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はじめての衝突
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しおりを挟む「チィ……? 突然、どうしたの?」
僕が、必死に、チィに返した言葉は、震えている。それでも、チィは、いつもと何も変わらず、淡々としていた。
「どうもしていません。ロキにとって、最善を言っています」
「なんで……なんで、そんなこと、言うの……?」
「ロキを、守るために、必要だからです」
僕は、チィの言っている意味が、全く分からなかった。
僕は、スモ爺に、毎日助けられている。危害を加えられたことだってない。なのに、どうして、どうして、そんなこと言うんだ。
何故か、いつもはすぐに、チィに反論するルカが、黙って、下を向いている。
「おかしいよ、チィ。僕は、スモ爺が、大好きだ! 僕を、守るためなんて、チィの言っていることは、おかしいよ!」
「ロキ、落ち着いて!」
思わず、椅子から立ち上がった僕の腕を、ルカがつかんだ。
「ロキ、落ち着いて下さい。私は、あなたに、不利益になることを、言ったことはありません。それは、よく、分かっているはずです。また、感情に、左右されていますよ」
「それは、そうだけど……! でも、そんなこと、納得できないよ!」
多分、僕は、はじめて、チィと、衝突をして、言い合いをした。
ルカが、チィと、衝突しているのは、見慣れていた。でも、自分が、チィと、衝突するなんて、思わなかった。
「はっきり、言ってやれば良いじゃない。爺が、もうすぐ、死ぬからだって」
エミリィさんが、前によく見せていた、怖い笑顔で、チィに、静かに言って、また、世界が、一瞬、止まった気がした。
……スモ爺が、死ぬ?
もうすぐ、スモ爺が、死ぬ……?
混乱した、僕の手を、ルカが、ギュッと握ってくれた。
チィが、エミリィさんの方を向く。
「はい。エミリィさんの言うとおり、スモ爺は、寿命が近いでしょう。高齢の龍は、自らの死期を悟ったとき、そのうろこを、選んだ者に、託しますから」
チィの言葉に、エミリィさんは、表情を、一切崩さない。
「それで、引き離すのが、ロキの為なんだ?」
「そうです。ギア王国では、死というものに、触れることは、ありません。家族の死期が近くなると、会うことはせず、互いのケアに、入るのです。死とは、人の心を、大きく乱すものです。現に、今、ロキは、混乱しています」
「……ふーん。死という、生きるものの自然の流れを、受け入れないんだ」
僕は、チィと、エミリィさんの言葉を、どこか遠くで聞いていた。
スモ爺が、高齢なのは、分かっていた。
生きているものには、いつか死が訪れることも、知識としてはある。
だけれど、ギア王国にいた時、僕たちは、死、というものに、一切触れることはなかった。
「このまま、スモ爺と会い続けたら、ロキ、苦しみが増えるのは、ロキなのです」
チィが、僕の方を向いて言った。
「そんな……でも……」
「ロキの傷を、より少なくする為です。ロキ、本当は、ちゃんと分かっているでしょう」
みんなの視線が、僕に集まっているのが分かる。
ルカだけは、僕の手を握ったまま、下を向いていた。
「わかるよ……。チィの、言っていることが、正しいと思う……。でも……でも……」
僕は、僕の手を握りしめてくれている、あたたかい、ルカの手を、しっかりと握り返した。今、やっと分かった。ルカがいつも、チィと、言い合っていた、気持ちが。
悪意でもない。敵意でもない。これが、僕の、気持ち……想いなんだ。
「……僕は、スモ爺が、大好きだ。そのスモ爺が、僕に、うろこをくれたんだ。僕は、このまま、スモ爺と、離れることなんて、できないよ」
「言葉で言うのは、簡単です。ですが、ロキは、スモ爺の死に、耐えることは、できないでしょう」
「……できないよ!!」
気がついたら、僕は、今までに出したことのない、大声を出していた。
「スモ爺が、死ぬなんて、考えたくもないよ!! でも、このまま、スモ爺を、捨てるようなこと、したくないよ!!」
僕は、とっさに、走り出していた。スモ爺のところに、行かなくちゃ。
チィが、いつものように、ついてくる。
「チィ、ついてこないで!!」
振り返って、僕は叫んだ。だけれど、チィは、僕のサポートロボットだ。離れることはない。
「ついてこないでよ!!」
真っ暗な中、僕は、スモ爺のところに行かなくちゃ、という想いと、チィと、離れたいと思う気持ちで、ごちゃごちゃになって、とにかく走った。
「ロキ!! 待って!!」
後ろから、ルカの声が、小さく聞こえた気がしたけれど、反応することすら、できなかった。
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