殿下が突然、レティシアの手を取り――「君が、私の隣にふさわしい」と告げたのだ。
戸惑う彼女をよそに、殿下は一途な想いを示し続け、やがてレティシアは“王妃教育”を受けながら、自らの力で未来を切り開いていく。いじめられっこだった少女は、人々の声に耳を傾け、改革を導く“知恵ある王妃”へと成長していくのだった。
一方、他人を見下し続けてきたセリーヌは、過去の行いが明るみに出て家の地位を失い、婚約者にも見放されて没落していく――。
老聖女の政略結婚
那珂田かな
ファンタジー
エルダリス前国王の長女として生まれ、半世紀ものあいだ「聖女」として太陽神ソレイユに仕えてきたセラ。
六十歳となり、ついに若き姪へと聖女の座を譲り、静かな余生を送るはずだった。
しかし式典後、甥である皇太子から持ち込まれたのは――二十歳の隣国王との政略結婚の話。
相手は内乱終結直後のカルディア王、エドモンド。王家の威信回復と政権安定のため、彼には強力な後ろ盾が必要だという。
子も産めない年齢の自分がなぜ王妃に? 迷いと不安、そして少しの笑いを胸に、セラは決断する。
穏やかな余生か、嵐の老後か――
四十歳差の政略婚から始まる、波乱の日々が幕を開ける。
【12月末日公開終了】これは裏切りですか?
たぬきち25番
恋愛
転生してすぐに婚約破棄をされたアリシアは、嫁ぎ先を失い、実家に戻ることになった。
だが、実家戻ると『婚約破棄をされた娘』と噂され、家族の迷惑になっているので出て行く必要がある。
そんな時、母から住み込みの仕事を紹介されたアリシアは……?
人質5歳の生存戦略! ―悪役王子はなんとか死ぬ気で生き延びたい!冤罪処刑はほんとムリぃ!―
ほしみ
ファンタジー
「え! ぼく、死ぬの!?」
前世、15歳で人生を終えたぼく。
目が覚めたら異世界の、5歳の王子様!
けど、人質として大国に送られた危ない身分。
そして、夢で思い出してしまった最悪な事実。
「ぼく、このお話知ってる!!」
生まれ変わった先は、小説の中の悪役王子様!?
このままだと、10年後に無実の罪であっさり処刑されちゃう!!
「むりむりむりむり、ぜったいにムリ!!」
生き延びるには、なんとか好感度を稼ぐしかない。
とにかく周りに気を使いまくって!
王子様たちは全力尊重!
侍女さんたちには迷惑かけない!
ひたすら頑張れ、ぼく!
――猶予は後10年。
原作のお話は知ってる――でも、5歳の頭と体じゃうまくいかない!
お菓子に惑わされて、勘違いで空回りして、毎回ドタバタのアタフタのアワアワ。
それでも、ぼくは諦めない。
だって、絶対の絶対に死にたくないからっ!
原作とはちょっと違う王子様たち、なんかびっくりな王様。
健気に奮闘する(ポンコツ)王子と、見守る人たち。
どうにか生き延びたい5才の、ほのぼのコミカル可愛いふわふわ物語。
(全年齢/ほのぼの/男性キャラ中心/嫌なキャラなし/1エピソード完結型/ほぼ毎日更新中)
【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く
ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。
5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。
夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…
ネグレクトされていた四歳の末娘は、前世の経理知識で実家の横領を見抜き追放されました。これからはもふもふ聖獣と美食巡りの旅に出ます。
☆ほしい
ファンタジー
アークライト子爵家の四歳の末娘リリアは、家族から存在しないものとして扱われていた。食事は厨房の残飯、衣服は兄姉のお下がりを更に継ぎ接ぎしたもの。冷たい床で眠る日々の中、彼女は高熱を出したことをきっかけに前世の記憶を取り戻す。
前世の彼女は、ブラック企業で過労死した経理担当のOLだった。
ある日、父の書斎に忍び込んだリリアは、ずさんな管理の家計簿を発見する。前世の知識でそれを読み解くと、父による悪質な横領と、家の財産がすでに破綻寸前であることが判明した。
「この家は、もうすぐ潰れます」
家族会議の場で、リリアはたった四歳とは思えぬ明瞭な口調で破産の事実を突きつける。激昂した父に「疫病神め!」と罵られ家を追い出されたリリアだったが、それは彼女の望むところだった。
手切れ金代わりの銅貨数枚を握りしめ、自由を手に入れたリリア。これからは誰にも縛られず、前世で夢見た美味しいものをたくさん食べる生活を目指す。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる